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第一章 虐げられた姫
第31話 バラバラの証言
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「これで全部か」
思ったよりも時間がかかった。時間にして、5日近くはかかっただろう。ある程度目安がついていたとはいえ、冷宮の使用人も20人ほどはいたので、全員を捕らえるのはそれなりに時間がかかった。
「陛下。あまり長く留守にするのは良くないのでは?」
「5日開けたくらいで崩れるような体制は引いていない。最後はルメリナの実家だな」
「大丈夫ですか?フェレスを呼んだ方がいいのでは?」
あの一族が使う魔法を警戒してのことだろう。
「いや、すでにあいつから魔道具をもらっている」
行ったときは嫌そうな顔をしていたが、魔道具をくれればいいと言ったら、嬉しそうに渡してきたときは少し呆れてしまった。
「いいですね。今回は奴は振り回されなかったみたいだし」
「まるで私がいつも振り回しているみたいな言い方だな」
「そう言ってるんだよ、カイル」
そこまで言われるほど振り回しているつもりはなかったんだが……
幼なじみの態度に、思わずため息をついてしまう。
「……行くぞ」
「その前に、最初の方に捕らえた者達の証言があるんだが……」
「なんだ?」
言いにくいことでもあるのだろうか。
「内容が少し不可解でな」
「不可解?」
「皇女殿下を刃物で傷つけたのは認めた。だが、ルメリナ皇妃が指示したからと証言している」
「下手すれば、刃物を見るだけで悲鳴をあげるような奴がか?」
過去に何があったかは知らないが、あいつは刃物を使うことは絶対にしなかったし、させるようなこともなかった。刃物は目にいれるだけでも嫌がるだろうに、そんなことを指示するものなのだろうか。
「それだけでも不可解だが、他にも不可解な点が」
「なんだ?」
「意見が食い違っているんだ」
「保身のために嘘をついている可能性は?」
自分は罰を受けないために嘘をつく者はいる。そのせいで、複数の場合は意見が食い違うこともあり、場合によっては水掛け論になる。
「ないとは言いきれないが、皇女殿下に虐待したことやそれを見て見ぬふりをしたこと自体は全員が認めている。だが、きっかけがバラバラだ」
「たとえば?」
「指示されたってのはだいたいがそうだが、その人物が違う。ルメリナ皇妃に直接指示されたという者もいれば、又聞きしたという者もいる。やり始めた理由が分からないという奴もいるしな。それになかには、虐待ではなく、殺しを指示されたとも言ってたな」
確かに、さすがに動機がバラバラすぎる。ルメリナが直接指示したからというのも怪しいが、又聞きや、そもそも理由が分からないというのもおかしい。
嘘をつくつもりなら、そもそもやっていないと言っただろうし、他の者に罪をなすりつけるだろう。それに、殺すつもりだったと証言はしないはずだ。
それなのに、意見が違うということは、本当にそう思い込んでいるんだろう。
そんなことができるのは……ルメリナの一族しかいない。
「そういえば、フィレンティアは今どうしてるんだろうな」
「少なくとも、カイルを寂しがったりはしてないだろうな」
レクトの言葉が刃になって刺さった気がした。確かに、自分が追い詰められるまで放置して、保護してからも放った父親なんていらないだろう。事実、フィレンティアのためとはいえ、一週間近く放置している。
「……報告が終わったなら行くぞ」
「カイル。お前には傷つく資格もないぞ」
「もう言うな。分かっている」
だが、少しくらいあがきたい。私は両親……特に、父親から愛された覚えはないし、どう接すればいいのかもよく分からない。それに、ルメリナからは距離を置いた。……それもあまり意味を成していなかったかもしれないが。
宮に入ってからルメリナはすぐに本性を現した。あんな奴の血は残すものかと子を作るのは避けてきた。私に相手をされないことに業を煮やしたのか、ルメリナの一族が得意とする精神魔法で意思を乗っ取られた。そのせいで、そこからの記憶は曖昧だが、そのせいで子ができてしまったのは理解した。
子は欲しかったのか、生まれるまでの間はやけにおとなしかった。暴言を言ったりするのは変わらないが、その間暴力はあまり振るっていなかった。
それから約二年間は、あまり悪い噂を聞かなくなっていた。子が生まれて変わったのかと思っていたが、そうではなかった。ストレスの発散場所に赤子が選ばれていただけだった。そうとも知らず、私はその子供と共にルメリナを冷宮に送っていたのだ。使用人達は口を閉ざしていたし、また意識を乗っ取られても敵わないから、できる限り近づかないようにしていたのが裏目に出たんだろう。
フェレスの対策魔法である程度マシになるとはいえ、彼女はフェレスよりも魔力が強く多かった。だから、対策魔法があってもルメリナが本気を出せば魔法は意味を成さなかっただろう。
「何を考えているかはなんとなく分かるが、早く行くぞ」
「……ハリナみたいなことを言うようになったな」
「俺をあんな漢みたいな女と一緒にしないでくれません?」
「ハリナにばれたら殺されるぞ」
フェレスのせいか、ハリナはからかいにも異様に反応する。男勝りな性格だが、男に見られると本気で怒ってくる。
「あぁ、それは恐ろしいですね……」
「馬鹿なことを言ってないで早く行くぞ」
「カイルから話を振ってきたくせに……」とか言っていたが、それを無視してルメリナの実家───スピライト侯爵家に向かった。
思ったよりも時間がかかった。時間にして、5日近くはかかっただろう。ある程度目安がついていたとはいえ、冷宮の使用人も20人ほどはいたので、全員を捕らえるのはそれなりに時間がかかった。
「陛下。あまり長く留守にするのは良くないのでは?」
「5日開けたくらいで崩れるような体制は引いていない。最後はルメリナの実家だな」
「大丈夫ですか?フェレスを呼んだ方がいいのでは?」
あの一族が使う魔法を警戒してのことだろう。
「いや、すでにあいつから魔道具をもらっている」
行ったときは嫌そうな顔をしていたが、魔道具をくれればいいと言ったら、嬉しそうに渡してきたときは少し呆れてしまった。
「いいですね。今回は奴は振り回されなかったみたいだし」
「まるで私がいつも振り回しているみたいな言い方だな」
「そう言ってるんだよ、カイル」
そこまで言われるほど振り回しているつもりはなかったんだが……
幼なじみの態度に、思わずため息をついてしまう。
「……行くぞ」
「その前に、最初の方に捕らえた者達の証言があるんだが……」
「なんだ?」
言いにくいことでもあるのだろうか。
「内容が少し不可解でな」
「不可解?」
「皇女殿下を刃物で傷つけたのは認めた。だが、ルメリナ皇妃が指示したからと証言している」
「下手すれば、刃物を見るだけで悲鳴をあげるような奴がか?」
過去に何があったかは知らないが、あいつは刃物を使うことは絶対にしなかったし、させるようなこともなかった。刃物は目にいれるだけでも嫌がるだろうに、そんなことを指示するものなのだろうか。
「それだけでも不可解だが、他にも不可解な点が」
「なんだ?」
「意見が食い違っているんだ」
「保身のために嘘をついている可能性は?」
自分は罰を受けないために嘘をつく者はいる。そのせいで、複数の場合は意見が食い違うこともあり、場合によっては水掛け論になる。
「ないとは言いきれないが、皇女殿下に虐待したことやそれを見て見ぬふりをしたこと自体は全員が認めている。だが、きっかけがバラバラだ」
「たとえば?」
「指示されたってのはだいたいがそうだが、その人物が違う。ルメリナ皇妃に直接指示されたという者もいれば、又聞きしたという者もいる。やり始めた理由が分からないという奴もいるしな。それになかには、虐待ではなく、殺しを指示されたとも言ってたな」
確かに、さすがに動機がバラバラすぎる。ルメリナが直接指示したからというのも怪しいが、又聞きや、そもそも理由が分からないというのもおかしい。
嘘をつくつもりなら、そもそもやっていないと言っただろうし、他の者に罪をなすりつけるだろう。それに、殺すつもりだったと証言はしないはずだ。
それなのに、意見が違うということは、本当にそう思い込んでいるんだろう。
そんなことができるのは……ルメリナの一族しかいない。
「そういえば、フィレンティアは今どうしてるんだろうな」
「少なくとも、カイルを寂しがったりはしてないだろうな」
レクトの言葉が刃になって刺さった気がした。確かに、自分が追い詰められるまで放置して、保護してからも放った父親なんていらないだろう。事実、フィレンティアのためとはいえ、一週間近く放置している。
「……報告が終わったなら行くぞ」
「カイル。お前には傷つく資格もないぞ」
「もう言うな。分かっている」
だが、少しくらいあがきたい。私は両親……特に、父親から愛された覚えはないし、どう接すればいいのかもよく分からない。それに、ルメリナからは距離を置いた。……それもあまり意味を成していなかったかもしれないが。
宮に入ってからルメリナはすぐに本性を現した。あんな奴の血は残すものかと子を作るのは避けてきた。私に相手をされないことに業を煮やしたのか、ルメリナの一族が得意とする精神魔法で意思を乗っ取られた。そのせいで、そこからの記憶は曖昧だが、そのせいで子ができてしまったのは理解した。
子は欲しかったのか、生まれるまでの間はやけにおとなしかった。暴言を言ったりするのは変わらないが、その間暴力はあまり振るっていなかった。
それから約二年間は、あまり悪い噂を聞かなくなっていた。子が生まれて変わったのかと思っていたが、そうではなかった。ストレスの発散場所に赤子が選ばれていただけだった。そうとも知らず、私はその子供と共にルメリナを冷宮に送っていたのだ。使用人達は口を閉ざしていたし、また意識を乗っ取られても敵わないから、できる限り近づかないようにしていたのが裏目に出たんだろう。
フェレスの対策魔法である程度マシになるとはいえ、彼女はフェレスよりも魔力が強く多かった。だから、対策魔法があってもルメリナが本気を出せば魔法は意味を成さなかっただろう。
「何を考えているかはなんとなく分かるが、早く行くぞ」
「……ハリナみたいなことを言うようになったな」
「俺をあんな漢みたいな女と一緒にしないでくれません?」
「ハリナにばれたら殺されるぞ」
フェレスのせいか、ハリナはからかいにも異様に反応する。男勝りな性格だが、男に見られると本気で怒ってくる。
「あぁ、それは恐ろしいですね……」
「馬鹿なことを言ってないで早く行くぞ」
「カイルから話を振ってきたくせに……」とか言っていたが、それを無視してルメリナの実家───スピライト侯爵家に向かった。
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