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第一章 虐げられた姫
第22話 ハリナの過去 1
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フェレスと会ったのは、私が8歳のころだった。私の家、フィーレン家は下級貴族の子爵家で、他の貴族よりは気楽だった。使用人はあまり多くなかったから、自分で着替えたりもしていた。なので、貴族というよりは、庶民の方が近いかもしれない。
そんなある日、父に呼ばれて、父の部屋に行った。
「父さん、どうしたの?」
「本家との顔合わせがある。三日後に向かうぞ」
有無を言わさないように、そう言われた。
本家との顔合わせ?そういえば、母さんから本家には自分と年が近い男の子がいるとか聞いた覚えがある。確か、二つ年上の10歳。神童?って呼ばれているって。
「母さん!」
父さんに聞いても教えてはくれないかもしれないと思って、母さんのところに向かった。
「あら、ハリー。どうしたの?」
「父さんから本家の人と会うって聞いたの。どんな人か知ってる?」
「そうね……」
軽くため息をついてから、母さんは話し始めた。
いわく、私と年の近い子は、フェレスリード・ベル・ヒーライド。ヒーライドはこの国に四つしかない四大公爵家の一つで、たとえ致命傷でも治せるといわれるほどの治癒術の腕を持っているので、癒しのヒーライドと呼ばれているらしい。
他には、防御のプロテクタール。攻撃のアタックト。支援のエイドリア。すべて合わせて四大公爵家。
その四大公爵家にも多少は家格に差があって、一番上はアタックト。次にヒーライド。次にプロテクタール。最後にエイドリアとのこと。
私たちは二番目のヒーライドに最も近い分家で、フェレスリードって子とは、はとこ同士になるらしい。だから、私も治癒が使えるのかな?
「多分、年の近い子と交流して欲しいんじゃないかしら」
確かに、私は友達と呼べるような存在は少ないし、あまり領地にも行ったりはしないから、年の近い子との交流は少ない。
父さんの有無を言わせない言い方には少しイラっと来たけど、自分のことを考えてのことならあまり文句は言えなくなった。
自分のはとこはどんな人なんだろうとか考えながら過ごして三日後。ついに本家に向かった。
四大公爵家と呼ばれるだけあって、私の屋敷なんかより広い。
「よくおいでくださいました」
公爵家の家令らしき者が出迎えてくれた。名前はルベールさんと言うらしい。
「ハリナ様ですね」
私に視線を合わせてそう言った。「はい、そうです」と言ったら、フェレスリード様のところに案内すると言われた。そして、部屋に連れていかれるのかなと思っていたら、外に出てしまった。
普通は、本邸らしきこの場所にいるものじゃないの?私のところにも別邸はあるけど、お客を泊めたりとか、そういうときにしか使わない。なので、本邸よりも圧倒的に小さい。でも、ここの別邸は、どっちが本邸か分からなくなるくらい大きかった。
「あの……ルベールさん。なぜフェレスリード様はここにいるんですか?」
「私めがお話しすることではございません」
それは、まるで話すことを許されていないような言い方だった。聞くなら本人に聞くしかないのか。
「こちらでございます」
別邸の中に入り、奥の方の部屋の前まで来ると、ルベールさんは錠を開けた。中には、緑色の髪をした男の子が、窓辺に座って本を読んでいた。瞳は、私と同じ青色だった。心なしか、私と顔も似ているような気がする。
「ハリナ・フィーレンです」
そう言ったら、本を閉じた。そして、こっちの方に歩いてくる。
「フェレスリード・ベル・ヒーライドです。よろしくお願いしますね」
そう言って笑いかけてきた。最初の印象としては、人当たりはいいのかなって感じだった。
ルーベルさんは仕事があるということで、後は私たち二人でとなった。すると、さっきまで笑っていたフェレスリード様の顔がすぐに冷たくなった。
「じゃあ、そこらにでも座ってなよ。僕は本読んでるから」
……えっ?急に態度が変わって、ついていけない自分がいる。それに、そこらにでも座ってなよと言われても、椅子もないような……唯一一つあるけど、それはフェレスリード様が座っているし……
「あの……どこに?」
「床に座ればいいでしょ」
そんなことも分からないのかという風に言われた。
「床って……あなたは椅子に座るのに?」
「僕の椅子だし。物置ならこの部屋を出て右に行ったら階段があるから、そこをくだればあるよ。座りたいなら自分でそこから持ってくればいいでしょ。そんなことも考えられないの?」
む、む、むかつくーーーー!!さっきまでのあの優しい感じはどこに行ったのよ!物置なんて、初めて来たんだから知ってるわけないじゃない!意地でも座るもんかと思って、壁にもたれて立っていた。
「フェレスリードは何を読んでるの?」
こんな奴なんて呼び捨てよ!でも、本人は怒ることもせず、かといって答えることもせずに、本を読んでいる。私の存在すら認識してないの!?
「ねぇってば!」
肩を揺らして声をかける。
「君、うざいんだけど」
「あんたが返事しないからでしょ!それで、何読んでるの?」
「……魔法書。もう僕は治癒術はできるし。他の魔法も勉強してるの」
「へぇ~……」
もう治癒術はできるって、かなりすごいことじゃないの?魔法は、普通は10歳になってから本格的に学び始めるのが普通って話だから、10歳でマスターしてるのは普通じゃない。
まぁ、私もまだ8歳だけど。
「何の魔法が書いてあるの?」
「攻撃魔法。レクトに貸してもらったやつ」
「レクト……?」
人の名前なんだろうけど、そんな名前は聞いたことがない。
「アタックト家の嫡男。僕とは5歳からの幼なじみだから、その縁で借りたの」
四大公爵家だから交流があるのかな。私は子爵家だし、公爵家とはあまり交流を持つことはない。今日も、分家だからという理由だし。
「それで、君は?」
「えっ?何が?」
「君はどこの家なの?」
知らなかったのかよ!最初に自己紹介したのに……!何の説明もされてないの?別邸にいるし……差別でもされてるのかな?
知らないなら、教えればいいし、まぁいいか。
「フィーレン家のハリナ。あなたとははとこ同士になるらしいわ。私のおばあちゃんとあなたの祖父が姉弟なんですって」
「そういえば、僕の大伯母様がそんな名前の子爵家に嫁いだとか聞いたことあるな。そこの家か」
そう言った顔は、どことなく寂しそうに見えた。
「おばあちゃんと仲がよかったの?」
そう言ったら、本をめくる手が止まった。
「……大伯母様は僕によくしてくれた最後の人だから。継母は僕のことを嫌ってるし、父は僕を皇族に近づく道具としか見ていないからね」
「継母って……母親は?」
「病気で亡くなったよ。それ以来僕はここにいる。魔力が強いから被害が少なくなるように魔法がかけられているこの場所に隔離しているというのが表向きの理由」
そう言われて分からないほど私も馬鹿じゃない。継母が嫌っているから、ここに閉じ込められているんだ。さっきまでむかついていたけど、少し可哀想に思えてきた。
「これでいいでしょ」
「……何が?」
「僕には構わない方がいい。君はしつこいし、話さないと出ていかなさそうだから話したけど、もういいでしょ。出ていってよ」
彼が指をパチンと鳴らすと、ドアが開いた。そして体が勝手に動いて、部屋の外に出てしまう。
「ちょっと!勝手に追い出さないでって!」
その声も反応を示さず、ドアが閉まる音と錠がかかる音だけがこの屋敷に響いた。
「何なのよ……」
そう思っても、鍵がかかっているから、もう出ていくしかない。
可哀想に思ったけど、やっぱりむかつく奴!お望み通り出てってやるわ!
そう思って、別邸の外に出た。
そんなある日、父に呼ばれて、父の部屋に行った。
「父さん、どうしたの?」
「本家との顔合わせがある。三日後に向かうぞ」
有無を言わさないように、そう言われた。
本家との顔合わせ?そういえば、母さんから本家には自分と年が近い男の子がいるとか聞いた覚えがある。確か、二つ年上の10歳。神童?って呼ばれているって。
「母さん!」
父さんに聞いても教えてはくれないかもしれないと思って、母さんのところに向かった。
「あら、ハリー。どうしたの?」
「父さんから本家の人と会うって聞いたの。どんな人か知ってる?」
「そうね……」
軽くため息をついてから、母さんは話し始めた。
いわく、私と年の近い子は、フェレスリード・ベル・ヒーライド。ヒーライドはこの国に四つしかない四大公爵家の一つで、たとえ致命傷でも治せるといわれるほどの治癒術の腕を持っているので、癒しのヒーライドと呼ばれているらしい。
他には、防御のプロテクタール。攻撃のアタックト。支援のエイドリア。すべて合わせて四大公爵家。
その四大公爵家にも多少は家格に差があって、一番上はアタックト。次にヒーライド。次にプロテクタール。最後にエイドリアとのこと。
私たちは二番目のヒーライドに最も近い分家で、フェレスリードって子とは、はとこ同士になるらしい。だから、私も治癒が使えるのかな?
「多分、年の近い子と交流して欲しいんじゃないかしら」
確かに、私は友達と呼べるような存在は少ないし、あまり領地にも行ったりはしないから、年の近い子との交流は少ない。
父さんの有無を言わせない言い方には少しイラっと来たけど、自分のことを考えてのことならあまり文句は言えなくなった。
自分のはとこはどんな人なんだろうとか考えながら過ごして三日後。ついに本家に向かった。
四大公爵家と呼ばれるだけあって、私の屋敷なんかより広い。
「よくおいでくださいました」
公爵家の家令らしき者が出迎えてくれた。名前はルベールさんと言うらしい。
「ハリナ様ですね」
私に視線を合わせてそう言った。「はい、そうです」と言ったら、フェレスリード様のところに案内すると言われた。そして、部屋に連れていかれるのかなと思っていたら、外に出てしまった。
普通は、本邸らしきこの場所にいるものじゃないの?私のところにも別邸はあるけど、お客を泊めたりとか、そういうときにしか使わない。なので、本邸よりも圧倒的に小さい。でも、ここの別邸は、どっちが本邸か分からなくなるくらい大きかった。
「あの……ルベールさん。なぜフェレスリード様はここにいるんですか?」
「私めがお話しすることではございません」
それは、まるで話すことを許されていないような言い方だった。聞くなら本人に聞くしかないのか。
「こちらでございます」
別邸の中に入り、奥の方の部屋の前まで来ると、ルベールさんは錠を開けた。中には、緑色の髪をした男の子が、窓辺に座って本を読んでいた。瞳は、私と同じ青色だった。心なしか、私と顔も似ているような気がする。
「ハリナ・フィーレンです」
そう言ったら、本を閉じた。そして、こっちの方に歩いてくる。
「フェレスリード・ベル・ヒーライドです。よろしくお願いしますね」
そう言って笑いかけてきた。最初の印象としては、人当たりはいいのかなって感じだった。
ルーベルさんは仕事があるということで、後は私たち二人でとなった。すると、さっきまで笑っていたフェレスリード様の顔がすぐに冷たくなった。
「じゃあ、そこらにでも座ってなよ。僕は本読んでるから」
……えっ?急に態度が変わって、ついていけない自分がいる。それに、そこらにでも座ってなよと言われても、椅子もないような……唯一一つあるけど、それはフェレスリード様が座っているし……
「あの……どこに?」
「床に座ればいいでしょ」
そんなことも分からないのかという風に言われた。
「床って……あなたは椅子に座るのに?」
「僕の椅子だし。物置ならこの部屋を出て右に行ったら階段があるから、そこをくだればあるよ。座りたいなら自分でそこから持ってくればいいでしょ。そんなことも考えられないの?」
む、む、むかつくーーーー!!さっきまでのあの優しい感じはどこに行ったのよ!物置なんて、初めて来たんだから知ってるわけないじゃない!意地でも座るもんかと思って、壁にもたれて立っていた。
「フェレスリードは何を読んでるの?」
こんな奴なんて呼び捨てよ!でも、本人は怒ることもせず、かといって答えることもせずに、本を読んでいる。私の存在すら認識してないの!?
「ねぇってば!」
肩を揺らして声をかける。
「君、うざいんだけど」
「あんたが返事しないからでしょ!それで、何読んでるの?」
「……魔法書。もう僕は治癒術はできるし。他の魔法も勉強してるの」
「へぇ~……」
もう治癒術はできるって、かなりすごいことじゃないの?魔法は、普通は10歳になってから本格的に学び始めるのが普通って話だから、10歳でマスターしてるのは普通じゃない。
まぁ、私もまだ8歳だけど。
「何の魔法が書いてあるの?」
「攻撃魔法。レクトに貸してもらったやつ」
「レクト……?」
人の名前なんだろうけど、そんな名前は聞いたことがない。
「アタックト家の嫡男。僕とは5歳からの幼なじみだから、その縁で借りたの」
四大公爵家だから交流があるのかな。私は子爵家だし、公爵家とはあまり交流を持つことはない。今日も、分家だからという理由だし。
「それで、君は?」
「えっ?何が?」
「君はどこの家なの?」
知らなかったのかよ!最初に自己紹介したのに……!何の説明もされてないの?別邸にいるし……差別でもされてるのかな?
知らないなら、教えればいいし、まぁいいか。
「フィーレン家のハリナ。あなたとははとこ同士になるらしいわ。私のおばあちゃんとあなたの祖父が姉弟なんですって」
「そういえば、僕の大伯母様がそんな名前の子爵家に嫁いだとか聞いたことあるな。そこの家か」
そう言った顔は、どことなく寂しそうに見えた。
「おばあちゃんと仲がよかったの?」
そう言ったら、本をめくる手が止まった。
「……大伯母様は僕によくしてくれた最後の人だから。継母は僕のことを嫌ってるし、父は僕を皇族に近づく道具としか見ていないからね」
「継母って……母親は?」
「病気で亡くなったよ。それ以来僕はここにいる。魔力が強いから被害が少なくなるように魔法がかけられているこの場所に隔離しているというのが表向きの理由」
そう言われて分からないほど私も馬鹿じゃない。継母が嫌っているから、ここに閉じ込められているんだ。さっきまでむかついていたけど、少し可哀想に思えてきた。
「これでいいでしょ」
「……何が?」
「僕には構わない方がいい。君はしつこいし、話さないと出ていかなさそうだから話したけど、もういいでしょ。出ていってよ」
彼が指をパチンと鳴らすと、ドアが開いた。そして体が勝手に動いて、部屋の外に出てしまう。
「ちょっと!勝手に追い出さないでって!」
その声も反応を示さず、ドアが閉まる音と錠がかかる音だけがこの屋敷に響いた。
「何なのよ……」
そう思っても、鍵がかかっているから、もう出ていくしかない。
可哀想に思ったけど、やっぱりむかつく奴!お望み通り出てってやるわ!
そう思って、別邸の外に出た。
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