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第一章 虐げられた姫
第19話 似ているから
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転移して、皇女の宮の廊下に転移する。さすがに、目の前に現れるわけにはいかない。
目の前の景色がハッキリと見えた瞬間、ハリナは僕の襟を掴んで、引きずって走っていった。
擦れると痛いので、魔法で浮かんだ。足の部分はすでに擦れていたので、魔法で治す。こういうときは勝手に運んでくれるから楽だ。足の速さと体力なら、ハリナの方が僕よりも圧倒的に上なので、この方が速い。
「楽だ楽だって……あなたは一度苦労というものを味わう方がいいかもしれませんね」
「やだよ。僕はめんどくさいことはしたくないから」
「その割には、フィレンティア皇女殿下の治療はちゃんとやっていたじゃないですか」
「う~ん……僕でもよく分からないな」
皇帝からの命というのもあった。やらなかったからって楽な専属を外されるのは嫌だったし。でも……
な~んか、気になるんだよね。確かに、人形だった。でも、それとは別に、魔力を流したとき、魂が成熟しているように感じた。普通、大人びていると言われる子供でも、魂は年相応だ。例外でも、せめて差は5年だ。
でも、あの皇女様は、魂の年齢は、実際の年齢の3~4倍はありそうだ。つまり、10~15年の違い。
ここまで成熟しているのは、初めて見たから、少し興味が湧いている。皇女様に同情はしてるっちゃしてるけど、それは皇女様に失礼だからね。
「なぜ同情が失礼に当たるのですか?」
当たり前のように心を読まれるなぁ……そろそろ、止めにしない?それはそうと、なぜ失礼に当たる(と思う)か。それは、僕でも怒るからだ。
「あなたが怒るところは想像できませんね」
「僕は結構怒ったりするよ?君の前ではあまり見せないけどね」
自分から言ったくせに、そう言ったら心底興味なさそうな顔で、「そうですか」と言った。
「では、質問の答えは?」
「君は僕の過去を知ってるでしょ。ろくに知りもしないくせに、分かった風をされるのを嫌がるんだよ、過去が辛いって人は」
僕もろくでもない扱いだったからなぁ。両親は典型的な猫かぶり。で、魔力が一般人よりも高い僕は、当時、皇子だったカイルの側近になるかもしれないと期待されていて、隙あらば皇宮に連れていかれた。
……そういえば、似てるなぁ。カイルと皇女様。あいつも、あまり表情には出さない子供だった。まぁ、皇女様と違って、作り笑いとかはできる奴だったけど。
「奴とはなんですか!」
「本人に言わなかったら問題ないって。それより、もう着くよ?」
他の宮よりは狭いだけで、充分にここは広い。ハリナが走り始めて、やっと部屋の前に着いた。
「……そうですね。続きは皇女殿下の容態が落ち着いたらにしましょう」
すでに異変がある前提の言い方だ。まぁ、魔力切れで何の問題もないわけがない。何かしら異変は出ているだろう。
「セリア!」
「ハリナ!それに、フェレス様も!」
声をあげているセリアの方は見ずに、ベッドで横になっている皇女の方を見た。
「ハリナ、離して」
ハリナの手が離れて、僕は皇女の方に向かう。息遣いが少し荒くて、体温が下がっている。典型的な症状だ。魔法はというと、あのときよりも少し安定してはいるものの、不安定な状態には変わりはない。
魔力が無くなってしまったなら、追加するしか治す方法はない。だが、魔法に魔力が弾かれてしまうと、皇女に魔力を注ぐのは不可能だ。
弱体化をもう一回付与して、魔力を通しやすくするしかないかな。どうせ、弱体化は意味をなしていないだろうから、また付与するつもりではいたし。
弱体化を付与するまではいいけど……そこからは退出してもらわないといけないのがいる。
「ハリナ、部屋から出ていってくれる?」
「……分かりました」
なぜとは聞いてこない。ハリナも理由が分かっているから。はとことはいえ、僕とハリナは血縁関係が近いから、魔力の質も似ている。魔力は、質が近いものに引っ張られる性質があるので、ハリナが同じ部屋にいると、ただでさえ通りにくい魔力が、ハリナの方に流れていってしまう。
だから、こういう治療は僕よりも実の父親のあいつが一番の適任なんだけど……今は皇宮にいないらしいんだよなぁ……どこ行ったんだ?レクトなら知ってるかな?
レクトから愚痴で聞いた話じゃあ、決着をつけるとか言ってたらしいが……まさかとは思うが、ルメリナ皇妃の実家じゃないだろうな。一人であそこに行くのは、あいつにとっては死にに行くようなもんだぞ?だから、あれをくれって言ったのか?
それか、使用人のところにでも行ったか?影を動かしてたらしいし……でも、あいつらもバカではないはずだから、ルメリナ皇妃の実家の傘下にある家に行ってそうな気がするけど。
まぁ、いない奴を求めていても仕方ないし、僕が何とかするしかない。今現在、魔力は六割くらいは弾かれている。弱体化してもこれなら、何もしてなかったら、九割は通らなかったな。
副作用的なものが起こらないように、できるだけ皇女の魔力の質に近づけてはいる。だんだん呼吸も安定してきて、体温も戻ってきていた。
……そういえば、皇女の魔力総量はいくつだ?ただでさえ不安定なのに、複数を同時発動できるのは、相当な魔力の持ち主だ。魔力切れを解消するには、魔力総量の八割ぐらいまで注ぐのが目安だ。ほとんど無くなったものを、また一度に多く戻されると、拒否反応を起こす場合もある。なので、八割ほど注ぎ、残り二割は自然に戻るのを待つ方が、安全性は高い。
カイル……は知ってるわけないし、ルメリナ皇妃の実家も多分無理だ。自分達の手の者を勝手に出入りはさせていたのかもしれないけど、さすがに魔力総量を調べたりまではしてないだろう。
……勘で探るしかないか。あれだけの魔法を不安定な状態で同時発動していて、そのあとに僕の弱体化を打ち消すくらいに強い魔法を自分に張っている。
小さいものも含めたら、確実に十はあっただろうし、仮に十五と仮定したら、あの強さの魔法を使うなら、最低でも使われる魔力は一万は下らない。意識していた状態であれば、どんなに多く見積もっても4000~5000くらいだろうが、無意識状態だと、消費する魔力は倍増する。
主に強かったのは、人形姫を構成しているあの魔法だっただけであって、他の魔法も弱いわけではないし。
それらの魔法を発動して、僕の弱体化も打ち消すくらいに強い魔法を自分に張っているなら、発動したときの倍はいる。
それに、改めて診てみたら、なんか魔法が増えている。いや、数は減ってるんだけど、合成魔法となって、一つの強い魔法になっていたり、一段階上の魔法になっている。
無感覚が強化されて、ついに視覚と聴覚も潰れている感じがするし、多分……感覚遮断かな?無感覚は、どちらかと言えば、気候など、新たに感覚を感じないためにいつもの環境にいるように感じるので、温感……場合によっては痛覚以外はちゃんと機能する。
でも、感覚遮断はすべてを絶つ。温感、痛覚は当然のこと、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚全部が機能しない。だから、たとえ腕を切られたとしても、気づくことはない。痛みはないし、斬るところは見ることができないし、血の匂いなどもしない。当然斬る音も聞こえない。
感覚遮断は禁止されている禁断魔法だ。命の危機も気づけなくなるから。
弱体化を付与しても、感覚が鈍くなるくらいだな。まぁ、やらないよりはマシだろうし、魔力を注ぎ終わったら、弱体化をもう一回付与しよう。いたちごっこになりそうな気がするけど、やらなかったら部屋の外にいる奴に殺されそうだし、感覚を強めた方が、人間らしさってのは取り戻しやすそうな感じがするし。
「ねぇ、セリア。皇女様って皇妃様の誰かと交流したことがあるんでしょ?」
「アルメリア第六皇妃殿下のことですね。確かにありますけど……」
「一度全員と交流させてみたら?ルメリナ皇妃様のことを一番恐れていたその人が大丈夫なら大丈夫でしょ。皇妃なら、皇女様にも気軽に接することができるでしょ」
多分だけど、ハリナもセリアもあまり気軽に接してなさそうなんだよね。無礼だとか、不敬だとか気にするような人達だし。その点、皇妃様は、皇女よりも身分が上だから何の問題もないし。
カイルと似たタイプなら、多分馴れ馴れしい方が好みだと思うんだよね。カイルも、自分のことを恐れないような奴を気に入る傾向があるし。
「ですが、私は皇妃殿下に提案できるような立場ではありませんし、ここに来ることもおそらくは……」
「他の皇女様と皇子様ならどう?」
皇宮の権力関係は、皇帝が一番なのは当然で、次に第一皇妃、第二皇妃と続いていく。あいつ、正室持ってないから、皇后がいないんだよなぁ。臣下がそれでうるさいらしいけど、皇后なら、皇妃から選ばなくてはならないが、誰か一人を贔屓するつもりはない。って言いきってるし。
「誰か来るんじゃないの?そろそろ」
あいつは皇女と皇子に交流しろって言ってたらしいし、誰か来てもおかしくはないんだけど。
「おそらく、年齢順に行くと、第五皇子殿下だと……思われますけど」
「あぁ、あの子なら僕も面識あるし、ちょっと提案してみようか」
「…………」
なぜか、セリアが無言で見つめてくる。
「……何?」
「珍しいですよね。誰かをそこまで気にかけるのって」
「まぁ、確かに僕は自分ファーストだから、あまり誰かを気にかけることはないけど……なーんか、放っておけないという感じなんだよね。めんどくさいとは思うけど、だからってやりたくないわけではないし」
めんどくさいと思っていても、やりたくないというわけではない。そもそも、やりたくなかったら、魔力の性質を皇女よりにしたりはしないのに。時間がかなりかかることになるから。
なんで放っておけないかと聞かれれば……昔の自分に似ている気がするからってところだろう。自分の意思なんて持っていなくて、周りに合わせる。それが僕と同じだったから。
「さて、僕は第五皇子に会ってくるよ。皇女様はそのまま休んでいれば大丈夫だから」
昔の自分と似ているから、周りに合わせるような奴がどうなるのかはなんとなく分かる。それを放っておけないというだけだ。
皇女様がまた魔法を強くしたら、また弱体化を付与することになるし……彼女とは、その関係が終わっても長い付き合いになる。そんな予感がする。
さーて、そろそろ部屋を出てあの不機嫌になっているであろうモンスターの機嫌をとらないと……
「誰がモンスターですか」
そう言って襟を掴んでくる。あぁ、帰りもこうなんだね。
「一応聞くよ?どこから読んでた?」
「部屋を出ていってからの話なら、ずっと分かってましたよ?」
はぁ……説教がプラス一日くらいはされそうだな。
「よく分かっているじゃないですか」
「な~んで読まれるかなぁ……無意識のうちにリンクしてるのかなぁ」
「だったら私の考えていることも分かるのではないですか?」
「知らないの?リンクって弱い方に引っ張られるから、君だけ読めていてもおかしくはないよ?」
リンクは、その相手と自分の魔力を繋げること。その相手の魔法を使えはするものの、威力は弱まる。そして、魔力の量に差があれば、同じくらいになるように調整される。
だから、僕の魔力がそもそも向こうに勝手に流れていたとしたら、読めていてもまぁおかしくはないけど……こいつとリンクなんかした覚えないし、魔力が減ってたら気づくんだけどなぁ。こいつの魔力僕より圧倒的に弱いし……
「……皇子殿下に会われるのは許します。ですが、それ以外の時間は私とあなたの部屋にいることにしましょうか」
「……どれくらい?」
「三日ほどですかね」
さすがにノンストップというわけではないだろうけど……寝る時間くらいはくれないかなぁ……
「ご安心を。四時間ほどでしたらくれてやります」
「……倍は欲しいんだけど?」
「必要ないでしょう。一週間徹夜したことがあるという情報がありますし、四時間も寝させてやるんだから、感謝して欲しいです」
こりゃあ、本当に三日間居座る気だな。
仕方ない。ある程度こいつのほとぼりが冷めてからだな。僕の安眠タイムは。
「じゃあ、皇子と会ってからにしてよ?一度言い出したら君は止まらないから」
「かしこまりました。では、向かいましょうか」
会うのは数ヶ月ぶりだけど……あの子は元気にしているかな。
目の前の景色がハッキリと見えた瞬間、ハリナは僕の襟を掴んで、引きずって走っていった。
擦れると痛いので、魔法で浮かんだ。足の部分はすでに擦れていたので、魔法で治す。こういうときは勝手に運んでくれるから楽だ。足の速さと体力なら、ハリナの方が僕よりも圧倒的に上なので、この方が速い。
「楽だ楽だって……あなたは一度苦労というものを味わう方がいいかもしれませんね」
「やだよ。僕はめんどくさいことはしたくないから」
「その割には、フィレンティア皇女殿下の治療はちゃんとやっていたじゃないですか」
「う~ん……僕でもよく分からないな」
皇帝からの命というのもあった。やらなかったからって楽な専属を外されるのは嫌だったし。でも……
な~んか、気になるんだよね。確かに、人形だった。でも、それとは別に、魔力を流したとき、魂が成熟しているように感じた。普通、大人びていると言われる子供でも、魂は年相応だ。例外でも、せめて差は5年だ。
でも、あの皇女様は、魂の年齢は、実際の年齢の3~4倍はありそうだ。つまり、10~15年の違い。
ここまで成熟しているのは、初めて見たから、少し興味が湧いている。皇女様に同情はしてるっちゃしてるけど、それは皇女様に失礼だからね。
「なぜ同情が失礼に当たるのですか?」
当たり前のように心を読まれるなぁ……そろそろ、止めにしない?それはそうと、なぜ失礼に当たる(と思う)か。それは、僕でも怒るからだ。
「あなたが怒るところは想像できませんね」
「僕は結構怒ったりするよ?君の前ではあまり見せないけどね」
自分から言ったくせに、そう言ったら心底興味なさそうな顔で、「そうですか」と言った。
「では、質問の答えは?」
「君は僕の過去を知ってるでしょ。ろくに知りもしないくせに、分かった風をされるのを嫌がるんだよ、過去が辛いって人は」
僕もろくでもない扱いだったからなぁ。両親は典型的な猫かぶり。で、魔力が一般人よりも高い僕は、当時、皇子だったカイルの側近になるかもしれないと期待されていて、隙あらば皇宮に連れていかれた。
……そういえば、似てるなぁ。カイルと皇女様。あいつも、あまり表情には出さない子供だった。まぁ、皇女様と違って、作り笑いとかはできる奴だったけど。
「奴とはなんですか!」
「本人に言わなかったら問題ないって。それより、もう着くよ?」
他の宮よりは狭いだけで、充分にここは広い。ハリナが走り始めて、やっと部屋の前に着いた。
「……そうですね。続きは皇女殿下の容態が落ち着いたらにしましょう」
すでに異変がある前提の言い方だ。まぁ、魔力切れで何の問題もないわけがない。何かしら異変は出ているだろう。
「セリア!」
「ハリナ!それに、フェレス様も!」
声をあげているセリアの方は見ずに、ベッドで横になっている皇女の方を見た。
「ハリナ、離して」
ハリナの手が離れて、僕は皇女の方に向かう。息遣いが少し荒くて、体温が下がっている。典型的な症状だ。魔法はというと、あのときよりも少し安定してはいるものの、不安定な状態には変わりはない。
魔力が無くなってしまったなら、追加するしか治す方法はない。だが、魔法に魔力が弾かれてしまうと、皇女に魔力を注ぐのは不可能だ。
弱体化をもう一回付与して、魔力を通しやすくするしかないかな。どうせ、弱体化は意味をなしていないだろうから、また付与するつもりではいたし。
弱体化を付与するまではいいけど……そこからは退出してもらわないといけないのがいる。
「ハリナ、部屋から出ていってくれる?」
「……分かりました」
なぜとは聞いてこない。ハリナも理由が分かっているから。はとことはいえ、僕とハリナは血縁関係が近いから、魔力の質も似ている。魔力は、質が近いものに引っ張られる性質があるので、ハリナが同じ部屋にいると、ただでさえ通りにくい魔力が、ハリナの方に流れていってしまう。
だから、こういう治療は僕よりも実の父親のあいつが一番の適任なんだけど……今は皇宮にいないらしいんだよなぁ……どこ行ったんだ?レクトなら知ってるかな?
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まぁ、いない奴を求めていても仕方ないし、僕が何とかするしかない。今現在、魔力は六割くらいは弾かれている。弱体化してもこれなら、何もしてなかったら、九割は通らなかったな。
副作用的なものが起こらないように、できるだけ皇女の魔力の質に近づけてはいる。だんだん呼吸も安定してきて、体温も戻ってきていた。
……そういえば、皇女の魔力総量はいくつだ?ただでさえ不安定なのに、複数を同時発動できるのは、相当な魔力の持ち主だ。魔力切れを解消するには、魔力総量の八割ぐらいまで注ぐのが目安だ。ほとんど無くなったものを、また一度に多く戻されると、拒否反応を起こす場合もある。なので、八割ほど注ぎ、残り二割は自然に戻るのを待つ方が、安全性は高い。
カイル……は知ってるわけないし、ルメリナ皇妃の実家も多分無理だ。自分達の手の者を勝手に出入りはさせていたのかもしれないけど、さすがに魔力総量を調べたりまではしてないだろう。
……勘で探るしかないか。あれだけの魔法を不安定な状態で同時発動していて、そのあとに僕の弱体化を打ち消すくらいに強い魔法を自分に張っている。
小さいものも含めたら、確実に十はあっただろうし、仮に十五と仮定したら、あの強さの魔法を使うなら、最低でも使われる魔力は一万は下らない。意識していた状態であれば、どんなに多く見積もっても4000~5000くらいだろうが、無意識状態だと、消費する魔力は倍増する。
主に強かったのは、人形姫を構成しているあの魔法だっただけであって、他の魔法も弱いわけではないし。
それらの魔法を発動して、僕の弱体化も打ち消すくらいに強い魔法を自分に張っているなら、発動したときの倍はいる。
それに、改めて診てみたら、なんか魔法が増えている。いや、数は減ってるんだけど、合成魔法となって、一つの強い魔法になっていたり、一段階上の魔法になっている。
無感覚が強化されて、ついに視覚と聴覚も潰れている感じがするし、多分……感覚遮断かな?無感覚は、どちらかと言えば、気候など、新たに感覚を感じないためにいつもの環境にいるように感じるので、温感……場合によっては痛覚以外はちゃんと機能する。
でも、感覚遮断はすべてを絶つ。温感、痛覚は当然のこと、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚全部が機能しない。だから、たとえ腕を切られたとしても、気づくことはない。痛みはないし、斬るところは見ることができないし、血の匂いなどもしない。当然斬る音も聞こえない。
感覚遮断は禁止されている禁断魔法だ。命の危機も気づけなくなるから。
弱体化を付与しても、感覚が鈍くなるくらいだな。まぁ、やらないよりはマシだろうし、魔力を注ぎ終わったら、弱体化をもう一回付与しよう。いたちごっこになりそうな気がするけど、やらなかったら部屋の外にいる奴に殺されそうだし、感覚を強めた方が、人間らしさってのは取り戻しやすそうな感じがするし。
「ねぇ、セリア。皇女様って皇妃様の誰かと交流したことがあるんでしょ?」
「アルメリア第六皇妃殿下のことですね。確かにありますけど……」
「一度全員と交流させてみたら?ルメリナ皇妃様のことを一番恐れていたその人が大丈夫なら大丈夫でしょ。皇妃なら、皇女様にも気軽に接することができるでしょ」
多分だけど、ハリナもセリアもあまり気軽に接してなさそうなんだよね。無礼だとか、不敬だとか気にするような人達だし。その点、皇妃様は、皇女よりも身分が上だから何の問題もないし。
カイルと似たタイプなら、多分馴れ馴れしい方が好みだと思うんだよね。カイルも、自分のことを恐れないような奴を気に入る傾向があるし。
「ですが、私は皇妃殿下に提案できるような立場ではありませんし、ここに来ることもおそらくは……」
「他の皇女様と皇子様ならどう?」
皇宮の権力関係は、皇帝が一番なのは当然で、次に第一皇妃、第二皇妃と続いていく。あいつ、正室持ってないから、皇后がいないんだよなぁ。臣下がそれでうるさいらしいけど、皇后なら、皇妃から選ばなくてはならないが、誰か一人を贔屓するつもりはない。って言いきってるし。
「誰か来るんじゃないの?そろそろ」
あいつは皇女と皇子に交流しろって言ってたらしいし、誰か来てもおかしくはないんだけど。
「おそらく、年齢順に行くと、第五皇子殿下だと……思われますけど」
「あぁ、あの子なら僕も面識あるし、ちょっと提案してみようか」
「…………」
なぜか、セリアが無言で見つめてくる。
「……何?」
「珍しいですよね。誰かをそこまで気にかけるのって」
「まぁ、確かに僕は自分ファーストだから、あまり誰かを気にかけることはないけど……なーんか、放っておけないという感じなんだよね。めんどくさいとは思うけど、だからってやりたくないわけではないし」
めんどくさいと思っていても、やりたくないというわけではない。そもそも、やりたくなかったら、魔力の性質を皇女よりにしたりはしないのに。時間がかなりかかることになるから。
なんで放っておけないかと聞かれれば……昔の自分に似ている気がするからってところだろう。自分の意思なんて持っていなくて、周りに合わせる。それが僕と同じだったから。
「さて、僕は第五皇子に会ってくるよ。皇女様はそのまま休んでいれば大丈夫だから」
昔の自分と似ているから、周りに合わせるような奴がどうなるのかはなんとなく分かる。それを放っておけないというだけだ。
皇女様がまた魔法を強くしたら、また弱体化を付与することになるし……彼女とは、その関係が終わっても長い付き合いになる。そんな予感がする。
さーて、そろそろ部屋を出てあの不機嫌になっているであろうモンスターの機嫌をとらないと……
「誰がモンスターですか」
そう言って襟を掴んでくる。あぁ、帰りもこうなんだね。
「一応聞くよ?どこから読んでた?」
「部屋を出ていってからの話なら、ずっと分かってましたよ?」
はぁ……説教がプラス一日くらいはされそうだな。
「よく分かっているじゃないですか」
「な~んで読まれるかなぁ……無意識のうちにリンクしてるのかなぁ」
「だったら私の考えていることも分かるのではないですか?」
「知らないの?リンクって弱い方に引っ張られるから、君だけ読めていてもおかしくはないよ?」
リンクは、その相手と自分の魔力を繋げること。その相手の魔法を使えはするものの、威力は弱まる。そして、魔力の量に差があれば、同じくらいになるように調整される。
だから、僕の魔力がそもそも向こうに勝手に流れていたとしたら、読めていてもまぁおかしくはないけど……こいつとリンクなんかした覚えないし、魔力が減ってたら気づくんだけどなぁ。こいつの魔力僕より圧倒的に弱いし……
「……皇子殿下に会われるのは許します。ですが、それ以外の時間は私とあなたの部屋にいることにしましょうか」
「……どれくらい?」
「三日ほどですかね」
さすがにノンストップというわけではないだろうけど……寝る時間くらいはくれないかなぁ……
「ご安心を。四時間ほどでしたらくれてやります」
「……倍は欲しいんだけど?」
「必要ないでしょう。一週間徹夜したことがあるという情報がありますし、四時間も寝させてやるんだから、感謝して欲しいです」
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仕方ない。ある程度こいつのほとぼりが冷めてからだな。僕の安眠タイムは。
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