冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第8話 家族会議

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 執務室で、書類の決裁が終わり、少し休憩をとっていたとき、レクトが部屋に入ってきた。

「陛下、皇子殿下と皇女殿下が揃いました」
「今向かう」

 全員に、話しておかなければならない。みんなには、第四皇女……フィレンティアと交流は持って欲しいが、誰にも相性というものはあるので、強要するつもりはない。

 だが、レクトが冷宮の人形姫という名を知っていたなら、他の誰かが知っていてもおかしくない。その事もすべて、話しておく必要がある。後は、信じるしかない。

 晩餐を取る部屋に入ると、すでに皇子と皇女全員が座っていて、私の姿を見ると、礼をしてきた。そう言えば、フィレンティアはしていなかったな。マナーも習っていないと考えるのが自然か。

 ……そもそも、私を皇帝だと認識すらしていなかった可能性もあるが……何度か会ったのに、覚えられていなかったみたいだからな。

 席についたら、さっそく第一皇子が代表というように話しかけてきた。

「それで、第四皇女以外の・・・・・・・皇族をお召しになった理由をお聞きしても?」
「その第四皇女の事を話しておこうと思ったんだ」

 そう言うと、一瞬空気がざわついた。でも、すぐに静まり、声を発したのは第二皇女。

「フィレンティアがどうかしたのですか?」
「逆にたずねるが、第四皇女の事をそなた達はどれだけ知っている?」

 世間にまで広がっている話もあるくらいだから、レンドが掴んでいる情報くらいは知っているものがいてもおかしくない。

「冷宮の人形姫でしょう?」
「そうそう、人形みたいな見た目してるって聞いた……聞きました」

 第二皇子と第五皇子が答えた。第五皇子は、タメ口になっていたが、第一皇女に目線で注意され、慌てて敬語にした。第一皇女は、かなりマナーに厳しい。皇族らしいといえばらしいが、まだ幼い皇子にとっては、堅苦しいと思うようで、苦手意識を持っている者もいる。

「皆の言う通り、彼女は人形みたいな容姿だが、似ているのは容姿だけではない」
「どういう意味ですか?」
「動かず、話さず、表情にも出さない。呼吸をするだけの人形のようなんだ」

 ただそれだけなら、貴族の令嬢にもいるにはいるので、大して驚きはしていない。でも、彼女の場合は、感情を隠しているのではなく、そもそもないのだ。

「アルクシードは知っているだろう。彼女を突き飛ばしたらしいな」

 私がそう言うと、皇子と皇女全員の視線が第六皇子に向かう。

「だ、だって変な目で見てきたし……話さないし表情も変えなくて気持ち悪かったし……」
「たとえどんな理由があろうと、女性……しかも、自分よりも年下の皇女を突き飛ばすのはなりませんわよ、アルク」

 第一皇女が注意すると、アルクシードは「ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にした。

「それは、フィレンティアに言うべき言葉です。相手はわたくしではありませんわ」
「会いに行けって言うんですか!」
「そうですわ。父上もそれを望んでいるのでしょう?」

 第一皇女はこちらに話を振ってきた。

「そうだが、無理にとは言わない。アルクシードは謝罪しに行くべきだが、その後も交流しろとは言わない」
「私は構いませんよ」
「僕もそうしろと言うなら構いません」

 別に命令しているわけではないのだが……だが、交流してくれるならいいだろう。

「では、順番はどうしましょう?さすがに全員で向かうわけにはまいりませんわ」
「年齢順でいいのではないですか?」
「では、最初は私になるということか?」

 年齢順だと、最初は第一皇子→次に第一皇女→双子の第二皇子と第二皇女→第三皇子→第四皇子→第三皇女→第五皇子→第六皇子→第七皇子になる。

「悪妃の娘がどんな子なのか気になっていたところですし、ちょうどいいですわ」

 悪妃は、ルメリナ皇妃の別称だ。使用人への虐待や、暴言が行きすぎていたゆえに生まれた名。

 ……念のために、言っておくか。

「知っているかは分からんが、彼女はルメリナ皇妃から虐待を受けていた。それを考慮して欲しい」

 そう言っても、おそらく内心は驚いているが、ルメリナ皇妃ならやってもおかしくないと思ったらしい。あまり表情には出なかった。第五皇子のような幼い者達は顔を歪めたが。

 だが、想像しているのは、今までルメリナ皇妃が行っていたことだけだろう。だが、ルメリナ皇妃は悪質なことも行っていたが、唯一、刃物は使ったことがない。彼女は、悪妃と呼ばれるほど悪行の限りを尽くしたが、刃物だけは使うどころか、目に入れることすら嫌っていた。

 彼女は、血に恐怖を覚える。理由は知らないが、血を見ると、叫び声をあげて、一週間は部屋から出てこない。そんな彼女が刃物を使うとは思えないし、おそらくは使用人だろう。彼女は話さないから、あくまで予想でしかないが。

「……年齢が近い方から交流する方がいいのではないですか?」

 第四皇子がギリギリ聞き取れるくらいの音量で話す。

「確かに。ルメリナ皇妃が虐待を行っていたなら、年の離れた者は恐怖対象かもしれませんわ。なら、一番年齢が低いのは……」
「僕ですか!?」

 第七皇子が声を大きくして反応する。

「と、父様は……」

 何かを訴えるような目で見てくる。

 あまり行きたくないようだったが、第四皇子の言う通り、年が近い者から交流する方がいいだろう。

「反対はしない。彼女は使用人からも虐待を受けていたからな。……彼女に恐怖という感情は、おそらくないが、フラッシュバックすることはあり得る」
「使用人からもですか!?」
「そんな……!」

 そう言えば、使用人からも受けていたことは言っていなかったな。

「だから、彼女と年の近い者の方がいいという考えは悪くない」
「……分かりました。父様もそう言うなら、やってみます」
「今日はこれで終わりだ。解散してくれて構わない」

 そう言って、私は席を立つ。私が立ち去らないと、彼らは席を立たない。自分よりも身分が上の人よりも先に去ろうとするのは、失礼に当たるからだ。

 私も交流するつもりではあるが、仕事の関係で、あまり時間をとれないことが多い。それに、彼女から見れば、私は会いに来てもくれなかった最低な父親だ。だから、彼らに交流して貰う方がいい。

 彼女が、人間に戻れるのを願って、私は執務室に向かった。
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