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第一章 虐げられた姫
第3話 兄と姉
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「妹?コイツが?」
「はい。第四皇妃のご息女であらせられます」
「ふーん……」
そう言って、私の顔をジロジロ見てくる。
「俺はアルクシード・クルト・アベリニアだ。お前のフルネームは何て言うんだ?」
「フィレンティア・イトルト・アベリニア様でございます」
私ではなく、隣にいた……ハルカだっけ?が答える。
「イトルト……?じゃあ、お前は十一番目なんだな」
イトルトにはそんな意味があったのか。知りたいとも思ってなかったけど。
「「……」」
お互いに、無言になる。もう話すことはないのか。そう思っていたら、アルクシード……第六皇子の方がいいかな?第六皇子が話しかけてきた。
「何でお前は話さないんだ。表情も全く変えないし」
話し方を忘れたから。感情の出し方が分からないから。そう言えたら、どれだけ楽なんだろう。でも、言えない。話し方が分からない。感情なんてものは失くなった。私は、自分ではどうすることもできない人形姫だから。周りが手入れしてくれなければ、私はすぐにみすぼらしくなる。自分でできないから。
でも、ちょっとは話そうと努力してみようかな。口を開けば声が出るだろうか。食事するときみたいに、口を開けば……
そう思って、下を向いていた顔を上にあげて、口を開こうとすると、第六皇子は大きく声をあげた。
「何だよその目は!」
そう言って、思いきり突き飛ばされた。そうか。この人には、こういう目をしてはダメなのか。なら、目つきを変える努力もしないと。それか、ルメリナのときみたいに、下を向いていればいいかも。
よし、第六皇子と交流するときは、目線を合わせないようにすればいいんだな。理解した。
「フィレンティア皇女殿下!」
「お前……痛くないのか?何で痛がらないんだよ!気持ち悪い!」
普通は痛いんだ。でも、痛いなんて感覚は分からない。私は、感覚もないから。たとえ、屋上から飛び降りたとしても、痛みなんて感じないだろう。
そう考えているうちに、第六皇子はどこかに行ってしまった。あれが“普通”というものだろうか。もしそうなら、私は壊れているどころじゃない。普通じゃないなら、異端だ。いや、異端だから壊れているのか。
「フィレンティア皇女殿下、参りましょう」
もうどっちがどっちかも分からなくなった。とりあえず、侍女Aと侍女Bにでもしておこう。侍女Aがそう声をかけてきたので、立ち上がって、再び歩き出す。そのまま歩いて行くのかと思っていたら、皇帝がいる場所は遠いみたいで、入り口まで来たら男の人が私を抱えていくことになった。
どれくらいかかるのだろうか。私は死ぬんだろうか。でも、そうしたら、少しは感情が戻るかもしれない。悲鳴をあげれば、声を出す方法が分かるかもしれない。
少しは、人形から人間になれるかもしれない。
……私は、人間になりたいのかな。いや、多分だけどなりたいんだ。だって、なりたくもなかったら、こんなのが頭に思い浮かぶわけがない。
どうやったら人間になれるのだろうか。人形から戻れるのだろうか。
目的地に着いたようで、私をそっと降ろした。どこに行けばいいんだろうか。
「こちらをまっすぐ向かってください」
手をある方向に向けて……侍女Bの方だ。侍女Bがそう言った。言われた通りに歩いていく。すると、角でまた誰かにぶつかった。
「あら……この子は?」
女の人の声だ。多分、知っている人じゃない。
「フィレンティア第四皇女殿下でございます。フローラル第二皇女殿下」
第二皇女……なら、今ぶつかったのは、私の姉か。
「あなたがフィレンティアなのね。私はフローラル・ミルト・アベリニアよ」
この人はミルトなんだ。私も自己紹介しないといけないんだろうけど、口を開いても、言葉は出てこない。私は、人形だから。人形が話すわけがない。
「フローラル皇女殿下に挨拶しないなど……」
お姉さん(と思われる)人の後ろに立っている人が、私をじっと……睨んでいるのかな。
やっぱり、挨拶をしないとダメみたい。声が出るかはわからないけど、もう一回だけ……と思っていたら、お姉さんがその後ろに立っている人を手で止める。
「良いのよ、フレア。この子くらいの年の子は、人見知りすると聞いたことがあるわ」
人見知りではなく、話すことができないだけで……いや、あまり変わらないか。
「気にしないでね、フィレンティア」
そう言って、私に笑いかけた。やっぱり、分からない。笑っているのは分かるけど、どういう感情を抱いて笑っているのかが分からない。私も笑いたい。でも、笑えない。
どうやったら笑えるの?ルメリナが笑っているのは見たことない。使用人が笑っているのも見たことない。笑い方なんて、わからない。教えてくれないかな。
「申し訳ありませんが、フィレンティア皇女殿下は、皇帝陛下に呼ばれておりますので……」
「なら、私が連れていくわ。ちょうど父上の部屋の方に用があるのよ」
「行きましょう、フィレンティア」と言って、私の腕を引っ張っていく。そのまま私の腕を掴んだまま歩き続けて、大きな扉がある部屋の前で立ち止まった。
「ここが父上の部屋よ」
そう言って、第二皇女はドアをノックする。
「父上、フィレンティアを連れて参りました」
「入れ」
中からそんな声が聞こえる。第二皇女はドアを開けて、私を中に入れたら、小さな声で、「またね」と言ってドアを閉めた。
どうすればいいんだろう。頭を下げればいいの?
「こちらに来い」
悩んでいたら、そう言われたので、皇帝の元に向かう。金髪に赤い瞳……どこかで見たような気がするけど……皇帝なら、皇女である私の父親のはず。なら、どこかで会っていてもおかしくない。
「そこに座れ」
皇帝のすぐ側の椅子に座る。少し高いけど、よじ登れば問題ない。私が座ったとたんに、飲み物やお菓子が出てくる。静香の記憶通りの名前なら、これはケーキというものだ。この飲み物は何だろう?色からして、ブドウジュースだろうか。
「部屋はどうだ?気に入ったか?」
急にそんなことを聞かれた。気に入る……そんな感情は、持っていない。好き嫌いなんて感情は邪魔なだけだから、真っ先に消した。
「気に入らなかったのか?」
その質問にも、首を動かすことはできない。トントンと指で机を鳴らしている。何がしたいんだろう?
「答えない……か」
ボソッと呟いた声が聞こえた。この人は何がしたいのか分からない。私が部屋をたとえ気に入っていたとしても、何の関係もないだろうに。
「ハリナ、セリア。お前達は残れ」
「では、皇女殿下は……」
この人達、ハリナとセリアって言うのか。そう言えば、起きたときにそう言っていたような気もする。あまり覚えていないけど。
今度こそは、覚えるように努力しよう。きっと、一緒にいることになるから。
「他の者に送らせる」
そう言って、皇帝は後ろに立っている人を見る。その人は、一礼したかと思うと、「失礼します」と言って、私を抱えた。この人は、あの時私を抱えてくれた人……だったかな?人の顔なんて、覚えられない。
覚えられないけど……さっき、ハリナとセリアを覚えると決めたばかりだ。まずは、人を覚えるのを頑張ってみよう。無駄な努力になるかもしれないけど、やるだけやってみよう。
男の人は、私を抱えたまま、出るときに皇帝にまた一礼してから出ていった。
「はい。第四皇妃のご息女であらせられます」
「ふーん……」
そう言って、私の顔をジロジロ見てくる。
「俺はアルクシード・クルト・アベリニアだ。お前のフルネームは何て言うんだ?」
「フィレンティア・イトルト・アベリニア様でございます」
私ではなく、隣にいた……ハルカだっけ?が答える。
「イトルト……?じゃあ、お前は十一番目なんだな」
イトルトにはそんな意味があったのか。知りたいとも思ってなかったけど。
「「……」」
お互いに、無言になる。もう話すことはないのか。そう思っていたら、アルクシード……第六皇子の方がいいかな?第六皇子が話しかけてきた。
「何でお前は話さないんだ。表情も全く変えないし」
話し方を忘れたから。感情の出し方が分からないから。そう言えたら、どれだけ楽なんだろう。でも、言えない。話し方が分からない。感情なんてものは失くなった。私は、自分ではどうすることもできない人形姫だから。周りが手入れしてくれなければ、私はすぐにみすぼらしくなる。自分でできないから。
でも、ちょっとは話そうと努力してみようかな。口を開けば声が出るだろうか。食事するときみたいに、口を開けば……
そう思って、下を向いていた顔を上にあげて、口を開こうとすると、第六皇子は大きく声をあげた。
「何だよその目は!」
そう言って、思いきり突き飛ばされた。そうか。この人には、こういう目をしてはダメなのか。なら、目つきを変える努力もしないと。それか、ルメリナのときみたいに、下を向いていればいいかも。
よし、第六皇子と交流するときは、目線を合わせないようにすればいいんだな。理解した。
「フィレンティア皇女殿下!」
「お前……痛くないのか?何で痛がらないんだよ!気持ち悪い!」
普通は痛いんだ。でも、痛いなんて感覚は分からない。私は、感覚もないから。たとえ、屋上から飛び降りたとしても、痛みなんて感じないだろう。
そう考えているうちに、第六皇子はどこかに行ってしまった。あれが“普通”というものだろうか。もしそうなら、私は壊れているどころじゃない。普通じゃないなら、異端だ。いや、異端だから壊れているのか。
「フィレンティア皇女殿下、参りましょう」
もうどっちがどっちかも分からなくなった。とりあえず、侍女Aと侍女Bにでもしておこう。侍女Aがそう声をかけてきたので、立ち上がって、再び歩き出す。そのまま歩いて行くのかと思っていたら、皇帝がいる場所は遠いみたいで、入り口まで来たら男の人が私を抱えていくことになった。
どれくらいかかるのだろうか。私は死ぬんだろうか。でも、そうしたら、少しは感情が戻るかもしれない。悲鳴をあげれば、声を出す方法が分かるかもしれない。
少しは、人形から人間になれるかもしれない。
……私は、人間になりたいのかな。いや、多分だけどなりたいんだ。だって、なりたくもなかったら、こんなのが頭に思い浮かぶわけがない。
どうやったら人間になれるのだろうか。人形から戻れるのだろうか。
目的地に着いたようで、私をそっと降ろした。どこに行けばいいんだろうか。
「こちらをまっすぐ向かってください」
手をある方向に向けて……侍女Bの方だ。侍女Bがそう言った。言われた通りに歩いていく。すると、角でまた誰かにぶつかった。
「あら……この子は?」
女の人の声だ。多分、知っている人じゃない。
「フィレンティア第四皇女殿下でございます。フローラル第二皇女殿下」
第二皇女……なら、今ぶつかったのは、私の姉か。
「あなたがフィレンティアなのね。私はフローラル・ミルト・アベリニアよ」
この人はミルトなんだ。私も自己紹介しないといけないんだろうけど、口を開いても、言葉は出てこない。私は、人形だから。人形が話すわけがない。
「フローラル皇女殿下に挨拶しないなど……」
お姉さん(と思われる)人の後ろに立っている人が、私をじっと……睨んでいるのかな。
やっぱり、挨拶をしないとダメみたい。声が出るかはわからないけど、もう一回だけ……と思っていたら、お姉さんがその後ろに立っている人を手で止める。
「良いのよ、フレア。この子くらいの年の子は、人見知りすると聞いたことがあるわ」
人見知りではなく、話すことができないだけで……いや、あまり変わらないか。
「気にしないでね、フィレンティア」
そう言って、私に笑いかけた。やっぱり、分からない。笑っているのは分かるけど、どういう感情を抱いて笑っているのかが分からない。私も笑いたい。でも、笑えない。
どうやったら笑えるの?ルメリナが笑っているのは見たことない。使用人が笑っているのも見たことない。笑い方なんて、わからない。教えてくれないかな。
「申し訳ありませんが、フィレンティア皇女殿下は、皇帝陛下に呼ばれておりますので……」
「なら、私が連れていくわ。ちょうど父上の部屋の方に用があるのよ」
「行きましょう、フィレンティア」と言って、私の腕を引っ張っていく。そのまま私の腕を掴んだまま歩き続けて、大きな扉がある部屋の前で立ち止まった。
「ここが父上の部屋よ」
そう言って、第二皇女はドアをノックする。
「父上、フィレンティアを連れて参りました」
「入れ」
中からそんな声が聞こえる。第二皇女はドアを開けて、私を中に入れたら、小さな声で、「またね」と言ってドアを閉めた。
どうすればいいんだろう。頭を下げればいいの?
「こちらに来い」
悩んでいたら、そう言われたので、皇帝の元に向かう。金髪に赤い瞳……どこかで見たような気がするけど……皇帝なら、皇女である私の父親のはず。なら、どこかで会っていてもおかしくない。
「そこに座れ」
皇帝のすぐ側の椅子に座る。少し高いけど、よじ登れば問題ない。私が座ったとたんに、飲み物やお菓子が出てくる。静香の記憶通りの名前なら、これはケーキというものだ。この飲み物は何だろう?色からして、ブドウジュースだろうか。
「部屋はどうだ?気に入ったか?」
急にそんなことを聞かれた。気に入る……そんな感情は、持っていない。好き嫌いなんて感情は邪魔なだけだから、真っ先に消した。
「気に入らなかったのか?」
その質問にも、首を動かすことはできない。トントンと指で机を鳴らしている。何がしたいんだろう?
「答えない……か」
ボソッと呟いた声が聞こえた。この人は何がしたいのか分からない。私が部屋をたとえ気に入っていたとしても、何の関係もないだろうに。
「ハリナ、セリア。お前達は残れ」
「では、皇女殿下は……」
この人達、ハリナとセリアって言うのか。そう言えば、起きたときにそう言っていたような気もする。あまり覚えていないけど。
今度こそは、覚えるように努力しよう。きっと、一緒にいることになるから。
「他の者に送らせる」
そう言って、皇帝は後ろに立っている人を見る。その人は、一礼したかと思うと、「失礼します」と言って、私を抱えた。この人は、あの時私を抱えてくれた人……だったかな?人の顔なんて、覚えられない。
覚えられないけど……さっき、ハリナとセリアを覚えると決めたばかりだ。まずは、人を覚えるのを頑張ってみよう。無駄な努力になるかもしれないけど、やるだけやってみよう。
男の人は、私を抱えたまま、出るときに皇帝にまた一礼してから出ていった。
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