上 下
9 / 23
第一章 鬼神と巫女

第九話 尋問

しおりを挟む
 学校に行く。
 それは、私が平日の五日間、繰り返しているルーティンである。
 学校に行って、お友達とわいわいして、授業を受けて、家に帰る。それがいつも行われている事柄だ。
 そんな事柄が、どうやらいつものようには行われないらしい。
 私は、目の前の光景に目を向ける。
 それは、私の所属するA組の様子だ。ざわめいてはいるのだけど、以前のざわめきとは別な空気を感じる。
 あれは、各々がざわめいていた感じだったけど、今は不思議と一体感を感じるのだ。

「えっと……どうかしたんですか?皆さん」

 私はこの空気にびびりながらも、おそるおそる声をかけた。
 クラスメイトの首が、一斉に私のほうを向くのは、ちょっとしたホラーだった。
 そのホラーを醸し出している中には、花音の姿もある。
 花音は、そろそろと私のほうに来て、事情を説明してくれる。

「実は、星宮さんが学校を休んだのよ」
「えっ?なんで?風邪?」

 私は、その場でぱっと思いついた休みの理由を言ってみるけど、花音はふるふると首を振る。

「なんかね、風邪じゃないみたい。意識不明らしいよ。それで入院中」
「えっ!?」

 私は、心底驚いた。
 だって、先週は普通に家に帰宅していたのだから。確かに、元気はなさそうだった。でも、それは引ったくりの被害にあって怯えていたからだと思っていたのに。
 もしかして、あのときから体調は良くなかったのだろうか?

「今日は何のざわめきだ?」

 また時間差で夜見が登校してきた。もう普通に接することはできるけど、また私の霊力が溢れたときのために、行動を変えるつもりはないらしい。
 夜見の声に反応し、無意識に夜見に視線を向けた。
 夜見も視線に気づいたようで、私と目が合う。
 夜見は、少しだけ私たちのほうに近づいてきた。
 今はお姉さんのお陰で霊力が溢れていないとはいえ、まだ警戒心は解けていないらしい。

「三咲、何かあったのか?」
「星宮さんが入院したらしいの」
「星宮……?ああ、あいつか」

 一瞬、誰だかわからなかったみたいだけど、すぐに思い当たったらしい。
 というか、覚えててやれ。あんたのファンクラブの中でも同級生の筆頭なんだから。
 さすがに星宮さんが可哀想になった私は、あることを提案する。

「夜見、お見舞いに行ってあげたら?」

 私がそう言うと、夜見は嫌そうな顔で返す。

「はぁ?なんで俺が」

 夜見はそう言うけど、私が言葉を続ける前に、星宮さんの取り巻き兼ファンクラブ会員の子が、珍しく私に賛同する。

「そうですわ!赤城さまがお見舞いに来てくださったら、きっと麗さまもお喜びになられます!」
「ぜひ私たちと共に行きましょう!」
「いや、星宮は意識ないんだろ……?」

 夜見が何とか反撃するけど、そんな弱々しい反撃でこの人たちは怯まない。

「意識があろうがなかろうが関係はないのです!麗さまのお見舞いに赤城さまがいらっしゃったという事実が大切なのですから!」
「それに、きっと麗さまも、赤城さまがいらっしゃったらお目覚めになるにちがいありませんわ!」
「そうか……?」

 夜見は戸惑っている。
 一部のクラスメイトも苦笑いしているけど、花音と私を含めた、紅月中学校出身の子たちは、日常の光景として受け止めている。
 『あっ、また始まった』という目で三人のやり取りを見ていた。
 あの二人……高田たかだ愛梨あいりさんと、いぬい佳奈かなさんは、星宮さんとは幼なじみらしく、昔からあんな感じらしい。
 星宮さんの何もかもが尊敬できるというか、崇拝できるらしく、夜見のファンクラブも、星宮さんが入っているからというのも大いにありそうなくらいだ。
 二人は私のほうに視線を向けると、クスッと笑う。

「あなたもたまにはいいことを言うじゃない」
「ええ。よろしければ、あなたにも麗さまへのお見舞いに同行する栄誉を与えましょうか?」
「はぁ……ありがとうございます」

 もう夜見は行くことは決定しているみたいな言い方に、慣れているはずの私も苦笑いしてしまう。
 二人と一緒なんて精神に大きな負担がかかることは容易に想像できたので、私は横に首を振る。

「ですが、私は花音と帰りますから、また機会があれば……」
「あら、そう?では、赤城さまは私どもと行きましょう!」
「いや、俺はまだ行くとは言ってなーー」
「さぁ、授業が始まりますわよ!」
「おい、だからーー」

 諦めろ、夜見。星宮さんフィーバーになっている二人は誰も止められないから。
 夜見が私のほうを見てきたけど、いってらっしゃいの意を込めた笑みを向けた。

◇◇◇

 放課後、なんだかんだお人好しの夜見は、乾さんと高田さんに連行されるようにそのままお見舞いに向かった。
 私は、宣言した通り、花音と一緒に下校している。
 特に約束したわけでもないのに、私の言い訳に付き合ってくれる花音は、本当に優しい子だ。

「さーて、二人きりになったことだし、そろそろ聞かせてもらおうかな?」
「聞かせてもらおうって……何を?」

 私が聞き返すと、花音は不敵な笑みを浮かべる。

「決まってるじゃん。赤城くんとの間に何があったのかだよ。私が気づいてないと思った?」

 私は、その言葉に体が硬直する。
 うすうす感じていたことではあったけど、やはり怪しまれていたらしい。

「い、いつから……?」  

 もうこの発言で、何かあったことは認めているようなものだけど、どうせ花音には下手なごまかしは通じないから仕方ない。

「そりゃあ、あんなあからさまに赤城くんを避けてたら疑うよ。で、何があったの?」
「私の一存ではお話できませんので、赤城さんに許可を取ってきてください」

 私は、他人行儀にそう返した。
 でも、勝手に話していいことではないと思う。私が巫女というのは、私がいいと思ったら話せばいいだけだけど、夜見があやかしというのは、勝手な判断で話していいものではない。
 信じてもらえないと思って話していないだけならまだしも、あやかしだというのを知られたくないという思いもあるかもしれない。

「……なんか複雑な事情があるみたいだね。なら聞かないよ」

 花音もいろいろ察してくれたのか、これ以上聞くことはしないようだった。
 花音は、こうやって人のゴシップを面白がるところはあるけど、最低限のモラルは守る。
 気になることでも、相手が嫌がれば無理に聞き出したりはしないし、人の不幸を笑ったりはしない。
 そんな優しい友だちと一緒に帰る下校の時間は、私にとっては最高の時間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ
キャラ文芸
異動先はまさかのあやかしよろず相談課!? 変人ばかりの職場で始まるほっこりお役所コメディ ✳︎✳︎ 三崎はな。夢守市役所に入庁して三年目。はじめての異動先は「旧館のもじゃおさん」と呼ばれる変人が在籍しているよろず相談課。一度配属されたら最後、二度と異動はないと噂されている夢守市役所の墓場でした。 けれど、このよろず相談課、本当の名称は●●よろず相談課で――。それっていったいどういうこと? みたいな話です。 第7回キャラ文芸大賞奨励賞ありがとうございました。

キャベツの妖精、ぴよこ三兄弟 〜自宅警備員の日々〜

ほしのしずく
キャラ文芸
キャベツの中から生まれたひよこ? たちのほっこりほのぼのLIFEです🐥🐤🐣

灯《ともしび》は真《まこと》の中で

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
昔から霊力の高かった有馬灯真《ありまとうま》は、妖怪やお化けなどのそういった類《たぐい》の妖が見えていた。 そして、中学最後の冬、大晦日の日。彼は雪の降る中同じ年頃の少女と出会う。白装束を纏ったおり、目の色は水色。肌は白く、髪は水色と白色が混ぜっているような色だった。顔立ちも綺麗で、まるで妖精のようだった。 だが、彼女は人間ではなく妖怪だった。この地方で伝わる『雪女」だったのだ。 これは、心優しい人間が人と妖の関係を苦しみながらも考え、人とは何なのか。妖怪とは何なのかを一つ一つ考えていく非日常アットホームストーリー

第四の壁を突破したので、新しい主人公に全てを押し付けて俺はモブになる。

宗真匠
キャラ文芸
 自分が生きる世界が作り物だったとしたら、あなたはどうしますか?  フィクションと現実を隔てる概念『第四の壁』。柊木灯(ひいらぎとう)はある日、その壁を突破し、自身がラブコメ世界の主人公だったことを知った。  自分の過去も他者の存在もヒロインからの好意さえ全てが偽りだと知った柊木は、物語のシナリオを壊すべく、主人公からモブに成り下がることを決意した。  そのはずなのに、気がつけば幼馴染やクラスの美少女優等生、元気な後輩にギャル少女、完全無欠の生徒会長までもが柊木との接触を図り、女の子に囲まれる日々を取り戻してしまう。  果たして柊木はこの世界を受け入れて主人公となるのか、それとも……? ※小説家になろうからの転載作品です。本編は完結してますので、気になる方はそちらでもどうぞ。

処理中です...