上 下
1 / 1

これは非常識な常識では無く常識的な常識

しおりを挟む
 俺は、王国きっての大泥棒。今日は王都の貴族の館から、秘蔵のブラックダイヤモンドを盗み出すことに成功した。

 戦利品をジックリ観察する。
 何と言う大きさのダイヤだ。輝きも素晴らしい。黒くてツヤツヤしている。

 さて、今頃は家宝の盗難に気付き、貴族の屋敷は大騒ぎとなっているに違いない。ほとぼりが冷めるまで、犯行現場から離れていることにしよう。

 俺は王都から外へ出るために、出口となる城門へ向かった。

 思ったより、人が多いな。列が出来ているぞ。
 素直に行列に並ぶ……なかなか、前進しないな。

 前に立っている商人に尋ねてみる。
「列が動かないんですけど、何かあったんですか?」 
「先日、密輸品を王都から運び出そうとした者が捕まったんですよ。それで、城門でのチェック体制が厳しくなっているんです」

 むむ、困ったぞ。手荷物検査で衛兵にブラックダイヤが見付かってしまったら、万事ばんじ休すだ。
 焦っているうちに、列は次第に進み、俺の順番が近づいてくる。ええい、ままよ! 俺はダイヤが入っている小袋を服の中に押し込んだ。

 ……衛兵が、随分とたくさん居るな。どいつもこいつもマッチョだ。
 俺はさりげない風を装いながら、ゆっくりと歩いた。よし! もう少しで、城門から出られるぞ。

 その瞬間。

「チョット待て、そこの男」
 声を掛けられる。

 ギクリとして振り向くと、イケメンの青年が厳しい眼差しで俺を見つめていた。立派な格好をしている。城門警備の責任者か?

 取りあえず、怪しまれないように低姿勢で返事しよう。
「な、何でございましょうか?」

 俺をジッとにらみ続ける青年へ、衛兵の1人が語りかける。
「どうかしましたか? 隊長」

 この若さで隊長とは……。イケメンは、おそらく貴族だな。

 隊長は、衛兵達を叱責しっせきした。
おろか者! お前らは気付かないのか。コイツの姿を、よく確認してみろ!」

 何だと? 俺のどこに不審ふしんな点があると言うのだ。

 隊長は視線を俺の下腹部へ向けながら、叫んだ。
「コイツのズボン……股間こかんの部分が、非常識に・・・・ふくらんでいるではないか!」

 隊長の鋭い声が、城門一帯に響き渡る。衛兵はもちろん、列に並んでいた人々の目も、一斉に俺の下半身へと注がれた。俺も、自分のズボンを見る。

 しまったぁぁぁ!

 ダイヤを入れた小袋が服の下で移動、股間部分にまでずり落ち、俺のズボンは非常識に・・・・膨らんでいた。男の大事なところとブラックダイヤの存在位置が、ピタリと重なってしまっているのだ。

 衛兵達が口々に言い立てる。
「確かに、非常識に・・・・膨らんでいますな」
「くそぅ! どうして俺達は、非常識な・・・・膨らみに気付かなかったんだ」
「隊長は凄い! あの非常識な・・・・膨らみを、一目で見抜くなんて」
「さすが、隊長!」
「略して〝さすタイ〟!」

 隊長が俺を拘束こうそくするべく、歩み寄ってくる。
「見たところ、その非常識な膨らみは人工的なものだ。さぁ、め所まで来て、不自然きわまりない膨らみについて説明してもらおうか」

 マズいぞ! 俺は必死になって言い訳を考えた。

「ち、違うんです、隊長様。私のズボンは、非常識に膨らんでいる訳では無いのです」
「ほぉ。では何故、貴様のズボンは膨らんでいるんだ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「私のズボンは……常識的に・・・・膨らんでいるんです!」
「な、何だとぉぉぉ!」

 驚愕きょうがくする、隊長。

「これは自然な現象なのです!」
「馬鹿な!」
「生理的な反応なのです!」
「あり得ない! ここは無数の人間が行き交う城門だぞ。しかも、今は真っ昼間。いっぱいの通行人、多くの衛兵。そんな衆人環視の中、貴様のズボンは常識的・自然・生理的に膨らんだと言うのか!」
「その通りです!」
「何故だ! なぜこのような場所、このような時に、ズボンの股間部分が常識的・自然・生理的に膨らむのだ!? とても、信じられん。説明してみろ! いかなる理由だ!」
「お分かりにならないんですか?」

 絶叫する隊長へ、俺は熱い目線を向けた。イケメンがおびえたように後退あとずさる。

「な、何をだ?」
「貴方のせいです」
「貴様、いったい何を?」
「隊長様のそのお美しい姿を見たせいで、私のズボンは常識的・自然・生理的に膨らんでしまったんです」
「嘘を吐くな!」
「真実です」
「黙れ! たとえ常識だとしても、それは非常識な常識だ」
「いいえ。これは常識的な常識です。自然な自然さです。大きな自然の膨らみです。大自然だいしぜんなのです」

 俺と隊長の問答を聞いていた衛兵と通行人達は、俺の下半身に改めて注目した。

「そういう理由なら納得だ」
「実に常識的な膨らみだ」
「自然な膨らみだ」
「生理的な膨らみだ」

 ウンウンと一斉に頷く彼らとは対照的に、隊長はあくまで抵抗する。

「認めん! そのような非常識な膨らみ、私は断じて認めんぞ!」
「それなら隊長様。どうぞ、じかに触って常識を確かめてください。私の膨らみは、硬くて、カチカチですよ」

 俺が隊長の手を掴もうと近寄ると、彼は慌てて跳び退いた。

「硬いだと!」
「ハイ」
「カチカチだと!」
「ええ。価値あるカチカチです。勝ち組なのです」
「何に勝っているんだ……」
「黒くてツヤツヤしていますよ」
「黒い……ツヤツヤ……」

 隊長が呆然としながらつぶやく。
 俺は嘘は言っていないぞ! ブラックダイヤは、黒くてカチカチに硬くてツヤツヤしているからな。

 衛兵と通行人達が、ざわめく。
「話が盛り上がってきた」
「股間も盛り上がってきた」
「話題が膨らんできた」
「股間も膨らんできた」
「噂が広がり、大きくなるに違いない」
「股間は既に大きくなっているがな」

 隊長が、なおも俺に向かってわめく。

「貴様! たわ言を述べるのも、いい加減にしろ! 禁固きんこの刑にするぞ!」
「チ◯コの計ですか? そんな計略なら、喜んで受けます」
「チン◯では無い。キンコだキンコ」
「私のチ◯コは、とっくにコキンコキンです」

 俺の主張に対し、幾人もの衛兵が……。
「隊長はイケメンだからな。あの男の言い分も理解できる」
「実は俺も、隊長を見ていると、股間が常識的に膨らんでくる時があるんだ」
「なに! お前もか。正直に言うと、自分もだ」
「ワシも、ワシも」
「自然と、大きくなるんだよな~」
「股間が大自然だ」
「どうだ? 今晩、皆で隊長にお願いしてみないか?」
「うむ。それは素晴らしい提案だ」
「隊の士気高揚こうようも、トップの務め」

 衛兵達の会話が耳に届いたのだろう。隊長は顔色を青くし、全身を震わせつつ俺に通告してきた。

「分かった。通過を許す。頼む。もう行ってくれ」
ってくれとは……隊長様は、なんと大胆な」
「違う! そっちのイくでは無い!」
「私、イきそうです~」
「やめろー! イけ! もう、早くイってくれ!」
「ああ、イく! (城門から)出ちゃう!」
「いや、イくな! 出すな!」
「イきます! 出ます!」

 俺が身もだえしているうちに、衛兵達が隊長を取り囲んでしまう。

「まぁ、まぁ、隊長。彼はイかせてやりましょう」
「隊長のお相手は、我々がイタしますので」
「何も心配は要りません」
「股間の準備は万全です」
「大自然です」
「さすって差し上げますよ、隊長」
「略して〝さすタイ〟」

「お、お前たち。何を言って……」
 イケメン隊長が、マッチョ衛兵達のうずの中へ呑みこまれていく……実に、自然な展開だ。

 こうして俺は、突破困難な関門を無事に通過した。



 後日、王都の城門を守る衛兵達に関する噂を聞いた。何でも、これまではユルユルの規律だったのに、ある日突然、隊長を中心に鉄の結束力を誇る精鋭部隊へと変貌へんぼうげたそうだ。その理由は不明。

 俺の手元にあるブラックダイヤは、相変わらず黒くて硬くてツヤツヤしている。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

牧神堂
2021.01.16 牧神堂
ネタバレ含む
東郷しのぶ
2021.01.17 東郷しのぶ

 牧神堂様

 感想ありがとうございます!
 うわ~。笑っていただけて、とっても嬉しいのですよ。「笑いっぱなしでした」とのお言葉に感激です。
 もうひたすら「読者様に楽しんでもらいたい!」と思って書いた作品なので(かなりお下品ですけど、そこはご容赦を)。実のところ執筆中にフト「自分は何をしているんだろう……?」と深刻な疑問を抱いちゃったりもしましたが……ウソです。スミマセン。ノリノリでした(爆)。

 本作もカテゴリーに悩んでしまいました。BL要素は確かにあるんですが、「BL」にしたら、ソレ目当ての読者様に「なにコレ?」と言われそうで……無難(?)なところで「キャラ文芸」にいたしました。

 安彦良和www。もう、自分もそれでしかシーンを想像できなくなりました。
 いろいろ(意味深)あって黄昏れたイケメン隊長が「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちと言うものを」と呟いていて……背景は、夕日の中、マッチョ衛兵達が組み体操で人間ピラミッドを作っている……(白目)。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クリスマスに奇跡は、もう起こらない

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

白い皇女は暁にたたずむ

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:5

恐竜フレンズわくわくランド一の料理恐竜

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

信玄を継ぐ者

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

槻の樹の下

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

狂乱の桜(表紙イラスト・挿絵あり)

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

呪いの回転寿司(コメディー・クトゥルフ神話)

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

烏孫の王妃

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:8

黒猫ツバキと魔女コンデッサ(本編完結済み)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:26

放生会のタコすくい

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。