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これは非常識な常識では無く常識的な常識
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俺は、王国きっての大泥棒。今日は王都の貴族の館から、秘蔵のブラックダイヤモンドを盗み出すことに成功した。
戦利品をジックリ観察する。
何と言う大きさのダイヤだ。輝きも素晴らしい。黒くてツヤツヤしている。
さて、今頃は家宝の盗難に気付き、貴族の屋敷は大騒ぎとなっているに違いない。ほとぼりが冷めるまで、犯行現場から離れていることにしよう。
俺は王都から外へ出るために、出口となる城門へ向かった。
思ったより、人が多いな。列が出来ているぞ。
素直に行列に並ぶ……なかなか、前進しないな。
前に立っている商人に尋ねてみる。
「列が動かないんですけど、何かあったんですか?」
「先日、密輸品を王都から運び出そうとした者が捕まったんですよ。それで、城門でのチェック体制が厳しくなっているんです」
むむ、困ったぞ。手荷物検査で衛兵にブラックダイヤが見付かってしまったら、万事休すだ。
焦っているうちに、列は次第に進み、俺の順番が近づいてくる。ええい、ままよ! 俺はダイヤが入っている小袋を服の中に押し込んだ。
……衛兵が、随分とたくさん居るな。どいつもこいつもマッチョだ。
俺はさりげない風を装いながら、ゆっくりと歩いた。よし! もう少しで、城門から出られるぞ。
その瞬間。
「チョット待て、そこの男」
声を掛けられる。
ギクリとして振り向くと、イケメンの青年が厳しい眼差しで俺を見つめていた。立派な格好をしている。城門警備の責任者か?
取りあえず、怪しまれないように低姿勢で返事しよう。
「な、何でございましょうか?」
俺をジッと睨み続ける青年へ、衛兵の1人が語りかける。
「どうかしましたか? 隊長」
この若さで隊長とは……。イケメンは、おそらく貴族だな。
隊長は、衛兵達を叱責した。
「愚か者! お前らは気付かないのか。コイツの姿を、よく確認してみろ!」
何だと? 俺のどこに不審な点があると言うのだ。
隊長は視線を俺の下腹部へ向けながら、叫んだ。
「コイツのズボン……股間の部分が、非常識に膨らんでいるではないか!」
隊長の鋭い声が、城門一帯に響き渡る。衛兵はもちろん、列に並んでいた人々の目も、一斉に俺の下半身へと注がれた。俺も、自分のズボンを見る。
しまったぁぁぁ!
ダイヤを入れた小袋が服の下で移動、股間部分にまでずり落ち、俺のズボンは非常識に膨らんでいた。男の大事なところとブラックダイヤの存在位置が、ピタリと重なってしまっているのだ。
衛兵達が口々に言い立てる。
「確かに、非常識に膨らんでいますな」
「くそぅ! どうして俺達は、非常識な膨らみに気付かなかったんだ」
「隊長は凄い! あの非常識な膨らみを、一目で見抜くなんて」
「さすが、隊長!」
「略して〝さすタイ〟!」
隊長が俺を拘束するべく、歩み寄ってくる。
「見たところ、その非常識な膨らみは人工的なものだ。さぁ、詰め所まで来て、不自然きわまりない膨らみについて説明してもらおうか」
マズいぞ! 俺は必死になって言い訳を考えた。
「ち、違うんです、隊長様。私のズボンは、非常識に膨らんでいる訳では無いのです」
「ほぉ。では何故、貴様のズボンは膨らんでいるんだ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「私のズボンは……常識的に膨らんでいるんです!」
「な、何だとぉぉぉ!」
驚愕する、隊長。
「これは自然な現象なのです!」
「馬鹿な!」
「生理的な反応なのです!」
「あり得ない! ここは無数の人間が行き交う城門だぞ。しかも、今は真っ昼間。いっぱいの通行人、多くの衛兵。そんな衆人環視の中、貴様のズボンは常識的・自然・生理的に膨らんだと言うのか!」
「その通りです!」
「何故だ! なぜこのような場所、このような時に、ズボンの股間部分が常識的・自然・生理的に膨らむのだ!? とても、信じられん。説明してみろ! いかなる理由だ!」
「お分かりにならないんですか?」
絶叫する隊長へ、俺は熱い目線を向けた。イケメンが怯えたように後退る。
「な、何をだ?」
「貴方のせいです」
「貴様、いったい何を?」
「隊長様のそのお美しい姿を見たせいで、私のズボンは常識的・自然・生理的に膨らんでしまったんです」
「嘘を吐くな!」
「真実です」
「黙れ! たとえ常識だとしても、それは非常識な常識だ」
「いいえ。これは常識的な常識です。自然な自然さです。大きな自然の膨らみです。大自然なのです」
俺と隊長の問答を聞いていた衛兵と通行人達は、俺の下半身に改めて注目した。
「そういう理由なら納得だ」
「実に常識的な膨らみだ」
「自然な膨らみだ」
「生理的な膨らみだ」
ウンウンと一斉に頷く彼らとは対照的に、隊長はあくまで抵抗する。
「認めん! そのような非常識な膨らみ、私は断じて認めんぞ!」
「それなら隊長様。どうぞ、直に触って常識を確かめてください。私の膨らみは、硬くて、カチカチですよ」
俺が隊長の手を掴もうと近寄ると、彼は慌てて跳び退いた。
「硬いだと!」
「ハイ」
「カチカチだと!」
「ええ。価値あるカチカチです。勝ち組なのです」
「何に勝っているんだ……」
「黒くてツヤツヤしていますよ」
「黒い……ツヤツヤ……」
隊長が呆然としながら呟く。
俺は嘘は言っていないぞ! ブラックダイヤは、黒くてカチカチに硬くてツヤツヤしているからな。
衛兵と通行人達が、ざわめく。
「話が盛り上がってきた」
「股間も盛り上がってきた」
「話題が膨らんできた」
「股間も膨らんできた」
「噂が広がり、大きくなるに違いない」
「股間は既に大きくなっているがな」
隊長が、なおも俺に向かって喚く。
「貴様! たわ言を述べるのも、いい加減にしろ! 禁固の刑にするぞ!」
「チ◯コの計ですか? そんな計略なら、喜んで受けます」
「チン◯では無い。キンコだキンコ」
「私のチ◯コは、とっくにコキンコキンです」
俺の主張に対し、幾人もの衛兵が……。
「隊長はイケメンだからな。あの男の言い分も理解できる」
「実は俺も、隊長を見ていると、股間が常識的に膨らんでくる時があるんだ」
「なに! お前もか。正直に言うと、自分もだ」
「ワシも、ワシも」
「自然と、大きくなるんだよな~」
「股間が大自然だ」
「どうだ? 今晩、皆で隊長にお願いしてみないか?」
「うむ。それは素晴らしい提案だ」
「隊の士気高揚も、トップの務め」
衛兵達の会話が耳に届いたのだろう。隊長は顔色を青くし、全身を震わせつつ俺に通告してきた。
「分かった。通過を許す。頼む。もう行ってくれ」
「イってくれとは……隊長様は、なんと大胆な」
「違う! そっちのイくでは無い!」
「私、イきそうです~」
「やめろー! イけ! もう、早くイってくれ!」
「ああ、イく! (城門から)出ちゃう!」
「いや、イくな! 出すな!」
「イきます! 出ます!」
俺が身悶えしているうちに、衛兵達が隊長を取り囲んでしまう。
「まぁ、まぁ、隊長。彼はイかせてやりましょう」
「隊長のお相手は、我々がイタしますので」
「何も心配は要りません」
「股間の準備は万全です」
「大自然です」
「さすって差し上げますよ、隊長」
「略して〝さすタイ〟」
「お、お前たち。何を言って……」
イケメン隊長が、マッチョ衛兵達の渦の中へ呑みこまれていく……実に、自然な展開だ。
こうして俺は、突破困難な関門を無事に通過した。
♢
後日、王都の城門を守る衛兵達に関する噂を聞いた。何でも、これまではユルユルの規律だったのに、ある日突然、隊長を中心に鉄の結束力を誇る精鋭部隊へと変貌を遂げたそうだ。その理由は不明。
俺の手元にあるブラックダイヤは、相変わらず黒くて硬くてツヤツヤしている。
戦利品をジックリ観察する。
何と言う大きさのダイヤだ。輝きも素晴らしい。黒くてツヤツヤしている。
さて、今頃は家宝の盗難に気付き、貴族の屋敷は大騒ぎとなっているに違いない。ほとぼりが冷めるまで、犯行現場から離れていることにしよう。
俺は王都から外へ出るために、出口となる城門へ向かった。
思ったより、人が多いな。列が出来ているぞ。
素直に行列に並ぶ……なかなか、前進しないな。
前に立っている商人に尋ねてみる。
「列が動かないんですけど、何かあったんですか?」
「先日、密輸品を王都から運び出そうとした者が捕まったんですよ。それで、城門でのチェック体制が厳しくなっているんです」
むむ、困ったぞ。手荷物検査で衛兵にブラックダイヤが見付かってしまったら、万事休すだ。
焦っているうちに、列は次第に進み、俺の順番が近づいてくる。ええい、ままよ! 俺はダイヤが入っている小袋を服の中に押し込んだ。
……衛兵が、随分とたくさん居るな。どいつもこいつもマッチョだ。
俺はさりげない風を装いながら、ゆっくりと歩いた。よし! もう少しで、城門から出られるぞ。
その瞬間。
「チョット待て、そこの男」
声を掛けられる。
ギクリとして振り向くと、イケメンの青年が厳しい眼差しで俺を見つめていた。立派な格好をしている。城門警備の責任者か?
取りあえず、怪しまれないように低姿勢で返事しよう。
「な、何でございましょうか?」
俺をジッと睨み続ける青年へ、衛兵の1人が語りかける。
「どうかしましたか? 隊長」
この若さで隊長とは……。イケメンは、おそらく貴族だな。
隊長は、衛兵達を叱責した。
「愚か者! お前らは気付かないのか。コイツの姿を、よく確認してみろ!」
何だと? 俺のどこに不審な点があると言うのだ。
隊長は視線を俺の下腹部へ向けながら、叫んだ。
「コイツのズボン……股間の部分が、非常識に膨らんでいるではないか!」
隊長の鋭い声が、城門一帯に響き渡る。衛兵はもちろん、列に並んでいた人々の目も、一斉に俺の下半身へと注がれた。俺も、自分のズボンを見る。
しまったぁぁぁ!
ダイヤを入れた小袋が服の下で移動、股間部分にまでずり落ち、俺のズボンは非常識に膨らんでいた。男の大事なところとブラックダイヤの存在位置が、ピタリと重なってしまっているのだ。
衛兵達が口々に言い立てる。
「確かに、非常識に膨らんでいますな」
「くそぅ! どうして俺達は、非常識な膨らみに気付かなかったんだ」
「隊長は凄い! あの非常識な膨らみを、一目で見抜くなんて」
「さすが、隊長!」
「略して〝さすタイ〟!」
隊長が俺を拘束するべく、歩み寄ってくる。
「見たところ、その非常識な膨らみは人工的なものだ。さぁ、詰め所まで来て、不自然きわまりない膨らみについて説明してもらおうか」
マズいぞ! 俺は必死になって言い訳を考えた。
「ち、違うんです、隊長様。私のズボンは、非常識に膨らんでいる訳では無いのです」
「ほぉ。では何故、貴様のズボンは膨らんでいるんだ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「私のズボンは……常識的に膨らんでいるんです!」
「な、何だとぉぉぉ!」
驚愕する、隊長。
「これは自然な現象なのです!」
「馬鹿な!」
「生理的な反応なのです!」
「あり得ない! ここは無数の人間が行き交う城門だぞ。しかも、今は真っ昼間。いっぱいの通行人、多くの衛兵。そんな衆人環視の中、貴様のズボンは常識的・自然・生理的に膨らんだと言うのか!」
「その通りです!」
「何故だ! なぜこのような場所、このような時に、ズボンの股間部分が常識的・自然・生理的に膨らむのだ!? とても、信じられん。説明してみろ! いかなる理由だ!」
「お分かりにならないんですか?」
絶叫する隊長へ、俺は熱い目線を向けた。イケメンが怯えたように後退る。
「な、何をだ?」
「貴方のせいです」
「貴様、いったい何を?」
「隊長様のそのお美しい姿を見たせいで、私のズボンは常識的・自然・生理的に膨らんでしまったんです」
「嘘を吐くな!」
「真実です」
「黙れ! たとえ常識だとしても、それは非常識な常識だ」
「いいえ。これは常識的な常識です。自然な自然さです。大きな自然の膨らみです。大自然なのです」
俺と隊長の問答を聞いていた衛兵と通行人達は、俺の下半身に改めて注目した。
「そういう理由なら納得だ」
「実に常識的な膨らみだ」
「自然な膨らみだ」
「生理的な膨らみだ」
ウンウンと一斉に頷く彼らとは対照的に、隊長はあくまで抵抗する。
「認めん! そのような非常識な膨らみ、私は断じて認めんぞ!」
「それなら隊長様。どうぞ、直に触って常識を確かめてください。私の膨らみは、硬くて、カチカチですよ」
俺が隊長の手を掴もうと近寄ると、彼は慌てて跳び退いた。
「硬いだと!」
「ハイ」
「カチカチだと!」
「ええ。価値あるカチカチです。勝ち組なのです」
「何に勝っているんだ……」
「黒くてツヤツヤしていますよ」
「黒い……ツヤツヤ……」
隊長が呆然としながら呟く。
俺は嘘は言っていないぞ! ブラックダイヤは、黒くてカチカチに硬くてツヤツヤしているからな。
衛兵と通行人達が、ざわめく。
「話が盛り上がってきた」
「股間も盛り上がってきた」
「話題が膨らんできた」
「股間も膨らんできた」
「噂が広がり、大きくなるに違いない」
「股間は既に大きくなっているがな」
隊長が、なおも俺に向かって喚く。
「貴様! たわ言を述べるのも、いい加減にしろ! 禁固の刑にするぞ!」
「チ◯コの計ですか? そんな計略なら、喜んで受けます」
「チン◯では無い。キンコだキンコ」
「私のチ◯コは、とっくにコキンコキンです」
俺の主張に対し、幾人もの衛兵が……。
「隊長はイケメンだからな。あの男の言い分も理解できる」
「実は俺も、隊長を見ていると、股間が常識的に膨らんでくる時があるんだ」
「なに! お前もか。正直に言うと、自分もだ」
「ワシも、ワシも」
「自然と、大きくなるんだよな~」
「股間が大自然だ」
「どうだ? 今晩、皆で隊長にお願いしてみないか?」
「うむ。それは素晴らしい提案だ」
「隊の士気高揚も、トップの務め」
衛兵達の会話が耳に届いたのだろう。隊長は顔色を青くし、全身を震わせつつ俺に通告してきた。
「分かった。通過を許す。頼む。もう行ってくれ」
「イってくれとは……隊長様は、なんと大胆な」
「違う! そっちのイくでは無い!」
「私、イきそうです~」
「やめろー! イけ! もう、早くイってくれ!」
「ああ、イく! (城門から)出ちゃう!」
「いや、イくな! 出すな!」
「イきます! 出ます!」
俺が身悶えしているうちに、衛兵達が隊長を取り囲んでしまう。
「まぁ、まぁ、隊長。彼はイかせてやりましょう」
「隊長のお相手は、我々がイタしますので」
「何も心配は要りません」
「股間の準備は万全です」
「大自然です」
「さすって差し上げますよ、隊長」
「略して〝さすタイ〟」
「お、お前たち。何を言って……」
イケメン隊長が、マッチョ衛兵達の渦の中へ呑みこまれていく……実に、自然な展開だ。
こうして俺は、突破困難な関門を無事に通過した。
♢
後日、王都の城門を守る衛兵達に関する噂を聞いた。何でも、これまではユルユルの規律だったのに、ある日突然、隊長を中心に鉄の結束力を誇る精鋭部隊へと変貌を遂げたそうだ。その理由は不明。
俺の手元にあるブラックダイヤは、相変わらず黒くて硬くてツヤツヤしている。
応援ありがとうございます!
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牧神堂様
感想ありがとうございます!
うわ~。笑っていただけて、とっても嬉しいのですよ。「笑いっぱなしでした」とのお言葉に感激です。
もうひたすら「読者様に楽しんでもらいたい!」と思って書いた作品なので(かなりお下品ですけど、そこはご容赦を)。実のところ執筆中にフト「自分は何をしているんだろう……?」と深刻な疑問を抱いちゃったりもしましたが……ウソです。スミマセン。ノリノリでした(爆)。
本作もカテゴリーに悩んでしまいました。BL要素は確かにあるんですが、「BL」にしたら、ソレ目当ての読者様に「なにコレ?」と言われそうで……無難(?)なところで「キャラ文芸」にいたしました。
安彦良和www。もう、自分もそれでしかシーンを想像できなくなりました。
いろいろ(意味深)あって黄昏れたイケメン隊長が「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちと言うものを」と呟いていて……背景は、夕日の中、マッチョ衛兵達が組み体操で人間ピラミッドを作っている……(白目)。