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黒猫ツバキと勇者と魔王
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ボロノナーレ王国の端っこにある村に住む魔女コンデッサ。
彼女のもとへ1人の少年が訪ねてきたのは、ある良く晴れた日の午後であった。
「いらっしゃいませニャン」
「わ! 猫が喋った!」
「アタシはツバキ。ご主人様の使い魔だから、話せるのニャン。2足歩行も出来るのニャ!」
「な、なるほど。猫ちゃんはエラいんだね」
「そうニャ」
「偉いのはツバキでは無くて、この猫を使い魔にした私なんだが」
「申し訳ありません。貴方様が王国随一の魔女として名高いコンデッサ様ですか?」
「その通り」
「僕は、勇者です」
「夢見る少年さん。治療院は、あっちニャン。頭の病気を早く治してもらうのニャ」
「僕は、本物の勇者なんです!」
「分かったニャン。アタシ、知ってるニャ。〝勇気のある人間〟は、押し並べて〝勇者〟にゃんにゃよね? でも〝自称勇者〟は痛々しいので、止めたほうが良いのニャ」
「そうでは無くて……」
「待て、ツバキ。この少年は、身体に仄かだが〝聖なる気〟を纏っている。嘘では無さそうだ」
「数日前の就寝中、まどろみの中で聖界の神より啓示を受けたのです。『魔王が出現した。お前は勇者となって、魔王が企む〝世界征服の野望〟を食い止めるのだ』と。僕は一介の村人ですが、世界の危機を黙って見過ごすことなど出来ませんでした。翌日には、ひのき棒を手に取り、旅立ったのです」
「ひにょき棒……貧弱すぎる武器に、涙が止まらないにゃ」
猫に同情される勇者。
「まぁ、ひのき棒は勇者の初期装備における定番だからね。しかし、勇者の少年。何故、私のところに来たのだ?」
「勇者の旅に、パーティーメンバーは不可欠です。戦士・魔法使い・聖女・賢者・荷物持ち……」
「何で、メンバーに〝荷物持ち〟が入っているニョ?」
ツバキの疑問は、コンデッサにも勇者にもスルーされる。
「勇者パーティーの魔法使いとして、魔女コンデッサ様をスカウトしに来たのです」
「面倒くさい……」
「お願いします。勇者パーティーの魔法使いには、美人で若くて超絶有能なコンデッサ様以外の人物なんて考えられません」
「よし! 参加してやろう」
「ご主人様! 見え見えにょおだてに乗っちゃダメにゃ!」
「勇者パーティーにはマスコットキャラも募集してるんだけど、どこかに可愛くて気が利く2足歩行の喋れる猫ちゃんは居ないかな~? マスコットキャラになったアニマルは、人気大爆発のモテモテ状態になること請け合いなんだけどな~」
「アタシも、参加してやるニャン」
コンデッサとツバキは、『魔王の野望を封じ込めるまで共に旅をする』との契約を勇者と交わした。
「ありがとうございます。それではコンデッサ様とツバキちゃん、一緒に次のパーティーメンバーを探しにいきましょう」
「その必要は無い。勇者パーティーは、この面子で充分だ」
「え! どうしてですか!?」
「パーティーの人員が増えれば増えるほど、トラブルの種も多くなる。勇者が聖女に手を出して聖女の婚約者がぶち切れたり、勇者パーティーを追放された荷物持ちが怒りのあまりパワーアップして逆襲してきたり」
「僕は、そんなことしません」
「近頃の勇者ストーリーのテンプレは、大方そんなもんだ」
「アタシの想像してた〝勇者〟と違うニャン」
「最近は勇者と言っても、勇者(笑)とか勇者(泣)が、殆どだからな」
「勇者さん、可哀そうニャン。強く生きるニャ」
「ツバキちゃん! そんな憐れみの眼で僕を見ないで! 僕は〝王道の勇者〟を目指しているんです! と、とにかく、パーティーメンバーを探さないにしても、魔王の居場所は見付けなくちゃなりません! 長くて辛く苦しい旅路になると思いますけど、コンデッサ様とツバキちゃん、宜しくお願いします」
「いや、別に旅に出ずとも魔王の居所発見とか、容易だよ。《マップ魔法》!」
コンデッサが叫ぶと、家の天井に大きな地図が浮かび上がった。
驚愕する勇者。
「この地図は!? 大陸全土が描かれていますね」
「《マップ魔法》よ。魔王の現在位置を示せ!」
コンデッサが命じると、地図上で赤い印がピコーンピコーンと点滅する。
「アソコに、魔王が居るよ」
「こんなに簡単に分かっちゃうなんて……」
勇者は唖然としてしまったが、無理に自分を奮い立たせる。
「でも、アソコはココからかなり遠い。山を越えて谷を渡る艱難辛苦の冒険が僕を待っているに違いない!」
「じゃ、サッサと魔王のところへ行こう。《転移魔法》!」
コンデッサが《転移魔法》を唱えると、周囲の景色が一変した。
♢
勇者とコンデッサ、ツバキは森の中に居る。2人と1匹の目の前にはボロッちい一軒家がある。
コンデッサが家の扉をノックすると、中より1人の少女が出てきた。勇者と同じぐらいの年齢だ。
「あの~、どちら様でしょうか?」
「ああ、私たちは勇者パーティーの一行なんだよ。君が魔王だね」
「え! この子が魔王!?」と勇者。
「まさか、これほど早く勇者が現れるとは予想外の展開だわ。数日前に魔界の神から、『魔王となって、己が望みを果たせ』と申し付けられたばかりだと言うのに」と少女。
「こんな女の子が、本当に魔王なんですか?」
「少女の身体を〝魔の気〟が包んでいるからな」
「くそ! 魔王を倒すのは勇者の役目。これも、僕の宿命なのか!」
魔王である少女へ向かって、ひのき棒を構える勇者。
「貴方が、勇者なのですね。誰であろうと、私の野望の邪魔はさせません!」
「魔王さんの野望は何なのニャ?」
ツバキが、少女に尋ねる。
「もちろん、世界征服です」
「おのれ、魔王! 世界征服なんか、させないぞ。お前の野望は勇者たる僕が打ち砕いてやる!」
「まぁ、まぁ。落ち着け、勇者の少年。で、魔王を名乗る少女よ。征服した世界を、君はどうするつもりだ?」
「私の意のままにします。税率を下げ、福祉を充実させ、年金の支給年齢を引き下げる予定です」
「魔王さんに征服されたほうが良いようにゃ気がしてきたニャン」
コンデッサの瞳に、労りと理知の光が宿る。
「魔王、自分の心に嘘を吐いてはいけないな。〝世界征服〟は、君の真の望みではなかろう?」
「――っ! 私は……私は、孤児です。ズッと1人きりで生きてきました。なので、私は家族が欲しい」
「それと、世界征服に何の関係が?」と魔王へ問いかける勇者。
「世界を征服すれば、世界中の人みんなが私の家族になってくれる!」
「にゃ!」
「大家族すぎるだろ……。そんな大掛かりなことをしなくても、すぐに家族を得られる方法があるぞ。勇者と魔王、結婚しろ!」
コンデッサの提案にビックリする、勇者と魔王。
「勇者と魔王が出会うや否や恋に落ちるのも、勇者ストーリーのテンプレだ」
「しかし、聖界の神のお告げが……」
「そうです。私も魔界の神の指示が……」
「聖界の神は『魔王による世界征服を阻止しろ』、魔界の神は『自分の望みを叶えろ』と言ったんだよな? 勇者と魔王が結婚して家族になれば、どちらの命令にも従ったことになる」
勇者の少年と魔王の少女が、チラチラ視線を交わす。両者とも、満更では無さそうだ。
「……自分で勧めておいて何だが、妙にイラつく光景だな」
「ご主人様。彼氏日照りの僻みは、みっともないニャン」
コンデッサがツバキのシッポを掴んで逆さづりにしていると、話し合いを終えた勇者と魔王が報告してきた。
「僕たち、結婚することにしました」
「アドバイス、感謝します。お義母さん」
「誰が、お義母さんだ!」
♢
その後、元勇者と元魔王は、仲の良い若夫婦となった。
「……家族なんて、そんなに良いもんかねぇ?」
「アタシとご主人様は、家族にゃ」
「そう言えば、そうだな」
コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。
彼女のもとへ1人の少年が訪ねてきたのは、ある良く晴れた日の午後であった。
「いらっしゃいませニャン」
「わ! 猫が喋った!」
「アタシはツバキ。ご主人様の使い魔だから、話せるのニャン。2足歩行も出来るのニャ!」
「な、なるほど。猫ちゃんはエラいんだね」
「そうニャ」
「偉いのはツバキでは無くて、この猫を使い魔にした私なんだが」
「申し訳ありません。貴方様が王国随一の魔女として名高いコンデッサ様ですか?」
「その通り」
「僕は、勇者です」
「夢見る少年さん。治療院は、あっちニャン。頭の病気を早く治してもらうのニャ」
「僕は、本物の勇者なんです!」
「分かったニャン。アタシ、知ってるニャ。〝勇気のある人間〟は、押し並べて〝勇者〟にゃんにゃよね? でも〝自称勇者〟は痛々しいので、止めたほうが良いのニャ」
「そうでは無くて……」
「待て、ツバキ。この少年は、身体に仄かだが〝聖なる気〟を纏っている。嘘では無さそうだ」
「数日前の就寝中、まどろみの中で聖界の神より啓示を受けたのです。『魔王が出現した。お前は勇者となって、魔王が企む〝世界征服の野望〟を食い止めるのだ』と。僕は一介の村人ですが、世界の危機を黙って見過ごすことなど出来ませんでした。翌日には、ひのき棒を手に取り、旅立ったのです」
「ひにょき棒……貧弱すぎる武器に、涙が止まらないにゃ」
猫に同情される勇者。
「まぁ、ひのき棒は勇者の初期装備における定番だからね。しかし、勇者の少年。何故、私のところに来たのだ?」
「勇者の旅に、パーティーメンバーは不可欠です。戦士・魔法使い・聖女・賢者・荷物持ち……」
「何で、メンバーに〝荷物持ち〟が入っているニョ?」
ツバキの疑問は、コンデッサにも勇者にもスルーされる。
「勇者パーティーの魔法使いとして、魔女コンデッサ様をスカウトしに来たのです」
「面倒くさい……」
「お願いします。勇者パーティーの魔法使いには、美人で若くて超絶有能なコンデッサ様以外の人物なんて考えられません」
「よし! 参加してやろう」
「ご主人様! 見え見えにょおだてに乗っちゃダメにゃ!」
「勇者パーティーにはマスコットキャラも募集してるんだけど、どこかに可愛くて気が利く2足歩行の喋れる猫ちゃんは居ないかな~? マスコットキャラになったアニマルは、人気大爆発のモテモテ状態になること請け合いなんだけどな~」
「アタシも、参加してやるニャン」
コンデッサとツバキは、『魔王の野望を封じ込めるまで共に旅をする』との契約を勇者と交わした。
「ありがとうございます。それではコンデッサ様とツバキちゃん、一緒に次のパーティーメンバーを探しにいきましょう」
「その必要は無い。勇者パーティーは、この面子で充分だ」
「え! どうしてですか!?」
「パーティーの人員が増えれば増えるほど、トラブルの種も多くなる。勇者が聖女に手を出して聖女の婚約者がぶち切れたり、勇者パーティーを追放された荷物持ちが怒りのあまりパワーアップして逆襲してきたり」
「僕は、そんなことしません」
「近頃の勇者ストーリーのテンプレは、大方そんなもんだ」
「アタシの想像してた〝勇者〟と違うニャン」
「最近は勇者と言っても、勇者(笑)とか勇者(泣)が、殆どだからな」
「勇者さん、可哀そうニャン。強く生きるニャ」
「ツバキちゃん! そんな憐れみの眼で僕を見ないで! 僕は〝王道の勇者〟を目指しているんです! と、とにかく、パーティーメンバーを探さないにしても、魔王の居場所は見付けなくちゃなりません! 長くて辛く苦しい旅路になると思いますけど、コンデッサ様とツバキちゃん、宜しくお願いします」
「いや、別に旅に出ずとも魔王の居所発見とか、容易だよ。《マップ魔法》!」
コンデッサが叫ぶと、家の天井に大きな地図が浮かび上がった。
驚愕する勇者。
「この地図は!? 大陸全土が描かれていますね」
「《マップ魔法》よ。魔王の現在位置を示せ!」
コンデッサが命じると、地図上で赤い印がピコーンピコーンと点滅する。
「アソコに、魔王が居るよ」
「こんなに簡単に分かっちゃうなんて……」
勇者は唖然としてしまったが、無理に自分を奮い立たせる。
「でも、アソコはココからかなり遠い。山を越えて谷を渡る艱難辛苦の冒険が僕を待っているに違いない!」
「じゃ、サッサと魔王のところへ行こう。《転移魔法》!」
コンデッサが《転移魔法》を唱えると、周囲の景色が一変した。
♢
勇者とコンデッサ、ツバキは森の中に居る。2人と1匹の目の前にはボロッちい一軒家がある。
コンデッサが家の扉をノックすると、中より1人の少女が出てきた。勇者と同じぐらいの年齢だ。
「あの~、どちら様でしょうか?」
「ああ、私たちは勇者パーティーの一行なんだよ。君が魔王だね」
「え! この子が魔王!?」と勇者。
「まさか、これほど早く勇者が現れるとは予想外の展開だわ。数日前に魔界の神から、『魔王となって、己が望みを果たせ』と申し付けられたばかりだと言うのに」と少女。
「こんな女の子が、本当に魔王なんですか?」
「少女の身体を〝魔の気〟が包んでいるからな」
「くそ! 魔王を倒すのは勇者の役目。これも、僕の宿命なのか!」
魔王である少女へ向かって、ひのき棒を構える勇者。
「貴方が、勇者なのですね。誰であろうと、私の野望の邪魔はさせません!」
「魔王さんの野望は何なのニャ?」
ツバキが、少女に尋ねる。
「もちろん、世界征服です」
「おのれ、魔王! 世界征服なんか、させないぞ。お前の野望は勇者たる僕が打ち砕いてやる!」
「まぁ、まぁ。落ち着け、勇者の少年。で、魔王を名乗る少女よ。征服した世界を、君はどうするつもりだ?」
「私の意のままにします。税率を下げ、福祉を充実させ、年金の支給年齢を引き下げる予定です」
「魔王さんに征服されたほうが良いようにゃ気がしてきたニャン」
コンデッサの瞳に、労りと理知の光が宿る。
「魔王、自分の心に嘘を吐いてはいけないな。〝世界征服〟は、君の真の望みではなかろう?」
「――っ! 私は……私は、孤児です。ズッと1人きりで生きてきました。なので、私は家族が欲しい」
「それと、世界征服に何の関係が?」と魔王へ問いかける勇者。
「世界を征服すれば、世界中の人みんなが私の家族になってくれる!」
「にゃ!」
「大家族すぎるだろ……。そんな大掛かりなことをしなくても、すぐに家族を得られる方法があるぞ。勇者と魔王、結婚しろ!」
コンデッサの提案にビックリする、勇者と魔王。
「勇者と魔王が出会うや否や恋に落ちるのも、勇者ストーリーのテンプレだ」
「しかし、聖界の神のお告げが……」
「そうです。私も魔界の神の指示が……」
「聖界の神は『魔王による世界征服を阻止しろ』、魔界の神は『自分の望みを叶えろ』と言ったんだよな? 勇者と魔王が結婚して家族になれば、どちらの命令にも従ったことになる」
勇者の少年と魔王の少女が、チラチラ視線を交わす。両者とも、満更では無さそうだ。
「……自分で勧めておいて何だが、妙にイラつく光景だな」
「ご主人様。彼氏日照りの僻みは、みっともないニャン」
コンデッサがツバキのシッポを掴んで逆さづりにしていると、話し合いを終えた勇者と魔王が報告してきた。
「僕たち、結婚することにしました」
「アドバイス、感謝します。お義母さん」
「誰が、お義母さんだ!」
♢
その後、元勇者と元魔王は、仲の良い若夫婦となった。
「……家族なんて、そんなに良いもんかねぇ?」
「アタシとご主人様は、家族にゃ」
「そう言えば、そうだな」
コンデッサとツバキは、今日も仲良しである。
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