黒猫ツバキと魔女コンデッサ(本編完結済み)

東郷しのぶ

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黒猫ツバキのお使い(イラストあり)

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 黒猫ツバキは、魔女コンデッサの使い魔だ。ボロノナーレ王国の魔女たちは、必ず黒猫と契約して使い魔にする。

 ツバキはコンデッサと契約できた時、とても嬉しかった。
 コンデッサは燃えるような赤い髪に、魅惑的な紅い唇をあわせ持つ美女。20代の若さながら、ボロノナーレ王国指折りの実力を持つ魔女として有名なのだ。

「ボロノナーレ王国指折りの魔女? 馬鹿言っちゃイケないよ! 私は、王国の頂点に立つ魔女っなのさ」
「ご主人様の年齢で〝魔女っ娘〟呼びは無理があるニャ。なんか痛々しいニャン。自重すべきだと思うのニャ」

 せっかく忠告してあげたのに、ツバキはその日1日逆さづりの刑に処されてしまった。

 未熟者のツバキは使い魔としての役割を充分に果たせず、度々失敗してしまう。
 それでも、コンデッサとツバキは仲良し主従だった。



 ある日、ツバキはコンデッサからお使いを頼まれる。

「ツバキ。村の商店に行って、岩塩を買ってきな」
「岩塩なんて、何に使うのニャ?」
「イイから行ってくるんだよ」

 コンデッサのおうちは、小さな村の外れにある。
 ツバキは村の中央にある商店までテクテク歩いていった。(※注 使い魔になった猫は、2足歩行が出来るのだ!)

 買い物に行く途中で、ツバキは黒猫プリンと出会う。

 プリンは、魔女バンコーコの使い魔だ。
 使い魔仲間ではあるが、ツバキはプリンが苦手だった。意地悪なプリンは、ことあるごとにツバキをからかってくるからだ。

「ツバキはまだコンデッサ様の使い魔として契約してもらえてるんニャ。ドジばっかりするから、とっくに解雇されてると思ってたニャ」
「そんな訳ないニャ! アタシはご主人様に信頼されてるのニャ! 現に、今からご主人様に頼まれてお買い物に行くのニャ」
「フーン。何を買うのニャ?」
「岩塩にゃ」
「え!!」

 プリンはギョッとする。そして、プリンの目尻に涙が溜まる。

「プリンは、何を泣いてるのニャ?」
「ツバキが可哀そうで、涙が止まらないのニャ」
「にゃ、にゃんでアタシが可哀そうなのニャ」
「ツバキは知らないのかニャ? 魔女は役立たずと見なした使い魔を猫汁ねこじるにしてしまうのニャ。岩塩は、その時に使う調味料なのニャ」(嘘っぱちだけどニャ)
「ニャニャ!! う、嘘にゃ」
「本当なのニャ。魔女ジンキミナ様の使い魔だった老猫サクラ様と、ツバキは知り合いにゃよネ? 歳を取ったサクラ様はおやく御免ごめんになって、そのあと猫汁にされてしまったのニャ」
「そ、そう言えば、最近サクラ様の姿をお見かけしないのニャ」
「ツバキもサクラ様と同じ運命なのニャ。若い身空で哀れなのニャ」(まぁ、サクラ様は腰を痛めて遠方に湯治とうじに行ってるだけニャンだけど)

 プリンに散々脅されたツバキは「そんな馬鹿ニャ、そんな馬鹿ニャ」と呟きながらフラフラと歩き出した。

 村の商店で岩塩を購入したツバキは、帰り道にプリンが言ったことを思い出す。
(あんなの嘘ニャ。プリンはいっつもアタシをからかうのニャ。だいたい、ご主人様がアタシにそんな酷いことするはずないのニャ。アタシとご主人様の関係は、山よりも低く、谷よりも高いのニャ)

 それは、平地なんだが。

「ただいまなのニャ~」

 ツバキがお家に帰ってくると、コンデッサが笑顔で出迎えてくれた。

「おお、ちゃんと岩塩を買ってきたな。ご苦労だった、ツバキ」
「いや~、こんなの朝飯前なのニャ~」
「もう、お昼時だがな」
(お昼時? ま、まさかご主人様、『お昼ご飯は猫汁だ~』ニャんて言わないよね?)

 真っ平らな主従の関係に、早くも亀裂が入る。

「さて、私はイロイロと準備がある。ツバキは裏庭の井戸で体を洗ってこい」
「ニャ、ニャンで体を洗う必要があるのかニャ?」
「いいから、キレイさっぱり汚れを落としてこい」

 ツバキは裏庭に向かう。ちなみにツバキは猫なので、常時素っ裸である。
(ニャンで、アタシに体を洗わせるのかニャ? ハッ! まさか、アタシを猫汁にするための下準備ニャんじゃ……)

 ツバキは、ブルブルと首を横に振る。

(ニャにを馬鹿なことを考えてるんニャ。アタシとご主人様の間には、シッカリとした絆があるのニャ。絹ごし豆腐より硬い絆にゃ。木綿豆腐くらいの硬さはあるのニャ)

 もろすぎる絆だ。

 体を洗い終わったツバキが家に戻ると、家の中にはモウモウと湯気が立ち込めている。

「こ、これは何かニャ?」
「戻ったか、ツバキ。ヨシヨシ、体をキレイに洗ってきたようだな」

 コンデッサが、ツバキの首根っこを引っつかむ。

「ニャにをするのニャ~」
「こら、暴れるな。岩塩を溶かしたお湯がこぼれてしまうだろう?」

 大きな鍋の中に、お湯が満たされている。

「お湯~!!! アタシをどうする気なのニャ~!?」
「ああ。今から、お前にはお湯の中に入ってもらう。嬉しいよな?」

 コンデッサの紅い唇が、三日月の形になる。
 魔女の微笑だ。

「――っ! 止めるのニャ~! 岩塩で味付けしても、アタシは美味しくないのニャ~」
「何を訳の分からんことを喚いている。ほら、熱々のお湯だぞ~。岩塩が溶けて、ミネラルたっぷり」
「ぎにゃ~!! 鬼~! 悪魔~! 魔女~! いき遅れ~! 若作り~」
「そ~れ!」

 ざっぷ~ん! コンデッサは、ツバキをお湯の中に投げ込んだ。

「ニャ~!! 熱いニャ~! ホットだニャ~! ポカポカするニャ~。あれ? ニャンだか、気持ちが良いニャン」
「そうだろ。これは、岩塩風呂だ。岩塩が溶けたお湯は身体に良いんだぞ。疲れをいやしてくれるし、肩こりや腰痛にも効果的だ。お前も、せいぜい骨休めをしろ」
「ど、どうして、ご主人様は、こんニャことを?」
「お前は確かにドジ猫だが、いつも一生懸命、頑張ってくれているからな。そのご褒美だ」
「ご主人様!」

 ツバキは感激する。

「アタシ、嬉しいニャン。ご主人様を信じていて良かったニャ」

 ツバキは猫なので、物忘れが激しい。特に自分にとって都合の悪い過去は、〝無かったこと〟にしてしまう。
 いわゆる《幸せ回路》である。

「ふむ。何か先程〝鬼〟とか〝悪魔〟とか〝いき遅れ〟とか〝若作り〟とかいった単語が聞こえたような気がしたが」
「誰がそんにゃことを、ご主人様に言ったのニャ? 許せないニャン。アタシが、やっつけてやるニャ」
「…………」

 ツバキは、鍋にたたえられた《即席猫専用岩塩風呂》の中でノンビリする。

「ああ~。極楽だニャ~」
「そうかそうか。そんなにお前が喜んでくれると、私も嬉しいぞ」
「ご主人様は優しいニャン。アタシ、一生ついていくのニャ」
「さりげなく、終身雇用を要求してくるのか……」
「老後の面倒もみて欲しいのニャ」
「調子に乗るな」

 なんだかんだと仲の良い主従であった。



 翌日、ツバキはコンデッサが大切にしていた水晶をでっかい岩塩と勘違いしてお湯の中へ放り込み、しこたま怒られた。

――――――――――

※コンデッサのイラストは、Ruming様(素材提供:きまぐれアフター様)よりいただきました。ありがとうございます! 
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