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第一章

前世追憶は儀式中 4

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「申し訳ございません。ルーチェ様が倒れる前に、危険だと判断することができず」
「頭をお上げください、ソラーレ様。自分のことなのに危ないと思えなかった私の責任ですから」
「本当に申し訳ございませんでした。お身体のほうはもう大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで。もう熱のほうも完全に下がりました」
「そうですか。安心いたしました」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 無言の時間が続き、少し気まずい空気が流れる。しかし、なぜ私のことろにも来たのだろう。今日はお父様と話すだけだったはずなのに。
 もしかして!儀式はできないと直接伝えに来てくれたのだろうか。この沈黙の理由も、伝えるのをためらっているという風にも見える。やばい、どうしよう。なんと言えばいいのかと考えていると、相手が先に口を開いた。

「なんと言ったらよいのかわからず、単刀直入となるのですが。」
「はい」
「儀式をもう一度受けるのは不可能だと思います。神子の儀式は、一人一度までとなっておりますので」
「そう、ですか」

 やっぱり無理だったんだ。神様との約束どうしよう。もう一度会うことができたら、全力で土下座をして謝ってお姉ちゃんは無事ですむようにお願いするのだが、あの場所にどうやっていけるのか分からない。文字通り頭を抱えてしまった。その様子を見て、ソラーレ様は申し訳なさそうにしている。

「えっと、強制ではないのですが、神子になりたい理由を教えていただくことは可能ですか?」

 理由を伝えたら、もう一度儀式ができるだろうか。それなら伝えたいが、信じてもらえるかわからない。バカにしてると感じられるかもしれない。疑われるくらいなら、伝えないほうがいいかもしれない。

「それはちょっと、ごめんなさい」
「いえ、謝らないでください。・・・儀式は無理ですが、神子になることでしたら、可能かもしれません」
「え、ほんまですか!?あっ、本当ですか?」

 いけない。驚きすぎて、前世の方言が出てしまった。ソラーレ様だって不思議そうな顔をしているし、気を付けなければ。いや、それよりも儀式はできないのに神子にはなれるとはどういうことなのか。

「あまり伝えるべきではないのですが、儀式をせずに神子になった人も存在していますので。今回は特に多く、四名のうち三名は儀式をせずに神子となっています」
「そんなに」

 これはすごい。一気に希望の光が見えてしまった。あれ、でも伝えるべきではないのに、どうして教えてくれたんだろう。

「私の勘です。後、これまでの経験からでしょうか。実は、もう一度儀式を受けたいという申し出はよくいただくのです。本人からだけでなく、その方の両親からなども。そして、その多くは”神子になること”ではなく”特別な立場になること”を求めています。ですが、あなたからはそれを感じなかった。だから、大丈夫だろうと」

 確かに、お姉ちゃんのことがなかったら神子になろうとは思わなかっただろう。そんなことも分かるなんて、彼は人のことをよく見ているんだなと思った。

「それから、正直私たちにとっても嬉しい申し出なのです。今回は順調に神子が見つかっていましたが、最後の一人が二年ほどの間現れていません。そして、ルーチェ様は前回神具を出現させることには成功している。もしも、6年後まで神子が現れなければ、あなたにもう一度儀式を受けていただいていたと思います。現在は確実ではないので儀式を行うことはできないのですが」
「なるほど。確かに、一人許可してしまったら、ほかの人たちにも許可していかなければいけませんもんね」
「はい。ですが、儀式とは別の方法をとれば大丈夫だと思うのです」

 これまで落ち着いた微笑を浮かべていた彼の顔が、一瞬いたずらっ子のように見えた。そういえば、彼はまだ15歳だった気がする。私の前世の享年と一緒だ。すごく大人びて見えるが、まだ子供なんだなと思った。

「しかし、ルーチェ様は一度危険な状態になっています。本当に希望しますか?」
「お願いします」
「分かりました。それでは、本日許可をもらえるか聞いてきます。それから、後日神殿のほうに来ていただくこととなると思いますので、明後日以降でご都合の良い日をいくつか教えてください」

 後ろに控えていたメイドのルミさんに調べてもらい、何日か候補日を伝えた。ソラーレ様はその日を手帳に書き込み、頷いてからこちらを見た。

「それでは、明日にでもお手紙を出しますね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 儀式は無理だと聞いた瞬間は絶望したが、なんとかなって本当に良かった。

「そういえば、先日お会いした時と雰囲気が少し変わったような気がしたのですが、何かありましたか?」
「えっ。いや、なんにもなかったですけんど」
「ですけんど?」
「あ、いえ。何もなかったですけど、どうしてそう思ったのですか?」
「これこそ、ただの勘ですね。突然すみません」

 本当に彼は、人をよく見ているらしい。それとも、私が分かりやすかったのか。どちらにしても、ほかの人には悟られないようにしなければ。それから、方言が出るのもどうにかしていこう。そう強く思った。

 翌日、大神殿から一通の手紙が届いた。そこには丁寧な文字で、明後日来てほしいということが書かれていた。両親へ伝え、すぐに承諾の手紙を届けてもらう。その日は屋敷の中を探検しようと考えていたが、ちゃんと神子になれるのかという緊張のせいで、それどころではなくなっていしまった。

 そして、あっという間にその日となった。
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