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420 たった、それだけのことだったんだ。
しおりを挟む嫁の家の前に来ると、嫁たちが家の外に出ていた。
嫁は優を見つけると、涙目になっている。
「優・・無事に帰って来たのね。 良かった」
優は照れくさそうに、ただいまと言っていた。
嫁に思いっきり抱きしめられていた。
颯が俺の前に来る。
「テツ、おかえり」
そう言うと、俺にピトッとくっついて静かに泣いていた。
「颯、ただいま。 ありがとう」
俺もしゃがんで颯をギュッと抱きしめる。
横を見ると凛がニコニコしながら待っている。
なるほど、次は凛の順番なんだな。
・・・
颯がなかなか離れない。
凛の顔がだんだん真剣な顔になってきて、俺に飛びついてきた。
「パパ、おかえり~!」
「あぁ、ただいま、凛」
俺はそう言って凛の頭を撫でた。
しばらくすると、フワフワと飛んでくる魔物がいる。
ん?
なんだこの魔物?
颯の頭にチョコンと乗っかると、言葉をしゃべった。
!!
「神様、お帰りなさいませ」
俺は驚いた。
魔物がしゃべっている。
は?
神様?
何言ってるんだこいつ。
俺はそう思って魔物を見る。
颯が魔物を自分の手の平に乗っけて言う。
「テツ、これバーンなんだよ。 ドラゴンに進化したんだ」
!!
「ド、ドラゴン? ワイバーンって進化するのか?」
俺には衝撃だった。
まさかこんな形でドラゴンに遭遇するとは思ってもみなかった。
それよりも、変なことを言ってたな。
神様とかなんとか・・。
「颯、さっきバーンがしゃべったけど、なんか変なこと言ってなかったか?」
俺は聞いてみた。
「さぁ? バーンに聞いてみるね」
颯がそう言うとバーンと会話していた。
「バーン、テツがどうかした?」
「はい、マスター。 あの方は龍族の神様の雰囲気を感じます」
バーンと会話していた颯がこちらを向いて言う。
「だって・・」
なるほど・・わからないでもない。
イリアスやゼロに接触したからな。
さて、颯にはどう説明したらいいだろうか。
う~ん・・正直に言おう。
「颯、たぶん俺がゼロっていうクイーンバハムートなんかと会ったからじゃないかな?」
俺がそう言うと、バーンが震えていた。
「ク、クイーンバハムート様ですか?」
颯も何やら震えている。
「テツ、バーンがとても驚いているよ」
「う~ん・・ま、神様みたいな人だからな。 それで俺にその匂いみたいなのがついてたのかな?」
俺はとりあえずそう言ってみた。
たぶん、俺のスキルにバーンは反応しているのだろうが、説明しづらい。
颯も完全には納得してないようだが、とりあえずその場はしのげたようだ。
凛はいつの間にか嫁のところへ行っていた。
嫁のお義母さんと笑いながら話をしている。
さて、俺も嫁に挨拶だけはしておかないと。
そう思って近寄って行く。
・・・
なんで俺が緊張しなきゃいけないんだ。
邪神王の時でもこんなに緊張しなかったぞ。
俺がそう思っていると、嫁が先に言葉をかけてきた。
「パパさん、お帰りなさい。 お疲れ様って言った方がいいのかな?」
嫁が言う。
!!
俺には衝撃だ。
あの嫁が、お帰りなさいだと!
それにお疲れ様って言わなかったか?
ありえねぇ・・。
もしかして、こいつアサシンじゃないのか?
そういえば、イリュージョンなんて変なスキル持ってたよな。
俺の頭の中では、最大級で情報が駆け巡っていた。
俺はすぐに言葉が出てこなかった。
「あ、あぁ・・戻りました。 留守中、ありがとう」
俺はとりあえずそう言った。
後は言葉が続かなかった。
俺はそれだけの挨拶をして、自分の家の帰ろうとした。
嫁が何か飲んでいく? なんて言葉をかけてくれたが、疲れているから休むよと言って俺は自分の家に帰った。
優たちは嫁のところで寄り道するみたいだ。
俺は自分の家までの少しの間、驚きっぱなしだった。
どうしたんだあの嫁。
この半年くらいの間に何かあったのか?
わからない。
俺は家に到着し、リビングへ行く。
久々にコーヒーを飲む。
おいしい。
時間はまだ9時頃だが、俺はベッドに横になりに行った。
横になり考えてみる。
そしてわかったことがあった。
俺が嫁に対して腹立たしかったこと。
何もしない嫁と思っていた。
確かに何もしない。
でも、家族の中に自分の存在をパーツとしてはめ込むから腹が立つんだ。
例えば、嫁を得るまでは自分を強調していいと思う。
でも、女の人は子供ができれば、そちらに全力投球だろう。
そこに自分を子供と一緒のような存在感として扱えというのは無理だろう。
簡単にみると、ゲームの運営側とプレイヤーの感じだと思う。
夫婦になりそれぞれのプレイヤーが一緒になるわけだ。
家族になりそれを運営していくと、運営側になる。
いつまでもプレイヤー側でいるわけにはいかない。
それが俺にはわからなかったようだ。
子供が出来て一緒に遊ぶのはいい。
子供はプレイヤーだ。
だが、親はプレイヤー目線は持っていても、運営側としての目線も常に持っていなきゃいけない。
それが俺には欠けていたんじゃないか?
だから、嫁という運営側のサービスが少ないと思い込んでいたのではないか。
そもそもサービスを提供するのが俺の役目なのに、それを受けるのが当たり前だと思っていた。
なんかそんな気がする。
また、そういう目線で物事を見ると、ほとんどの家族の中で起きている問題なんて、何とかなるんじゃないのか?
とはいえ、あの嫁と一緒に歩んで行けるのかと言われれば、わからない。
そして、自分でできることは、死ぬまで自分でしなきゃいけない。
結局は、自分のことは自分でする。
それだけのことだったんだ。
俺は天井を見ながらそう思えるようになった。
「・・ほんと、たったそれだけのことだったんだな・・」
俺はつぶやく。
そして自嘲した。
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