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390 元連合国の街で
しおりを挟む<元連合国本部>
街を2人のおやじが歩いている。
「ジェームズ殿、ここの生活はどうですかな?」
シュナイダーが聞く。
「フフフ・・正直に言えば、以前よりも快適ですな。 大統領なども毎日散歩されて健康そのものですよ」
ジェームズが答えていると、女の人の呼ぶ声が聞こえて来た。
「おじさま~」
エスペラント国のソフィアだ。
シュナイダーが振り返り、にっこりと微笑む。
「ソフィア、どうしたのかね?」
「はい、やはりハロルド、マティアス、マルガリータ、エリザベスたちはアニム王国へ亡命したようですわ」
ソフィアが報告をしていた。
「そうか・・」
シュナイダーは表情を変えずにうなずいている。
元エスペラント国の富豪たちで、ここに残ったのはシュナイダー、ソフィア、アナスタシア、ロレンス、ペトロフ、ゼーマンだった。
シュナイダーとソフィア以外は戦死した。
北米でも大統領とジェームズ、後は政府高官が少し残った程度だ。 トーマスは戦死。
街も意識して分けているわけではないが、それぞれが住みやすいところへと自由に行き来していた。
◇◇
元連合国の住民を集めて作った3つの街。
その街に均等に分かれて、邪神教団が堂々と存在していた。
表向きはただの住人になっている。
反アニム連合という旗印だったが、今は敗戦集団の一員として街づくりに協力していた。
呼び名などはどうでもいい。
目的は邪神王の復活。 それだけだ。
街に目立たない感じで建っている建物の中。
窓の外を眺めている年配の男がいる。
「猊下、アサシンが来ております」
年配の男の背後で片膝をつき、報告をしている男がいた。
「そうですか、呼んでください」
猊下と呼ばれた男は言う。
報告をした男が下がると、音もなくアサシンが部屋に入って来ていた。
「アサシン、腕は治ったのですね」
猊下は窓の外を見ながら言う。
「はい、おかげさまで回復いたしました。 ありがとうございます」
アサシンは片膝をついたまま答える。
「そうですか・・アサシン、仕事ができました」
猊下は静かにそう発言すると、ゆっくりとアサシンの方を振り向く。
アサシンは小さい時から邪神教団に飼われている。
丁寧に扱われて、猊下に対しては絶対的な忠誠心を植え付けられていた。
意識下に、魂に焼き付けられた忠誠心。
だが、この猊下を直視すると、アサシンといえども何か冷や汗が流れるような感じがする。
軽く頭を振ると、返事をした。
「はい、どのような仕事でしょうか」
猊下はゆっくりとうなずきながら言う。
「ハイエルフが新しく誕生したと聞きました。 これを無傷で捕らえて来ていただきたいのです」
「ハイエルフですか・・それはまた珍しい」
アサシンが余計な言葉をつぶやいてしまった。
猊下が黙ってアサシンを見る。
アサシンの背中に冷たいものが流れる。
「・・失礼しました」
アサシンは急いで言葉を出す。
猊下はまた振り返り、窓の外を向きつぶやく。
「邪神王の依り代にふさわしいかと思いましてね・・」
アサシンは静かに下を向く。
「お任せを」
アサシンは答えると音も出さずに部屋から出て行った。
う~む・・アサシン。 少し知恵が出来てきたようですね。
どうしたものか・・。
猊下は窓の外を見ながら考えていた。
教団の手足どもがこの星の負のエネルギーの調査をしている。
この前の戦いは最高だった。
あれほどの良質のエネルギーはなかなか得られるものではない。
それに、この星の過去からの叫び声も聞こえる。
保険もかけてある。 この街の住人たちが役立つだろう。
だが、まだ時間が必要だ。
術式と条件が整い、最後のタガが外れれば誰にも止められない。
邪神様の復活だ。
おそらく過去に例をみない規模で現れ、新しい世界が作られるだろう。
すべてが無になりそこから始まる世界が・・。
それに単なる復活ではない。
ハイエルフなどという最高の素材が現れた。
まさか、こんなに理想的な条件が整うとは思ってもみなかった。
邪神王が単に復活してしまえば、暴風が吹き荒れるに任せるしかない。
だが、依り代としてこちらの制御できるものがあれば、少しはこちらの意思を植え付けらえるかもしれない。
初めはアサシンたちを考えていたが、ハイエルフという稀に見る存在がいる。
最高だ。
猊下は窓から遠くを見つめ、左手を胸のポケットに入れて指輪を取り出す。
指輪を指にはめ、それを見つめている。
ユラユラと赤いイリュージョンのようなものが浮かびあがってくる。
小さな女の子のようだ。
女の子が微笑みながらお辞儀をしていた。
『おじいさま、お誕生日おめでとうございます。 これからもお身体を大事になされますように。 ウフフ、アリスは元気ですよ』
映像はそこで終わっている。
指輪はかなり古いもののようだが、いつの時代のものかわからない。
猊下は無表情でそれを見つめ、また窓の外を眺めていた。
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