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309 ドワーフ、ガルムのおやじ
しおりを挟むそんなことをしていると、子供たちが起きてきた。
「おはよう・・あれ、パパ! おはよう!」
凛が元気よく挨拶してくれた。
「おはよう、凛」
「どうしたのパパ。 ここで朝ご飯食べるの?」
・・・
凛が無邪気に聞いてくる。
「・・いや、ちょっとご挨拶に来ただけ・・・」
俺が苦し紛れに答える。
「ふ~ん・・・」
「凛、朝ご飯食べて、学校へ行く準備しなきゃ」
嫁がそういうと、凛は席についた。
「パパさん、今忙しいから、また今度聞くわ!」
嫁がそういうと、皿を並べていた。
そりゃ、忙しいよな。 完全に邪魔をしたようだ。
颯はまだ起きてこない。
俺は、よろしくお願いしますというと、嫁の家を後にした。
いったい、本当に何しに行ったんだろう。
愚痴を言うにしても今じゃなくてもいいだろうに。
タイミングが悪すぎるな。
ゆっくりと歩きながら、フレイアのところを目指す。
しかし、妙なものだ。 あれほど嫁にムカついていたのに、おかしいな・・・。
俺自身の変化は、お金ができて、自分のレベルが上がる。
それだけだ。
・・・・・
俺の心に余裕ができたのか?
よくわからない。
ただ、そういった感情はどこかに消えた・・・とまではいかないが、小さくなったのは事実だ。
変なものだな。
フレイアのカフェ? の前に来た。
ドアをノックしてみる。
奥の方から声がした。
しばらくすると、ドアが開かれて、金髪のきれいな髪がフサァと揺れる。
!!
俺は一瞬目を見張った。
「おはよう、テツ。 どうしたの?」
フレイアが聞いてくる。
「あ、あぁ、おはようフレイア。 いや、ちょっと立ち寄ってみただけ・・・」
俺がそういうと、まぁ中に入ってと言われて、そのまま入っていく。
中に入ると、リビングがカフェ風になっていた。
テーブルが2つ置いてあり、後はカウンターになっている。
どことなく森のイメージが浮かぶ空間だ。
いろんな薬草なんだろう、壁際の棚にいっぱい並んでいた。
鉢植えになって、育てているものもある。
「フレイア、すっかりイメージが変わったな、ここ・・・」
俺がそうつぶやくと、
「そう思う? これでも、まだまだと思っているのだけれど・・・」
フレイアはそういいつつ、俺に卵焼きを出してくれた。
「テツ、卵焼き好きだったでしょ。 どうぞ」
・・・やっぱ、料理スキルを上げようね、フレイア。
そう思いつつも、いただいた。
味はいいんだよ。 ただ、見た目だな。
「おいしいよ。 ありがとう」
俺はそういうと、フレイアにこれからどうするのか聞いてみた。
「私は学校へ通ってみるけど、テツはどうするの? もし外の世界に行くのなら一緒に行きたいのだけれど・・・」
フレイアが言いにくそうに話している。
「いや、いいんだ、フレイア。 俺も迷っているんだ。 少し考えてみるよ」
俺はそういうとフレイアに卵焼きのお礼を言い、席を立つ。
入り口まで見送ってくれる。
「テツ・・・」
フレイアが握手を求めてくる。
俺は微笑みながら握手を返す。
すると、グイッと軽く引き寄せられた。
俺の頭を軽く両手で抱え込み、俺の頬にキスをしてくれた。
「テツ、あまり無理をしないでね」
ゆっくりと俺から離れる。
・・・・
俺はその瞬間に、フレイアの胸を見てしまった。
確かに、俺の身体にボリュームを感じさせていた。
胸を見て、フレイアを見る。
もう一度胸を見て、フレイアを見ようとしたら、ボディを殴られた。
ボコッ!
「・・ったく。 せっかくの雰囲気が台無しよ!!」
フレイアは両腕を組み、俺を睨む。
「ごめん、フレイア・・つい・・・」
これは男の性なのかもしれない。
それに今の俺には、どんな女の人に対しても、その好意に応えることができそうにない。
昔からそうだった。
特定の彼女というのがいなかったが、だからといって遊び人というわけでもない。
人を好きになるってよくわからない。
そういえば、彼氏がいる女の子がいて、彼氏が浮気したから私もするとか言って俺と1年近く遊んだ奴もいたな。
結局、その男のところへ戻ったが。
何となく、こちらの方を振り向かせようとして無理だったので、疑似失恋みたいなのを感じたこともあった。
人のものが欲しいわけじゃない。
う~ん・・なんだろうな。
嫁さんにしてもそうだ。
なんとなくタイミングで結婚したような気がする。
人が大切・大事というのはわかる。 命を懸けて子供たちを守ることもできるだろう。
ただ、好きっていう感覚がどうもしっくりこない。
俺は頭の隅でそんなことを考えながら、フレイアのところを後にする。
また、今度きちんと考えよう。
長いことフレイアが見送ってくれていた。
特にあてもないが、これからのことを考えながらギルドへ向かっている。
・・・・
やっぱり学校に通って、基礎を学ぶのもいいかもしれない。
基本なんて全然学んでないしな。
それからダンジョンもアリだよな。
う~ん・・・。
ギルドへ向かう途中で、ドワーフ、ガルムのおやじの店が目に入った。
少し覗いてみよう。
時間は7時30分前だ。
ドワーフの店の前、少し目線を上にしてみると、書いてある。
レベル25未満お断り。
初めは見えてなかったからな。
そんなことを考えつつ、扉を開く。
「いらっしゃい」
おやじの声が聞こえて、すぐに明るい声に変わった。
「おはようございます。 テツさんじゃありませんか。 これは都合がいい」
ガルムのおやじはカウンターから立ち上がって、俺の方へ歩いて来る。
「すみません、都合がいいって言葉が悪いですが、テツさんにお願いしたいことがあるんです」
ガルムのおやじは続ける。
「実は、魔石が欲しいのですよ。 ギルドにも依頼を出しているんですが、さっぱりでして・・・。 レベル35くらいの魔石が欲しいのです」
ガルムのおやじは真剣な顔で俺を見ている。
「おやじさん、どうしたんだ?」
俺も聞いてみた。
「詳しくは言えませんが、個人的な依頼でどうしても高レベルの魔石がいくつか必要なのです。 ですが、ギルドではせいぜいレベル20前後くらいの魔石しか集まってないのです。 どうしようかと迷っていたところに、ちょうどテツさんが来てくださって・・・まさかワシの思いが伝わったのですかね?」
ガルムのおやじが、ガハハ・・と笑っていた。
おやじ、笑い事じゃないぞ。 変な想像してしまったじゃないか。
気持ち悪いぞ。
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