292 / 426
292 北米にて・・・
しおりを挟む北米が魔物襲撃を受けてしばらくした時のこと。
どこかのリゾート地の高級ホテルのような一室。
その中でゆっくりとくつろげるが、身体に対しては大きすぎる椅子に座り、足を組み肘掛けに右肘を置き、顎に触れながら座っている男、いや男の子? がいる。
黒く輝く髪がゆっくりと揺れている。
自分の前に来た女の人を、その緑の瞳で見つめていた。
・・・テツが見たら驚いただろう。 ルナにも劣らない美人。
蒼く長い髪、緑の瞳。 身体はやや細みだが、出るところは出ていて、抜群のプロポーションを持っているようだ。
黒髪の少年と蒼く長い髪の女性。
それと正対した位置に男2人と金髪の女性1人がいる。
「魔王様、我々の居住区域の基本はほぼ完成したところです」
とても愛おしそうな眼差しで見つめ、魔王と呼ばれる男の子に報告をしていた。
「そうですか。 ネイト、ご苦労様でした。 後は周辺の状況ですが、どんな具合なのでしょう?」
黒く輝く髪をなびかせて顔を前に向ける。
金色の髪の女の人の横、がっしりとした男が答える。
「はい、外は魔物が溢れております。 それに不思議なのですが、魔素を含まない建造物や機械類が多くありました」
魔王はその報告を受けると、ピクッと目を動かしたが落ち着いて答える。
「魔素を含まない・・・なるほど・・」
つぶやくように魔王は答えていた。
続けて言う。
「ウラガン、光の民は確認できましたか?」
「・・いえ、目を放って確認しておりますが、未だに判明しておりません」
「そうですか・・・」
魔王はゆっくりとうなずく。
「それにしても、この魔素の乱れ用はひどいものですね・・・」
魔王は、金色の髪の女の人を見ながら言う。
「はい、とても気持ち悪い感じです」
女の人は目を閉じてうなずきながら答えていた。
「シーバルバ、我々のところにもダンジョンが必要でしょう。 頼めますか?」
「ハッ、お任せを」
シーバルバと呼ばれた、がっしりとした男はクルッと踵を返し、魔王の前から立ち去っていく。
シーバルバと交代で入ってきた男がいた。
ゆっくりと魔王の前まで歩いて来ると、一礼をして報告を始める。
「魔王様、この世界の大まかな地図が完成しました」
男はそういうと、魔王の前に球体に光るホログラムのようなものを出した。
魔王も立ち上がり、その球体の近くへと歩いて行く。
「・・これが我々が転移した星・・・」
魔王はそうつぶやきつつ、その球体を見ていた。
かなり精密に地球が模されている。
「魔王様、今我々魔族がいる場所がこちらになります」
男はそういうと、北米の中央辺りが赤く光った。
魔王がうなずくと、次々と地形が表示されていく。
「・・大まかな分布ですが、ここが精霊族と判明しております。他はまだわかりません」
魔王は球体を見ながら口を開く。
「イツァム、この星は水が多いようですが、海神の種族はいないのだろうか?」
魔王は優しく問う。
「申し訳ありません、魔王様。 まだそこまでは把握しておりません」
「そうですか・・・」
魔王はしばらく球体を見ていたが、自分の席に帰っていく。
魔王達が会話していると、入り口のドアがバタン! と、力強く音を立て、ズカズカと迫って来る長身の男がいた。
魔王の前までやってくると、目を閉じ一呼吸おいて話し始める。
「アレス様、俺はここを出て外で暮らしますよ。 今までお世話になりました」
そういうと、魔王に背中を向けて立ち去ろうとする。
「ゲブ! 貴様よくもそんなことを・・・」
金色に光る髪とともに、声を大きくしている女の人がいる。
「ゼグメドの姉さんよ、俺はアレス王に忠誠は誓っているが、子供のアレス様とは何の関係もねぇ」
「き、貴様!! アレス様は、皆を転移させるためにご自身の魔力を費やされて・・・」
ゼグメドと呼ばれる金髪の女の人が反論していると、アレス王が言葉を遮る。
「よい、ゼグメドよ。 今までご苦労様でした、ゲブ。 外の空気が合わなかったら、いつでも帰ってきてくださいね」
ゲブは魔王の言葉を背中で聞き、かすかに震えていた。
そして、振り返ることなく魔王の前から去っていく。
「ゲブのやつ、これから異世界で大変だというのに・・・」
ゼグメドはゲブのいたところを睨んでいた。
「ゼグメド。 ゲブにはゲブの考えがあるのです。 それでよいではありませんか。 それに事実、私の記憶にあいまいな部分があります。 わかってはいるのですが、どうも子供のような思考になっている感じがします」
「・・しかしですね・・いえ、わかりました」
ゼグメドはそれ以上は言わなかった。
「さて、とりあえずは我々の居住区域の安全確保をお願いします」
「「「ハッ」」」
魔王の言葉に皆が答え、それぞれの仕事にとりかかった。
◇◇
ニューヨークが襲撃を受け、しばらく時間が経過していた。
街はもはや壊滅と呼べるだろう。
逃げ惑う人々もほとんどいない。
上空をガーゴイル、その上をワイバーンが飛び交っていた。
地上はオークやオーガ、バジリスクなどが歩いている。
遠くにはサイクロプスかトロウルだろうか、大きな影が動いていた。
治安出動した警察や軍がいたが、兵器は役に立たなかった。
そのうち、戦車や戦闘機などは動かなくなる。
ビルの瓦礫の陰でひっそりと隠れている男がいる。
・・・震えている。
時間は5時頃だろう。
アニム王国の住人が転移してきたくらいの頃だろうか。
『・・なんなんだ、いったい? 映画の撮影でも、テロでもない。 見たこともない化物が街を徘徊、破壊している。 地獄の蓋でも開いたのか?
もしかして、これが最後の審判というやつなのか?』
男はそんなことを考えながら動かないでジッとしている。
小さな振動を感じた。
その振動がだんだんと大きくなってくる。
男はゆっくりと辺りを見渡した。
何もいない・・・。
瓦礫の隙間から見てみると・・・見えた。
!!
大きさは5メートルくらいあるだろうか。
オーガが歩いて来ていた。
男は震えながらも、小さく丸くなり、息を殺して動かずにいた。
振動が大きくなってきたが、突然振動が消えた。
・・・・・
なんだ?
男は違和感を感じたが、怖くて目が開けられない。
・・・・
ソッと目を開けてみると、目の前にオーガの顔が見えた。
!!!!
反射的に身体が硬直する。
声は出ない!!
「・・・・・あわ・・わわ・・・」
男は動けずにオーガを見ていた。
オーガはうれしそうにニヤ~とすると、ゆっくりと手を伸ばして男を掴む。
そのまま自分の口の方へ運び、食べようとした。
ボン!!!
オーガの顔が吹き飛ぶ。
男はオーガに掴まれたまま、オーガと一緒にその場に横倒しになった。
地面に背中を打ち付けて、一瞬息が止まるが、どうやら助かったことはわかった。
「・・・ック!! かはぁ・・・」
オーガは蒸発する。
男は今まで目の前にいた大きな生物が消えたのに驚き、夢かと思った。
声が聞こえる。
「・・・そこのあなた、大丈夫でしたか?」
男は声の方を見る。
動きやすそうなカジュアルな服を着た、黒髪の女の人がスタスタと近寄ってくる。
男は言葉にはできないが、まるで天使が来たかのように感じていた。
10
お気に入りに追加
362
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる