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48話
しおりを挟むそれから昨日のことを葵は改めて説明してくれた。
葵はレイラから事前に私の前祝いをするから来ないかと誘われていたらしく仕事終わりに来たらしい。来てみたら私はもうほぼ潰れていて皆は騒いでいて大変だったみたいだ。私が酔い潰れてから会計を済ませてタクシーを呼んで家まで連れ帰ったらしいが、私が起きれなくてタクシーに透が手伝って乗せてくれたのも申し訳なかった。透にではなく葵にだ。透は私に飲ませているのでそのくらいして当然だから特に気にもしていない。それから、タクシーで家に着いても葵が引きずるように私を部屋まで連れてきて本当に大変だったそうだ。確かに今思い出すと何となく断片的に思い出してきたけど本当に死にたくなる。
しかも葵が全部お金を払ってくれたみたいで悪いから払うと申し出ても良いからの一点張りで受け取ってもらえない。
強情な葵に困っていたら葵は、たまには私がリードしたいからと言って照れていたので渋々頷いた。
リードも何もそんなことしてるつもりはないが葵の気持ちに負けた私は葵に逆らえなかった。私ってやっぱり甘いのだろうか。この子の言葉にほとんど頷いてしまう。
そんな葵に私が散々謝ってしばらくしてから葵は言った。
「もうすぐ仕事だから……行くね」
葵は身支度を整えながら残念そうな顔をした。私の世話をやいてくれた葵は私の誕生日の前祝いができて喜んでいたのに今はそうではない。もうすぐ撮影があるらしい葵は憂鬱そうだった。
「ありがとうね、葵。今日も仕事だったのに昨日来てくれてありがとう」
「ううん、お祝いできて私も嬉しかった。まぁ、由季は潰れてたけどね」
「もうあんな飲まないよ」
二人で笑いながら玄関で靴を履く葵を見送ろうとした私の手を葵は両手で握ってきた。
「あの……誕生日は、絶対空けといてね?」
「もちろん大丈夫だよ」
少し不安げな葵に笑って答える。約束は守るし私も楽しみにしている。葵が私のためにお祝いをしてくれるのだ、空けて当たり前だ。葵は安心したように笑った。
「良かった。楽しみにしててね?……でも、次会うのは由季の誕生日か…」
「そうだね。それまでまだ撮影とか忙しいだろうけど体調に気を付けてね?」
「大丈夫だよ。由季お母さんみたい」
そう言われても葵は私なんかよりはるかに忙しそうだし働く時間も不規則だからいつも少し心配だ。笑う葵の手を優しく握る。
「葵に何かあったら私も困るから当たり前だよ。連絡はするけど疲れてたら連絡は二の次にしっかり休むこと。分かった?」
「そんなの、嬉しいけど……由季と話したいから絶対しちゃうよ…」
「それでも、無理のない範囲で。ね?」
「…うん」
葵は少し不満そうに頷いたけど葵の中の優先順位は私がかなり高めのようで、ちゃんと分かっているのかなと疑問に感じる。私に関して一生懸命な葵に嬉しく感じるけど、頷いたからとりあえず良しとする。帰るのを促そうと手を離そうとしたら葵にいきなり手を引っ張られた。全く本当にこの子はしょうがない、俯く葵に優しく聞いた。
「どうしたの?」
「……」
「寂しくなっちゃった?」
何も言わないけど葵の思ってそうなことを聞いたら小さく頷いた。一生会えない訳じゃないのに本当に寂しがりで私も困ってしまう。帰り際は葵の中では本当に嫌なことなんだろう。前から渋ったりすることがあったから、私は仕方なくそのまま抱き締めてあげた。すると葵は手を離して私の首に抱き付いてくると小さく駄々をこねだした。
「……行きたくない」
「えぇ?だめだよ。また誕生日に会えるでしょ?」
「だって、……それまで会えないもん。今日だって…もっといたかったのに」
「誕生日はずーっと一緒にいるでしょ」
「……でも、……やだ。……由季、もっと強く抱き締めて?」
「もう、仕方ないな」
葵の華奢で細い体を要望通りに少しだけ強く抱き締めてから緩めると葵は腕を首に回しながら私の顔を覗き込んできた。何でこんなに寂しそうにするのか、この顔を見ると胸が少なからず痛む。
「今日も、明日も、その次の日も…ずっと…ちゃんと連絡してくれる?」
「するよ」
「絶対?」
「うん、絶対。約束守るでしょ?私」
「うん。……じゃ、じゃあ、私……以外の人……見ない?」
まだ離れたくなくて話していたいのか葵は焦ったように質問してきた。私はそれに笑って付き合ってあげる。少し幼い葵に帰りを促せない私はやっぱり甘い。私は笑ってキスをしてから答えた。
「見ないよ」
「本当に?見たら…だめだからね?」
「うん、分かってるよ」
「あと……明日も、明後日も、…ずっと、私のこと…好き?」
「好きだよ」
「本当に好き?」
「本当。大好きだよ」
これで終わるかなと思ったけど葵は照れながらまた質問してきた。
「……どのくらい?」
「えー、恥ずかしいから秘密」
「何で?…知りたい。…教えて?」
ちょっとからかったら真面目に不安そうに聞いてきたからちゃんと答えてあげた。
「葵が私のこと好きなのと同じくらい好きだよ」
「……私の方が…絶対好きだよ」
「ふふ、はいはい。もう分かったからこの話はおしまい。それより早くしないとでしょ?」
照れてる葵にいい加減少し最後は強めに言う。葵とは話してはいたいけどこんなことしてると仕事に間に合わなくなる。葵は私の声がいつもと違うのに驚いて叱られたような顔をすると手を離してごめんなさいと謝ってきた。それにちょっぴり悪い気分になって苦笑いしてしまう。
「私も話してたいけど、仕事に間に合わないでしょ?」
「…うん」
「ほら、早くもう行きな?」
「……うん…」
私が促すと本当に寂しそうな顔をしてからゆっくり玄関に背を向けて中々動かない。あぁ、本当に仕方のない子だ。甘やかしている私にも非があるが、私はため息をついてから軽く後ろから抱き付いて耳元で囁いた。
「今日から仕事頑張ってやったら私の誕生日に何でも言うこと聞いてあげる」
「…本当?」
途端に嬉しそうな声をあげる葵が現金で自然に笑ってしまった。
「本当、絶対。だから早く行かないと言うこと聞いてあげないよ?」
「やだ、行く」
やっと行く気になった葵に安心して離れる。
「じゃあ、考えといて?一個だけだからね?」
「うん。忘れないでね?」
「もちろん、ほら早く行きな?」
「うん!行ってくるね」
そうしてやっと私は葵を送り出すことに成功した。何言われるのか想像がつかないけど、たぶん何か買ってほしいとかじゃなくて私に何かしてほしいって感じのお願いな気がする。ちょっと大変なこと言ったかもなと思うけど葵に限って無理なことは言わないはず。
それから私は、そのまま誕生日までそこまで気にすることなく日々を過ごした。
だが誕生日の前に、私は亜美と会う約束をしている。亜美は優香里について話したいことがあるからと前に言っていたがあまり気分は乗り気じゃないし話したくない内容だけど都内のカフェで会うことになっているのだ。
優香里の話は私にとってあまり掘り下げたくないことだけどこの際ちゃんとしておきたかった。いつかこういう時が来るとは思っていたが胸が苦しくなるような怖いような何とも言えない気分になる。私は六年前から優香里の家に線香さえあげに行っていないから、それすらも後悔しているのだ。
ちゃんと向き合はないとならないと決心してから休日に亜美との待ち合わせのカフェに向かった。カフェに入ると亜美はもう席で待っていてくれて、私を手を上げて呼んだ。私は緊張しながらも席に向かう。
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