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21話
しおりを挟む「啓太の事は本当に好きみたいだけど、やっぱキスとかするのに関しては気にしてたかな?綾乃はあんまり言えないし気にしやすいタイプだから何にもないんじゃちょっとは悩んでると思うよ?最近あんまり教えてくれないからそこまで分かんないけど」
「そうか~……。綾乃ちゃん悩ませたり不安にさせたりすんのはよくないよな彼氏として…」
「そうだよ。綾乃は悩みやすいからしっかりリードしてあげてよ啓太」
嘘は言っていない。先に私が手を着けているなんて夢にも思わないだろうから私を信用しきっている啓太に笑いが止まらない。
おまえは利用されてんのに一生気付かないんだろうな。おまえがいたから私のものにできるからこっちとしてはウザかったけどありがたい存在だったよ。
「分かった。ありがとうナギ。なんか、助かったわ」
素直にお礼を言ってきた啓太に私は綾乃の幼馴染みらしく言った。
「全然。綾乃の事よろしくね啓太」
「なんかそういう風に言われると照れんな」
「なんで?私は幼馴染みなんだから言うに決まってんでしょ」
「まぁ、そうだけどさ。とりあえず頑張るわ」
「うん。あ、チュロスさ、どの味にする?」
話が済めばもうこいつは用済みだ。
私はチュロスの話に切り替えて売店の列に並ぶ。
これでもう進むだろう。私が言ってやったんだから何もしないなんてあり得ない。
実際に手を出した時の綾乃の反応が楽しみだし、こいつの反応も楽しみだ。
どうせこいつじゃ私以下だろ。
だって私みたいになんか何一つできないでしょ?
優しく丁寧に欲を感じさせないなんてできてる男なんかいなかったし、気を遣っているように見せて結局自分の欲を通して終わりだろ?
綾乃の事も今で分かってないし、同じ女でもないのに女の考えや良いところなんか分かんのかよ。
もう用済みなこいつの未来が見えた気がして顔がにやけてしまいそうだった。
これじゃこの先楽しい事しか起こらないじゃん。
こんなバカに綾乃が依存するはずないし、綾乃はそもそも私に依存しないと生きていけない。
ずっとそうやってきたんだからこれは変わるはずがないし、……あぁ、本当楽しみだなぁ。
早くその時が来ないかな?こんなに楽しみな事待ってられないよ。
チュロスやポテトを買って皆のとこまで戻ろうとしたら皆はこっちに向かって来ていた。
「あっ!ナギ達ありがとー!富田持つよ!丁度良いからどっか座って休憩しよ?」
「うん。ありがと富田」
食べ物を受け取ってくれた富田は空いてるベンチを探してくれる。皆にもそれぞれ渡すと綾乃はまた隣に来た。
「ナギちゃん買ってきてくれてありがとう」
「ううん。綾乃その味で良かった?」
「うん。良い匂いする」
「うん。美味しそうだよね」
綾乃は相変わらず何も気付いていない。
本当に、バカばっかり。でも、それでいい。
これが手に入るし、バカな綾乃は可愛く感じてしょうがないし。
私達は休憩を取ってからまたアトラクションに乗って楽しんだ。
日が暮れるまで乗り物に乗って写真を撮って楽しんで帰り際は皆疲れていたけど、夏休みはまたどっかに行こうと話して解散をした。
本当に、楽しい一日だった。
楽しい思い出ができたし唆せた。あとはその時まで待てば良い。私は特に綾乃には連絡もせずに夏休みを過ごした。
もう今年で高校は最後だからバイトと進路のための学校見学と希望校のAO入試を受ける。
私は元々大学とかに興味がないし興味があるとすればメイクや髪だから美容の専門に行くのは最初から決めていたからすんなりと事は進んだ。AOは面接だけでほぼ落ちないらしいし、進路も問題なくなったところで友達と遊んだりしていた。
そうして最後の夏休みを自分なりに楽しんでいた時だった。朝からバイトだった私は昼過ぎにバイトが終わって携帯を見ると綾乃から電話がかかってきていた。
そして、今日会えないかと文面でも連絡が来ていた。
それを見て思わずにやけてしまった。
なんだ、もう動いたのか……。
待ち遠しかったよ本当に。
私は大丈夫だよと連絡を入れてすぐに家に帰った。
帰り道は綾乃がどんな顔をするのか楽しみで浮かれていた。あぁ、早く綾乃に会いたい。こんな帰り道さえも焦れったい。ワクワクしながら帰ると家に着いたのを連絡する。するとすぐにインターホンが鳴って玄関を開けた。綾乃はあの日買った首回りが丸いシャツを着ていた。こうやって準備はしてたのに私と違ったんだろう。思い詰めた顔はそれを物語っている。
「あぁ、綾乃。いきなりどうしたの?」
「ナギちゃん……」
「綾乃?」
急に抱き付いてきた綾乃の背中に優しく腕を回す。あぁ、……やっとかよ。長かったな本当に……。やっと綾乃は気付いたんだね。
私はとりあえず玄関を閉めると綾乃の背中を優しく擦った。
「綾乃どうしたの?なんかあった?」
「……」
小さく頷いたけど答えない綾乃は泣いているようだった。私はそれに想像以上の喜びを感じた。
綾乃が泣くとか……最高じゃん。この反応は期待以上だし、綾乃の泣き顔は私の好きな顔でもある。
「とりあえず私の部屋においで?」
私は優しく声をかけて綾乃を部屋に引き連れた。
しかし部屋に着いても綾乃は泣いていて私は隣で背中を撫でながら慰めた。
「綾乃どうしたの?泣いてたら分かんないよ」
綾乃が泣くくらいの理由なんか考えたらすぐ分かる。こうなるように入念に準備をして誘導したのはこの私だもの。だけどこうやって優しく聞いて綾乃の口から聞きたい。だって、そっちの方が楽しいじゃん。
綾乃は涙を拭うと私にまた抱き付いてきた。
「……ナギちゃん……抱き締めて……」
「うん。いいよ」
言われた通り優しく抱き締めてやると綾乃は強く抱き付いてきた。久々の綾乃にこうやって触れられて餓えていた心が満たされる。あれだけやってやったんだ、犬のように自分で戻ってこれたのは偉い事だ。
「綾乃?何があったの?」
改めて優しく聞いてやると綾乃は小さな声で話し出した。
「……ナギちゃんが嫌な思いするかもしれないから言わなかったけどね、……私、少し前に啓太君と付き合ったの」
「そうだったんだ。気にしなくて良いって言ったのに…。じゃあ、啓太と何かあったの?」
綾乃には私の顔が今は見えていないからもう笑っていた。早く教えて綾乃。今どんな気分なの?どんな思いをしたの?私のせいで、綾乃はどうしたの?
綾乃は泣きながら言った。
「……うん。……今日、いきなりキスされて……する流れになったんだけど……急だったし、強引な感じが怖くて……途中で逃げてきた……。触られるのも……なんか、やな感じがして……」
「……そっか」
「今も……なんか、変な感じがして……どうしたらいいか分かんなくて……やな感じもするし……」
「もういいよ綾乃。分かったから」
優しくそう言って体を離すと綾乃の涙を拭いながら頭を撫でてやった。やっぱり私の勝ちじゃん。要は綾乃は私の方が良いって思ったんだろ。男の癖に女の私に負けるって……無様過ぎで笑えるわ。あいつどんな顔したんだろう?こうなるなんて思いもしなかっただろうに。まぁ、そもそも人のものに手を出すからこうなるんだよ。今まで散々イラつかせた結果だ。ざまぁみろクソが。
「綾乃、もう大丈夫だよ。今は私がいるしそんなに泣かないの」
私は安心させるように優しく笑った。
さぁ、これからは私の時間だ。
綾乃が理解したのならもう私の好きにできる。
「ナギちゃん……、私、変なのかな?……好きだったのに、もう啓太君に好きな気持ちなんて沸かない……」
「別に変じゃないよ?綾乃は驚いたんだよ。漫画とかで見るのと実際は違ったでしょ?」
「そうだけど……、ナギちゃんとした時は怖くなかったし、嫌に思ったりしなかったから……」
そんなの当たり前だった。あれは全部綾乃に合わせて不安も欲も何も感じさせないようにしたんだから。
それに、私に依存しているからそういう気持ちが沸かなかったのもあるだろう。都合よく私が操っているのを綾乃はまだ理解できていない。
私は分かっていない綾乃に優しい口調で言った。
「それは綾乃が好きだから綾乃を考えながら優しくしてたからだよ。でも、綾乃はもしかしたら啓太に対してそもそも親友の私よりも気持ちがなかったんじゃない?」
「……そうなのかな?……初めて好きになったから……分かんないよ……」
「まぁ、最初は分かんないよね。でも、分かんなくても今気持ちがないならもう別れた方がいいよ。また嫌な思いしたくないでしょ?」
「……うん」
自然な流れで別れる手はずまで事を進めた。これで変な横槍もなく私が完全に独占できる。欲しかった綾乃がやっと手に入る。私はワクワクしながら泣き止んだ綾乃の手を優しく握った。一度覚えた恐怖や不快感は簡単にはなくならないから次はこれを利用する。
「綾乃?それより大丈夫?体、変な感じするんでしょ?」
早く触って快感を感じたい。もっと私一色にしてやりたい。そんな思いは悟られないように心配したように尋ねると綾乃は私の手を強く握ってきた。
「……うん。なんか、思い出して、落ち着かない……」
「そっか。私になんかできる事ある?」
「ナギちゃんといると安心するから……抱き締めてほしい…」
綾乃の拒絶反応は大きいようだが私は特別だ。
すがるように言った綾乃に心が満足した。
綾乃は私にこうやってすがってんのが一番いいよやっぱり。私はこういう可愛い綾乃の姿を見て笑っていたい。
「うん。分かった。じゃあ、こっちおいで綾乃」
「うん……」
弱々しい綾乃を抱き締めた。この温もりに私の支配欲が満たされていく。あぁ、可愛い。なんでこんなに弱いんだろう。不安そうな顔が本当に愛おしい。私は頭を撫でながら優しく聞いた。
「綾乃大丈夫?安心する?」
「うん……」
「よかった。なんかしてほしい事があればなんでも言ってね綾乃」
「うん。ありがとうナギちゃん」
「全然。こんなの当たり前だよ。私は綾乃の幼馴染みで親友なんだから」
何度も言い聞かせた心なんてないこの言葉が私を有利にする。
簡単に惑わされた綾乃は私に強く抱き付くと私の目を不安そうに見つめた。
「ナギちゃん……」
「ん?なに?」
「なんかね、口もずっと…変な感じするの……」
「あぁ、キスされちゃったから?」
小さく黙って頷く綾乃。あのバカのおかげで綾乃をもっと洗脳できるのはありがたい話だ。今の状況であれば私の言葉に否定等しないだろう。私は触れたくて堪らない綾乃を誘導するために優しく囁いた。
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