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3話
しおりを挟む私はどうしたんだろう。このなくならないモヤモヤのせいで私はやけに綾乃を気にするようになってしまっていて、その日の昼休みもちょっと上の空だった。
「ねぇ~、ナギー。来週辺りコスメ買いに行こうよ?ついでに●●駅に新しくできたタピオカも飲み行きたいんだけどどう?」
「…え?あぁ、いいよ。黒蜜のタピオカ屋さんでしょ?あそこめっちゃうまいよ」
富田に話しかけられて綾乃を横目で見ていた私は慌てて返答した。
「それ私も行きたい。皆で行こうよ?」
富田の誘いに横から乗ってきた真奈は楽しそうに笑う。それには富田も笑った。
「うん、いいよ。じゃあ、綾乃も行こう?」
「え?……私は…」
困ると私に視線を向ける綾乃に私はいつものように笑いかけた。
「綾乃も行こうよ。タピオカ美味しいから」
「うん…」
「よし!じゃあ、富田のお給料が出てからがいいから二十五日過ぎにしよ」
そうして決まった予定に同意しようとしたら真奈がやたら嬉しそうに口を開いた。
「えぇ~?富田奢ってくれんの?マジありがたいわ」
「はぁ?富田は来月彼氏の誕生日だから無理ですー」
即答する富田に真奈は驚いていた。
「え?そうだったの?富田何買ってあげるの?」
「富田めっちゃバイト頑張ったからルーダのピアス!」
自慢気に言うルーダとは大体皆が知っている人気なブランドの名前だった。富田は二年の時から付き合っていたうちの高校の一個上の先輩とラブラブなのでかなり奮発したようだ。
「いいじゃん富田。頑張ったね」
私が言うと富田は嬉しそうだった。
「うん。欲しいって前から言ってたから買えてよかったよ。しかもお揃いだし」
「ルーダ可愛いもんね。私も再来月まー君の誕生日だからどうしようかなぁ?」
携帯を弄りながら首をかしげる真奈に富田は呆れたように言った。
「まー君は真奈大好きだから何でも喜ぶでしょ」
「そうだよ。ていうか真奈いつも尽くされてるじゃん」
私も一緒に便乗してしまったが真奈の彼氏は年上の大学生で真奈は本当に好かれているので記念日でもないのにプレゼントをよく貰っている。しかも真奈をよく迎えに来ているから私も富田も会った事があるんだけど普通にイケメンで優しい人だった。
「えー、そうかな?でも、まー君去年も何でも良いって言ってたから地味に困るんだよね~」
「困ったら無難に指輪とかネックレスじゃない?それかプチ旅行とか?てか、ナギは彼氏とどうなったの?」
「え?私?」
急に私の話題に触れられてちょっと気まずく思う。実は私はちょっと前に告白されて付き合った彼氏と別れた。理由は付き合っていても意味がないと思ったからだ。普通にいい人だったけど、いてもいなくても困らないような人だったし一応気を使うし、そんな気持ちで付き合っていくのもどうかと思って適当に理由をつけて別れた。私はいつもこうやって恋愛が長続きしないのだ。とても好きだったら話は別だけど会ってそんなに知らないのに大好きとは言えないし、好きになる努力はするが気が利かない割りにカッコつけたりしてきて正直反応に困って萎えて引く。それにぶっちゃけやる事は皆大差無いので何度か付き合ってみて恋愛に対する幻想が醒めた。
これはよくある話だけど理想は思っているものとは違うのだ。最初は私も付き合ったらさぞ幸せで楽しいんだろうなと思っていたのにそうでもないどころかめんどくさくて疲れた。
なので真奈や富田みたいにうまくいってるカップルはとても羨ましく思う。本当に。
「私は別れたよこないだ」
「え?イケメンだったのに早くない?浮気?」
眉間にシワを寄せる真奈に首を横に振る。
「違うよ。なんか、そこまで好きになれなかったって言うか…」
「あぁ~、それは別れた方がいいよ。苦しくなるだけだし。まぁ、ナギはすぐ見つかるよ。それより綾乃は?綾乃は彼氏いないの?」
「え?私はいないよ…」
話を振られた綾乃は控え目に答えたが真奈はにやにやしながら聞き返した。
「本当に~?綾乃気になってる人もいないの?」
「そんなのいないよ。私は、恋愛とか全然だもん…」
いつもの控え目で困った表情には照れと動揺が見られる。私は笑いながら冷静にやっぱりなと思っていた。
「綾乃初で可愛いのに……。ていうかもうチャイム鳴るじゃん。うわー、午後一数学とか眠いなぁ」
「富田起きてないとまたバカになるよ」
「分かってますー」
真奈に言われている富田はため息をついていた。
私は午後の授業が始まってから綾乃の事を考えていた。綾乃はやっぱり啓太が好きだ。さっきは隠していたけどもう間違いない。綾乃は啓太に告白するのだろうか?綾乃の性格じゃ告白なんてできなさそうだけど綾乃はきっと初恋だ。初恋なら幼馴染みの親友である私に何か言ってくれる可能性がある。初恋じゃなくても綾乃は私に困ったりすると相談してくるから。
でも、何で今の時点で言ってくれないんだろう。綾乃はいつも私を頼りにしてくれる。いつも何でも私に言ってくれるのに、私はそれにもモヤモヤしながらバイトの休みが合った綾乃と一緒に帰った。
私のモヤモヤは消えないけど綾乃に直接は言えない。私はいつもみたいに色々話ながら綾乃と歩いていたら綾乃が珍しく声をあげた。
「ナギちゃん!……あの、今日このあと暇?」
「え?まぁ、暇だけど…」
家にもうすぐつく所で綾乃は言ってきた。
「あの、ちょっとナギちゃんに相談があるの…」
私はもうなんの事か悟っていた。やっと私に言う気になったのか。ちょっと嬉しく感じながら私は頷いた。
「うん、いいよ。うち来る?」
「ううん。私の家でいいから私の部屋に来てくれる?」
「うん。分かった」
私は綾乃に案内されて綾乃の家に上がった。綾乃とは高校生になってからも定期的に遊んでいるが綾乃の部屋は昔から変わっていない。あんまり無駄な物が置かれていない綾乃の部屋はいつも綺麗だ。
「飲み物持ってくるから座っててナギちゃん」
「うん。ありがと綾乃」
私は綾乃の部屋で座りながら待っていると綾乃はすぐに飲み物を持ってやってきた。そして私の前に飲み物を置いてくれた綾乃に再度お礼を言うと綾乃はううん、と言って私の斜め横に座る。
「あのね、ナギちゃん」
「ん?なに?相談なんてどうしたの綾乃」
分かっているのに私は分からないふりをする。これは私が言ったんじゃ意味がない。綾乃は目線を下げて照れたように言った。
「あの…私、…好きな人……できたの……」
「…え?好きな人?…誰?」
やっと私を頼ってくれたのが嬉しかったのに私は笑いながらなぜかイライラしていた。綾乃のこんな表情は見た事がない。照れてとても嬉しそうな表情に私の気持ちは一気に傾いた。そうか、なくならないモヤモヤの正体はこれか。もう綾乃に対する気持ちを理解した私に綾乃は本当に嬉しそうに私を煽ってきた。
「……け、啓太君……。私、……啓太君が好き……みたいなの…」
「…ふーん。そうだったんだ。いいじゃん綾乃」
優しく話す言葉とは裏腹に私は感じた事がないくらいムカついていた。だって、私は幼馴染みで親友だから綾乃の事を全部知っているつもりだった。そして何より私を一番好きでいてくれていると思っていたのに今のこれはなんだ?
綾乃は私が見た事ない顔をして笑っている。そして大して知りもしないやつを好きだと言っている。
なんだよ、なにこれ?綾乃の事は私が一番知っていて一番仲が良いのにあんなやつにそんな顔をして好意を抱いてるなんて許せなかった。
私はあまりの怒りに拳を強く握りしめながら笑った。
「綾乃はさ、啓太のどこが好きなの?」
単純な優しい問いかけに綾乃は照れながら可愛らしく答える。
「えっと、えっとね?…あの、優しくて……カッコいいところ……」
「そうなんだ。啓太は確かに優しいもんね」
「うん……。すごく、優しいよね…。啓太君…」
ムカつく。ムカつくムカつくムカつく。本当にムカつくんだよ。私はいつもみたいに笑いながら怒りが収まらなかった。なんで私にはそんな顔見せないの?私は優しくないの?私は好きじゃないの?私はあんな綾乃を知らないやつより格下だって事?そんなの、……そんなの受け入れられないから。
予期せぬ激情に私は呑み込まれてしまった。
「あと、……それでね、ナギちゃん。……私、……啓太君ともっと仲良くなりたいの。でも、どうしたらいいか分からなくて……」
「あぁ、そっか…」
私は綾乃に優しく笑いながら心で薄ら笑いを浮かべた。そうだ、いい考えが浮かんだ。どうせ付き合ったってたかが知れてるし、綾乃がこんな顔をして誰かと付き合うなんて絶対に嫌だ。
綾乃に好きな人ができたら応援してあげようと思っていたけどやめだ。綾乃は私のだ。どうでもいやつになんか渡すかよ。綾乃は誰にも渡さない。
この強烈な独占欲は私を変えた。
「じゃあさ、私が協力してあげるよ」
私は綾乃にまるで助けるようにいつもみたいに言った。私のものにするために。
「啓太とは二年の時から友達だし、私は綾乃の幼馴染みで親友なんだからうまくいくように協力してあげる」
この私のポジションは綾乃を私のものにするためにも、騙すためにも好都合だ。綾乃は疑いもせずに簡単に引っ掛かった。
「本当?ありがとうナギちゃん」
「全然。綾乃のためだもん」
笑う綾乃は可愛らしかった。でも、あいつを思って嬉しそうにしているのかと思うと心は笑えない。このどす黒い気持ちは止まらなかった。
私が綾乃の一番で、綾乃は私のなんだからあんなやつに渡す訳ないじゃん。それにあんなやつに勘違いなんかするなよ。ただちょっと話しただけでしょ?ならどうせそこまで思われてないんだからさ。
でも、これは今だけだ。私は怒りを沈めるように自分に言い聞かせた。協力するふりをして綾乃を私色に染めてしまえば状況は変わる。綾乃は付き合った事がない初で純粋な子なんだから全部私が一番に教えてあげればいい。
一番最初にやった初めての事は一番記憶に残る。
「綾乃、また啓太達も一緒に皆で遊びに行こうよ?そうすれば二人だけで話せるチャンスもあるしもっと仲良くなれるんじゃない?」
協力する気のない私の思い付きに綾乃はすぐに頷いた。
「うん。緊張するからうまく話せないかもしれないけど遊びに行きたい……」
「綾乃そこで緊張してどうするの?綾乃って本当に恥ずかしがりだよね」
「だって、頭が真っ白になっちゃって……何て言えばいいか分からなくて…」
「そんなの私と話す時みたいに話せばいいだけだよ」
「……うん」
照れる綾乃はいつも私の言う事に従ってついてきたんだ。今までもそうだったんだからこれを逆手に取って利用してやろう。それで私だけを好きでいさせてやる。
綾乃は私だけのものなんだから。
私は笑いながら綾乃と啓太の事を話してやった。
付き合わせるつもりなんか更々ないけど利用できるものは何でも利用してやるつもりだ。
私はその日から綾乃が啓太を好きな事を二人だけの秘密にしてどうしていくか考えた。それは告白されたから適当に付き合っている時よりも楽しい時間だった。白いまっさらな物を私好みに変えられるんだ、うきうきしてしょうがない。それなのに綾乃を見て胸がときめいたりはしないけど、私は綾乃が好きだったからこう感じているのかなと楽しみながら思っていた。綾乃が啓太の事を教えてくれた時の激しい嫉妬も、綾乃をまるで盗られてしまったように感じてしまうのもそう考えると納得がいく。
私は綾乃に対しての見方が変わってきていた。
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