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3.会えない人
しおりを挟む「また男に逃げられたの?」
「うん。まぁ、いつものことだし。起きたらいなくなっているなんて」
習得すべき単位はすべて取り、あとは卒業の日を迎えるのを待つだけの毎日。
大学で知り合った友達の上原璃音と一緒に図書館に向かっては、勉強をしたり小説を読んだりして、適当に時間を潰していた。
今日も璃音と一緒に図書館へ向かう。その道中で、私が昨日相手した男の話題になったのだった。
「香奈はさ、本気で誰かと付き合おうとか思わないわけ?」
「……それは、お説教?」
「違うよ。香奈のことを心配して言っているの」
璃音は私が西条先生のことを忘れられないということを知っている。その上で、こんな意地の悪いことを言ってくるのだ。
「……璃音には、分からないよ」
幼馴染と中学生の頃から付き合っていて、大学を卒業したら結婚をする約束までしている璃音には、私の気持ちなんて分かるわけがない。
好きな気持ちを伝えないまま疎遠となり、もう二度と会えない相手のことを好きなままでいる私の気持ちなんて――、理解して欲しいとは言わない。
だけど正直なところ、セフレと遊びまくる日々もよくないということを、本当は痛いほど分かっていた。
「高校の時の西条先生が今も好きならさ、母校に遊びに行って会ってきたら良いのに。それで気持ちの整理がつくなら、それに越したことはないと思うけれど?」
「卒業して2年後に遊びに行ったよ。だけどもう、そこに西条先生はいなかった」
「香奈……」
遊びに行った時、当時私がお世話になった顔見知りの先生と話すことができた。その時に西条先生がどこに異動したのか聞けば良かったのだが……それすらも躊躇い、言葉にすることができなかった。
この広い県内、西条先生は近くにいるのか、遠くにいるのか。
ひとり悶々と悩み、もがき苦しみ、時に死にたくなった。そしてそれらの複雑で醜い感情を発散させるために、愚かな私は数え切れないほどの男たちに向かって足を開く。
これから先、私が西条先生以外の人を好きになることなんてない。
どうせ再会できないのならば、私は私の身体を男に好き勝手させることで、女としての自分を維持していきたい。そう考えるようになっていた。
身体の内側も外側も、両手の指だけでは数え切れない男たちの体液で、醜く汚れながら今の私を形成している――。
「でもさ、県立高校の教師として採用が決まったじゃない? いつか同じ学校に赴任してさ、再会とかできると思うんだけど」
「確率低すぎない? 県内にどれだけ学校があると思っているの?」
「でも、教師以外の職業と比べたら遥かに確率は高いと思うけどなぁ」
確かに、璃音の言うことは的を得ていた。県立高校が何校あるのか、正確な数は把握していない。だけど同じ教師ならば、いつかまたどこかで、大好きな西条先生と再会できるはず……。
そしてその確率は、間違いなく普通の民間企業等に就職するより遥かに高い。
「ねぇ、璃音。汚れた私が先生に『会いたかった』なんて伝えたら、嫌がるかもしれない」
会えるかもしれないと思うと、今度は再会した時のことを考え始めた。
あの数学科準備室で身体を重ねたあの日――最初で最後の出来事を思い出して、つい身体が疼く。
数えきれない人と同じ行為を繰り返してきたのに、やはり私の中では西条先生だけなのだ。彼だけが私の渇きを潤すことができるのだと、改めて実感する。
「別にさぁ、香奈の経歴を話す必要はないんじゃない?」
「そうなの?」
「数えきれないくらいの棒を咥えてきました! とか言われても誰だって嫌でしょ」
「ダイレクトすぎるのよ」
璃音と歩き続けていると、目的地である図書館に着いた。
図書館ではそれぞれが別行動をして、好きなように過ごす。そのあいだ私は読みたかった文庫本を片手に持ちながら、頭の中では別のことを考えていた。
やはり私は西条先生のことを考えると、身体が疼いてどうしようもないのだ。
「……」
本も読まずにしばらく考えごとをして、思い立ったようにスマートフォンを取り出す。
そしていつも利用しているマッチングアプリを立ち上げて、今日の夜に会える男性を探したのだった。
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