11 / 11
第11話 予兆
しおりを挟む
「……健太、健太、けーんた」
自分の名前を呼ぶ声で健太が目をさますと、そこにはひとりの若い女性が立っていた。
――摩耶である。厳めしい軍服姿ではなく、斬魂刀も提げていない。ボーダーのTシャツにデニムのショートパンツ、足にはスニーカーといった、ごく気がるな服装である。
「お待たせ」
「おまたせって、ここ、どこ?」
「やだ、寝ぼけてるの」
健太はベンチの上でうたた寝をしていたようだった。鳥のさえずりに森の匂い、頬をなでる温かな微風が心地よい。どこまでも澄みきった快晴の青空と、緑豊かな木々と、……そして遠くから聞こえてくるのは、
(波の音だ)
彼はベンチから立ち上がった。
ここは島の高台だった。見おろすと周囲にはコバルトブルーの大海原がひろがり、砂浜の白とのあざやかな対比を成していた。
――健太は、摩耶とふたりで◯◯島の観光に訪れていたのだった。
きょうは「絶景スポットめぐり」ということでガイドマップとGPSを頼りに歩いていたのだが、目的地に到着した時に、摩耶がその少しさきにあるという洞窟を見たいと言い出したのである。健太も興味はあったが、予想外の強行軍でヘトヘトに疲れきっていたので、行くのは遠慮して待っていることにした。摩耶は旅行中知りあった夫婦の観光客とともに洞窟見物へ出かけ、ベンチに腰を下ろした健太はそのまま眠ってしまったらしい。
――摩耶は、その口調も態度も、知りあった当時の彼女にもどっていた。
(なんてことだ、あれはぜんぶ夢だったのか)
健太は腕時計を見る。ベンチに座りこんでから一時間ほどが経過していた。
高台には石碑が建てられていた。ここはかつての激戦地であり、おおくの将兵が戦死している。そのための供養塔であった。
摩耶が言う、「むかし、この島が戦場だったのは健太も知ってるよね。ここに来る途中でも戦車のスクラップなんかあったし……さっき洞窟の中も見てきたけど、ボロボロに錆びたヘルメットとか、飯ごうなんかが、まだそのままになっていたわ」
健太は何者かに誘われるかのようにフラフラと石碑に歩みよった。
黒い御影石には数多の戦死者の氏名が彫られている。
(これは)
彼はその中に「敷島十朗」の文字を見つけた。
「――!」
背後で何か物音がした。
ふりかえると摩耶が倒れている。
健太はあわてて駆けよった。
自分の名前を呼ぶ声で健太が目をさますと、そこにはひとりの若い女性が立っていた。
――摩耶である。厳めしい軍服姿ではなく、斬魂刀も提げていない。ボーダーのTシャツにデニムのショートパンツ、足にはスニーカーといった、ごく気がるな服装である。
「お待たせ」
「おまたせって、ここ、どこ?」
「やだ、寝ぼけてるの」
健太はベンチの上でうたた寝をしていたようだった。鳥のさえずりに森の匂い、頬をなでる温かな微風が心地よい。どこまでも澄みきった快晴の青空と、緑豊かな木々と、……そして遠くから聞こえてくるのは、
(波の音だ)
彼はベンチから立ち上がった。
ここは島の高台だった。見おろすと周囲にはコバルトブルーの大海原がひろがり、砂浜の白とのあざやかな対比を成していた。
――健太は、摩耶とふたりで◯◯島の観光に訪れていたのだった。
きょうは「絶景スポットめぐり」ということでガイドマップとGPSを頼りに歩いていたのだが、目的地に到着した時に、摩耶がその少しさきにあるという洞窟を見たいと言い出したのである。健太も興味はあったが、予想外の強行軍でヘトヘトに疲れきっていたので、行くのは遠慮して待っていることにした。摩耶は旅行中知りあった夫婦の観光客とともに洞窟見物へ出かけ、ベンチに腰を下ろした健太はそのまま眠ってしまったらしい。
――摩耶は、その口調も態度も、知りあった当時の彼女にもどっていた。
(なんてことだ、あれはぜんぶ夢だったのか)
健太は腕時計を見る。ベンチに座りこんでから一時間ほどが経過していた。
高台には石碑が建てられていた。ここはかつての激戦地であり、おおくの将兵が戦死している。そのための供養塔であった。
摩耶が言う、「むかし、この島が戦場だったのは健太も知ってるよね。ここに来る途中でも戦車のスクラップなんかあったし……さっき洞窟の中も見てきたけど、ボロボロに錆びたヘルメットとか、飯ごうなんかが、まだそのままになっていたわ」
健太は何者かに誘われるかのようにフラフラと石碑に歩みよった。
黒い御影石には数多の戦死者の氏名が彫られている。
(これは)
彼はその中に「敷島十朗」の文字を見つけた。
「――!」
背後で何か物音がした。
ふりかえると摩耶が倒れている。
健太はあわてて駆けよった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください

命姫~影の帝の最愛妻~
一ノ瀬千景
キャラ文芸
ときはメイジ。
忌み子として、人間らしい感情を知らずに生きてきた初音(はつね)。
そんな彼女の前にあらわれた美貌の男。
彼の名は東見 雪為(さきみ ゆきなり)。
異形の声を聞く不思議な力で、この帝国を陰から支える東見一族の当主だ。
東見家当主は『影の帝』とも呼ばれ、絶大な財と権力を持つ。
彼は初音を自分の『命姫(みことひめ)』だと言って結婚を申し出る。
しかし命姫には……ある残酷な秘密があった。
和風ロマンスです!
帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。
十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。
鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。
「幾星霜の年月……ずっと待っていた」
離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
【完結】孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達
フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。
*丁寧に描きすぎて、なかなか神社にたどり着いてないです。
調香師少女と元神青年 涙の香水
有坂有花子
キャラ文芸
「君を妻として迎えに来たよ」
仮想明治時代。調香師の春子は見知らぬ洋装の青年・子槻から告げられる。
幼いころ、子槻は『春子を妻として迎えに行く』という約束をしたという。まったく覚えのない春子だったが、子槻の屋敷へ連れてこられてしまう。
話すうちに、春子は『自分の香水店をひらきたい』という夢を子槻が知っていることに驚く。屋敷に店を出してよいと言う子槻だったが、両親の苛烈な反対にあい、『両親を納得させる香水を作ること』という勝負をすることになってしまった。
調香師少女とねずみ元神青年の香水と涙のお話。
※話数は多いですが、一話あたりは短めです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる