心の鍵はここにある

小田恒子

文字の大きさ
上 下
16 / 53

そんな事は聞いてません。 2

しおりを挟む
 エレベーターの扉が閉まり、エレベーターは下降していくランプを見つめていた。
 先輩の言動はさっぱりわからない。あの人は一体何をしたいのだろうか。
 私は部屋に入ってドアに鍵をかけた。
 電気をつけると、今朝のままの状態の部屋に安堵した。

 窓辺のカーテンを閉めると荷物を机の横に置き、今着用している服を脱ぐと、ハンガーにかけて脱衣場へ向かう。
 脱衣場で伊達メガネとコンタクトレンズを外すと、途端に視界が悪くなる。
 下着とストッキング、シャツを洗濯機に入れると、バスルームに入ってシャワーを浴びる。
 化粧を落とし、頭からシャワー浴びて髪を洗うと、首筋から順に、下へ向かって身体を洗う。

 身長が低い割に、胸は少し大きい方だと思う。
 くびれはないけれどお尻も大きく、人からは安産体型だとよく言われるが、出産経験がないだけに何とも言えない。
 そもそも、お付き合い経験すらないのだから、どうしようもない。
 ニセモノの彼氏、先輩との付き合いは、そもそも付き合っていたと言えたものではないから。
 全ての泡を洗い流し、フェイスタオルで髪をざっと拭くと、髪を指で捻ってお団子状態に纏める。
 髪の毛が濡れている状態だと、纏めやすい。
 そのままフェイスタオルで全身を拭き取り、バスルームから出ると、タオルをそのまま洗濯機の中へ放り込む。

 洗面所に置いている着替えの下着を着用すると、膝上丈の大きなTシャツを着て、度入りメガネをかけた。
 視力が低下したのは高校三年、大学受験を控えた時期だった。
 自宅用でメガネを、外ではコンタクトレンズと使い分けていたけれど、黄砂や砂埃が凄い時期で、とてもじゃないけれど伊達メガネがないとまともに目が開けられない状態で、やむなく伊達メガネを使い始めてからは、常に使用している。
 根底にある『里美だけは無理』あの言葉が、全ての事において私に重くのしかかっている。
 お洒落をしようとショッピングに行き、いざ試着をしてみても、脳裏によぎるあの言葉を思い出すと、どうしても手が出せなくなり……。

 こうして、自分への『自信』を失くしていった私は、見た目地味子の残念女子への道を歩いて行った。
 それ以来、私は男の人から誘われたりする事もなく、恋愛以外の事において、平穏な日々を過ごしていた。
 ーー今日までは。

 また、私はあの人に囚われてしまうのだろう。
 きっと、これからも私はあの人しか好きになれないだろう。
 先輩が、どんなつもりで私を彼女扱いするのかわからないけれど、きっとまた振り回されるんだ。
 そしていつかまた、『無理』って思われるのかも知れない。

 でも私のトラウマは、きっと先輩にしか拭えない。
 先輩が『無理』と言って私を突き離すまで、私は傍にいてもいいのだろうか。
 そうなったらそうなったできっと立ち直れないだろうけれど……。
 髪の毛のお団子を崩すと、ヘアブラシで髪をとき、タオルで髪の毛の水分を拭き取っていると、スマホが鳴った。
 バックの中からスマホを探して画面を見ると、先輩からのライン通知だった。

『無事に帰宅しました』

 その一言のみ。このメッセージに一体どう返せばいいのだろう。
 しばらく悩んだものの、既読スルーするとまた何だかややこしい事になりそうなのは分かりきっているので、おやすみなさいのスタンプを押して、スマホをテーブルの上に置いた。
 そうして髪を乾かした後、頭が混乱していた私はやりかけていたハンドメイド作品を仕上げ、眠りについた。

 翌朝目覚めると、身支度を済ませ、軽く朝食を摂り、いつも通りの時間に部屋を出た。
 エレベーターでエントランスまで降りて行くと……。
 ーー昨日、再会した先輩が待っていた。

「おはよう、途中まで一緒に行こう」

「……ストーカー?」

「お前っ、彼氏に向かってストーカーはないだろうがっ。そうか、あれか、里美はツンデレか?」

「デレてませんし。……それに、私は先輩を彼氏と認めてませんが」

 私の言葉に、瞠目する先輩。先輩の口から意外な言葉が出て、私の心を掻き乱す。

「はぁ?  十二年前から、里美は俺の彼女だろう」

 確かにカレカノの関係でしたね、ニセモノのだけど……。

「十二年前って……。あれはニセモノのカレカノでしたよね?」

「それでも里美は俺の彼女なの、行くぞ」

 先輩は強引に私の右手を取り、駅に向かって歩き出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

処理中です...