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そんな事は聞いてません。 2
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エレベーターの扉が閉まり、エレベーターは下降していくランプを見つめていた。
先輩の言動はさっぱりわからない。あの人は一体何をしたいのだろうか。
私は部屋に入ってドアに鍵をかけた。
電気をつけると、今朝のままの状態の部屋に安堵した。
窓辺のカーテンを閉めると荷物を机の横に置き、今着用している服を脱ぐと、ハンガーにかけて脱衣場へ向かう。
脱衣場で伊達メガネとコンタクトレンズを外すと、途端に視界が悪くなる。
下着とストッキング、シャツを洗濯機に入れると、バスルームに入ってシャワーを浴びる。
化粧を落とし、頭からシャワー浴びて髪を洗うと、首筋から順に、下へ向かって身体を洗う。
身長が低い割に、胸は少し大きい方だと思う。
くびれはないけれどお尻も大きく、人からは安産体型だとよく言われるが、出産経験がないだけに何とも言えない。
そもそも、お付き合い経験すらないのだから、どうしようもない。
ニセモノの彼氏、先輩との付き合いは、そもそも付き合っていたと言えたものではないから。
全ての泡を洗い流し、フェイスタオルで髪をざっと拭くと、髪を指で捻ってお団子状態に纏める。
髪の毛が濡れている状態だと、纏めやすい。
そのままフェイスタオルで全身を拭き取り、バスルームから出ると、タオルをそのまま洗濯機の中へ放り込む。
洗面所に置いている着替えの下着を着用すると、膝上丈の大きなTシャツを着て、度入りメガネをかけた。
視力が低下したのは高校三年、大学受験を控えた時期だった。
自宅用でメガネを、外ではコンタクトレンズと使い分けていたけれど、黄砂や砂埃が凄い時期で、とてもじゃないけれど伊達メガネがないとまともに目が開けられない状態で、やむなく伊達メガネを使い始めてからは、常に使用している。
根底にある『里美だけは無理』あの言葉が、全ての事において私に重くのしかかっている。
お洒落をしようとショッピングに行き、いざ試着をしてみても、脳裏によぎるあの言葉を思い出すと、どうしても手が出せなくなり……。
こうして、自分への『自信』を失くしていった私は、見た目地味子の残念女子への道を歩いて行った。
それ以来、私は男の人から誘われたりする事もなく、恋愛以外の事において、平穏な日々を過ごしていた。
ーー今日までは。
また、私はあの人に囚われてしまうのだろう。
きっと、これからも私はあの人しか好きになれないだろう。
先輩が、どんなつもりで私を彼女扱いするのかわからないけれど、きっとまた振り回されるんだ。
そしていつかまた、『無理』って思われるのかも知れない。
でも私のトラウマは、きっと先輩にしか拭えない。
先輩が『無理』と言って私を突き離すまで、私は傍にいてもいいのだろうか。
そうなったらそうなったできっと立ち直れないだろうけれど……。
髪の毛のお団子を崩すと、ヘアブラシで髪をとき、タオルで髪の毛の水分を拭き取っていると、スマホが鳴った。
バックの中からスマホを探して画面を見ると、先輩からのライン通知だった。
『無事に帰宅しました』
その一言のみ。このメッセージに一体どう返せばいいのだろう。
しばらく悩んだものの、既読スルーするとまた何だかややこしい事になりそうなのは分かりきっているので、おやすみなさいのスタンプを押して、スマホをテーブルの上に置いた。
そうして髪を乾かした後、頭が混乱していた私はやりかけていたハンドメイド作品を仕上げ、眠りについた。
翌朝目覚めると、身支度を済ませ、軽く朝食を摂り、いつも通りの時間に部屋を出た。
エレベーターでエントランスまで降りて行くと……。
ーー昨日、再会した先輩が待っていた。
「おはよう、途中まで一緒に行こう」
「……ストーカー?」
「お前っ、彼氏に向かってストーカーはないだろうがっ。そうか、あれか、里美はツンデレか?」
「デレてませんし。……それに、私は先輩を彼氏と認めてませんが」
私の言葉に、瞠目する先輩。先輩の口から意外な言葉が出て、私の心を掻き乱す。
「はぁ? 十二年前から、里美は俺の彼女だろう」
確かにカレカノの関係でしたね、ニセモノのだけど……。
「十二年前って……。あれはニセモノのカレカノでしたよね?」
「それでも里美は俺の彼女なの、行くぞ」
先輩は強引に私の右手を取り、駅に向かって歩き出した。
先輩の言動はさっぱりわからない。あの人は一体何をしたいのだろうか。
私は部屋に入ってドアに鍵をかけた。
電気をつけると、今朝のままの状態の部屋に安堵した。
窓辺のカーテンを閉めると荷物を机の横に置き、今着用している服を脱ぐと、ハンガーにかけて脱衣場へ向かう。
脱衣場で伊達メガネとコンタクトレンズを外すと、途端に視界が悪くなる。
下着とストッキング、シャツを洗濯機に入れると、バスルームに入ってシャワーを浴びる。
化粧を落とし、頭からシャワー浴びて髪を洗うと、首筋から順に、下へ向かって身体を洗う。
身長が低い割に、胸は少し大きい方だと思う。
くびれはないけれどお尻も大きく、人からは安産体型だとよく言われるが、出産経験がないだけに何とも言えない。
そもそも、お付き合い経験すらないのだから、どうしようもない。
ニセモノの彼氏、先輩との付き合いは、そもそも付き合っていたと言えたものではないから。
全ての泡を洗い流し、フェイスタオルで髪をざっと拭くと、髪を指で捻ってお団子状態に纏める。
髪の毛が濡れている状態だと、纏めやすい。
そのままフェイスタオルで全身を拭き取り、バスルームから出ると、タオルをそのまま洗濯機の中へ放り込む。
洗面所に置いている着替えの下着を着用すると、膝上丈の大きなTシャツを着て、度入りメガネをかけた。
視力が低下したのは高校三年、大学受験を控えた時期だった。
自宅用でメガネを、外ではコンタクトレンズと使い分けていたけれど、黄砂や砂埃が凄い時期で、とてもじゃないけれど伊達メガネがないとまともに目が開けられない状態で、やむなく伊達メガネを使い始めてからは、常に使用している。
根底にある『里美だけは無理』あの言葉が、全ての事において私に重くのしかかっている。
お洒落をしようとショッピングに行き、いざ試着をしてみても、脳裏によぎるあの言葉を思い出すと、どうしても手が出せなくなり……。
こうして、自分への『自信』を失くしていった私は、見た目地味子の残念女子への道を歩いて行った。
それ以来、私は男の人から誘われたりする事もなく、恋愛以外の事において、平穏な日々を過ごしていた。
ーー今日までは。
また、私はあの人に囚われてしまうのだろう。
きっと、これからも私はあの人しか好きになれないだろう。
先輩が、どんなつもりで私を彼女扱いするのかわからないけれど、きっとまた振り回されるんだ。
そしていつかまた、『無理』って思われるのかも知れない。
でも私のトラウマは、きっと先輩にしか拭えない。
先輩が『無理』と言って私を突き離すまで、私は傍にいてもいいのだろうか。
そうなったらそうなったできっと立ち直れないだろうけれど……。
髪の毛のお団子を崩すと、ヘアブラシで髪をとき、タオルで髪の毛の水分を拭き取っていると、スマホが鳴った。
バックの中からスマホを探して画面を見ると、先輩からのライン通知だった。
『無事に帰宅しました』
その一言のみ。このメッセージに一体どう返せばいいのだろう。
しばらく悩んだものの、既読スルーするとまた何だかややこしい事になりそうなのは分かりきっているので、おやすみなさいのスタンプを押して、スマホをテーブルの上に置いた。
そうして髪を乾かした後、頭が混乱していた私はやりかけていたハンドメイド作品を仕上げ、眠りについた。
翌朝目覚めると、身支度を済ませ、軽く朝食を摂り、いつも通りの時間に部屋を出た。
エレベーターでエントランスまで降りて行くと……。
ーー昨日、再会した先輩が待っていた。
「おはよう、途中まで一緒に行こう」
「……ストーカー?」
「お前っ、彼氏に向かってストーカーはないだろうがっ。そうか、あれか、里美はツンデレか?」
「デレてませんし。……それに、私は先輩を彼氏と認めてませんが」
私の言葉に、瞠目する先輩。先輩の口から意外な言葉が出て、私の心を掻き乱す。
「はぁ? 十二年前から、里美は俺の彼女だろう」
確かにカレカノの関係でしたね、ニセモノのだけど……。
「十二年前って……。あれはニセモノのカレカノでしたよね?」
「それでも里美は俺の彼女なの、行くぞ」
先輩は強引に私の右手を取り、駅に向かって歩き出した。
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