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何、この人 2
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何とも失礼な人だ。
日頃、対人関係でトラブルのない私でも、この人に対しては初対面で不快感を覚えた。
先輩にも、内心イラっとしているのが伝わるのだろう。
彼女の態度、社会人として余りにも最低だ。
「ああ、紹介するよ。高校時代からの彼女で、五十嵐里美。週末、里美の実家に挨拶に行くから」
先輩の先制攻撃に、ゆりさんの表情が固まった。
「十二年前に、里美が引っ越してずっと会ってなかっただけで、実は俺達別れてないからな」
確かにそうだ。
あの当時は偽物の彼女だったけど、私の急な転校で、関係を解消する言葉なんて交わしていない。
「えっ、……じゃあ待って。……大学の時、私と関係持ったのは、何?」
明らかにゆりさんは動揺している。
どうやらこの人、先輩と一線を超えた関係を持ってたんだ。だからこそ、周りの人を威嚇して、牽制してるんだ。
「あの頃も今も、ずっと言ってたよな。俺には好きな子がいる。
関係を持っても心は彼女のものだからって。彼女ヅラするなって」
「でも越智くん、大学途中から、女の子達みんな関係切って行ったじゃない。
その時に言ってたよね、『ずっと忘れられない』って。
それ、初めての時の事じゃないの?
私の事を忘れられないから、そう言っていたんじゃないの?」
……聞いていて頭が痛くなって来た。
朝一番、人の多い場所で話す事ではない。この人、かなりイタイ人だ。
先輩も、よりによって何故この人と関係を持ってしまったんだろう。
他人事だけど、他人事ではない。
「はあ? 俺は、里美と会えなくて荒れていたのは事実だけど。
声かけられたら割り切った奴の相手になったけど。
実際別れた訳じゃないし、『ずっと忘れられない』のは、この里美の事だ。
大学時代、荒れたオンナ関係を清算したのは、松山に帰省して里美を見てきたからであって。
里美に相応しい男になりたいと思ったから、全ての関係を切っただけで、中山の為じゃない。
週末、松山に帰省して、里美のご両親に挨拶に行くからもう、付き纏うのやめろよ」
「何言ってるの? こんな子の何処がいいの? 見た目なんて完全に私の方が…」
ゆりさんの声を遮ったのは、先輩の冷たい視線だ。
「……いい加減人を見た目で判断するの止めろ。
俺は十二年前から、里美の全てに惚れてるんだ。
見た目だけ取り繕って中身がそんなクズな女なんて誰も本気で相手にされないだろ。
あ、だからか。お前、高田部長の愛人やってるの」
その言葉に、私もゆりさんも固まった。
「部長の愛人の隠れ蓑にされるのも迷惑な話なんだけど。
これ以上俺達に迷惑かけるなら、証拠写真、メールでばらまくけど?」
先輩はそう言って、自分のスマホから、とある画像をゆりさんに見せた。
そこには、四十代後半と見られる落ち着きある男性と腕を組んでいるゆりさんの写真が映し出されている。
「それっ……」
みるみるうちに、ゆりさんの顔色が変わっていく。先輩の言葉を裏付ける証拠だろう。
「それから、この会話、ボイレコで音声録音してるから。
俺は仕事柄、ボイレコ持ち歩いてるの知ってるよな?
これは取引記録の為だけじゃない、お互いの身を守る為にもある。
だから下手な言い逃れはやめろよ?
……俺からの条件は、今後、俺達二人に関わるな。それが守れないなら、どうなるか。
良く考えろ。あと、公私混同はやめろ。社会人として見苦しいぞ」
先輩はそう言い捨て、私の手を引いてコーヒーショップから立ち去った。
振り返って見たゆりさんは、まだ席で固まったままだった。
先輩に手を引かれたまま店を出た私達。
思ったより早く話は済んだものの、内容が衝撃的で私はプチパニックを起こしている。
なので、先輩に何度も名前を呼ばれている事にも気付かなかった。
先輩は、過去にあの人と……。
「……み、……里美!」
突然耳に届いた先輩の声に、全身がビクっとなる。
「俺側のトラブルに巻き込んで申し訳ない」
コーヒーショップを出てすぐの路地裏に 連れて行かれ、先輩に頭を下げられた。
私のキャパは既にオーバーしている。
先輩が、あの女性と過去に男女の関係があった事。
これはまあどうでもいい事はないけど、今はどうでもいい。
先輩にストーカー紛いな行為をし、職場の上司と不倫をしていた挙げ句の果てに、先輩を不倫の隠れ蓑にしようとするあの人の強かさ、図々しさに、腹が立ってきた。
と同時に、先輩の身辺が心配になってきた。
「先輩、大丈夫ですか?」
私の方がよっぽど動揺していたのだろう。
先輩に抱きしめられて、初めて自分が震えていたのを自覚した。
先輩は何も言わず、私の震えが治まるまでこのままでいてくれた。
ようやく震えが止まった頃に抱擁を解いてくれ、私の顔を覗き込みながら話してくれる。
「里美、ありがとう。沢山嫌な思いさせてごめんな……。
話したい事がいっぱいあるから、今日の仕事帰り、部屋に寄ってもいいか?」
きっと、先輩側の事情を知っておいた方がいいのだろう。
今週末、私も自分の都合に先輩を巻き込んでしまうのだから。
頷いて、時間を確認すると、ちょうどいい頃合いになっていた。
改めて先輩から会社を出る前に連絡を貰う約束をすると、私は会社へ向かった。
* * *
いつもと同じ時間に会社へ到着した私は、すぐに事務服に着替えて総務の部屋に向かった。
朝礼が終わり、先週各部署宛に纏めた荷物を配る為に倉庫へ向かう途中、藤岡主任に呼び止められる。
「昼休み、ランチミーティングするから」
その一言だけで、拒否権などない。
きっと主任は、私の様子がいつもと違う事を察したのだろう。そして、その原因が、越智先輩だと言う事を。
私は、気持ちを切り替えて業務に就いた。
日頃、対人関係でトラブルのない私でも、この人に対しては初対面で不快感を覚えた。
先輩にも、内心イラっとしているのが伝わるのだろう。
彼女の態度、社会人として余りにも最低だ。
「ああ、紹介するよ。高校時代からの彼女で、五十嵐里美。週末、里美の実家に挨拶に行くから」
先輩の先制攻撃に、ゆりさんの表情が固まった。
「十二年前に、里美が引っ越してずっと会ってなかっただけで、実は俺達別れてないからな」
確かにそうだ。
あの当時は偽物の彼女だったけど、私の急な転校で、関係を解消する言葉なんて交わしていない。
「えっ、……じゃあ待って。……大学の時、私と関係持ったのは、何?」
明らかにゆりさんは動揺している。
どうやらこの人、先輩と一線を超えた関係を持ってたんだ。だからこそ、周りの人を威嚇して、牽制してるんだ。
「あの頃も今も、ずっと言ってたよな。俺には好きな子がいる。
関係を持っても心は彼女のものだからって。彼女ヅラするなって」
「でも越智くん、大学途中から、女の子達みんな関係切って行ったじゃない。
その時に言ってたよね、『ずっと忘れられない』って。
それ、初めての時の事じゃないの?
私の事を忘れられないから、そう言っていたんじゃないの?」
……聞いていて頭が痛くなって来た。
朝一番、人の多い場所で話す事ではない。この人、かなりイタイ人だ。
先輩も、よりによって何故この人と関係を持ってしまったんだろう。
他人事だけど、他人事ではない。
「はあ? 俺は、里美と会えなくて荒れていたのは事実だけど。
声かけられたら割り切った奴の相手になったけど。
実際別れた訳じゃないし、『ずっと忘れられない』のは、この里美の事だ。
大学時代、荒れたオンナ関係を清算したのは、松山に帰省して里美を見てきたからであって。
里美に相応しい男になりたいと思ったから、全ての関係を切っただけで、中山の為じゃない。
週末、松山に帰省して、里美のご両親に挨拶に行くからもう、付き纏うのやめろよ」
「何言ってるの? こんな子の何処がいいの? 見た目なんて完全に私の方が…」
ゆりさんの声を遮ったのは、先輩の冷たい視線だ。
「……いい加減人を見た目で判断するの止めろ。
俺は十二年前から、里美の全てに惚れてるんだ。
見た目だけ取り繕って中身がそんなクズな女なんて誰も本気で相手にされないだろ。
あ、だからか。お前、高田部長の愛人やってるの」
その言葉に、私もゆりさんも固まった。
「部長の愛人の隠れ蓑にされるのも迷惑な話なんだけど。
これ以上俺達に迷惑かけるなら、証拠写真、メールでばらまくけど?」
先輩はそう言って、自分のスマホから、とある画像をゆりさんに見せた。
そこには、四十代後半と見られる落ち着きある男性と腕を組んでいるゆりさんの写真が映し出されている。
「それっ……」
みるみるうちに、ゆりさんの顔色が変わっていく。先輩の言葉を裏付ける証拠だろう。
「それから、この会話、ボイレコで音声録音してるから。
俺は仕事柄、ボイレコ持ち歩いてるの知ってるよな?
これは取引記録の為だけじゃない、お互いの身を守る為にもある。
だから下手な言い逃れはやめろよ?
……俺からの条件は、今後、俺達二人に関わるな。それが守れないなら、どうなるか。
良く考えろ。あと、公私混同はやめろ。社会人として見苦しいぞ」
先輩はそう言い捨て、私の手を引いてコーヒーショップから立ち去った。
振り返って見たゆりさんは、まだ席で固まったままだった。
先輩に手を引かれたまま店を出た私達。
思ったより早く話は済んだものの、内容が衝撃的で私はプチパニックを起こしている。
なので、先輩に何度も名前を呼ばれている事にも気付かなかった。
先輩は、過去にあの人と……。
「……み、……里美!」
突然耳に届いた先輩の声に、全身がビクっとなる。
「俺側のトラブルに巻き込んで申し訳ない」
コーヒーショップを出てすぐの路地裏に 連れて行かれ、先輩に頭を下げられた。
私のキャパは既にオーバーしている。
先輩が、あの女性と過去に男女の関係があった事。
これはまあどうでもいい事はないけど、今はどうでもいい。
先輩にストーカー紛いな行為をし、職場の上司と不倫をしていた挙げ句の果てに、先輩を不倫の隠れ蓑にしようとするあの人の強かさ、図々しさに、腹が立ってきた。
と同時に、先輩の身辺が心配になってきた。
「先輩、大丈夫ですか?」
私の方がよっぽど動揺していたのだろう。
先輩に抱きしめられて、初めて自分が震えていたのを自覚した。
先輩は何も言わず、私の震えが治まるまでこのままでいてくれた。
ようやく震えが止まった頃に抱擁を解いてくれ、私の顔を覗き込みながら話してくれる。
「里美、ありがとう。沢山嫌な思いさせてごめんな……。
話したい事がいっぱいあるから、今日の仕事帰り、部屋に寄ってもいいか?」
きっと、先輩側の事情を知っておいた方がいいのだろう。
今週末、私も自分の都合に先輩を巻き込んでしまうのだから。
頷いて、時間を確認すると、ちょうどいい頃合いになっていた。
改めて先輩から会社を出る前に連絡を貰う約束をすると、私は会社へ向かった。
* * *
いつもと同じ時間に会社へ到着した私は、すぐに事務服に着替えて総務の部屋に向かった。
朝礼が終わり、先週各部署宛に纏めた荷物を配る為に倉庫へ向かう途中、藤岡主任に呼び止められる。
「昼休み、ランチミーティングするから」
その一言だけで、拒否権などない。
きっと主任は、私の様子がいつもと違う事を察したのだろう。そして、その原因が、越智先輩だと言う事を。
私は、気持ちを切り替えて業務に就いた。
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