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お見舞い 2
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病院内は広くて迷子になりそうだったけれど、看護師さんを捕まえて病室の場所を聞いて、何とか辿り着いた。
二人とも、ドアの前で深呼吸して、いざ覚悟を決めてノックをすると中から返事があり、私達は意を決して中に入った。
ドアをスライドさせて中に入ると、右足を固定されて吊るされている祖父がベッドの上で横になっていた。
側には祖母ではなく、知らない男性がいた。
「おお、里美。待ちくたびれたぞ。早くこっちに来て。……そちらが、彼氏かい?」
祖父が私達を招き入れると、その男性は見舞い者用の椅子から立ち上がって微笑んだ。
私達は、どうすればいいのか分からず、ひとまず会釈をしてその男性の逆側のベッドに回り挨拶をした。
「おはよう、おじいちゃん。来るのが遅くなってごめんなさい。
うん、こちら、高校時代の先輩で最近お付き合い始めた越智直哉さん。直哉さん、祖父です」
私の声に被せ気味に、直哉さんが口を開く。
「初めまして、越智と申します。
里美さんとは結婚を前提としてお付き合いをさせて頂いております。
昨日、お互いの両親に挨拶をさせて頂きました。こちらに伺うのが遅くなり申し訳ございません」
祖父と、私達の反対側にいる男性は、呆気にとられて目をパチクリさせている。
「あ、ああ……。昨日、和之が言ってたな。
こちらは早紀さんの弟さんの子だから早紀さんの甥っ子になる本条英樹くん。
里美の見合い相手の予定だったんだけどな」
祖父の言葉の後を継いで、本条さんが私達に挨拶をした。
「本条英樹です。初めてまして。……ではないんだけど、覚えてないかな。
小さい頃、早紀おばちゃんちで何度か会って遊んだ事もあるんだけど……」
和之とは私の父の名前で、早紀さんとは、父の兄である隆之伯父さんの奥さんだ。
伯母さんの弟さんの子供なら、私達は伯父さん夫婦の甥っ子姪っ子に当たる。
本条さんの言葉から、昔の記憶を手繰り寄せるものの、父の転勤による引っ越しで色んな所を渡り歩いた私の記憶はごちゃごちゃになっており、申し訳ないけれどすんなりと思い出すのは難しい。
「ごめんなさい。それはいつ頃のお話ですか?」
正直に本人に伝えると、参ったなぁと頭を掻きながらも本条さんは答えてくれる。
「里美ちゃんがまだ小さい頃だよ。
夏休みにさ、五色姫のビーチにみんなで一緒に海水浴にも行った事があるんだよ。
波が怖いからって、浮き輪を持って浅瀬で遊んでたの覚えてない?」
幼少期の記憶で、海に関する事を考えていると、ふと思い出しのは……。
「……ゲリラ豪雨に遭遇した時の?」
家族と親戚と一緒に、伊予市にある海水浴場に行った時、突然ゲリラ豪雨に遭遇して海で遊べなくて大泣きした私に、優しく寄り添ってくれたお兄ちゃんの記憶が蘇る。
「そう、あの時、里美ちゃんに泣かれてどうしようって思って。
花火を買って、夜みんなでやろうって言ってやっと泣き止んだよね」
そう言えば、そんな事もあった様な……。
隆之伯父さん夫婦には子供が居らず、私も一人っ子だった為、随分可愛がって貰っていた。
「幸雄さんから、あの時の子とお見合いしないかって話を貰って、懐かしくてお受けしたんだけど……。
里美ちゃん、キチンと彼氏居るんじゃ僕の出る幕はないですね。
里美ちゃんとは二十年以上会ってなくて、今日会えるのを楽しみにしていたんだよ」
本条さんはそう言って祖父の一存で話が進んでいた事に軽く触れ、祖父はまさか私が本当に彼氏を連れて帰って来ると思っていなかったからか、肩身が狭そうだ。
「本条さん、すみません。里美さんは、僕のものですから」
直哉さんがそう言って牽制するものだから、私は恥ずかしくて見る見るうちに赤面してしまう。
そんな私を見て、祖父も本条さんも笑っている。
「さて、里美ちゃんにも会えた事ですから、僕はもう帰りますね。里美ちゃん、越智さん、お幸せに」
本条さんはそう言い残して病室から出て行った。
病室に残された私達は、見送りに出ようとしたけれど本条さんに制された。
病室に残された私達は、しばらく沈黙していたけれど、その沈黙を破ったのは祖父だった。
「越智くんと言ったかな? 君は何処の出身かな?」
祖父の問いに、直哉さんは松山が地元であり、実家は祖父の家からまあまあ近い事、私達は高校時代同じ高校だった事等を答えた。
「……もしかして、由美子さんのお孫さんか?」
「祖母をご存知ですか?」
「知ってるも何も、由美ちゃんはワシの幼馴染で初恋の人だ!」
……おじいちゃん、この場におばあちゃんが居なくて良かったね。
祖父の顔は、恋する少年の様に目が輝いて、頬も上気してほんのりと紅い。
「そうかそうか、由美ちゃんのお孫さんか。で、いつ結婚するんだ?」
……は? 何故そこまで話が飛ぶ?
と言うか、何故私の結婚をそこまで焦るの?
入院して気落ちしていると聞いていたけど、見る限りピンピンしているし、かなり元気そうだ。
「五十嵐の家は、孫は結局里美だけだから、早く里美の花嫁姿が見たいんだよ」
祖父はそう言って笑っている。
「あのね、まだ付き合って間もないから」
「許可さえ頂ければ、今日にでも籍だけ先に入れますが」
私の言葉に被せる様に、直哉さんが発言する。
……は? 今、何て?
二人とも、ドアの前で深呼吸して、いざ覚悟を決めてノックをすると中から返事があり、私達は意を決して中に入った。
ドアをスライドさせて中に入ると、右足を固定されて吊るされている祖父がベッドの上で横になっていた。
側には祖母ではなく、知らない男性がいた。
「おお、里美。待ちくたびれたぞ。早くこっちに来て。……そちらが、彼氏かい?」
祖父が私達を招き入れると、その男性は見舞い者用の椅子から立ち上がって微笑んだ。
私達は、どうすればいいのか分からず、ひとまず会釈をしてその男性の逆側のベッドに回り挨拶をした。
「おはよう、おじいちゃん。来るのが遅くなってごめんなさい。
うん、こちら、高校時代の先輩で最近お付き合い始めた越智直哉さん。直哉さん、祖父です」
私の声に被せ気味に、直哉さんが口を開く。
「初めまして、越智と申します。
里美さんとは結婚を前提としてお付き合いをさせて頂いております。
昨日、お互いの両親に挨拶をさせて頂きました。こちらに伺うのが遅くなり申し訳ございません」
祖父と、私達の反対側にいる男性は、呆気にとられて目をパチクリさせている。
「あ、ああ……。昨日、和之が言ってたな。
こちらは早紀さんの弟さんの子だから早紀さんの甥っ子になる本条英樹くん。
里美の見合い相手の予定だったんだけどな」
祖父の言葉の後を継いで、本条さんが私達に挨拶をした。
「本条英樹です。初めてまして。……ではないんだけど、覚えてないかな。
小さい頃、早紀おばちゃんちで何度か会って遊んだ事もあるんだけど……」
和之とは私の父の名前で、早紀さんとは、父の兄である隆之伯父さんの奥さんだ。
伯母さんの弟さんの子供なら、私達は伯父さん夫婦の甥っ子姪っ子に当たる。
本条さんの言葉から、昔の記憶を手繰り寄せるものの、父の転勤による引っ越しで色んな所を渡り歩いた私の記憶はごちゃごちゃになっており、申し訳ないけれどすんなりと思い出すのは難しい。
「ごめんなさい。それはいつ頃のお話ですか?」
正直に本人に伝えると、参ったなぁと頭を掻きながらも本条さんは答えてくれる。
「里美ちゃんがまだ小さい頃だよ。
夏休みにさ、五色姫のビーチにみんなで一緒に海水浴にも行った事があるんだよ。
波が怖いからって、浮き輪を持って浅瀬で遊んでたの覚えてない?」
幼少期の記憶で、海に関する事を考えていると、ふと思い出しのは……。
「……ゲリラ豪雨に遭遇した時の?」
家族と親戚と一緒に、伊予市にある海水浴場に行った時、突然ゲリラ豪雨に遭遇して海で遊べなくて大泣きした私に、優しく寄り添ってくれたお兄ちゃんの記憶が蘇る。
「そう、あの時、里美ちゃんに泣かれてどうしようって思って。
花火を買って、夜みんなでやろうって言ってやっと泣き止んだよね」
そう言えば、そんな事もあった様な……。
隆之伯父さん夫婦には子供が居らず、私も一人っ子だった為、随分可愛がって貰っていた。
「幸雄さんから、あの時の子とお見合いしないかって話を貰って、懐かしくてお受けしたんだけど……。
里美ちゃん、キチンと彼氏居るんじゃ僕の出る幕はないですね。
里美ちゃんとは二十年以上会ってなくて、今日会えるのを楽しみにしていたんだよ」
本条さんはそう言って祖父の一存で話が進んでいた事に軽く触れ、祖父はまさか私が本当に彼氏を連れて帰って来ると思っていなかったからか、肩身が狭そうだ。
「本条さん、すみません。里美さんは、僕のものですから」
直哉さんがそう言って牽制するものだから、私は恥ずかしくて見る見るうちに赤面してしまう。
そんな私を見て、祖父も本条さんも笑っている。
「さて、里美ちゃんにも会えた事ですから、僕はもう帰りますね。里美ちゃん、越智さん、お幸せに」
本条さんはそう言い残して病室から出て行った。
病室に残された私達は、見送りに出ようとしたけれど本条さんに制された。
病室に残された私達は、しばらく沈黙していたけれど、その沈黙を破ったのは祖父だった。
「越智くんと言ったかな? 君は何処の出身かな?」
祖父の問いに、直哉さんは松山が地元であり、実家は祖父の家からまあまあ近い事、私達は高校時代同じ高校だった事等を答えた。
「……もしかして、由美子さんのお孫さんか?」
「祖母をご存知ですか?」
「知ってるも何も、由美ちゃんはワシの幼馴染で初恋の人だ!」
……おじいちゃん、この場におばあちゃんが居なくて良かったね。
祖父の顔は、恋する少年の様に目が輝いて、頬も上気してほんのりと紅い。
「そうかそうか、由美ちゃんのお孫さんか。で、いつ結婚するんだ?」
……は? 何故そこまで話が飛ぶ?
と言うか、何故私の結婚をそこまで焦るの?
入院して気落ちしていると聞いていたけど、見る限りピンピンしているし、かなり元気そうだ。
「五十嵐の家は、孫は結局里美だけだから、早く里美の花嫁姿が見たいんだよ」
祖父はそう言って笑っている。
「あのね、まだ付き合って間もないから」
「許可さえ頂ければ、今日にでも籍だけ先に入れますが」
私の言葉に被せる様に、直哉さんが発言する。
……は? 今、何て?
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