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帰郷 2
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両親には、付き合い始めた時に、彼氏が出来た事は報告していた。
松山出身で高校時代に知り合って、一時期付き合っていた(偽カノと言うのは内緒)事も伝えている。
ただ、両親は私の言葉を信用していない節がある。
今の今まで男の人と付き合った事がなく、男っ気すらなかった娘が、見合いが嫌だからと言い逃れに彼氏が出来たと言っているとでも思っているのだろう。
見合いの話は、祖父が乗り気になっているらしく、相手も祖父の知り合いの方だと言うが、果たしてきちんとお断りして貰っているのか……。
その不安もあり、今回先輩が無理矢理一緒に帰省してくれた事は、ある意味有り難かった。
最悪、明日、祖父のお見舞いに一緒に来て貰って祖父に紹介すれば、祖父もお見合いの話は諦めてくれるだろう。
下手すれば、今日の帰省の時に騙し討ちでお見合いの席に連れて行かれる可能性だってあるのだから……。
私の考えている事はお見通しなのか、先輩は私にだけ聞こえる大きさの声で話をする。
「仮に今日、見合いの席があったとしても、俺も同席して一緒にお断りしよう」
先輩の言葉が心に響く。
この人を好きになって良かったと思う。ここまで大切にして貰えると思ってもみなかった。
私は先輩の言葉に頷いて、握られた手をそっと握り返した。
「合流の場所、まだ決めてないので連絡入れてみるね」
私はスマホを取り出すと、母宛にメッセージを送る。
『松山に到着しました。彼も一緒に来てくれてます。何時に何処で待ち合わせする?』
送信して程なくして、母から返信が届いた。
『本当に彼氏いたの? お見合い断る口実かと思ってた! 十五時に大街道にある百貨店のライオン像前で待ってます』
母からのメッセージの待ち合わせを修二くんに伝えると、それなら充分時間があるし、四人で集まる事なんて滅多にないから遊ぼうと言う事になり……。
JR松山駅前にあるボーリング場に行く事になった。
ボーリングだけでなく、色々な娯楽施設、そして天然温泉もあるそこは、丸一日居ても楽しめる。
ホテルも近いので、お昼近くまでそこでボーリングをしたり、カラオケをしたり、食事もそこで済ませた。
昼食を済ませ、十四時から結婚式場で打ち合わせのある修二くん達と別れて、私達は時間潰しに施設内を散策した。
ホテルへのチェックインが十四時からなので、それまで束の間の二人だけのデートタイムだ。
思えば、こうやって休日に二人で過ごすなんて、初めての事だ。
しかも、二人が出会った松山で、こうやって一緒に居られるとは夢にも思わなかっただけに、今更ながら改めて先輩の彼女になれた実感が湧いてきた。
そして相変わらず、私の右手は先輩の左手と繋がっている。
繋がれた手を見つめていると、先輩は優しく握りしめてくれた。
先輩と一緒にいるだけで、たわいもないひとときが、かけがえのない時間になる。
本当に今、幸せだ。後は、うちの両親と祖父が先輩を受け入れてくれるなら……。
見合い話がなくなれば、今度は先輩との今後をうるさくせっつかれるだろう。
先輩に迷惑をかけてしまうけれど、適当に話を合わせて貰う様にお願いしなければ。
「……先輩、お願いがあるんですけど」
身長の高い先輩を見上げると、先輩は逆に私にお願いをしてきた。
「里美、俺の事、いい加減先輩じゃなくて名前で呼んで?」
そう言えば、再会したその日にも、名前呼びをお願いされたっけ……。
でも、いざ名前で呼ぼうものなら、照れが入ってしまう。第一、何て呼べばいいんだろう。
直くん? 直哉くん? いやいや、仮にも年上の人にくんは失礼だろう。
直さん? だと、バレー部後輩の人達と呼び方が一緒だし……。
やっぱり無難なのは、直哉さん……?
ふと、再会した日にお酒が入った勢いで、一度だけ直哉さんと呼んだ時の事を思い出す。
あの時、確か先輩も名前で呼ばれて照れてなかった……?
きっと私は照れて名前で呼べないと思っているかも知れないので、不意打ちで名前を呼んでみよう。
「はい、それは追い追い……」
「いや、追い追いじゃダメだろ。ご両親の前でも俺の事『先輩』呼びするのか?」
そう言われると、返す言葉が出てこない。
「さ、練習するぞ。で、お願いって?」
……って、ええっ、何か先輩のペースになってない?
アタフタしている私を見て、クスクス笑ってるし。何だかなぁ……。
先輩に流されそうになりつつも、両親や祖父母に紹介した後の対応について話そうとすると……。
「どうせならついでに今晩、うちの両親にも会っとく? お互いの両親に紹介が済めば、後は話は早いし」
……はい? それは、もしや……。
「この年齢で付き合うんだから、遊びなんかじゃない。きちんと先の事も考えてる。
……もう、余裕がないくらいに、里美を誰にも渡したくないんだ。
それなら里美のご両親やお祖父さん達も納得するだろ?
それに、今お互いが住んでるマンションだって近所なんだし、うちに引っ越してくれば家賃も浮くし。
ついでだから、この機会に一緒に暮らす事も許可して貰いたい。
きちんとしたプロポーズは、指輪も用意してないからまた改めるけど、俺はそのつもりで付き合ってるから。
里美も覚悟しといて」
話が飛躍し過ぎて、思考回路がショートしそうだ。
本当に、私でいいの?
十二年会わずにいて、最近再会したばかりなのに、それでもう仮プロポーズ……?
先輩……、いや、直哉さん。私は今が一番幸せです。
松山出身で高校時代に知り合って、一時期付き合っていた(偽カノと言うのは内緒)事も伝えている。
ただ、両親は私の言葉を信用していない節がある。
今の今まで男の人と付き合った事がなく、男っ気すらなかった娘が、見合いが嫌だからと言い逃れに彼氏が出来たと言っているとでも思っているのだろう。
見合いの話は、祖父が乗り気になっているらしく、相手も祖父の知り合いの方だと言うが、果たしてきちんとお断りして貰っているのか……。
その不安もあり、今回先輩が無理矢理一緒に帰省してくれた事は、ある意味有り難かった。
最悪、明日、祖父のお見舞いに一緒に来て貰って祖父に紹介すれば、祖父もお見合いの話は諦めてくれるだろう。
下手すれば、今日の帰省の時に騙し討ちでお見合いの席に連れて行かれる可能性だってあるのだから……。
私の考えている事はお見通しなのか、先輩は私にだけ聞こえる大きさの声で話をする。
「仮に今日、見合いの席があったとしても、俺も同席して一緒にお断りしよう」
先輩の言葉が心に響く。
この人を好きになって良かったと思う。ここまで大切にして貰えると思ってもみなかった。
私は先輩の言葉に頷いて、握られた手をそっと握り返した。
「合流の場所、まだ決めてないので連絡入れてみるね」
私はスマホを取り出すと、母宛にメッセージを送る。
『松山に到着しました。彼も一緒に来てくれてます。何時に何処で待ち合わせする?』
送信して程なくして、母から返信が届いた。
『本当に彼氏いたの? お見合い断る口実かと思ってた! 十五時に大街道にある百貨店のライオン像前で待ってます』
母からのメッセージの待ち合わせを修二くんに伝えると、それなら充分時間があるし、四人で集まる事なんて滅多にないから遊ぼうと言う事になり……。
JR松山駅前にあるボーリング場に行く事になった。
ボーリングだけでなく、色々な娯楽施設、そして天然温泉もあるそこは、丸一日居ても楽しめる。
ホテルも近いので、お昼近くまでそこでボーリングをしたり、カラオケをしたり、食事もそこで済ませた。
昼食を済ませ、十四時から結婚式場で打ち合わせのある修二くん達と別れて、私達は時間潰しに施設内を散策した。
ホテルへのチェックインが十四時からなので、それまで束の間の二人だけのデートタイムだ。
思えば、こうやって休日に二人で過ごすなんて、初めての事だ。
しかも、二人が出会った松山で、こうやって一緒に居られるとは夢にも思わなかっただけに、今更ながら改めて先輩の彼女になれた実感が湧いてきた。
そして相変わらず、私の右手は先輩の左手と繋がっている。
繋がれた手を見つめていると、先輩は優しく握りしめてくれた。
先輩と一緒にいるだけで、たわいもないひとときが、かけがえのない時間になる。
本当に今、幸せだ。後は、うちの両親と祖父が先輩を受け入れてくれるなら……。
見合い話がなくなれば、今度は先輩との今後をうるさくせっつかれるだろう。
先輩に迷惑をかけてしまうけれど、適当に話を合わせて貰う様にお願いしなければ。
「……先輩、お願いがあるんですけど」
身長の高い先輩を見上げると、先輩は逆に私にお願いをしてきた。
「里美、俺の事、いい加減先輩じゃなくて名前で呼んで?」
そう言えば、再会したその日にも、名前呼びをお願いされたっけ……。
でも、いざ名前で呼ぼうものなら、照れが入ってしまう。第一、何て呼べばいいんだろう。
直くん? 直哉くん? いやいや、仮にも年上の人にくんは失礼だろう。
直さん? だと、バレー部後輩の人達と呼び方が一緒だし……。
やっぱり無難なのは、直哉さん……?
ふと、再会した日にお酒が入った勢いで、一度だけ直哉さんと呼んだ時の事を思い出す。
あの時、確か先輩も名前で呼ばれて照れてなかった……?
きっと私は照れて名前で呼べないと思っているかも知れないので、不意打ちで名前を呼んでみよう。
「はい、それは追い追い……」
「いや、追い追いじゃダメだろ。ご両親の前でも俺の事『先輩』呼びするのか?」
そう言われると、返す言葉が出てこない。
「さ、練習するぞ。で、お願いって?」
……って、ええっ、何か先輩のペースになってない?
アタフタしている私を見て、クスクス笑ってるし。何だかなぁ……。
先輩に流されそうになりつつも、両親や祖父母に紹介した後の対応について話そうとすると……。
「どうせならついでに今晩、うちの両親にも会っとく? お互いの両親に紹介が済めば、後は話は早いし」
……はい? それは、もしや……。
「この年齢で付き合うんだから、遊びなんかじゃない。きちんと先の事も考えてる。
……もう、余裕がないくらいに、里美を誰にも渡したくないんだ。
それなら里美のご両親やお祖父さん達も納得するだろ?
それに、今お互いが住んでるマンションだって近所なんだし、うちに引っ越してくれば家賃も浮くし。
ついでだから、この機会に一緒に暮らす事も許可して貰いたい。
きちんとしたプロポーズは、指輪も用意してないからまた改めるけど、俺はそのつもりで付き合ってるから。
里美も覚悟しといて」
話が飛躍し過ぎて、思考回路がショートしそうだ。
本当に、私でいいの?
十二年会わずにいて、最近再会したばかりなのに、それでもう仮プロポーズ……?
先輩……、いや、直哉さん。私は今が一番幸せです。
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