24 / 53
今更です。 2
しおりを挟む
公園に面した通りは人通りが少なく、きっと邪魔も入らない。
「あのさ……」
「あのっ」
タイミングが重なって、どちらともなく口を閉ざす。
「先輩、お先にどうぞ」
「いや、里美から……、てか呼び方戻ってる」
先輩は、また私の右手を握りしめる。一体どうしたのだろう。
「名前では呼べませんよ」
「なんで?」
「……本当にお付き合いしている訳ではないじゃないですか。
どうせまた、十二年前みたいに偽物の彼女、なんでしょう?」
私の言葉に、先輩が反応した。握られた右手が痛い。先輩の身体が私の方に向けられ、私の左肩を掴んだ。
「違う。
ーー里美は、十二年前から、俺のたった一人の彼女だ」
「違いませんよ。別に偽物の彼女のままで構いません。私もその方がお願いしやすい事がありますので」
私は、先輩の言葉を否定して、敢えて自分がこれ以上傷付かないようにガードを固める。
「里美……。あの時何も告げられず、俺の前から突然消えて、俺がどれだけショックだったか分かるか?」
先輩の言葉が、私の心を掻き乱す。
何で今更……。じゃあ、私の気持ちはどうなの?
貴方の言葉で傷付いて、傍にいるのが辛くて、立ち直れなくて、どんな思いで松山を離れたのか知らない癖に。
「……は、無理」
「ん? 何? 里美、もう一度言って?」
先輩は、私の顔を覗き込みながら尋ねた。
「『里美だけは無理』なんですよね」
「……!! それは……」
「今更何を言われても信用出来ません。でも……。こんな事お願い出来るのは、先輩しか……」
十二年前の感情が込み上げて来た。
私は先輩に悟られたくなくて、背中を見せる。
「……今朝、駅でお会いした女性絡みのニセカノ、ですよね。いいですよ、その話、お受けします。
それと交換条件で、先輩、申し訳ありませんが私の身内にニセカレをお願いします」
私の言葉に、私の手を握った手が反応した。
「昨日、母から電話があった件です。昨日の夕方メールが届いていて……。
今、父方の祖父が松山の病院に入院しているんです。
本人、入院した事でかなり気落ちしてる様で、自分の目の黒いうちに私の花嫁姿が見たいと言い出したとかで、お見合いの話をされました。
流石に私もそれは嫌なので、彼氏がいるって事にしたいんですが……。
その役、引き受けて貰えませんか?」
先輩は、瞠目してる。
そりゃそうだろう。ニセカノから、逆にニセカレの依頼を受けたんだから。しかも、私の家族相手にだから。
「母から来週土曜日に出来れば松山に戻れと連絡があったので、松山へ行って来ます。
その時に、先輩の事、話してもいいですか?」
「……く」
「は?」
「俺も一緒に行く、松山」
話は意外な方向へ向かっていく。
逆に断られる事を想像していたのに、一緒に帰省するなんて、思ってもみなかった。
「.……いえ、話をしに帰るだけなので、私一人で大丈夫です。
ただ、付き合ってる人の写真を見せろと言われる可能性があるので、写真、適当にラインして下さい」
「それなら、一緒の写真だな。でもここじゃ撮れないな、暗すぎる。
やっぱり、里美の部屋の方が信憑性あるんじゃないか?」
そう言われたら言い返せない……。
下唇を噛みながらそっぽを向く私に、先輩は嬉しそうな声で帰宅を促す。
「さ、そうと決まれば里美の部屋に行くぞ?」
「……え?」
「だって、写真撮るんだろ? ほら行くぞ!」
先輩は、私の手を引いて歩き始める。
……ニセカレ、本当にやる気なんだ。
「付き合い始めたばかりで部屋に上り込むのって、期待していいんだろ?」
「……ニセカレさん、写真撮ったらお引き取りください。そうじゃないなら部屋に入れません」
「えー、彼氏に対して冷たいなぁ」
「彼氏ではありません、ニセカレです」
「里美、ツンデレだからなぁ、部屋でデレろよ?」
「デレませんし。写真撮ったら帰って下さい」
「……なんか、懐かしいな、こんな言い合い」
先輩が、ふと急に過去を振り返る。
そうだ、初対面で言い合いになったんだっけ。私は口をつぐみ、先輩の反応を待つ。
先輩は、急に黙り込んだ私の繋いだままの右手を引き、立ち上がる様に促した。
私も釣られて立ち上がると、バランスを崩してしまい、そのまま先輩の胸に……。
先輩は、右手を私の背中に回して、そっと抱きしめた。
「……信用されていないのはよくわかった。でも、言わせてくれるか?
十二年前のあの言葉は……。彩奈に俺の気持ち、知られるのが恥ずかしかったからであって……」
「もういいです、今更だし」
先輩の言葉を遮る。
そして、私は先輩の胸に手を添わせると、思いっきり突き出して抱擁から逃れた。
これ以上聞いちゃダメだ。これ以上、踏み込んで来ないで。私の心が完全に壊れてしまう……。
「約束して下さい。お互い、偽カレ偽カノをしている時以外のスキンシップは辞めて下さい。
心臓が持ちません」
「……なら、偽カレ偽カノの時ならいいんだな?」
「……はぁ? スキンシップも限度がありますから。調子に乗らないで下さい。
……行きますよ」
結局は、先輩の言いなりになってしまう。
私達は、私の部屋へ向かった。
* * *
「……今晩はコロッケか、食いたいな」
部屋に上げて開口一番、先輩はキッチンスペースに確保していた私の明日のおかず用のコロッケを目敏く見つけ、口に入れた。
「勝手につまみ食いしないで下さいっ! それ、私の明日の夕飯のおかずなんですから」
「藤岡の彼女と一緒にメシ食ったんだろ? なら、俺にも食わせろよ」
「私は先輩の家政婦ではありませんから。早く写真撮ったら帰って下さい」
「あのさ……」
「あのっ」
タイミングが重なって、どちらともなく口を閉ざす。
「先輩、お先にどうぞ」
「いや、里美から……、てか呼び方戻ってる」
先輩は、また私の右手を握りしめる。一体どうしたのだろう。
「名前では呼べませんよ」
「なんで?」
「……本当にお付き合いしている訳ではないじゃないですか。
どうせまた、十二年前みたいに偽物の彼女、なんでしょう?」
私の言葉に、先輩が反応した。握られた右手が痛い。先輩の身体が私の方に向けられ、私の左肩を掴んだ。
「違う。
ーー里美は、十二年前から、俺のたった一人の彼女だ」
「違いませんよ。別に偽物の彼女のままで構いません。私もその方がお願いしやすい事がありますので」
私は、先輩の言葉を否定して、敢えて自分がこれ以上傷付かないようにガードを固める。
「里美……。あの時何も告げられず、俺の前から突然消えて、俺がどれだけショックだったか分かるか?」
先輩の言葉が、私の心を掻き乱す。
何で今更……。じゃあ、私の気持ちはどうなの?
貴方の言葉で傷付いて、傍にいるのが辛くて、立ち直れなくて、どんな思いで松山を離れたのか知らない癖に。
「……は、無理」
「ん? 何? 里美、もう一度言って?」
先輩は、私の顔を覗き込みながら尋ねた。
「『里美だけは無理』なんですよね」
「……!! それは……」
「今更何を言われても信用出来ません。でも……。こんな事お願い出来るのは、先輩しか……」
十二年前の感情が込み上げて来た。
私は先輩に悟られたくなくて、背中を見せる。
「……今朝、駅でお会いした女性絡みのニセカノ、ですよね。いいですよ、その話、お受けします。
それと交換条件で、先輩、申し訳ありませんが私の身内にニセカレをお願いします」
私の言葉に、私の手を握った手が反応した。
「昨日、母から電話があった件です。昨日の夕方メールが届いていて……。
今、父方の祖父が松山の病院に入院しているんです。
本人、入院した事でかなり気落ちしてる様で、自分の目の黒いうちに私の花嫁姿が見たいと言い出したとかで、お見合いの話をされました。
流石に私もそれは嫌なので、彼氏がいるって事にしたいんですが……。
その役、引き受けて貰えませんか?」
先輩は、瞠目してる。
そりゃそうだろう。ニセカノから、逆にニセカレの依頼を受けたんだから。しかも、私の家族相手にだから。
「母から来週土曜日に出来れば松山に戻れと連絡があったので、松山へ行って来ます。
その時に、先輩の事、話してもいいですか?」
「……く」
「は?」
「俺も一緒に行く、松山」
話は意外な方向へ向かっていく。
逆に断られる事を想像していたのに、一緒に帰省するなんて、思ってもみなかった。
「.……いえ、話をしに帰るだけなので、私一人で大丈夫です。
ただ、付き合ってる人の写真を見せろと言われる可能性があるので、写真、適当にラインして下さい」
「それなら、一緒の写真だな。でもここじゃ撮れないな、暗すぎる。
やっぱり、里美の部屋の方が信憑性あるんじゃないか?」
そう言われたら言い返せない……。
下唇を噛みながらそっぽを向く私に、先輩は嬉しそうな声で帰宅を促す。
「さ、そうと決まれば里美の部屋に行くぞ?」
「……え?」
「だって、写真撮るんだろ? ほら行くぞ!」
先輩は、私の手を引いて歩き始める。
……ニセカレ、本当にやる気なんだ。
「付き合い始めたばかりで部屋に上り込むのって、期待していいんだろ?」
「……ニセカレさん、写真撮ったらお引き取りください。そうじゃないなら部屋に入れません」
「えー、彼氏に対して冷たいなぁ」
「彼氏ではありません、ニセカレです」
「里美、ツンデレだからなぁ、部屋でデレろよ?」
「デレませんし。写真撮ったら帰って下さい」
「……なんか、懐かしいな、こんな言い合い」
先輩が、ふと急に過去を振り返る。
そうだ、初対面で言い合いになったんだっけ。私は口をつぐみ、先輩の反応を待つ。
先輩は、急に黙り込んだ私の繋いだままの右手を引き、立ち上がる様に促した。
私も釣られて立ち上がると、バランスを崩してしまい、そのまま先輩の胸に……。
先輩は、右手を私の背中に回して、そっと抱きしめた。
「……信用されていないのはよくわかった。でも、言わせてくれるか?
十二年前のあの言葉は……。彩奈に俺の気持ち、知られるのが恥ずかしかったからであって……」
「もういいです、今更だし」
先輩の言葉を遮る。
そして、私は先輩の胸に手を添わせると、思いっきり突き出して抱擁から逃れた。
これ以上聞いちゃダメだ。これ以上、踏み込んで来ないで。私の心が完全に壊れてしまう……。
「約束して下さい。お互い、偽カレ偽カノをしている時以外のスキンシップは辞めて下さい。
心臓が持ちません」
「……なら、偽カレ偽カノの時ならいいんだな?」
「……はぁ? スキンシップも限度がありますから。調子に乗らないで下さい。
……行きますよ」
結局は、先輩の言いなりになってしまう。
私達は、私の部屋へ向かった。
* * *
「……今晩はコロッケか、食いたいな」
部屋に上げて開口一番、先輩はキッチンスペースに確保していた私の明日のおかず用のコロッケを目敏く見つけ、口に入れた。
「勝手につまみ食いしないで下さいっ! それ、私の明日の夕飯のおかずなんですから」
「藤岡の彼女と一緒にメシ食ったんだろ? なら、俺にも食わせろよ」
「私は先輩の家政婦ではありませんから。早く写真撮ったら帰って下さい」
1
お気に入りに追加
481
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。
汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。
書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。
―――――――――――――――――――
ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。
傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。
―――なのに!
その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!?
恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆
「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」
*・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・*
▶Attention
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる