心の鍵はここにある

小田恒子

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心に鍵をかけた日 2

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「今の所、それはなさそうよ。きっとあの念書が効いたね。
 あれがなかったら、また里美ちゃんに嫌がらせしてる筈。
 でも、ホントあの子のおかげで助かったね。
 直が引退しても引き続きマネージャーやってくれると思わなかったから」

「ああ、確かに今の二年は助かるだろうな。思っていた以上に真面目な性格だから、あいつは」

「今はどうなの?」

「ああ、部活引退してからはなかなか会ってないな。下校時間が合わないのもあるし、里美は部活だし。
 何かあるのか?」

「んー。……ねえ、直。……ぶっちゃけ、里美ちゃんの事どう思ってるの?
 マネージャーをお願いする為に偽物の彼女にして守って来たじゃない。
 そろそろ、それ撤回して本当の彼女にしてもいいんじゃない?」

 彩奈先輩の言葉を聞いたさつきが驚いて私の方を見た。
 私は咄嗟にさつきの手を握る。
 思わず声が出そうになるのを必死で堪えながらもその場を離れられず、二人の会話を聞いた。
 そして、決定的な一言を耳にしてしまった。

「……里美だけは無理」

 そう言って直先輩は、その場を立ち去った様だ。
 彩奈先輩が何か反論しながら直先輩を追いかけて行って、この場に静寂が戻ると、さつきが私に色々と問いかけて来る。

「え?  どう言う事? 付き合ってるんじゃないの? 今の話、何?」

 私もさつきも混乱していた。

「とりあえず、お茶の準備に行こう。家庭科室で話をしよう」

 さつきに促されて家庭科室へ向かう。
 夏休みとあり、家庭科室に出入りするのは部活関連のマネージャーばかりだ。
 今日部活で登校しているのは、グラウンドにいる野球部とサッカー部、体育館のバレー部、武道館にいる剣道部、校内の各教室で分散している吹奏楽部。
 家庭科室にも、各部のマネージャーが出入りするので、なかなか落ち着かない。それに下手に話をして聞かれるとまずい内容だけに、今日はさつきにお泊りに来て貰う事にした。

「全部話してね、隠し事はなしだよ?」

 さつきの言葉に頷いて返事をした。
 今日は直先輩が部活に参加しているから、帰宅は一緒になるかも知れないけど、断ろう。
 あんな言葉を聞いた今、偽物でも彼女の振りをするのは無理だ。

 嫌われてはいないと思っていた。
 先輩が引退して、なかなか会う機会がなくなり、それでも『彼女』と言う肩書きに甘える事なく、自分なりに精一杯頑張って来たつもりだけど……。
 先輩には私は『無理』なんだ。
 私自身を否定するその言葉は、私の心を傷付けるには充分の凶器だった。
 その後の私は、何とか平静さを取り繕いながらもマネージャー業をさつきと一緒にこなした。
 部活が終わり、部員は部室で着替えを済ませて帰宅して行く中、私とさつきは体育館のモップがけをしていた。
 明日は体育館をバスケ部が使用する為、バレー部は休みだ。
 体育館は、バレー部、バスケ部、バドミントン部の3つがローテーションで使用している。

 通常は体育館を三分割して使用しているけれど、ボールやシャトルが飛んで来たりで他の部に迷惑がかかる為に、夏休み限定で一日体育館を貸し切り状態で各部が使用する事になったのは、数年前かららしい。
 但し、午前中は全学年補習があるので、実質使用出来るのは午後からだ。

 毎日の練習がないからどうなの?と言う声もあったけれど、他の部に気兼ねなく練習が出来るからいいと言う肯定的な意見が多く、毎年恒例になっているそうだ。
 体育館を使用する三つの部は、男女共にあるので、それぞれ体育館を半分に区切っても広々と使えるのだ。
 モップがけが終わり、戸締りと電気の消し忘れがないかを確認し、さつきと一緒に体育館を出ると……。
 直先輩が待っていた。着替えも終わり、自転車を体育館の側まで運んでいた。

「もう片付け終わったか?」

 直先輩の言葉に私達が頷く。

「久しぶりに送って行くから、早く着替えて来いよ」

 先輩の言葉に反応したのはさつきだった。

「先輩、ごめんなさい!
 今日は私、里美の家にお泊りするんで、一度私の家に寄ってから母に送って貰うんです。
 里美も一緒なので、今日は……」

 さつきの声に、目を見開き驚いた表情を見せた先輩は、私の顔を見た。
 私は、頷いてごめんなさいと謝ると、来月まで部活に顔を出せないと私に伝えて帰って行った。
 先輩がすんなりと帰宅してくれて良かった。
 きっと一緒にいると、私の態度が不自然になるのがわかってしまうだろうから。
 さつきと一緒に更衣室へ向かい、ジャージから制服に着替える。

「ねえ、詳しい事は後からゆっくり聞くけど、先輩っていつもあんな感じ?」

 脱いだジャージをスポーツバッグに入れながら私に話しかける。
 さつきは幼少期から長期休暇中に松山に帰省した時必ず一緒に遊んでいたので気心が知れているので、付き合いが楽だ。

「うん、いつもそう。
 私の事、甘やかすって言ってたけど、甘やかされた記憶がない。いつもからかわれて終わり」

「そうなんだ……。でもさ、直先輩って基本、女子に優しくないじゃない?
 彩奈先輩は従兄妹だから別だけど。
 女子生徒と一緒に居る所とか見た事ないし、里美と一緒に居るっての、かなりレアなんじゃないかな」

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