心の鍵はここにある

小田恒子

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覚悟を決めて 1

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 案内されたシャワールームに、自宅で使っているシャンプーセットを持ち込んで、空いている棚に置かせて貰う。
 まさか今日からこちらに住むと思っていなかったので、トラベルセットに入れた分しか持って来ていない。
 明日の荷物に、風呂場の道具一式入れておかなきゃな……。
 あと、下着と通勤着も。
 それよりも今日、これから自分にどんな事が起こるのか……。

 こんな事なら、大学時代にそんな話をしていた女の子達の話を照れずに聞いておけば良かったかも知れない。
 所属していたサークル(殆ど幽霊だったけど)で、女の子達が集まると、彼氏自慢やそっちの話で盛り上がっていて話について行けなくて、いつもそっと席を立っていた。
 今日は、いつも以上に丁寧に身体を洗い上げる。ボディソープは、直哉さんの物をお借りした。
 直哉さんと同じ匂いを感じ、一人照れてしまう。
 これからこうやって、毎日を過ごすのかな……。私の心臓は、うるさいくらいに脈打っている。
 鏡に映る私の顔は、既に真っ赤だ。

 あまりここに長くいると逆上のぼせてしまいそうなので、そろそろ出る事に。
 バスルームから出ると洗面所には、タオルとドライヤーが用意されていた。これを使いなさいと言う事らしい。
 浴室内で、フェイスタオルでざっと身体の水分は拭き取って出ていたけれど、バスタオルで改めて全身と髪を拭き、持って来た下着と部屋着を着用してからドライヤーをかける。
 スイッチを入れて少しすると、入口からノックが聞こえるので、ドライヤーを止めてドアを開ける。

「そこでドライヤーあててたら熱いだろ? エアコン効いてるし、こっちで乾かせばいいよ」

 直哉さんと入れ替わりでダイニングの椅子に座り、ドライヤーを当てる。
 その間に直哉さんもシャワーを浴びている。
 ダイニングテーブルの上には、グラスに注がれたミネラルウオーターが二つ置かれていた。
 グラスの中には、氷も入れられている。グラスの表面に薄っすらと結露した水滴がついているので、氷水は冷たくてきっと喉ごしが良さそうだ。
 その一つを手に取り、一気に飲み干した。

 浴室で思った以上に汗をかいていたのか、お代わりが欲しくなり、ペットボトルの水を再びグラスに注ぎ、今度はゆっくりと飲んだ。
 水を飲み終えグラスを流し台に持って行き、洗い流して水切り台に伏せて置き、ダイニングのコンセントにドライヤーのコードを差し込むと、髪を乾かした。
 粗方乾いた頃に直哉さんが出て来たので、直哉さんに座って貰い、昨日のお礼に今度は私が直哉さんの髪の毛を乾かした。

 やはり思っていた通り、髪の毛は柔らかい。再会した時に髪の毛の色が学生の頃と違って見えたのは、照明の当たり具合だったのか、太陽光の当たり具合だったのか、はたまた私の記憶違いだったのかと思っていたら……。
 謎が解けた。
 直哉さんは若白髪が凄くて白髪染めをしている様だ。黒で髪の毛に色を入れても、日数が経過すると色が抜けていくので、生え際は白くなっている。
 なかなか頭頂部なんて見る機会がなかったので、こんな事でもなければ気付けなかっただろう。
 髪を乾かして、ドライヤーを止めた。
 ドライヤーのコードを纏めて洗面所へ持って行き、戻ると直哉さんは冷蔵庫からアルコールを取り出した。

「里美も飲むか?」

 私に差し出したそれは、アルコール三%の缶チューハイだ。

「これの半分でいいよ。全部飲んじゃうと寝てしまいそう……。

「それは困るな、この後わかってる?」

 質問の意味は十分理解しているだけに、答えられない。赤面して俯く私に、直哉さんは優しく声を掛けてくれる。

「俺だって、ずっと片思いしていた子相手に、想いを受け入れて貰えて……。
 こんな事、初めてなんだ。だから、里美と一緒だ。緊張して、アルコール飲まなきゃ恥ずかしくて……」

 直哉さんの言葉に、思わず顔を上げる。
 直哉さんも、まだアルコールを摂取していないのに薄っすらと顔が赤い。

「今まで気持ちのない子を散々抱いて来て何を言ってるって思うかも知れないけど……。
 里美の事に関しては、もう誰にも譲れない。それだけ余裕もないし、今も早く自分の物にしたいって思ってる。
 アルコールで、これからの行為に対する里美の緊張が少しでも解けるなら、飲んで欲しい」

 直哉さんの言葉に素直に従って、缶チューハイを受け取った。
 それは、飲み口の優しい甘い柑橘系の物だった。
 プルタブを開けて、缶に直接口をつけると、口の中に、みかんの味が広がる。
 直哉さんはそんな私を見つめながら、缶ビールに口をつけている。

「もしかして、こっちの方が良かったか?」

 再会した時に、グラスに残っていたビールがあったのを思い出したのだろうか。
 私は首を横に振る。

「甘いお酒は酔いがまわるのが早いから、外では飲まないの。でも、家でも一本飲み切れないから……。
 ……余ったら、飲んでくれる?」

「ああ、任せとけ」

 ダイニングテーブルで向かい合わせで座り、お互い話をしながらお酒を飲む。

 三百五十mlの缶チューハイをようやく半分近く飲んだ辺りから、何だかフワフワと気持ち良くなって来た。
 ……酔いが回って来た様だ。
 そんな私の様子を直哉さんは見逃す筈はなく、缶チューハイを取り上げられると……。

「里美、あっちに行こうか」

 私は抱き上げられて寝室へと運ばれた。俗に言う『お姫様抱っこ』状態で、ダイニングから寝室まで運ばれた。
 寝室も、いつの間にエアコンが入っていたのか快適な温度で、思わず直哉さんの首にしがみついた。

「だいすき……」 

 囁きは、直哉さんの耳に届くか届かないかの小さな声だった。
 でも、その言葉は、直哉さんの耳に届いていた。
 ベッドの上に横たえられて、私の髪の毛を指ですくいながら、極上の甘いキスが降り注いでくる。
 唇に、まぶたに、おでこに、頬に、鼻の頭に、顎に、耳に、首筋に……。
 露出している肌全体に、優しい愛撫が施される。直哉さんの指先が、手のひらが、肌全体が熱を帯びている。
 全身で、私を欲しているのがわかる。
 私はお酒に酔っている事もあり、いつもだと言えない言葉も勢いに任せて言ってしまえそうだ。

「直哉さん……。私、うまく出来ないかも……。まだ、こんなこと、した事ないから……。だから……」

 私の言葉は、直哉さんの唇で塞がれる。蕩ける様な甘く、深いキスが落ちてくる。

「里美は何も気にしなくていい。ただ、感じてて。俺を……。里美の全てを、俺に見せて……」

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