心の鍵はここにある

小田恒子

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ご対面 1

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 直哉さんの突然の発言に、驚いて声が出なかったものの、無意識のうちに頷いていた私は現在、人目につかない隅の方へ連れて行かれ、その広い胸の中に抱きしめられている。
 数日前、告白されて想いが通じ合ったあの日以来だ。

「ヤバい、今日は実家に帰らず一緒にいたい。
 もしホテルの部屋が空いてたら差額払うから俺も一緒の部屋に泊まる」

 ……え?  一緒の部屋に泊まる……?
 えーーーっ、そんなっ、ち、ちょっと待って! 無理無理無理っ!
 だって、夜、直哉さんのご両親に会うんでしょう? それで自宅に帰らないって……。
 絶対そう言う目で見られるに決まってる。
 顔が真っ赤になっている私の顔を覗き込み、甘い表情の直哉さんは、耳元で囁いた。

「今日は何もしないって。一緒に居る事に慣れて貰う練習だから。
 そんなビジネスホテルの薄い壁の部屋で、そんな事はしないから。
 ……それとも、ちょっとは期待した?」

 直哉さんの意地悪な発言に睨み返すも、軽く流されてしまう。

「さ、そろそろチェックインの時間じゃないか? 行くぞ」

 何だか完全に振り回されている。
 直哉さんの後ろをついて歩くと、レジャー施設を出て、駅前通りの地下道に向かって行く。
 地下道を通って地上に出ると、JR通学をしているらしい高校生集団が、だる様な暑さの中、松山駅の方へ向かって歩いていた。
 補習で学校に出ていた帰りだろうか。その姿を見ている私に向かって、直哉さんが呟いた。

「高校時代が懐かしいな……! たった三ヶ月だったけど、里美と制服デートしてたの思い出すよ」

 私も同じ事を考えていたから、顔に笑みが浮かぶ。
 直哉さんの隣に駆け寄り、目的地であるビジネスホテルへと向かった。

 * * *

 ホテルに到着し、チェックインと部屋の変更手続きを済ませた。
 このホテルはシングルとツインしかないそうで、直哉さんも了承のもと、差額分をチェックアウト時に支払う事になり、部屋へと案内された。ビジネスホテルだけに部屋もそんなに広くはなく、やはり壁も薄そうだ。
 荷物を置いて、翌日の着替えをハンガーに掛けて吊るし、洗面道具やスキンケア一式を洗面台に置いてベッドに腰掛けた。
 直哉さんも着替えをバッグから取り出し、ベッドの上に置くと、私の隣にやって来て、私をベッドの上に優しく横たえた。

「里美、好きだよ」

 直哉さんはそう言うと、私を組み敷いて唇に優しいキスをした。
 私も直哉さんのキスに応えて、少し口を開くと、柔らかくて温かい舌が口の中に入って来た。
 直哉さんの舌に私の舌が絡め取られ、直哉さんの動きに私は次第に蕩けていく。
 初めての大人のキスが、こんなに気持ちのいい物だとは知らなかった。
 これはきっと、大好きな人との行為だから。
 そうじゃなかったら、多分私は気持ち悪いとあからさまに拒否しているだろう……。
 やがて、直哉さんの唇が私から離れて行くと、そこには銀色の糸が引いていた。
 直哉さんの視線は、あの日、初めてキスをした時の様に熱を帯びている。

「里美……。続きをしたいけど、ご両親との待ち合わせに遅れちゃいけないから、今はこれで我慢する」

 直哉さんは、最後にチュっとリップ音を立てて再度唇にキスを落とすと、私の上から身を起こし、ベッドの上に腰を下ろし、私を見下ろした。きっと今の私は締まりのない表情かおをしているだろう。
 キスの最中、私の手を握って指を絡ませていただけで他の場所に触れなかったけれど、それでも直哉さんの想いが伝わって来た。

「ほら、いつまでもそんな表情かおしてたら、また襲いたくなるから」

 直哉さんはそう言って私をベッドから起こし、化粧直しを促されて洗面所へ連れて来られた。

「口紅取れちゃったから、直した方がいいんじゃないか? 俺は部屋で待ってるから」

 確かに鏡に映る私の顔は、口紅はおろか、ファンデーションも汗で流れ落ちている。急いで化粧直しをした。
 化粧を直して時間を確認すると、そろそろ部屋を出た方がいい頃だ。
 手早く化粧を直し、蕩けていた顔も何とか元に戻っているのを確認して洗面所を出ると、直哉さんも部屋を出る準備が出来た様で、一緒に部屋を出た。

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