心の鍵はここにある

小田恒子

文字の大きさ
上 下
11 / 53

心に鍵をかけた日 1

しおりを挟む
 あの日から三ヶ月。
 とりあえず、お付き合いの振りは順調だ。今のところ、誰も怪しむ人はいないと思う。
 最初のうちは見世物パンダ状態で、教室にいても体育館にいても、不躾な視線を投げかけられる日々だったけれど、直先輩と彩奈先輩のおかげで何とかやり過ごす事が出来た。
 当初懸念されていた嫌がらせも、最初の直先輩の牽制のおかげで未然に防がれていた。
 私達の通う高校は、土足のまま教室に上がるため、昇降口に靴箱がない。
 おかげで上履きや靴が隠されると言う嫌がらせはなかったけれど、ロッカーに入れない荷物が隠されそうになった事が一度あった。

 犯人は二年のマネージャー達で、現場を目撃した他の二年の先輩達が彩奈先輩に報告し、直先輩の耳に入り……。
 たまに女子のマネージャーに、男子の方の準備の手伝いを依頼していた事も断絶して事実上、彼女達を孤立させてしまった。
 男子の先輩方も直先輩を支持した為、二年のマネージャー三人は退部する騒ぎにまでなったけれど、退部して目の届かない場所での嫌がらせを懸念した先輩が、三人に念書を書かせていた。

 さつきが噂で聞いた話によると、次回こんな事があった場合、いじめとみなして学校と市の教育委員会に通報すると言う文言があったと言う。
 因みにその念書の文面は彩奈先輩も一緒に考えて作成したとか……。
 改めて、私は先輩達に守られている事を痛感した。
 有言実行、恐るべし。

 六月の高校総体も無事に終わり、結局男子バレー部は二回戦で敗退し、三年生は部活を引退した。

 私はと言うと、結局そのまま男子バレー部のマネージャーを続けている。
 直先輩が退部したから私も、となると、やはりまた風当たりが強くなりそうだったのもあるけれど、一生懸命頑張っている部員のサポートをする事にやり甲斐を感じていたのも事実だ。
 直先輩の彼女と言う肩書きは、当初はみんなに色眼鏡で見られるので正直やり辛かったけれど、きちんとマネージャーの仕事に専念していたのと、直先輩も部活中は公私をきちんと分けてくれていたので、今ではマネージャーと認めて貰えた様だ。
 頑張って認めて貰えたマネージャー業だけれども、ネット張りとネットの片付けだけは、部員さんにお願いしている。
 何故なら私の身長が百五十五センチしかなくて、踏み台や脚立がないと、何も出来ないからだ。

 そこはみんな理解してくれ、ネットに関しては何も言われないけれど、ボール拾いやコートに落ちる汗の拭き取り、ドリンクの準備は率先して取り組んでいる。
 女子バレー部のマネージャーも、あの三人が退部してからはさつきが引き受ける事になり、さつきと色々協力して一緒の時間が過ごせる様になって一石二鳥だ。

 そして数日前から夏休みに入って、部活三昧の日々を過ごしている。
 三年生は引退したものの、やはり急に部活に出なくなると身体が鈍ると言い、たまに練習に顔を出して下級生の面倒を見てくれていた。
 受験勉強も、そろそろ本腰を入れなきゃまずいのではないかと思うけど、息抜きも大事だと先輩達は笑っている。
 きっとまだ余裕があるのだろう、何とも羨ましい事だ。

 直先輩が引退してからは、先輩に補習があったり下校時間も合わなくて、別々に帰宅する日もあったけど、曜日を合わせて一緒に帰宅して、お付き合いは順調だとアピールしていた。
 そして今日は、久しぶりに直先輩と彩奈先輩も部活に参加していた。
 部員の練習中に、部員の水分補給の為に学校の冷蔵庫で朝一番に作っていた麦茶を取りに、家庭科室へと向かった。

 本日練習に参加している男女合わせて部員十八名が飲む量のお茶だから、重さも量も半端じゃないので、さつきと二人で家庭科室へと向かう途中……。
 体育館裏に、直先輩と彩奈先輩がコソコソと移動して行くのを目撃した。
 さつきが最初に二人を発見した。

「ねえ、何であんなにコソコソしてるのかな? 気になるから後をつけてみようよ」

 好奇心旺盛なさつきの瞳はキラキラしている。
 直先輩と彩奈先輩は従兄妹同士だし、別に一緒にいておかしくないと思うけれど、何だか私は聞いてはいけない事じゃないかと言う直感が働いた。

「やめとこうよ、従兄妹同士で何か話があるのかもだし」

 私が軽く諌めると、さつきは反発した。

「でも、あれはどう見ても怪しいよ? 人目を避ける様にしてたじゃない。
 里美は直先輩の彼女でしょ? ほら、行くよ!」

 さつきは強引に私の腕を引き、体育館裏へと足音を忍ばせて向かった。
 さつきが先陣を切って体育館裏の物陰に隠れると、私を手招きした。
 先輩達の通った通路の逆側から回り込み、ちょうどそこには掃除道具を入れる倉庫があり、その影に隠れると、こちら側が風下だったみたいで、声が聞こえて来た。
 私達は顔を見合わせて頷いた。
 お互い物音を立てない様に気をつけながらしゃがみ込む。
 そして、二人で聞き耳を立てる。

「……だな。あいつら、その後はどうだ?
 まだ里美に嫌がらせとか仕掛けたりしてないか?」

 直先輩の声だ。
 私の心配をしていると言う事は、退部した二年生マネージャー三人の話だろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...