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越智直哉という先輩 1
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男子バレー部のマネージャーを引き受けることになり、もしもの時の嫌がらせ回避のために私が越智先輩の彼女だということになった。
一応、これは三人だけの秘密となり、さつきにも言えないらしい。
さつき、バレー部に好きな人がいるって言ってたけど、越智先輩だったらどうしよう。
友情に亀裂が入ることだけはしたくないけれど……
放課後になり、更衣室でジャージに着替えて体育館へと向かうと、すでに体育館には体操服に着替えた越智先輩が来ており手招きされた。
小走りで駆け寄ると、先輩は体育館脇のステージ袖に移動するので、私は後をついて行く。
確かにここなら、人目につかずゆっくり話ができる。
「今日から迷惑かけるけど、頼むな。で、一応付き合ってるって設定だから、今から打ち合わせするぞ」
私の顔を覗き込みながら、越智先輩は話を始めた。
「話を合わせておかないと後々厄介だからな。俺が里美を気に入って、俺から告白して無理矢理マネージャーで引っ張って来たって設定でよろしく。里美は、とりあえず今まで通りにしてていいけど、付き合ってるってことだけは否定するなよ? それから、彩奈も言ってたと思うけど、これは三人だけの秘密だから、友達にも言うなよ」
何度も念押しされる。私は頷くしかない。
「で、俺が惚れたって設定だから、ベッタベタに甘やかすけど、勘違いするなよ? あくまで芝居だからな」
この言葉にカチンときたけれど、黙っておく。
私は頷いて、ここから立ち去ろうとしたけれど、越智先輩に腕を掴まれた。
「一応俺は彼氏なんだから、越智先輩って呼ぶの止めろ」
かなりの無茶振りだ。
「俺だって、里美って呼ぶんだから、名前で呼ばなきゃおかしいだろ? それから、俺に対しての敬語も禁止」
一方的な物言いにカチンときたけれど、ここは冷静に話をせねば。私は一度深呼吸して、口を開く。
「言葉ですが、まだ付き合い始めたばかりの設定で、相手が三年の先輩なので敬語禁止は無理です。それから名前呼びですが、これも私にはハードルが高すぎます。その辺り妥協して下さい」
この人、私の訴えをあっさり却下しそうな態度だけど、これは譲れない。
「先輩は恋愛経験豊富でしょうから、色んな女の子たちを見てるでしょうけれど、私は初めてなんです。カレカノとか、お付き合いとか……。だから、芝居とは言え、その辺は……」
私の言葉に反応する越智先輩。
「へえ、初めてなんだ?」
越智先輩は、ニヤリとするとジワリとにじり寄ってきた。
徐々に距離を詰めて来るし、身長差があるから、圧迫感が半端じゃない。
何だかヤバイ雰囲気だ。
「じゃあ、こんなことも、初めて?」
俗に言う、壁ドン。背後にはもう逃げ場がない。
やばい、もう無理だ。そう思うと急に胸がドキドキして熱くなっていく。
これは、もしや、キスされる……?
いやいや、カレカノとは言え、これはお芝居。
何だか急に怖くなり、私はとりあえず無駄な抵抗かもだけど、精一杯睨んでみる。
でも、先輩の顔が徐々に近づいて来る。
うわぁ、もうダメだ、やられてしまう……。咄嗟に目をギュッと閉じて顔を背けた。
途端に先輩は、声を殺して笑い出した。
私は、呆然としてその様子を見ていたけれど、次第に怒りがこみ上げる。
「いい加減にして下さい! 私はあなたのおもちゃじゃありません!」
私は力任せに先輩を突き飛ばして、舞台袖から飛び出して体育館裏へ逃げた。
先輩なんてもう知らないっ。
何で私がこんなリスクを背負ってまでマネージャーやらなきゃいけないの!
しかも、からかうなんて酷すぎる。
まだ何もやってないけど、マネージャーなんて辞めてしまいたい。
体育館裏にだれもいないことを確かめると、私はその場にしゃがみ込み、声を殺して泣いた。
あんな人、好きなんかじゃない。
もし、あの人のせいで嫌がらせを受けたら、即刻マネージャーなんて辞めてやる。
何を言われてももう知らない。何度涙を拭っても止まらなかった。
これは先輩にからかわれて悔しいから?
それとも、彼氏の芝居に騙されて惚れるなと言われた言葉に対して?
どちらにしても、私は偽物の彼女なのだ。『勘違いするなよ』の言葉が、胸に重く響く。
気持ちが少し落ち着いたところに、遠慮がちな足音が聞こえた。
多分、私を泣かせた張本人だろう。
私は無視して涙を拭った。
一応、これは三人だけの秘密となり、さつきにも言えないらしい。
さつき、バレー部に好きな人がいるって言ってたけど、越智先輩だったらどうしよう。
友情に亀裂が入ることだけはしたくないけれど……
放課後になり、更衣室でジャージに着替えて体育館へと向かうと、すでに体育館には体操服に着替えた越智先輩が来ており手招きされた。
小走りで駆け寄ると、先輩は体育館脇のステージ袖に移動するので、私は後をついて行く。
確かにここなら、人目につかずゆっくり話ができる。
「今日から迷惑かけるけど、頼むな。で、一応付き合ってるって設定だから、今から打ち合わせするぞ」
私の顔を覗き込みながら、越智先輩は話を始めた。
「話を合わせておかないと後々厄介だからな。俺が里美を気に入って、俺から告白して無理矢理マネージャーで引っ張って来たって設定でよろしく。里美は、とりあえず今まで通りにしてていいけど、付き合ってるってことだけは否定するなよ? それから、彩奈も言ってたと思うけど、これは三人だけの秘密だから、友達にも言うなよ」
何度も念押しされる。私は頷くしかない。
「で、俺が惚れたって設定だから、ベッタベタに甘やかすけど、勘違いするなよ? あくまで芝居だからな」
この言葉にカチンときたけれど、黙っておく。
私は頷いて、ここから立ち去ろうとしたけれど、越智先輩に腕を掴まれた。
「一応俺は彼氏なんだから、越智先輩って呼ぶの止めろ」
かなりの無茶振りだ。
「俺だって、里美って呼ぶんだから、名前で呼ばなきゃおかしいだろ? それから、俺に対しての敬語も禁止」
一方的な物言いにカチンときたけれど、ここは冷静に話をせねば。私は一度深呼吸して、口を開く。
「言葉ですが、まだ付き合い始めたばかりの設定で、相手が三年の先輩なので敬語禁止は無理です。それから名前呼びですが、これも私にはハードルが高すぎます。その辺り妥協して下さい」
この人、私の訴えをあっさり却下しそうな態度だけど、これは譲れない。
「先輩は恋愛経験豊富でしょうから、色んな女の子たちを見てるでしょうけれど、私は初めてなんです。カレカノとか、お付き合いとか……。だから、芝居とは言え、その辺は……」
私の言葉に反応する越智先輩。
「へえ、初めてなんだ?」
越智先輩は、ニヤリとするとジワリとにじり寄ってきた。
徐々に距離を詰めて来るし、身長差があるから、圧迫感が半端じゃない。
何だかヤバイ雰囲気だ。
「じゃあ、こんなことも、初めて?」
俗に言う、壁ドン。背後にはもう逃げ場がない。
やばい、もう無理だ。そう思うと急に胸がドキドキして熱くなっていく。
これは、もしや、キスされる……?
いやいや、カレカノとは言え、これはお芝居。
何だか急に怖くなり、私はとりあえず無駄な抵抗かもだけど、精一杯睨んでみる。
でも、先輩の顔が徐々に近づいて来る。
うわぁ、もうダメだ、やられてしまう……。咄嗟に目をギュッと閉じて顔を背けた。
途端に先輩は、声を殺して笑い出した。
私は、呆然としてその様子を見ていたけれど、次第に怒りがこみ上げる。
「いい加減にして下さい! 私はあなたのおもちゃじゃありません!」
私は力任せに先輩を突き飛ばして、舞台袖から飛び出して体育館裏へ逃げた。
先輩なんてもう知らないっ。
何で私がこんなリスクを背負ってまでマネージャーやらなきゃいけないの!
しかも、からかうなんて酷すぎる。
まだ何もやってないけど、マネージャーなんて辞めてしまいたい。
体育館裏にだれもいないことを確かめると、私はその場にしゃがみ込み、声を殺して泣いた。
あんな人、好きなんかじゃない。
もし、あの人のせいで嫌がらせを受けたら、即刻マネージャーなんて辞めてやる。
何を言われてももう知らない。何度涙を拭っても止まらなかった。
これは先輩にからかわれて悔しいから?
それとも、彼氏の芝居に騙されて惚れるなと言われた言葉に対して?
どちらにしても、私は偽物の彼女なのだ。『勘違いするなよ』の言葉が、胸に重く響く。
気持ちが少し落ち着いたところに、遠慮がちな足音が聞こえた。
多分、私を泣かせた張本人だろう。
私は無視して涙を拭った。
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