上 下
76 / 87
史那編

新学期 1

しおりを挟む
 四月に入り入学式を迎え、無事に新入学生代表挨拶も済ませた。
 一年生は私を含めて六十人。定員丁度だった。
 一学年二クラスで、クラスの割り振りも成績順とかではなかっただけに肩の荷が下りた。
 この学校は学力こそ前の学校のときより気にしなくてもいいけれど、大和撫子が教育方針らしく、家庭科目には特に力が入っている。
 料理、裁縫、書道、華道、茶道等、学校での必須科目以外でも部活動に力を入れており、中等部からの持ち上がり組は皆すでにどれかの部に所属している。

 やはりなにかはやらないといけないよな……

 外部入学者には体験入部期間が設けられており、実際に何日か体験して入部を決めるのが慣例だ。
 一通り、全てをやらせて貰って決めることも可能らしく、入学式の翌日、部活動訪問で色々と見学をさせて貰った結果、体験入部でまずは書道部へ入部することにした。
 映画でもある書道パフォーマンスはそれなりに有段者でないとあんな風にできないのは分かっているし、そこまでにはなろうと最初から思っておらず、まずは毛筆に慣れることを目標とした。
 毛筆もだが、これでペン字も綺麗に書けるようになれば一石二鳥である。
 体験入部期間に、ただ黙々と毛筆で半紙に字を書くだけの活動だけど、体験期間でも自分の書いた文字を添削指導して貰えるのはとてもありがたい。
 今週いっぱいと言っても今日が水曜日だから残り二日、書道部で体験させて貰い、来週は違う部を体験予定だ。

 そういえば今週末にパーティーがあることを思い出した。それだけで気が重い。
 もしかしたらここはお嬢様学校だ。もしかしたらこの学校の誰かもそのパーティーに出席する可能性も高い。
 それに、理玖がエスコートしてくれるならまた悪目立ちしそうだ。また中等部の頃のような嫌がらせが起こるかも知れない、そう考えたら本気でパーティーを欠席したいと思う。
 もし本当にパーティーを休むなら、明日の夜あたりから体調不良の振りをするしかない。
 新しい環境に慣れず気を張って疲れが出た、という理由は無理があるだろうか。新入学生代表挨拶もしたことだし、少しは信憑性があるとは思うけど、熱を測ったらきっとバレちゃうかな……

 色々と考えているとせっかく始まった新生活も、なんだか先行き不透明で気持ちが重くなりそうだ。

「書道をしている時は、考えごとをしない。心の乱れが文字に現れますよ」

 先輩に注意を受けて、私は我に返る。今は書道体験中だった。

「文字はその時の心の状態がよく分かります。高宮さん、今あなたは悩みがありますね。そんな状態で書く文字は、どうしても迷いが出ます。逆に嬉しいことがあった時の文字にはその喜びが出ます。そんな時は一度気持ちを落ちつかせてから筆を取るといいですよ」

 先輩の言葉に私は驚きを隠せない。言われてみれば、確かにそうだ。
 授業のノートを取る時も、自宅で宿題をする時も特別意識をしたことはなかったけれど、文字にはその時の感情が現れていると言われて納得がいく。
 私は筆を置いて一呼吸する。

「これだけでもきっと次に書く文字は違ってきますからね、心に乱れがある時は無理せず一度このように筆を置くといいですよ」

 先輩の言葉に私は無言で頷いた。
 文字に気持ちが現れる、肝に銘じよう。
 今日はもう、なにをやってもきっと上手く書ける自信がない。そう判断した私は、今日の体験活動を終了することにした。
 私は先輩にお礼を言うと、借り物の書道道具を片づけた。
 正式に入部したら、自分の書道道具が必要だ。きちんと揃えなければならないのか確認すると、小学生の頃に買って貰った道具で充分だとの答えだった。
 帰宅してから書道道具を探してみよう。きっと部屋のクローゼットの中に仕舞い込んでいたはずだ。

 来週は服飾部に体験入部予定だ。和裁洋裁と、自分で服を縫うという。体験期間は布小物作りをするらしく、不器用な私でもきちんと作れるか期待半分不安半分だ。
 でも、その前に……

 私は書道部の部室から退室し、帰宅の途に就いた。

 翌日も、授業が終わったら真っ直ぐに書道部の部室へと向かった。
 昨日のような失態は起こさなかったものの、それでも筆を使い慣れていない私の文字は、何度書いても添削されて真っ赤になる。恥ずかしくて自信を無くしてしまいそうになるけれど、最初は皆一緒だから気にしないでと励まされ、尚更落ち込んでしまいそうになる。

 そして帰宅した今、明日のこあとを考えたら胃が痛い。
 クローゼットには、明日着用するドレスが用意されている。サーモンピンクのAラインのシルエットが綺麗なドレスだ。
 このドレスに合わせて黒地に赤のリボンがアクセントのパンプスを父に用意された。
 白いミニバッグにアクセサリーは母から借りたネックレスとイヤリング。
 髪型はどうしようか悩んだけれど、母がサイドを編み込みしてくれると言う。
 まだ高校生になったばかりだから化粧もしないし、そこまでめかし込む必要もない。とりあえずは明日が公の場へのデビューとなるけれど、私自身そんなに頻繁にこのような場に出席するつもりはないし、きっと父も私の性格を理解しているから、このような場への参加は今回だけのような気がする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。