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史那編

プレゼント 2

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 ブックマークは、市販の金具に先端の飾り部分に七宝焼のチャームがついている。
 チャーム部分は、深い青のベースにきらきらと輝く雪の結晶を象った物だった。この季節にぴったりで理玖のセンスの良さに感動した。
 ペンダントは、私の誕生石であるガーネット彷彿とさせるボルドーワインのような深みのある赤い色で、焦げ茶色の革紐でカジュアルな服にでも使える工夫が施されている。これまた理玖のチョイスに感心した。

 なぜハンドメイドなのかと分かったのは、箱の中に入っていたオーダー表だった。
 ここに制作日と作者名が書かれたオーダー表が入っていた。
 多分これは七宝焼きを体験することの出できるお店側が引き渡しの際、商品の渡し間違えないように記載している物だろう。
 梱包の際、お店の人がそれを抜き忘れていたと思われる。
 理玖が包装するとは思えないし、ハンドメイドだと分かる証拠を残すヘマはしない。

 日付を見ると、私が外部受験を告げた日の次の週だった。
 あれからわざわざ私のためにこれを作ってくれたのだろうか。
 七宝焼とは、金属工芸の一種で伝統工芸技法の一つで、金属を素地にした焼物だ。
 歴史は古く、古くは紀元前の古代エジプトまで遡るらしい。
 シルクロードを通って中国に伝わり、それが日本に伝わったとされる。
 日本においては明治時代辺りから爆発的に技術が発展し、欧米にも輸出されるようになった。

 そう言えば、いつだっただろう。遥佳伯母さんが綺麗なブローチを洋服に留めていたのが気になって、伯母さんにそれはなにかと聞いたことがあった。あの時確かに理玖も傍にいたはずだ。
 もしかして、私が七宝焼を気に入ったのに気づいてそれでわざわざ作ってくれた……?
 世界に一つだけの、理玖のオリジナル作品だ。

 スマホで調べてみると、七宝焼きの体験が出来る教室もある。もしかしたら理玖は私のために体験教室でこれを作ってくれていたの? そう思うと嬉しくて、でも外に持ち運ぶとチャーム部分を失くした時が悲しいのでブックマークは自宅で読書の時用に使っている。そしてペンダントは、今日も首に提げている。
 でもなぜ二つも体験で作ったんだろう。
 プレゼントなら一つだけで十分なのに……

 理玖に直接お礼を伝えると、私の誕生日である来月は私の受験があるからプレゼントを前倒しで用意したのだと言う。それを聞いて納得した。

 お正月も高宮の本家に集まって一緒に過ごしたけれど、これは毎年恒例行事であり、特に二人だけで過ごすこともなく、私も受験生なので早々にお暇した。
 私と蒼良の受験も無事に終わり、三月に蒼良と約束の映画を観に行ったけれど理玖は一緒に行かなかったし、卒業式の日に高宮の本家に呼ばれてお祝いされたけど、この時も特別になにかがあった訳でもない。

 だから愛由美ちゃんや加恋ちゃんが期待するような展開は何もない。
 夏休みの一件は、愛由美ちゃんたちにも内緒にしている。
 あの時は単に私が弱っていたから、弱さが見せた幻覚だと思うことにした。
 そうすれば、今後なにかあったとしても後で傷つくことはない。

 二人ともなにか言いたそうな表情をしているけれど、結局はなにも言わなかった。

 私の話はそこで終わり、春休み中の過ごし方で今度は三人で水族館へ遊びに行こうと計画を立てていた。
 紫外線アレルギーの私に気を遣わせてしまう形になってしまい申し訳ないと思いつつも、水族館に行くのも随分久し振りだから自然と顔も綻んでいる。
 せっかくだからと果穂もメンバーに加えて四人でお出掛けすることが決まり、日時を決めていた時に私のスマホがメッセージを受信した。

 メッセージの送信者は理玖。ちょうどカレンダー画面を開いていた時だったので驚いて声が出てしまい、愛由美ちゃんと加恋ちゃんにも知られることとなった。

「理玖くん、なんだって?」

 今更隠したところでもう遅いだろう。私は理玖から届いたメッセージを見せた。

「なになに?『合格祝いと入学祝いを渡したいから、都合のいい日を連絡下さい』だって! いやーん、史那ちゃん、良かったね」

 加恋ちゃんが私のスマホに表示されているメッセージを読み上げると、愛由美ちゃんはその言葉を聞いて、キャーと歓声を上げた。

 でもこのところの理玖はおかしい。はっきり言って変だ。
 今までこんなプレゼントだって用意してくれることなんてなかった。
 このことを自覚したのは、夏休みの私が倒れたあの日からだけど、やっぱりそれまでの理玖とは違う。なんだか調子が狂う。
 それまでの私への態度の悪さもあり、理玖の変化に戸惑いが隠せないのも事実だ。

 小学生の頃の理玖に戻ったと言われたら、それはそれで素直に納得はできる。でも中学時代の周囲からの不当な仕打ちや理玖の態度を考えると、なかなか素直に受け入れることは難しい。
 愛由美ちゃんと加恋ちゃんは二人して盛り上がっているけれど、私はそんな二人のテンションについていけない。
 このペンダントが理玖のハンドメイドで誕生日のプレゼントだなんて絶対言えない。

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