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史那編
史那の進路 ーside理玖ー 2
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けれど今ならわかる。
これは自分一人でどうにもならない感情だということを。
そして恋という感情は、時として相乗効果をもたらすかと思えば、負の感情が渦巻いたりもする。
俺は負の感情が渦巻く環境から史那を守りたい、ただそれだけだ。
俺たちが学生の間は、傍にいない方が史那を守れるだろう。
エレベーターは最上階に到着した。
史那と一緒に家へ入ると、リビングには案の定、蒼良と母さんがいた。
「お帰りなさい、史那ちゃん、理玖。デート、楽しかった?」
顔を合わせるなりいきなり地雷を投下する母に続き、蒼良も続けざまに口を開く。
「いいなあ理玖にい、僕だって史那ちゃんとデートしたいのに」
史那は状況が把握できなくて、俺の顔を仰ぐ。
俺はもう腹を括った。ここで宣言しておけば、両家の両親も今後政略結婚を言ってくる令嬢や令息を上手いこと煙に巻いてくれるだろう。
「いいだろ。史那が高校に進学したら、もう解禁するから」
その言葉に、その場にいた史那以外のみんながキャーッと奇声をあげている。でも史那だけが状況を理解できず固まったままだ。
もっと悩め、そうやって俺のことだけを考えていればいい。
意味が分からずに茫然としている史那をよそに、母や文香叔母さん、蒼良の三人は話が盛り上がっている。
幼い果穂も意味は理解していないものの、なにかいいことが起こっていると思っているらしく、一緒になってはしゃいでいる。
俺はそんな四人の質問攻めを軽く交わしていた。けれど、史那一人が蚊帳の外状態だ。
来年からは会社絡みのパーティーに史那も顔を出さなければならないのだ。変な虫がつくのも癪に障るし、それならばもう史那は俺のものだと公にしておけばなにも問題はない。
母たちは浮かれて色々と話をしているが、空腹を訴えた果穂によってこの場はお開きとなった。
史那の家からの移動中、母と蒼良には散々冷かされたけれど、俺は開き直って堂々としていたせいか、二人とも拍子抜けでその後はなにも突っ込まれなかった。
お店は隠れ家風の和食店だ。ここに父も合流するらしい。
店で父が来るのを待っていると、母が徐ろに口を開いた。
「理玖、史那ちゃんのことを公言するなら最後まできちんと責任を持ちなさい。学生だからと言って、言葉に責任がないわけではないのよ。
公言することによって、あなただけの問題では済まなくなる。取引先のこともあるのよ。言葉にも、行動にも、責任持てる?」
母の言葉には重みがある。日頃ふわふわと俗世離れしているような人だけど、母の実家は政界に通ずる家系だ。
母の祖父、俺の曽祖父に当たる人物こそ、今はもう政界を引退しているけれど、影で実権を握っていると言われている元大臣経験者だ。その地盤は現在母の兄である伯父が譲り受けており、現在も政界で活躍している。
言ってしまえば俺の言動は、下手すれば曽祖父や伯父も絡んでくる。
母はそれを踏まえての発言だ。
十六歳になったばかりの俺は、そんなことを言われると正直言って荷が重い。それでも俺は、史那のことを名実共に手に入れたい。
「中途半端な気持ちだったら、まだ行動を起こすのはやめなさい。傷つくのはいつも時代も女の子側なんだから」
母の言葉が胸に刺さる。でも……
「中途半端な気持ちなんかじゃない」
俺の言葉に母は穏やかに微笑んだ。
蒼良はずっと俺と母のやり取りを黙って見ていた。
「そう。ならいいわ。来月高宮のホテルでまたパーティーがあるから、尚人さんに自分の気持ちをきちんと伝えなさいね」
母はそう言うとこの話は終わりだと言わんばかりに、食事の注文を始めた。
しばらくして父も合流し、家族四人水入らずでの夕食をとった。
この席で、父に自分の気持ちを伝えると、父も黙って話を聞いてくれた。
母同様に俺の意思確認をし、俺の気持ちが揺るぎないことを確認した。
「まあ悪いようにはしないから、お前は今後、史那ちゃん以外の誰に対しても隙を与えるな」
父はそう言ってこの話を終わらせた。
自宅に帰宅し部屋へ戻った時に、スマホを見るとメッセージが届いていることに気づいた。
送信相手名は史那だった。
『大事な話があります。理玖の都合のいい日を教えてください』
メッセージはシンプルだ。
大事な話、もしかして進路のことだろうか。
俺は、史那に中等部の文化祭と体育祭が終わった後の振替休日を指定して返信した。
確か中等部の振替休日は、毎年外部受験生向けに補習授業が行われている。
きっと史那も補習に参加するだろうとの読みだった。
それに、その時にはもう模試の結果も出ているだろうから史那に指定したのは、火曜日の放課後だ。
史那の補習終了時間に合わせて、この日は生徒会の仕事も前もって断りを入れていた。
他の人に捕まらないように、授業終了後急いで中等部の正門前まで移動して史那が出て来るのを待つ。
正門に到着して十分もしないうちに、史那が出て来た。
本当なら並んで一緒に歩きたいところだけど、人目を考えて、俺は踵を返すと目的地へ向かって歩き始めた。
史那もそれを承知しているから、距離を取って後をついてくる。
これは自分一人でどうにもならない感情だということを。
そして恋という感情は、時として相乗効果をもたらすかと思えば、負の感情が渦巻いたりもする。
俺は負の感情が渦巻く環境から史那を守りたい、ただそれだけだ。
俺たちが学生の間は、傍にいない方が史那を守れるだろう。
エレベーターは最上階に到着した。
史那と一緒に家へ入ると、リビングには案の定、蒼良と母さんがいた。
「お帰りなさい、史那ちゃん、理玖。デート、楽しかった?」
顔を合わせるなりいきなり地雷を投下する母に続き、蒼良も続けざまに口を開く。
「いいなあ理玖にい、僕だって史那ちゃんとデートしたいのに」
史那は状況が把握できなくて、俺の顔を仰ぐ。
俺はもう腹を括った。ここで宣言しておけば、両家の両親も今後政略結婚を言ってくる令嬢や令息を上手いこと煙に巻いてくれるだろう。
「いいだろ。史那が高校に進学したら、もう解禁するから」
その言葉に、その場にいた史那以外のみんながキャーッと奇声をあげている。でも史那だけが状況を理解できず固まったままだ。
もっと悩め、そうやって俺のことだけを考えていればいい。
意味が分からずに茫然としている史那をよそに、母や文香叔母さん、蒼良の三人は話が盛り上がっている。
幼い果穂も意味は理解していないものの、なにかいいことが起こっていると思っているらしく、一緒になってはしゃいでいる。
俺はそんな四人の質問攻めを軽く交わしていた。けれど、史那一人が蚊帳の外状態だ。
来年からは会社絡みのパーティーに史那も顔を出さなければならないのだ。変な虫がつくのも癪に障るし、それならばもう史那は俺のものだと公にしておけばなにも問題はない。
母たちは浮かれて色々と話をしているが、空腹を訴えた果穂によってこの場はお開きとなった。
史那の家からの移動中、母と蒼良には散々冷かされたけれど、俺は開き直って堂々としていたせいか、二人とも拍子抜けでその後はなにも突っ込まれなかった。
お店は隠れ家風の和食店だ。ここに父も合流するらしい。
店で父が来るのを待っていると、母が徐ろに口を開いた。
「理玖、史那ちゃんのことを公言するなら最後まできちんと責任を持ちなさい。学生だからと言って、言葉に責任がないわけではないのよ。
公言することによって、あなただけの問題では済まなくなる。取引先のこともあるのよ。言葉にも、行動にも、責任持てる?」
母の言葉には重みがある。日頃ふわふわと俗世離れしているような人だけど、母の実家は政界に通ずる家系だ。
母の祖父、俺の曽祖父に当たる人物こそ、今はもう政界を引退しているけれど、影で実権を握っていると言われている元大臣経験者だ。その地盤は現在母の兄である伯父が譲り受けており、現在も政界で活躍している。
言ってしまえば俺の言動は、下手すれば曽祖父や伯父も絡んでくる。
母はそれを踏まえての発言だ。
十六歳になったばかりの俺は、そんなことを言われると正直言って荷が重い。それでも俺は、史那のことを名実共に手に入れたい。
「中途半端な気持ちだったら、まだ行動を起こすのはやめなさい。傷つくのはいつも時代も女の子側なんだから」
母の言葉が胸に刺さる。でも……
「中途半端な気持ちなんかじゃない」
俺の言葉に母は穏やかに微笑んだ。
蒼良はずっと俺と母のやり取りを黙って見ていた。
「そう。ならいいわ。来月高宮のホテルでまたパーティーがあるから、尚人さんに自分の気持ちをきちんと伝えなさいね」
母はそう言うとこの話は終わりだと言わんばかりに、食事の注文を始めた。
しばらくして父も合流し、家族四人水入らずでの夕食をとった。
この席で、父に自分の気持ちを伝えると、父も黙って話を聞いてくれた。
母同様に俺の意思確認をし、俺の気持ちが揺るぎないことを確認した。
「まあ悪いようにはしないから、お前は今後、史那ちゃん以外の誰に対しても隙を与えるな」
父はそう言ってこの話を終わらせた。
自宅に帰宅し部屋へ戻った時に、スマホを見るとメッセージが届いていることに気づいた。
送信相手名は史那だった。
『大事な話があります。理玖の都合のいい日を教えてください』
メッセージはシンプルだ。
大事な話、もしかして進路のことだろうか。
俺は、史那に中等部の文化祭と体育祭が終わった後の振替休日を指定して返信した。
確か中等部の振替休日は、毎年外部受験生向けに補習授業が行われている。
きっと史那も補習に参加するだろうとの読みだった。
それに、その時にはもう模試の結果も出ているだろうから史那に指定したのは、火曜日の放課後だ。
史那の補習終了時間に合わせて、この日は生徒会の仕事も前もって断りを入れていた。
他の人に捕まらないように、授業終了後急いで中等部の正門前まで移動して史那が出て来るのを待つ。
正門に到着して十分もしないうちに、史那が出て来た。
本当なら並んで一緒に歩きたいところだけど、人目を考えて、俺は踵を返すと目的地へ向かって歩き始めた。
史那もそれを承知しているから、距離を取って後をついてくる。
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