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史那編
見守る事は、もう止める ーside理玖ー 3
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その後はすんなりと話が決まり、俺は夏休みに入ってすぐの金曜日から毎週家庭教師をすることが決まった。
ただ、家庭教師をするに当たり、史那と二人きりになることは許して貰えず、リビングかダイニングで文香叔母さんや果穂の目に着く場所で勉強をすることを条件とされた。
俺の気持ちは、もううちの両親や雅人叔父さんたちにもバレバレだった。
「俺たちとしては、小さい頃から成長を見て来た理玖と史那が一緒になることについて異存はない。もしそうなったとしたら、きっと文香や義姉さんは大喜びだろう。でも、今の史那を見ていたら、そんな風には見えないし、理玖にも色々と考えがあるんだろう」
雅人叔父さんの言葉に俺は頷いた。
「まさか史那が俺を追いかけて中等部に入学してくると思わなかったから、史那を取り巻く環境が今、酷いことになってるのは叔父さんも知ってるよな?」
俺の言葉に今度は雅人叔父さんが聞き役に回る。
「あのまま史那が公立の中学校か、違う私立の中学校にでも進学していたら、俺はきっと昔の俺に戻れていたと思う。優しいお兄ちゃん的存在の従兄として見守ることができたと思う。
でも、史那が同じ学校に入学して、史那を狙ってる奴も増えたし逆に俺も変な女に狙われたりしたし。
それで史那に嫌がらせの矛先が向いてしまって本当に申し訳ないと思ってる。
距離を置くことでしか、史那を守れないのが歯痒くて……
正直言って、このまま史那が内部進学で高等部に上がってきても、史那を取り巻く環境は今と変わらないと思う。
てか、多分今の、俺が同じ中等部にいない状態が、史那にとっては過ごしやすいんじゃないかと思ってる」
俺の言葉を聞き終えた雅人叔父さんは黙って頷いている。
きっと叔父さんも俺と同じ考えでいるのだろう。
「こっちが色々と口を出しても史那はそれを素直に聞き入れるとは思えないし、最終的に進路を決めるのは史那だからな。
俺と文香は、史那が決めたことを全力で応援するだけだ。
そこで理玖、これだけは確認させてくれるか? 実際のところ、史那のことをどう思ってる?」
雅人叔父さんの顔は真剣だ。つい今しがたまで叔父と甥の関係で話を進めていたけれど、一対一の男同士の会話に切り替わる。
俺は大きく深呼吸してはっきりと答えた。
「史那のことが、好きだ。
俺はまだ高校一年だし、まだ世間も狭いし経験値だってないし、愛だの恋だの言っても正直言ってよく分からない。
でも、他の男が史那にちょっかいを出すと思ったら気が狂いそうになるくらい悔しいと思う。
この感情は、従兄としての感情ではないし、今の俺にはそれが『好き』ってことなんだと思う」
俺の素直な気持ちに、雅人叔父さんは大きく頷いた。
「分かった。俺も父親として、史那に変な虫がつくと思うと正直いい気はしない。仮に素性の分かってる奴だとしてもだ。
でも、理玖、お前は別だ。
もし史那が理玖のことが好きだと自分の気持ちを認めたら、その時は悪いようにはしない。
俺と文香は、出会った頃にお互いが言葉足らずで、お互いを思いやりすぎて行動に起こせなくてすれ違ってな……
その当時、俺は親同士の思惑で勝手に婚約者を押し付けられていたりしたし、文香もその自称婚約者の存在に遠慮して身を引いた時に、史那を授かっていることに気づいたんだ。
妊娠が分かっても、俺にそれを伝えることなく一人でなにもかもを抱えて、内緒で史那を出産して」
雅人叔父さんと文香叔母さんの馴れ初めをこの時初めて聞いた。
そう言えば、史那に初めて出会ったのは叔父さんたちの結婚式の日だ。
この時はなにも疑問に思わなかったけれど、普通なら出産前に挙式をしているはずだ。
「あの時、文香が史那を出産する決意をしていなけば、今この世に史那はいない。
だから俺は、文香と史那が望むことを全力で応援するし、その努力も惜しまない。
もし、史那の気持ちがきちんと理玖の方に向いて、それを史那が口にしたら、俺は反対しない。
でも、その逆もある。もし史那が理玖を拒否するなら、俺は全力で史那から理玖、お前を遠ざける」
この時、初めて雅人叔父さんの本質に触れた。
このオッサン、本当に親バカかも知れない。
「俺の事情も知ってるだろう?」
俺は素直に頷いた。大人になってからの感染症は、生殖機能に影響があるということを雅人叔父さんの件で教わった。
「文香にはその面でかなり苦労を掛けたし、史那にも長い間弟や妹が欲しいのに我慢させてしまった。
果穂が生まれるまでの間、史那の淋しさを埋めてくれた理玖には本当に感謝してる。
だからこそ、俺たちは理玖と史那の絆が揺るぎないものならば、その時は一族上げてお前たちを応援するつもりだ」
力強い後押しを受け、俺は頷いた。
「とりあえず、家庭教師の件は頼んだ。それ以降の件についてはお膳立てするつもりはないから自分で頑張れよ」
俺は再び頷くと、そこに父が現れた。
「どうやら話は終わったみたいだな?」
「人払いしてたはずだろ? なんで?」
俺の疑問に父は笑いをこらえている。
「大事な息子が俺を抜きにして、未来の義父と応接室にしけ込んでると聞けば邪魔したくなるだろ?」
父の言葉に俺は瞠目した。
ただ、家庭教師をするに当たり、史那と二人きりになることは許して貰えず、リビングかダイニングで文香叔母さんや果穂の目に着く場所で勉強をすることを条件とされた。
俺の気持ちは、もううちの両親や雅人叔父さんたちにもバレバレだった。
「俺たちとしては、小さい頃から成長を見て来た理玖と史那が一緒になることについて異存はない。もしそうなったとしたら、きっと文香や義姉さんは大喜びだろう。でも、今の史那を見ていたら、そんな風には見えないし、理玖にも色々と考えがあるんだろう」
雅人叔父さんの言葉に俺は頷いた。
「まさか史那が俺を追いかけて中等部に入学してくると思わなかったから、史那を取り巻く環境が今、酷いことになってるのは叔父さんも知ってるよな?」
俺の言葉に今度は雅人叔父さんが聞き役に回る。
「あのまま史那が公立の中学校か、違う私立の中学校にでも進学していたら、俺はきっと昔の俺に戻れていたと思う。優しいお兄ちゃん的存在の従兄として見守ることができたと思う。
でも、史那が同じ学校に入学して、史那を狙ってる奴も増えたし逆に俺も変な女に狙われたりしたし。
それで史那に嫌がらせの矛先が向いてしまって本当に申し訳ないと思ってる。
距離を置くことでしか、史那を守れないのが歯痒くて……
正直言って、このまま史那が内部進学で高等部に上がってきても、史那を取り巻く環境は今と変わらないと思う。
てか、多分今の、俺が同じ中等部にいない状態が、史那にとっては過ごしやすいんじゃないかと思ってる」
俺の言葉を聞き終えた雅人叔父さんは黙って頷いている。
きっと叔父さんも俺と同じ考えでいるのだろう。
「こっちが色々と口を出しても史那はそれを素直に聞き入れるとは思えないし、最終的に進路を決めるのは史那だからな。
俺と文香は、史那が決めたことを全力で応援するだけだ。
そこで理玖、これだけは確認させてくれるか? 実際のところ、史那のことをどう思ってる?」
雅人叔父さんの顔は真剣だ。つい今しがたまで叔父と甥の関係で話を進めていたけれど、一対一の男同士の会話に切り替わる。
俺は大きく深呼吸してはっきりと答えた。
「史那のことが、好きだ。
俺はまだ高校一年だし、まだ世間も狭いし経験値だってないし、愛だの恋だの言っても正直言ってよく分からない。
でも、他の男が史那にちょっかいを出すと思ったら気が狂いそうになるくらい悔しいと思う。
この感情は、従兄としての感情ではないし、今の俺にはそれが『好き』ってことなんだと思う」
俺の素直な気持ちに、雅人叔父さんは大きく頷いた。
「分かった。俺も父親として、史那に変な虫がつくと思うと正直いい気はしない。仮に素性の分かってる奴だとしてもだ。
でも、理玖、お前は別だ。
もし史那が理玖のことが好きだと自分の気持ちを認めたら、その時は悪いようにはしない。
俺と文香は、出会った頃にお互いが言葉足らずで、お互いを思いやりすぎて行動に起こせなくてすれ違ってな……
その当時、俺は親同士の思惑で勝手に婚約者を押し付けられていたりしたし、文香もその自称婚約者の存在に遠慮して身を引いた時に、史那を授かっていることに気づいたんだ。
妊娠が分かっても、俺にそれを伝えることなく一人でなにもかもを抱えて、内緒で史那を出産して」
雅人叔父さんと文香叔母さんの馴れ初めをこの時初めて聞いた。
そう言えば、史那に初めて出会ったのは叔父さんたちの結婚式の日だ。
この時はなにも疑問に思わなかったけれど、普通なら出産前に挙式をしているはずだ。
「あの時、文香が史那を出産する決意をしていなけば、今この世に史那はいない。
だから俺は、文香と史那が望むことを全力で応援するし、その努力も惜しまない。
もし、史那の気持ちがきちんと理玖の方に向いて、それを史那が口にしたら、俺は反対しない。
でも、その逆もある。もし史那が理玖を拒否するなら、俺は全力で史那から理玖、お前を遠ざける」
この時、初めて雅人叔父さんの本質に触れた。
このオッサン、本当に親バカかも知れない。
「俺の事情も知ってるだろう?」
俺は素直に頷いた。大人になってからの感染症は、生殖機能に影響があるということを雅人叔父さんの件で教わった。
「文香にはその面でかなり苦労を掛けたし、史那にも長い間弟や妹が欲しいのに我慢させてしまった。
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だからこそ、俺たちは理玖と史那の絆が揺るぎないものならば、その時は一族上げてお前たちを応援するつもりだ」
力強い後押しを受け、俺は頷いた。
「とりあえず、家庭教師の件は頼んだ。それ以降の件についてはお膳立てするつもりはないから自分で頑張れよ」
俺は再び頷くと、そこに父が現れた。
「どうやら話は終わったみたいだな?」
「人払いしてたはずだろ? なんで?」
俺の疑問に父は笑いをこらえている。
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