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史那編
中学三年、デート 3
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帰宅する時も終始無言だった。
でも繋がれた手は大きくて少しひんやりとしている。
理玖は昔から手が冷たかったことを思い出した。
『理玖くんのおてて、冷たくて寒そうだから、史那がいつも繋いで温めてあげる』
小さい頃、いつも理玖の手を繋いていた。
その手はいつ触れてもひんやりとしていて、夏は気持ちよく、冬は冷たくて温めてあげなきゃと勝手に使命感に燃えていた幼少期を思い出した。
なぜ、今そんなことを思い出したのだろう。
ずっと忘れていたのに……理玖への想いが募っていく。
私ばっかり理玖のことが好きみたいで、なんだかバカみたい。
バスに揺られ、二人並んで座ったけれど、ここでもなにも会話はない。
自宅までの距離が長く感じているのは私だけだろうか。
いつもならこうして一緒にいられるだけで嬉しくて堪らないのに、今日は隣に座っていても、理玖との縮まらない距離に淋しさを強く感じた。
この距離はいつからできたんだろう。もう、縮まることはないのかな……
自宅へと近づくバスの距離に反比例して、私と理玖との気持ちの距離は、すれ違って離れていく。
きっと理玖は、そんなのお構いなしだ。
私への思いは、小さかった頃ならまだしも今では完全に従妹止まりだろう。
従妹というポジションも、今の私には足枷に過ぎない。この関係に囚われたままじゃ、身動きすら取れない。
いつか理玖に素敵な恋人ができた時、私は一体どうすれば……
今のこの状況を脱却するためにも、高校受験は私にとって必須項目なのだ。そう思うしかない。
バスは私の自宅マンション近くの停留所に到着した。
私は理玖にお礼を告げて降車するも、理玖も一緒について降りる。
「次のバスまで時間があるし、一緒に家まで行く」
理玖は当たり前のように発言して、私の手を取るとマンションへと向かって歩き始めた。
今日、一体何度目だろう。
なぜ理玖はこんなにも私に対しての態度が変わったの?
態度……? ううん、態度はいつもとそう変わらない。変わったのは、スキンシップだ。
こうやって手を引かれたりしたのは、いつ以来だろう。
私が中学校に上がってからは、周囲の目が怖かったし、理玖自身も私に対して一線を引いていたように思う。
それなのに、一体どうしたの?
私は黙って理玖にされるがまま手を引かれてマンションのエントランスに入った。
コンシェルジュの百瀬さんが笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさい、史那さん、理玖さん」
着用しているスーツはかなり大きなサイズだと思うけれど、それでもはち切れんばかりの筋肉が主張しているのが分かる。
仕事柄、護身術の心得があると聞いているけど、きっと百瀬さんは基本的に身体を鍛えることが好きなのだろう。そうじゃなければここまで屈強な身体はでき上がらない。
「ただいま、百瀬さん」
私達は百瀬さんに挨拶をしてエレベーターに乗り込んだ。
そしてエレベーターは最上階に到着し、その間も理玖に手を掴まれたままだ。
もうここまで来たら私だって逃げたりもしないし、マンション内だから人目も気にしないけれど、夏休みの家庭教師の辺りからの理玖の行動が今一つ理解できないでいる。理玖は一体なにを考えているのだろう。
理玖と一緒に家へ入ると、リビングにはなぜか蒼良と遥佳伯母さんがいた。
「お帰りなさい、史那ちゃん、理玖。デート、楽しかった?」
顔を合わせるなりいきなり突拍子もないことを口にする遥佳伯母さんに続き、蒼良も続けざまに口を開く。
「いいなあ理玖にい、僕だって史那ちゃんとデートしたいのに」
状況が把握できなくて、私は思わず理玖の顔を仰ぐ。
当の理玖はなんともないと言わんばかりの涼しそうな表情でこう言い放つ。
「いいだろ。史那が高校に進学したら、もう解禁するから」
その言葉に、その場にいた私以外のみんながキャーッと奇声をあげるけれど、私一人、意味が分からない。
私が高校に進学したら、一体なにを解禁するの?
茫然としている私をよそに、母や遥佳伯母さん、蒼良の三人はなにやら話が盛り上がっている。
幼い果穂も意味は理解していないものの、なにかいいことが起こっていると思っているらしく一緒になってはしゃいでいる。
理玖はそんな四人の質問攻めを軽く交わしているのだけれど、私一人が蚊帳の外状態だ。
まあ、今この状況で話に加わろうものなら、意味の分からないまま流されてしまいそうだしなにげに理玖も私に話を振らないようにと母たちに釘を刺しているみたいなので、口を挟まない方が得策だろう。
それに今の私にはまだ残された課題が沢山ある。
統一テストが無事に終わったところで、次にあるのは文化祭に体育祭、それが終われば高校受験だ。
まだまだ気を緩めるわけにはいかない。
特にここにいる理玖たちは、私が内部進級せずに外部受験するを話していないのだから。
身内のわけの分からない暴走には傍観が一番だ。
でも繋がれた手は大きくて少しひんやりとしている。
理玖は昔から手が冷たかったことを思い出した。
『理玖くんのおてて、冷たくて寒そうだから、史那がいつも繋いで温めてあげる』
小さい頃、いつも理玖の手を繋いていた。
その手はいつ触れてもひんやりとしていて、夏は気持ちよく、冬は冷たくて温めてあげなきゃと勝手に使命感に燃えていた幼少期を思い出した。
なぜ、今そんなことを思い出したのだろう。
ずっと忘れていたのに……理玖への想いが募っていく。
私ばっかり理玖のことが好きみたいで、なんだかバカみたい。
バスに揺られ、二人並んで座ったけれど、ここでもなにも会話はない。
自宅までの距離が長く感じているのは私だけだろうか。
いつもならこうして一緒にいられるだけで嬉しくて堪らないのに、今日は隣に座っていても、理玖との縮まらない距離に淋しさを強く感じた。
この距離はいつからできたんだろう。もう、縮まることはないのかな……
自宅へと近づくバスの距離に反比例して、私と理玖との気持ちの距離は、すれ違って離れていく。
きっと理玖は、そんなのお構いなしだ。
私への思いは、小さかった頃ならまだしも今では完全に従妹止まりだろう。
従妹というポジションも、今の私には足枷に過ぎない。この関係に囚われたままじゃ、身動きすら取れない。
いつか理玖に素敵な恋人ができた時、私は一体どうすれば……
今のこの状況を脱却するためにも、高校受験は私にとって必須項目なのだ。そう思うしかない。
バスは私の自宅マンション近くの停留所に到着した。
私は理玖にお礼を告げて降車するも、理玖も一緒について降りる。
「次のバスまで時間があるし、一緒に家まで行く」
理玖は当たり前のように発言して、私の手を取るとマンションへと向かって歩き始めた。
今日、一体何度目だろう。
なぜ理玖はこんなにも私に対しての態度が変わったの?
態度……? ううん、態度はいつもとそう変わらない。変わったのは、スキンシップだ。
こうやって手を引かれたりしたのは、いつ以来だろう。
私が中学校に上がってからは、周囲の目が怖かったし、理玖自身も私に対して一線を引いていたように思う。
それなのに、一体どうしたの?
私は黙って理玖にされるがまま手を引かれてマンションのエントランスに入った。
コンシェルジュの百瀬さんが笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさい、史那さん、理玖さん」
着用しているスーツはかなり大きなサイズだと思うけれど、それでもはち切れんばかりの筋肉が主張しているのが分かる。
仕事柄、護身術の心得があると聞いているけど、きっと百瀬さんは基本的に身体を鍛えることが好きなのだろう。そうじゃなければここまで屈強な身体はでき上がらない。
「ただいま、百瀬さん」
私達は百瀬さんに挨拶をしてエレベーターに乗り込んだ。
そしてエレベーターは最上階に到着し、その間も理玖に手を掴まれたままだ。
もうここまで来たら私だって逃げたりもしないし、マンション内だから人目も気にしないけれど、夏休みの家庭教師の辺りからの理玖の行動が今一つ理解できないでいる。理玖は一体なにを考えているのだろう。
理玖と一緒に家へ入ると、リビングにはなぜか蒼良と遥佳伯母さんがいた。
「お帰りなさい、史那ちゃん、理玖。デート、楽しかった?」
顔を合わせるなりいきなり突拍子もないことを口にする遥佳伯母さんに続き、蒼良も続けざまに口を開く。
「いいなあ理玖にい、僕だって史那ちゃんとデートしたいのに」
状況が把握できなくて、私は思わず理玖の顔を仰ぐ。
当の理玖はなんともないと言わんばかりの涼しそうな表情でこう言い放つ。
「いいだろ。史那が高校に進学したら、もう解禁するから」
その言葉に、その場にいた私以外のみんながキャーッと奇声をあげるけれど、私一人、意味が分からない。
私が高校に進学したら、一体なにを解禁するの?
茫然としている私をよそに、母や遥佳伯母さん、蒼良の三人はなにやら話が盛り上がっている。
幼い果穂も意味は理解していないものの、なにかいいことが起こっていると思っているらしく一緒になってはしゃいでいる。
理玖はそんな四人の質問攻めを軽く交わしているのだけれど、私一人が蚊帳の外状態だ。
まあ、今この状況で話に加わろうものなら、意味の分からないまま流されてしまいそうだしなにげに理玖も私に話を振らないようにと母たちに釘を刺しているみたいなので、口を挟まない方が得策だろう。
それに今の私にはまだ残された課題が沢山ある。
統一テストが無事に終わったところで、次にあるのは文化祭に体育祭、それが終われば高校受験だ。
まだまだ気を緩めるわけにはいかない。
特にここにいる理玖たちは、私が内部進級せずに外部受験するを話していないのだから。
身内のわけの分からない暴走には傍観が一番だ。
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