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史那編
中学三年、デート 2
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理玖の言葉に、私の心臓が早鐘を打つ。
……もしかして、理玖はなにか感づいている?
いや、中等部と高等部は校舎も離れているし接点もないから私の成績に関する情報は流れないだろう。
私の両親だって、余計なことは口にしていないはずだ。
大きな会社の役員をしている父は、いくら私が子供だからと言ってそこまでペラペラ理玖に話はしないはずだし、母だってそうだ。
ここは余計なことを喋らず聞き役に徹した方がいい。
下手になにか口にすれば、ボロがでる可能性もある。そうなった場合、隠し通せる自信なんてない。
私は俯いて理玖と視線が合うことを避けた。
仮に視線が合った場合だって私のことだ、表情に出てる可能性もある。
お互い黙ったまま、どのくらい時間が流れただろう。
展望台にいたはずの周りにいた人たちは、いつの間にかいなくっていた。
そして太陽も西に傾き始め、陽射しも日中の明るい白色光からオレンジが掛かった色味へと移り変わろうとしている。それでも夕刻には少し早い時間だ。
「……史那、あのさ」
理玖の言葉は、タイミングが悪いことにスマホの音に遮られた。
私のスマホの着信音ではない。
理玖は舌打ちをすると、ポケットに入れていたスマホを取り出した。液晶画面に表示されている名前を見て、顔を顰めている。
画面を見て、しばらく固まっていた。
でも、出ない訳にはいかないと思案しているようだ。
きっと私がここにいるからか、画面を見つめたまま微動だにしない。
「理玖、電話に出て。私、電話が終わるまであそこにいるから」
私はそう言って理玖の側から離れると、エレベーター乗り場の前に設置してあるベンチに向かって歩いた。
私からは理玖のスマホの着信画面に表示された相手の名前は見えなかったけれど、きっと理玖にとって大事な電話であることは容易に理解できる。
その電話の内容を、私に聞かれたくないことも伝わった。
だから理玖は電話に出ることを躊躇ったのだろう。
相手は誰だか分からないけれど、邪魔をするわけにはいかない。私はベンチに腰を下ろすと、リュックの中からスマホを取り出した。
特に誰かからメッセージを受信しているとかはない。
手持ち無沙汰なのでスマホを片づけると、文庫本を取り出した。
小学生時代、百人一首の得意な先生がいて、生徒たちにその楽しさを広めたいと授業とはまた別で百人一首を空き時間、皆に教えていた。その影響もあり、百人一首を題材とした小説だ。
映画化された漫画のノベライズで、ずっと読みたいと思っていたのをやっとこの前手に入れた。
宿題や統一テストの対策で中々時間が取れなくて、なかなか読むようにならなかった。
文庫本を汚したくなくて、書店のカバーを付けたままだ。
ようやく統一テストも終わり、一つ肩の荷が下りたところで読書するのもいいタイミングだろう。
さあ読むぞと意気込んだところで、タイミング悪く妨害が入った。
目の前には、少し息を切らした理玖がいる。
「あれ……もう、電話、終わったの?」
本から顔を上げて理玖を見つめる私に、理玖は深呼吸を一つ吐くと、私の右隣に座った。左隣には私のリュックが置いてある、座ろうと思えばそちら側にも座れるだけのスペースはあるのに。
私は文庫本をリュックに片づける。そんな私を理玖は見ていた。
「ああ。大した用事ではなかったんだけど、気を使わせて悪かったな」
「ううん、うちでも電話の時は席を外すから気にしないで」
自宅の電話や携帯に電話がかかってくる時も、大事な話の場合、傍にいて邪魔しちゃダメだと言い聞かされて育ってきたのだ。このくらい、気を使うほどのことではない。私にとっては当たり前だ。
そのことは理玖も知ってる。
単なる社交辞令の会話でしか、いつの間にか私たちは会話も成立しなくなってしまっている。
「……なあ、史那」
「ねえ、そろそろ帰ろうか」
私たちの声は重なった。
理玖がなにかを言い出そうとしていたのに、私は敢えてそれを遮った。
今は理玖の言葉を聞くのが怖い。なにかを聞かされたとして、果たして私は冷静でいられるのだろうか、そんな自信はない。
それならば、私はなにも聞かない。せめて、私の受験が終わるまでは……
私の意思を尊重した理玖は、ベンチから立ち上がるとまた私の手を掴んだ。
「分かった。じゃあ、マンションまで送る」
理玖の意図は分からないけれど、私は素直にそれに従った。
私達は高宮の人間だ。基本的に学校の登下校以外、一人で出歩くことにいい顔をされない。
心配性な両親や親戚は、誘拐事件等の心配までするありさまだ。
一応、スマホにはGPSアプリがインストールされており、今日みたいにスマホを持ち歩く際の私の位置情報は両親が把握している。
……って、まさか。
今日の私の行動は、もしかして両親から位置情報を聞き出して知っていた……?
それとも私の位置情報が、理玖のスマホに通知が行ってる……?
もしそうなら、どうやって? 両親が理玖のスマホにも通知が行くように設定してる?
機械設定に疎いので私にはよく分からないけれど、もしそうならば……
ますます理玖のことが分からない。
……もしかして、理玖はなにか感づいている?
いや、中等部と高等部は校舎も離れているし接点もないから私の成績に関する情報は流れないだろう。
私の両親だって、余計なことは口にしていないはずだ。
大きな会社の役員をしている父は、いくら私が子供だからと言ってそこまでペラペラ理玖に話はしないはずだし、母だってそうだ。
ここは余計なことを喋らず聞き役に徹した方がいい。
下手になにか口にすれば、ボロがでる可能性もある。そうなった場合、隠し通せる自信なんてない。
私は俯いて理玖と視線が合うことを避けた。
仮に視線が合った場合だって私のことだ、表情に出てる可能性もある。
お互い黙ったまま、どのくらい時間が流れただろう。
展望台にいたはずの周りにいた人たちは、いつの間にかいなくっていた。
そして太陽も西に傾き始め、陽射しも日中の明るい白色光からオレンジが掛かった色味へと移り変わろうとしている。それでも夕刻には少し早い時間だ。
「……史那、あのさ」
理玖の言葉は、タイミングが悪いことにスマホの音に遮られた。
私のスマホの着信音ではない。
理玖は舌打ちをすると、ポケットに入れていたスマホを取り出した。液晶画面に表示されている名前を見て、顔を顰めている。
画面を見て、しばらく固まっていた。
でも、出ない訳にはいかないと思案しているようだ。
きっと私がここにいるからか、画面を見つめたまま微動だにしない。
「理玖、電話に出て。私、電話が終わるまであそこにいるから」
私はそう言って理玖の側から離れると、エレベーター乗り場の前に設置してあるベンチに向かって歩いた。
私からは理玖のスマホの着信画面に表示された相手の名前は見えなかったけれど、きっと理玖にとって大事な電話であることは容易に理解できる。
その電話の内容を、私に聞かれたくないことも伝わった。
だから理玖は電話に出ることを躊躇ったのだろう。
相手は誰だか分からないけれど、邪魔をするわけにはいかない。私はベンチに腰を下ろすと、リュックの中からスマホを取り出した。
特に誰かからメッセージを受信しているとかはない。
手持ち無沙汰なのでスマホを片づけると、文庫本を取り出した。
小学生時代、百人一首の得意な先生がいて、生徒たちにその楽しさを広めたいと授業とはまた別で百人一首を空き時間、皆に教えていた。その影響もあり、百人一首を題材とした小説だ。
映画化された漫画のノベライズで、ずっと読みたいと思っていたのをやっとこの前手に入れた。
宿題や統一テストの対策で中々時間が取れなくて、なかなか読むようにならなかった。
文庫本を汚したくなくて、書店のカバーを付けたままだ。
ようやく統一テストも終わり、一つ肩の荷が下りたところで読書するのもいいタイミングだろう。
さあ読むぞと意気込んだところで、タイミング悪く妨害が入った。
目の前には、少し息を切らした理玖がいる。
「あれ……もう、電話、終わったの?」
本から顔を上げて理玖を見つめる私に、理玖は深呼吸を一つ吐くと、私の右隣に座った。左隣には私のリュックが置いてある、座ろうと思えばそちら側にも座れるだけのスペースはあるのに。
私は文庫本をリュックに片づける。そんな私を理玖は見ていた。
「ああ。大した用事ではなかったんだけど、気を使わせて悪かったな」
「ううん、うちでも電話の時は席を外すから気にしないで」
自宅の電話や携帯に電話がかかってくる時も、大事な話の場合、傍にいて邪魔しちゃダメだと言い聞かされて育ってきたのだ。このくらい、気を使うほどのことではない。私にとっては当たり前だ。
そのことは理玖も知ってる。
単なる社交辞令の会話でしか、いつの間にか私たちは会話も成立しなくなってしまっている。
「……なあ、史那」
「ねえ、そろそろ帰ろうか」
私たちの声は重なった。
理玖がなにかを言い出そうとしていたのに、私は敢えてそれを遮った。
今は理玖の言葉を聞くのが怖い。なにかを聞かされたとして、果たして私は冷静でいられるのだろうか、そんな自信はない。
それならば、私はなにも聞かない。せめて、私の受験が終わるまでは……
私の意思を尊重した理玖は、ベンチから立ち上がるとまた私の手を掴んだ。
「分かった。じゃあ、マンションまで送る」
理玖の意図は分からないけれど、私は素直にそれに従った。
私達は高宮の人間だ。基本的に学校の登下校以外、一人で出歩くことにいい顔をされない。
心配性な両親や親戚は、誘拐事件等の心配までするありさまだ。
一応、スマホにはGPSアプリがインストールされており、今日みたいにスマホを持ち歩く際の私の位置情報は両親が把握している。
……って、まさか。
今日の私の行動は、もしかして両親から位置情報を聞き出して知っていた……?
それとも私の位置情報が、理玖のスマホに通知が行ってる……?
もしそうなら、どうやって? 両親が理玖のスマホにも通知が行くように設定してる?
機械設定に疎いので私にはよく分からないけれど、もしそうならば……
ますます理玖のことが分からない。
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