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史那編
中学二年、卒業前日 3
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でも、なぜ断る理由が私なんだろう。
今までの理玖の態度を振り返ってみても、私が理玖に好かれているとは到底思えない。
朝のお迎えこそ、お互いの母親に言われて仕方なしやっているような素振りなのに。
私がちょっとでも時間に遅れたら、容赦なく置いて一人で先に行くような人なのだ。
「ないよなぁ……」
私がボソッと呟くと、目の前に大きな影が見えた。
「なにがないんだよ。……悪い。珍しく今日は俺が少し遅刻したな。じゃあ行くぞ」
顔を上げると、いつの間にか目の前に理玖が立っていた。
私の口にした『ないよなぁ』に対して、なにがと聞き返す割に、一方的に捲し立てて自分のペースでことを進める。
そう、理玖はまさに俺サマイケメンに変わってしまったのだ。
理玖はそう言って大川さんに会釈すると、すぐに踵を返して外に出て行く。
私はそんな理玖に置いて行かれないよう、小走りでその後を追いかけた。
そんな私たちを笑顔で見送ってくれる。
今日は大川さんだけど、コンシェルジュさんはいつも私たちを温かく見守ってくれている。
これがいつもの朝の風景だ。
今日までの……
明日からは、私は一人だ。
今日がこうして二人だけで一緒にいられる最後の日。
理玖は一体私のことをどう思ってるんだろう……
精一杯の勇気を振り絞って、私は理玖を呼び止めた。
「理玖……!」
私の声に、足を止めて振り返る。けれど──
「早く来いよ、もうすぐバス来るぞ」
私の勇気は、砕け散る。
バスに乗ってしまうと、周りには乗客が沢山いて、告白などできる状況ではない。
そしてバスから降りれば、そこはもう通学路。徒歩通学の子や自転車通学の子たちで溢れている。
そんな状況の中、なにも言えるわけがない。
バスに乗るまでが最後のチャンスだ。
なのに無情にも、目の前にはバスが到着していた。
「史那、走れ!」
理玖が先に走ってバスに乗ると、運転手さんに私が乗ることを伝えてくれたのだろう。私が乗り込むまでバスは待ってくれ、乗車を確認するとすぐに扉が閉まり、バスは静かに走り出した。
私は久しぶりにダッシュして完全に息が上がっているのに比べ、理玖は涼しい顔をしている。
完全に体力の差を感じてしまう。
そして現在、通勤通学の時間帯で混み合ったバスの中で、私は理玖に庇われるように吊革を掴んで立っている。
ここでも体格の差をまざまざと見せつけられる。
理玖はいつの間にか身長も百八十センチ近くまで伸びている。
肩幅だって広く、モデルさんみたいだ。
中学では陸上部だったから引き締まった体型をしており、制服を着ていたら厚みこそ感じないけれど、服を脱げば細マッチョだ。
私も高宮の家の遺伝が強いから、身長も百六十五センチある。
母の身長を追い越したのは、小学校六年の時だった。
妹の果穂は、顔立ちが母によく似ている。
両親に言わせると、私の幼少期の寝顔と果穂の寝顔はそっくりらしい。
私たち姉妹は年齢差があるせいか、妹と言う感覚よりも守ってあげたいという感覚が強い。
理玖にも四歳離れた蒼良がいるけれど、四歳差と九歳差では、接し方だって当然違う。
蒼良と私は、学年は三つ違うけど、二歳差の従弟だ。どちらかと言えば、蒼良の方が『弟』に近い感覚だ。
果穂は妹には違いないけれど、下手したら親の感覚に近い。まだ自分自身が親になったことはないけれど。
でも、理玖も果穂に接する態度は私や蒼良とは全然違う。
果穂には、昔の理玖に戻ったかのように優しく接している。
それを間近で見ていると、果穂相手にヤキモチを妬いてしまいそうだ。
今だって、私が人に押し潰されないように、庇うように立ってくれている。
理玖にとって、私はなに?
単なる従妹?
お互いの親に言われたから一緒に通学しているだけで、本当は迷惑なの?
聞きたくても聞けなかったけど、今日が最後のチャンスだ。
「こうやって史那と一緒の通学も、今日で最後だな」
唐突に、理玖が私の耳元で囁いた。
一緒に並ぶと、ちょうど理玖の口がわたしの耳の高さにある。
「そうだね……理玖、あのね」
「やれやれ、やっとお迎えから解放されるのか」
私の言葉を遮って言葉を続ける理玖に、私の心は凍り付いた。
『やれやれ、やっとお迎えから解放されるのか』
やっぱり、理玖には私はお荷物だったんだ。その言葉が、私の心に深く突き刺さる。
その一言で、私の心が音を立てて壊れていく気がした。
「ああ、今何か喋りかけてたよな? 遮って悪い。で、何だ?」
理玖もようやく気づいたのか、私を気遣ってくれたけど、もう今更だ。
「……ううん、何でもない。なにを喋ろうとしたか、忘れちゃった」
なんとか誤魔化したけれど、もう、これじゃ告白なんてできっこない。
私は理玖と昇降口で別れるまで、作り笑顔を顔に張りつけていた。
そして、昇降口で別れて理玖の背中を見送りながら、私はある決意をした。
今までの理玖の態度を振り返ってみても、私が理玖に好かれているとは到底思えない。
朝のお迎えこそ、お互いの母親に言われて仕方なしやっているような素振りなのに。
私がちょっとでも時間に遅れたら、容赦なく置いて一人で先に行くような人なのだ。
「ないよなぁ……」
私がボソッと呟くと、目の前に大きな影が見えた。
「なにがないんだよ。……悪い。珍しく今日は俺が少し遅刻したな。じゃあ行くぞ」
顔を上げると、いつの間にか目の前に理玖が立っていた。
私の口にした『ないよなぁ』に対して、なにがと聞き返す割に、一方的に捲し立てて自分のペースでことを進める。
そう、理玖はまさに俺サマイケメンに変わってしまったのだ。
理玖はそう言って大川さんに会釈すると、すぐに踵を返して外に出て行く。
私はそんな理玖に置いて行かれないよう、小走りでその後を追いかけた。
そんな私たちを笑顔で見送ってくれる。
今日は大川さんだけど、コンシェルジュさんはいつも私たちを温かく見守ってくれている。
これがいつもの朝の風景だ。
今日までの……
明日からは、私は一人だ。
今日がこうして二人だけで一緒にいられる最後の日。
理玖は一体私のことをどう思ってるんだろう……
精一杯の勇気を振り絞って、私は理玖を呼び止めた。
「理玖……!」
私の声に、足を止めて振り返る。けれど──
「早く来いよ、もうすぐバス来るぞ」
私の勇気は、砕け散る。
バスに乗ってしまうと、周りには乗客が沢山いて、告白などできる状況ではない。
そしてバスから降りれば、そこはもう通学路。徒歩通学の子や自転車通学の子たちで溢れている。
そんな状況の中、なにも言えるわけがない。
バスに乗るまでが最後のチャンスだ。
なのに無情にも、目の前にはバスが到着していた。
「史那、走れ!」
理玖が先に走ってバスに乗ると、運転手さんに私が乗ることを伝えてくれたのだろう。私が乗り込むまでバスは待ってくれ、乗車を確認するとすぐに扉が閉まり、バスは静かに走り出した。
私は久しぶりにダッシュして完全に息が上がっているのに比べ、理玖は涼しい顔をしている。
完全に体力の差を感じてしまう。
そして現在、通勤通学の時間帯で混み合ったバスの中で、私は理玖に庇われるように吊革を掴んで立っている。
ここでも体格の差をまざまざと見せつけられる。
理玖はいつの間にか身長も百八十センチ近くまで伸びている。
肩幅だって広く、モデルさんみたいだ。
中学では陸上部だったから引き締まった体型をしており、制服を着ていたら厚みこそ感じないけれど、服を脱げば細マッチョだ。
私も高宮の家の遺伝が強いから、身長も百六十五センチある。
母の身長を追い越したのは、小学校六年の時だった。
妹の果穂は、顔立ちが母によく似ている。
両親に言わせると、私の幼少期の寝顔と果穂の寝顔はそっくりらしい。
私たち姉妹は年齢差があるせいか、妹と言う感覚よりも守ってあげたいという感覚が強い。
理玖にも四歳離れた蒼良がいるけれど、四歳差と九歳差では、接し方だって当然違う。
蒼良と私は、学年は三つ違うけど、二歳差の従弟だ。どちらかと言えば、蒼良の方が『弟』に近い感覚だ。
果穂は妹には違いないけれど、下手したら親の感覚に近い。まだ自分自身が親になったことはないけれど。
でも、理玖も果穂に接する態度は私や蒼良とは全然違う。
果穂には、昔の理玖に戻ったかのように優しく接している。
それを間近で見ていると、果穂相手にヤキモチを妬いてしまいそうだ。
今だって、私が人に押し潰されないように、庇うように立ってくれている。
理玖にとって、私はなに?
単なる従妹?
お互いの親に言われたから一緒に通学しているだけで、本当は迷惑なの?
聞きたくても聞けなかったけど、今日が最後のチャンスだ。
「こうやって史那と一緒の通学も、今日で最後だな」
唐突に、理玖が私の耳元で囁いた。
一緒に並ぶと、ちょうど理玖の口がわたしの耳の高さにある。
「そうだね……理玖、あのね」
「やれやれ、やっとお迎えから解放されるのか」
私の言葉を遮って言葉を続ける理玖に、私の心は凍り付いた。
『やれやれ、やっとお迎えから解放されるのか』
やっぱり、理玖には私はお荷物だったんだ。その言葉が、私の心に深く突き刺さる。
その一言で、私の心が音を立てて壊れていく気がした。
「ああ、今何か喋りかけてたよな? 遮って悪い。で、何だ?」
理玖もようやく気づいたのか、私を気遣ってくれたけど、もう今更だ。
「……ううん、何でもない。なにを喋ろうとしたか、忘れちゃった」
なんとか誤魔化したけれど、もう、これじゃ告白なんてできっこない。
私は理玖と昇降口で別れるまで、作り笑顔を顔に張りつけていた。
そして、昇降口で別れて理玖の背中を見送りながら、私はある決意をした。
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