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二十数年前ーー
あれは高校に入学したばかりの事だ。
同じクラスの女の子で、やたらと皆の世話を焼くお節介な子がいた。
当時の僕はみんなと出身中学校が違う為、誰一人として知った顔が居らず、浮いた存在だった。
元々ここは自分が志願した高校ではない。
高校受験に失敗した僕は、自分の学力よりランクの低いこの高校に通う事になった。本命だった高校は、受験直前に風邪で体調を崩してしまい、熱で頭が朦朧とした状態で受験したため、後で見直すと結構なケアレスミスがあった。こんな大事な時に体調管理も出来ないなんて、我ながら最終的な詰めが甘い。これは誰を責める事も出来ない自分の責任だ。
高校受験を失敗して、本命の高校受験の為に一年浪人も考えたけれど、翌年入学する同級生が自分より年下になると言うのも、今までの友達が一年先輩になると言う事も、自分の中で何となく嫌だった。せっかく滑り止めの高校は合格しているのなら、そこに進学したらいいじゃないかと両親と担任に説得されて、高校進学を決めたものの……。
自分の意思に反して進学する学校で、果たして三年間も我慢出来るのだろうか。
この世に生まれて十五年、初めて経験する人生の挫折に、何だかすべての事がどうでもいいと言うか投げやりになっていた。
今現在の僕の虚無感とはまた違う、反抗期も混じった虚無感に襲われていた。
そんな完全に浮いた存在の僕にも分け隔てなくいつも自然に声をかけてくれる、不思議な子だ。
「白石くん、おはよう」
「白石くんバイバイ、また明日ね」
まだ入学式が終わって数日しかたっていないにもかかわらず、最低でも朝と下校時の二回、必ず挨拶で声をかけてくれる。
僕の彼女に対する第一印象は、話をした事のない俺の事もきちんと名前を憶えているなんて凄い、だった。
彼女、瀬戸梓紗は、僕と出席番号も近いから当然席も近い。出身中学が違う僕の事が珍しいのか、何かと僕に声をかけてみんなの輪の中に引き入れようとしてくれているのは何となく分かっていた。でも当時の僕は、そんな気遣いも煩わしくて、誰も寄せ付けない様に休み時間は席を外すようにしていた。
そんな僕の考えている事なんて瀬戸さんはお見通しだったのだろう。だから朝と下校時の挨拶は僕も避けられないから仕方なく挨拶を交わすようになった。
あくまでも挨拶だけ、である。
瀬戸梓紗と言うこのお節介な女の子は、性格に反して見た目は物凄く、下手したら何かの拍子で折れてしまうのではないかと思う位に線が細い。
成長期の時期の女の子は、結構みんな体つきも丸みを帯びて柔らかそうなイメージだけど、彼女に関しては何だか見た目の印象はみんなとは少し違う。とても繊細で見るからに儚い感じの見た目の子だったが、その見た目に反してバイタリティのある子で、クラス委員やらイベント事があれば、率先して参加するような子だった。
この日、午後からの授業の前にクラス委員を決めなければならないとの事で、授業開始前に短時間だけホームルームの時間が取られていた。先生が教壇に立ち、誰か立候補する人はいないかとみんなに問いかけるも誰一人として手をあげる人間なんている訳がないと思っていたら、ただ一人、彼女は立候補した。
面倒くさがりの僕には考えられない、その行動力に僕は彼女をただただ遠巻きに見ているだけにしようと心に誓ったその矢先……。
「男子のクラス委員には、白石遼くんを推薦します」
何の因果か、瀬戸さんは僕をみんなの前でクラス委員に推薦したのだ。
冗談はやめて欲しい。僕はみんなと極力かかわらず、ひっそりと高校生活を送ろうと決めていたのだ。
正直言って高校受験を失敗して、自分の意に反した学校に進学する事になり、これ以上悪目立ちをしたくなかった。
出来る事ならば部活も入らずに授業が終わればすぐに下校したいくらいだ。
「だって、本当なら新入学生挨拶は、入試のテスト一位の成績者である白石くんがする予定だったんだよ?
入学説明会の時に白石くん、挨拶は嫌だって断ったから、私がする事になったんだよ?
クラス委員くらい、やってくれてもいいんじゃない?
それに、私も一緒にやるんだから一人じゃないし」
痛い所を突かれて、僕は何も言い返せない。クラスのみんなも、瀬戸さんのその一言でざわつき始めた。
入試の順位なんて、普通結果なんて知り得る筈がない。僕が頑なに断った後、困り顔の先生が、二点差で僕の次の成績の子に代表挨拶を任せると言ってその任を解いてくれた事までは覚えている。
でも、それが瀬戸さんの事だったとは知らなかった。そもそも入学式自体も興味がなく、新入学生代表挨拶も、誰が引き受けたかなんて見てもなかったし碌に聞いてもなかったのだから。
瀬戸さんの言葉で、クラスのみんなの目が僕をまるで腫れ物を触る様な目つきに変わった。
ただでさえ同じ中学校出身者が誰もいなくて浮いているのに、これ以上目立つ様な事を口にする事を止めて欲しい。
あれは高校に入学したばかりの事だ。
同じクラスの女の子で、やたらと皆の世話を焼くお節介な子がいた。
当時の僕はみんなと出身中学校が違う為、誰一人として知った顔が居らず、浮いた存在だった。
元々ここは自分が志願した高校ではない。
高校受験に失敗した僕は、自分の学力よりランクの低いこの高校に通う事になった。本命だった高校は、受験直前に風邪で体調を崩してしまい、熱で頭が朦朧とした状態で受験したため、後で見直すと結構なケアレスミスがあった。こんな大事な時に体調管理も出来ないなんて、我ながら最終的な詰めが甘い。これは誰を責める事も出来ない自分の責任だ。
高校受験を失敗して、本命の高校受験の為に一年浪人も考えたけれど、翌年入学する同級生が自分より年下になると言うのも、今までの友達が一年先輩になると言う事も、自分の中で何となく嫌だった。せっかく滑り止めの高校は合格しているのなら、そこに進学したらいいじゃないかと両親と担任に説得されて、高校進学を決めたものの……。
自分の意思に反して進学する学校で、果たして三年間も我慢出来るのだろうか。
この世に生まれて十五年、初めて経験する人生の挫折に、何だかすべての事がどうでもいいと言うか投げやりになっていた。
今現在の僕の虚無感とはまた違う、反抗期も混じった虚無感に襲われていた。
そんな完全に浮いた存在の僕にも分け隔てなくいつも自然に声をかけてくれる、不思議な子だ。
「白石くん、おはよう」
「白石くんバイバイ、また明日ね」
まだ入学式が終わって数日しかたっていないにもかかわらず、最低でも朝と下校時の二回、必ず挨拶で声をかけてくれる。
僕の彼女に対する第一印象は、話をした事のない俺の事もきちんと名前を憶えているなんて凄い、だった。
彼女、瀬戸梓紗は、僕と出席番号も近いから当然席も近い。出身中学が違う僕の事が珍しいのか、何かと僕に声をかけてみんなの輪の中に引き入れようとしてくれているのは何となく分かっていた。でも当時の僕は、そんな気遣いも煩わしくて、誰も寄せ付けない様に休み時間は席を外すようにしていた。
そんな僕の考えている事なんて瀬戸さんはお見通しだったのだろう。だから朝と下校時の挨拶は僕も避けられないから仕方なく挨拶を交わすようになった。
あくまでも挨拶だけ、である。
瀬戸梓紗と言うこのお節介な女の子は、性格に反して見た目は物凄く、下手したら何かの拍子で折れてしまうのではないかと思う位に線が細い。
成長期の時期の女の子は、結構みんな体つきも丸みを帯びて柔らかそうなイメージだけど、彼女に関しては何だか見た目の印象はみんなとは少し違う。とても繊細で見るからに儚い感じの見た目の子だったが、その見た目に反してバイタリティのある子で、クラス委員やらイベント事があれば、率先して参加するような子だった。
この日、午後からの授業の前にクラス委員を決めなければならないとの事で、授業開始前に短時間だけホームルームの時間が取られていた。先生が教壇に立ち、誰か立候補する人はいないかとみんなに問いかけるも誰一人として手をあげる人間なんている訳がないと思っていたら、ただ一人、彼女は立候補した。
面倒くさがりの僕には考えられない、その行動力に僕は彼女をただただ遠巻きに見ているだけにしようと心に誓ったその矢先……。
「男子のクラス委員には、白石遼くんを推薦します」
何の因果か、瀬戸さんは僕をみんなの前でクラス委員に推薦したのだ。
冗談はやめて欲しい。僕はみんなと極力かかわらず、ひっそりと高校生活を送ろうと決めていたのだ。
正直言って高校受験を失敗して、自分の意に反した学校に進学する事になり、これ以上悪目立ちをしたくなかった。
出来る事ならば部活も入らずに授業が終わればすぐに下校したいくらいだ。
「だって、本当なら新入学生挨拶は、入試のテスト一位の成績者である白石くんがする予定だったんだよ?
入学説明会の時に白石くん、挨拶は嫌だって断ったから、私がする事になったんだよ?
クラス委員くらい、やってくれてもいいんじゃない?
それに、私も一緒にやるんだから一人じゃないし」
痛い所を突かれて、僕は何も言い返せない。クラスのみんなも、瀬戸さんのその一言でざわつき始めた。
入試の順位なんて、普通結果なんて知り得る筈がない。僕が頑なに断った後、困り顔の先生が、二点差で僕の次の成績の子に代表挨拶を任せると言ってその任を解いてくれた事までは覚えている。
でも、それが瀬戸さんの事だったとは知らなかった。そもそも入学式自体も興味がなく、新入学生代表挨拶も、誰が引き受けたかなんて見てもなかったし碌に聞いてもなかったのだから。
瀬戸さんの言葉で、クラスのみんなの目が僕をまるで腫れ物を触る様な目つきに変わった。
ただでさえ同じ中学校出身者が誰もいなくて浮いているのに、これ以上目立つ様な事を口にする事を止めて欲しい。
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