同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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その後

名前を呼んでくれないかな 3

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 悠太くんからの思いがけない提案に私は嬉しさを隠しきれない。
 明日も残業が確定しているけれど、そんな事すら気にもならない位に浮かれている。

 悠太くんは先程通った道を途中で山手に曲がり、山頂公演へと向かった。
 私は車窓から外の景色を眺めている。
 ワクワクしながらも私は悠太くんの過去に嫉妬していた。
 きっとこんな場所は一人で来ないだろう。過去にお付き合いのあった女の子と一緒に来たんだろうと……。

 車窓を眺めながら、さっきまでワクワクしていた気持ちがどんよりと曇って来た。
 今更過去に嫉妬しても仕方ないのに……。
 悠太くんだって卒業してからの十年間、後悔を抱えて生きて来たのに。今こうやってお付き合いをしていても過去には誰かいても当たり前の事だ、そんな事に嫉妬する私はどうかしている。

 ぼんやりとしていると、公園の駐車場に到着した様だ。
 車は駐車場の見晴らしがいい場所に停車した。私達と同じ考えをしている人がいるのか、車が数台停まっている。でも展望台には人の気配はなさそうだ。やはり外は寒いから車の外には出たくないのだろう。

「夜景、綺麗だろう?」

 悠太くんの言葉でフロントガラス越しに見える眼下に広がる夜景を見た。
 それは、辺り一面が宝石箱をひっくり返したかのように煌めいている。
 大都会の夜景とは比較にならないけれど、それでも私にはとても綺麗に見えた。

「凄い……」

 ありきたりの言葉しか思い浮かばない自分が恥ずかしいけれど、とにかく凄いの一言に尽きる。
 この光の中に、人々の生活がある。そう思うと言葉なんて何も浮かばない。

「ここってデートスポットで有名なんだけど、俺、実はこうやって来たのは初めてなんだ。
 さっき言っていたのは、高校、大学時代の先輩からの受け売りでさ。何か俺、過去にまともなデートってした事がなくて、こうやって一緒に食事したり出掛けたりするのって、結衣が初めてなんだ」

 意外とも取れる発言に、私は返す言葉が浮かばなかった。

「きっと結衣の事だから、俺の過去の交友関係が気になってるんだろうけど……。
 今までにきちんとお付き合いした人は、いない。
 俺も年齢が年齢だし彼女がいなかったとは言わないけど……。正直言って、カレカノって言えるような付き合いじゃなかったし、きちんと気持ちが通じ合った彼女っていう存在の人は……、結衣だけなんだ。
 何か、こう言う言い方をすると、最低な男って思われるかも知れないな……」

 自嘲気味に話す悠太くんの表情は、きっと自分でも自覚があるのだろう、私の目から見てもかなり歪んで見えるしそんな顔を見られたくないのか顔を私から背けている。

 悠太くんの言葉に、一体どう返事をすればいいのだろう。私が何か言葉を発した所で何も変わらないし、悠太くん自身が傷付くのが目に見えている。
 気が付けば、私は自分の手で悠太くんの左腕を掴んでいた。
 突然の行動に、悠太くんも驚いた表情を見せるものの、私の手を振りほどく事もなくそのまま私の顔を見つめている。

「えっと……、何て言っていいのか分からないんだけど……。
 確かに私は、過去の悠太くんの交友関係に嫉妬してた。でも、それは今更だし、私がとやかく言える立場ではないから悠太くんがそんな風に思う必要はないし、色んな事があってこその『今』があるんだと思う。
 だから……、上手く言えないんだけど……」

 私の拙い言葉に、悠太くんの身体が動いたと思ったら、私は悠太くんに抱き締められていた。
 横並びの席だから、体制はかなり無理があるけれど、それでも大きな体に包まれる安心感があった。

「これだけは言わせて欲しいんだ。結衣の事が本当に大事だから、これから先、俺は嘘を吐いて結衣を傷付けたり泣かせたりすることはしない。これは俺が過去に犯した罪に対する十字架だから。こうして傍にいてくれる事が奇跡だと思ってる。だから……、結衣、ずっと傍にいて……」

 耳元で囁く声に、私は頷く事しか出来なかった。
 悠太くんの心の傷は、今も癒えていないのだ。
 私はあの日、悠太くんの事を許せたけれど、悠太くんは違う。過去の過ちを十字架として背負ったまま……。

 私は悠太くんの背中に腕を回した。瞬間、悠太くんの身体が跳ねた。

「もう、そんな十字架は背負わなくていいんだよ。ずっと、悠太くんの傍にいるから。
 私も悠太くんもそれぞれの人生を歩んできて、過去に交友関係で何もなかったってのもおかしいと思うし、それって今更覆す事なんて出来ないでしょう。
 だからもう、私も悠太くんの過去に嫉妬しないし、悠太くんもそんな風に自分を戒めるのはもうやめよう?」

 今の私に言える事を精一杯、伝えたつもりだ。元々口下手だから言葉足らずな事もあるかも知れない。でも、悠太くんの枷を解いてあげたかった。きっとそれが出来るのは、私だけだから。

 私の背中に回された腕の力が弱まり、私は悠太くんの腕の中からそっと身体を起こした。
 そして、悠太くんの顔が私の顔に近付いて、私達はそっと唇を重ね合わせた。

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