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その後
名前を呼んでくれないかな 2
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悠太くんの発した言葉に反論は出来なかった。だって、言っている言葉は全て事実でその通りだから。
今振り返っても、もしあの時卒業前に呼び出した図書室で弁解の言葉を聞いていたとしても、仮にあの場で告白されていたとしても、きっと私は素直にその言葉を受け入れてはいなかっただろう。
私は返事が出来なくて黙ったまま、目の前に置かれているコーヒーカップに視線を落としていた。
デザートのチョコレートケーキと一緒に出されたコーヒーは、さっき飲み干したばかりだ。
「だからさ、俺はこれから結衣を大事にするんだ。
今まで傷付けていた分、存分に甘やかして信頼される様に努力するから」
悠太くんの決意表明を聞き、私は頷く事しか出来なかった。
大事にされているのは十分に伝わっている。
「さ、この話をしてももう過去には戻れないから、もう止めよう。
……そろそろ出ようか」
悠太くんに促されて私達は店を出た。
駐車場まで並んで歩く間、自然に繋がれた手に私の心臓が跳ねた。
咄嗟に悠太くんの横顔を見上げたけれど、悠太くんは全く表情が変わらない。動揺しているのは私だけだ。
ようやく最近毎日のメッセージのやり取りに慣れて来た所なのだ。電話をするだけでも心拍数が上がる私はまだまだ恋愛初心者なのだ。
きっとこんな事は、悠太くんにとっては何気ない事なのかも知れないけれど、男性に免疫のない私にとって手を繋ぐと言う行為はかなりハードルが高い。それ以外でもきっと同じことを思うのだろうけど……。
駐車場に到着すると、迎えに来てくれた時同様に車のオートロックを解除すると助手席のドアを開けて、中に座る様にエスコートしてくれる。恐縮しながら私は車の中に乗り込むと、ドアを閉めて運転席に乗り込んだ。
車のエンジンをかけて車内のエアコンの設定温度を上げる悠太くんの手を思わず制してしまった。
私の行動を不可解に思ったのだろう、悠太くんは首を傾げて私の顔を覗き込んだ。
「えっと……。あのね、あんまり温度をあげちゃうと、チョコレートが融けちゃうから……」
家から持って来たチョコレートの入った紙袋は、助手席に置いたまま食事に行ったので現在私の手元にある。
それに気付いた悠太くんは急いで設定温度を通常に戻した。
「それ、俺に……?」
悠太くんから発せられた声は、自身がなさそうな弱々しいものだった。
一体何故そんな声を出すのだろうと悠太くんの横顔を見ると……。
表情は、まるであの頃の……、中学三年の卒業前の図書室に呼び出した時の様な緊張したあの時のままだった。
「うん、悠太くんに用意したんだよ。腕に自信がないから手作りじゃないけど……」
私は紙袋のまま悠太くんに差し出した。
悠太くんは私の差し出した紙袋を見つめている。
「ほら、早く受け取ってよ。そんな大したものじゃないけど、悠太くん甘いもの好きって言ってたから、沢山入ってるの選んだんだ」
つい照れ隠しでつっけんどんな物言いになってしまったけれど、悠太くんの中で止まってしまっているあの過去のあの時間を動かしてあげたいと思った。
どうすればいいのかは分からないけれど、きっとその役目は私にしか出来ない。
私の言葉で我に返った悠太くんは、素直に紙袋を受け取ると、中を見ていいかと私に断りを入れてチョコレートの包装紙を解いた。
色々と迷った挙句、今回は一口サイズのチョコレートの詰め合わせを選んでみた。これなら疲れた時にちょっと摘まんだりする事も出来るだろう。
ただ、学校には持って行けないから自宅で食べて貰う様に後で釘を刺しておかなきゃ。
「ありがとう、これ、家で一人でゆっくり食べるよ」
口に出さなくても私の意図は伝わっていた様だ。私は頷いてカーオーディオのデジタル時計で時間を確認する。
私の視線の先を読んだ悠太くんが、サイドブレーキのロックを解除してギアをパーキングからドライブに動かした。
「明日も仕事だし、今日はもう帰ろうか」
時間はまだ全然大丈夫なのに、私の仕事が忙しい事に気を遣って帰宅を促しているのだろう。私は何も言えないまま、車は帰路へと就いた。
「あのね、帰る前に行きたい所があるんだけど……」
ショッピングモールの駐車場を出て車を少し走らせた所で、悠太くんが口を開いた。
私は車に乗せて貰っている立場だし、まだこうして一緒にいられる事が嬉しくて、頷いた。
「どこに行くの?」
「そんなに時間はかからないよ。結衣の家に戻る途中の場所になるんだけど、山頂公園にある展望台って行った事ある? あそこからの夜景が綺麗なんだ。良かったらちょっと寄り道してもいいかな?」
思いがけない嬉しい提案に、思わず笑顔が零れた。
「私、車を持ってないから運転出来ないし、行った事ないんだ。だから嬉しい」
素直に喜びを表すと、悠太くんも嬉しそうに返事をくれる。
「行った事ないんだ? 多分感動すると思うよ。夜景が綺麗なんだけど、駐車場からちょっと離れた森林浴コース内の広場から空を見たら、星空が綺麗に見えるんだ。ちょっとした天体観測も出来るよ」
今振り返っても、もしあの時卒業前に呼び出した図書室で弁解の言葉を聞いていたとしても、仮にあの場で告白されていたとしても、きっと私は素直にその言葉を受け入れてはいなかっただろう。
私は返事が出来なくて黙ったまま、目の前に置かれているコーヒーカップに視線を落としていた。
デザートのチョコレートケーキと一緒に出されたコーヒーは、さっき飲み干したばかりだ。
「だからさ、俺はこれから結衣を大事にするんだ。
今まで傷付けていた分、存分に甘やかして信頼される様に努力するから」
悠太くんの決意表明を聞き、私は頷く事しか出来なかった。
大事にされているのは十分に伝わっている。
「さ、この話をしてももう過去には戻れないから、もう止めよう。
……そろそろ出ようか」
悠太くんに促されて私達は店を出た。
駐車場まで並んで歩く間、自然に繋がれた手に私の心臓が跳ねた。
咄嗟に悠太くんの横顔を見上げたけれど、悠太くんは全く表情が変わらない。動揺しているのは私だけだ。
ようやく最近毎日のメッセージのやり取りに慣れて来た所なのだ。電話をするだけでも心拍数が上がる私はまだまだ恋愛初心者なのだ。
きっとこんな事は、悠太くんにとっては何気ない事なのかも知れないけれど、男性に免疫のない私にとって手を繋ぐと言う行為はかなりハードルが高い。それ以外でもきっと同じことを思うのだろうけど……。
駐車場に到着すると、迎えに来てくれた時同様に車のオートロックを解除すると助手席のドアを開けて、中に座る様にエスコートしてくれる。恐縮しながら私は車の中に乗り込むと、ドアを閉めて運転席に乗り込んだ。
車のエンジンをかけて車内のエアコンの設定温度を上げる悠太くんの手を思わず制してしまった。
私の行動を不可解に思ったのだろう、悠太くんは首を傾げて私の顔を覗き込んだ。
「えっと……。あのね、あんまり温度をあげちゃうと、チョコレートが融けちゃうから……」
家から持って来たチョコレートの入った紙袋は、助手席に置いたまま食事に行ったので現在私の手元にある。
それに気付いた悠太くんは急いで設定温度を通常に戻した。
「それ、俺に……?」
悠太くんから発せられた声は、自身がなさそうな弱々しいものだった。
一体何故そんな声を出すのだろうと悠太くんの横顔を見ると……。
表情は、まるであの頃の……、中学三年の卒業前の図書室に呼び出した時の様な緊張したあの時のままだった。
「うん、悠太くんに用意したんだよ。腕に自信がないから手作りじゃないけど……」
私は紙袋のまま悠太くんに差し出した。
悠太くんは私の差し出した紙袋を見つめている。
「ほら、早く受け取ってよ。そんな大したものじゃないけど、悠太くん甘いもの好きって言ってたから、沢山入ってるの選んだんだ」
つい照れ隠しでつっけんどんな物言いになってしまったけれど、悠太くんの中で止まってしまっているあの過去のあの時間を動かしてあげたいと思った。
どうすればいいのかは分からないけれど、きっとその役目は私にしか出来ない。
私の言葉で我に返った悠太くんは、素直に紙袋を受け取ると、中を見ていいかと私に断りを入れてチョコレートの包装紙を解いた。
色々と迷った挙句、今回は一口サイズのチョコレートの詰め合わせを選んでみた。これなら疲れた時にちょっと摘まんだりする事も出来るだろう。
ただ、学校には持って行けないから自宅で食べて貰う様に後で釘を刺しておかなきゃ。
「ありがとう、これ、家で一人でゆっくり食べるよ」
口に出さなくても私の意図は伝わっていた様だ。私は頷いてカーオーディオのデジタル時計で時間を確認する。
私の視線の先を読んだ悠太くんが、サイドブレーキのロックを解除してギアをパーキングからドライブに動かした。
「明日も仕事だし、今日はもう帰ろうか」
時間はまだ全然大丈夫なのに、私の仕事が忙しい事に気を遣って帰宅を促しているのだろう。私は何も言えないまま、車は帰路へと就いた。
「あのね、帰る前に行きたい所があるんだけど……」
ショッピングモールの駐車場を出て車を少し走らせた所で、悠太くんが口を開いた。
私は車に乗せて貰っている立場だし、まだこうして一緒にいられる事が嬉しくて、頷いた。
「どこに行くの?」
「そんなに時間はかからないよ。結衣の家に戻る途中の場所になるんだけど、山頂公園にある展望台って行った事ある? あそこからの夜景が綺麗なんだ。良かったらちょっと寄り道してもいいかな?」
思いがけない嬉しい提案に、思わず笑顔が零れた。
「私、車を持ってないから運転出来ないし、行った事ないんだ。だから嬉しい」
素直に喜びを表すと、悠太くんも嬉しそうに返事をくれる。
「行った事ないんだ? 多分感動すると思うよ。夜景が綺麗なんだけど、駐車場からちょっと離れた森林浴コース内の広場から空を見たら、星空が綺麗に見えるんだ。ちょっとした天体観測も出来るよ」
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