同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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*番外編*side悠太

まるで蜘蛛の糸の様に

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 そんな俺の生活は、あの日西田とすれ違った事で少し変わった。
 あの頃、西田に対する気持ちをブログに綴っていた。
 日記にすると親や妹に見られる可能性がある。
 ブログなら、アカウントの存在を俺が口にしなければ誰にも見つかる事はない。
 あの頃のブログを改めて読み、自分の気持ちを再確認した。

 毎年、港北中の同窓会と言う名の集まりを年に一度開催していたけれど、きちんとした同窓会は実際には行った事はなかった。
 いつもなら大概決まったメンバーがSNSでグループを作ってそこから同窓会開催の打ち合わせをするのだが、今回はそのメンバーに俺も加わる事にした。
 俺はあの日の後悔を忘れない為に、西田を傷付けたあの場から離れてはいけない気がして、中学校の教師を目指して頑張った。

 かなりの倍率の中、一発で難関を突破して無事に中学校の教師になり、偶然にも最初から赴任地が母校であるここに決まった。
 中学校の教員は県職員だから、年度替りはいつ別の学校に異動になるか。
 自宅近隣の市町村ならまだしも、この地から離れなければならない場所に異動になるかも知れないリスクは常にある。
 この日までは、別にそんな事は気にも留めなかったけれど……。
 西田がこの街にいると知った以上、ここから離れたくないと初めて思った。

 何としてでも西田の現在を知りたい。
 何でもいい。誰か、西田が今、何をやっているか知っている人間はいないだろうか。
 あの時のすれ違った後ろ姿の残像が、忘れられずにいた。

 十月の新人戦に向けて、二学期に入ってから担当しているバスケ部の練習にもより一層熱が入る。
 俺は学生時代、バスケ部に所属していた事もあり、指導と称して自分も一緒になってバスケをしたりしていた。
 経験者と混じって練習する事で、少しでも生徒達の実力が向上すればとの思いからだ。
 俺自身、学生時代に先輩達と一緒に練習して技術をたくさん勉強した。
 生徒達と一緒にウォーミングアップから始め、試合形式で俺も本気でコート内を走り回る。
 毎日クタクタになるまで練習し、生徒達が帰宅するのを見送ってから俺も帰宅する。
 そんな日々を過ごしていたある日、ボーナス預金の運用セールスにやって来た銀行に勤務する同級生に捕まった。
 生徒達には自主練習を言い渡し、俺は体育館の外でその同級生と話をしている時だ。

「そう言えば西田結衣の事、覚えてる?」

 唐突に西田の話題になって俺は驚きを隠しながらも平静を装った。

「ああ、もちろん」

 忘れる筈がない。
 今でも胸にあの日の後悔を刻んでいる。
 西田の事を何か知っているのだろうか。

「この前うちの銀行の窓口に来てたから、声をかけたんだけど、相変わらず可愛いな」

 銀行の窓口に?  一体何を話したんだ?
 俺は目の前にいる同級生の次に発する言葉を待った。

「西田さ、短大出てからこっちに帰って来てるんだって。
 で、駅前にある昔からある税理士事務所で働いてるって」

 彼の一言が、まるで目の前に垂らされた細い蜘蛛の糸の様に思えた。
 ほんの僅かな希望の光。
 手繰り寄せて縋ってしまうと切れてしまいそうな程に脆く危うい。
 でも、それ程までに恋い焦がれている西田の情報を手に入れたい想いが優ってしまう。

「こっちに帰って来てるって……?」

 もしかして、既に誰かの物になってしまっているのだろうか。

「ああ、ご両親と妹がいたの覚えてるか?  三人は九州の温泉街にある古民家を買って、そっちでオーガニックのパン屋をするからって五年前に向こうに行ったらしい。
 西田はこっちに残って、知り合いの税理士事務所に就職したって言ってたぞ」

 それを聞いて、胸が躍った。
 でもまだ肝心な情報が聞けていない。

「……結婚とかは?」

 自分の声が少し震えているのが分かった。
 もし西田が誰かの物になっているのなら、もう潔く諦める。
 初恋を引きずっている拗らせ男子なんてキモいだろう。
 教員採用試験に受かる前に、気持ちのない身体だけの付き合いをしていた人は何人かいた。
 もし西田にパートナーがいるのなら、また、あんな日々に戻るだけだ。
 それだけだ。

「いや、そんな暇はないくらいにあそこは忙しいぞ。
 結婚どころか、彼氏もいないって言ってた」

 笑いながら言う彼の言葉に、僅かな希望が期待に変わる。
 どうにかして西田ともう一度、会いたい。
 会って、話がしたい。
 そして改めて謝罪をした上で、この十年間の気持ちを打ち明けたい。
 それで彼女が受け入れてくれないなら、その時はすっぱり諦める。
 そして初恋のケジメをつける。
 この時俺は決意した。

 それからの行動は早かった。
 同級生のグループSNSの中から、当時西田と仲の良かった永木由美の名前を見つけ、アポを取った。
 昔の俺の愚行を話し、本人に謝罪したいから連絡先を教えて欲しいとひたすら頼み込んだ。
 永木は西田から俺の仕出かした事を全て聞いていたのだろう、何故そんな事をしたのかを聞かれた。
 ここで下手に誤魔化せば、きっと西田に繋がる糸は切れてしまう。
 それだけは断じて避けたい。
 俺は意を決して自分の気持ちを永木に話した。
 永木は黙って俺を見つめている。
返事が返って来たのは、十二月に入る少し前だった。

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