16 / 34
side結衣
動き出した時間
しおりを挟む
色々な事を言われて、正直頭の中はパニック状態だ。
つい先ほど自覚した自分の坂本に対する気持ちや、坂本が私に抱いている好意、みんなの気持ち、考えれば考える程、上手く言葉に出す事が出来ない。
そんな私の事を、優しい眼差しで見つめていてくれる。
「返事は急がないよ。
俺も思春期の子供達を相手に毎日忙しいし、これから高校入試を迎える奴ら相手に神経使うし」
坂本はそう言って視線を落とす。
過去の事を思い出したのだろうか。
「でも連絡先交換したし、これからはグイグイ行くから。
少しでも俺の事を好きになって貰える様にアピールするから覚悟しといて」
そう言ってニヤリと悪い表情を覗かせる。
何だかこれは、素直に私の気持ちを伝えたら最後、逃げられないかも知れない。
私は引きつった笑顔でその場をやり過ごそうとすると、坂本が話題を変えた。
「そう言えば、西田ってSNS何かやってる?」
咄嗟に聞かれて私は首を横に振る。
私のスマホに登録されているのは、家族と由美、後は職場と職場の人達とかかりつけの病院だけだ。
会社の人とは、会社支給のガラホがあるのでそれで事足りる。
両親や由美とは無料通話アプリを使っているけれど、その存在はすっかりと頭の中から抜け落ちていた。
「マジかー……。
西田って、SNS本当にやってないんだな。
ブログ書いたりとかした事ない?」
坂本が私の顔を覗き込むものだから、私の顔は、きっと一気に赤くなっただろう。
パソコン室内の空気はとても冷たい筈なのに、私一人、顔が熱い。
頼むから急激に距離を詰めてくるのはやめてほしい。
私は勢いよく頷いた。
坂本はそんな私の顔を見て、クスクス笑った。
一体何が可笑しいの?
「……ヤバイ、めっちゃ可愛い」
謎の発言をする坂本に、これ以上見つめられると恥ずかしさで心臓が壊れてしまいそうだ。
ただでさえ今、かなり心拍数が上がっている。
「さっきのURL、俺のブログのアドレスなんだ。
俺が承認した人しか見られない様にしてるんだけど、アカウント作ったら教えてくれる?」
見ると十年前の当時、流行った承認制のSNSのアドレスっぽい。
このSNSなら、確か高校の時、アカウント作っていた筈だ。
「ここのサイトなら、昔、高校の頃にアカウント作ってたかも。
ちょっと待って。
アカウント残ってるかな……」
私は手に持っているスマホで、坂本のメモに書いてあるサイトのログイン画面を検索した。
メールアドレスは当時から変えていない。
パスワードも……。
恐る恐る入力して、ログインボタンを押した。
「あ、アカウントまだ生きてる」
私の声に坂本が嬉しそうに顔を綻ばせて、私の手元を覗き込む。
「YUI、で登録してるんだな? そしたら……」
坂本はそう言って、自分のスマホでそのサイトにログインしたのだろう。
検索機能を使って私のアカウントを特定し、友達申請の通知が来た。
「これ、承認してくれる?」
私は頷いて、坂本が出した友達申請を承認した。
「西田に読まれるのは恥ずかしいけど……。
俺、実は中学の頃このサイトでブログ書いてたんだ。
時間がある時でいいんだけど、もし良かったら、その当時のブログ読んでみてくれないかな。
西田にとって、あの頃の嫌な事を思い出させてしまうかも知れないけど……」
坂本の精一杯の謝罪と懺悔。
十年の月日が経ち、私もようやく素直に受け止められる。
「うん、わかった」
私の顔は、まだ赤いままだろう。
坂本に返事をすると、坂本は私をそっと抱き寄せた。
「こんな事するのは友達の範疇を超えてるけどごめん。
今、めっちゃ嬉しくて。
西田がこうして目の前にいて、俺と普通に会話をしてくれてる。
夢じゃないんだよなって思ったら……。
頼むからもう少しだけ、こうさせていて」
坂本の抱擁の温かさに、私の強張っていた身体の力が抜けて行く。
今、ようやくあの日から私の中で止まっていた時間が動き出したみたいだ。
抱擁が解けて坂本は照れ隠しなのか、パソコンからSDカードを抜き取ると電源を落とした。
「この部屋は寒いだろう。
てか教室全般、広すぎるから暖まるまで時間がかかるんだよな。
場所変えようか」
そう言って、坂本は私に退室を促した。
パソコン室を出て、坂本がドアの施錠をする。
二人並んで特別教棟を出ると、再び坂本が通路入口の施錠をする。
本館を通過して、職員室のある教員棟へと向かい、連れて行かれたのはカウンセリング室。
当時の相談室だった。
「ここ、簡易キッチンもあるから温かい飲み物でも飲もうぜ。
コーヒー、紅茶、どっちがいい?」
室内は私の記憶に残る古びた教室とはガラリと変わり、リフォームされていた。
「坂本と同じでいいよ、何でも飲める」
坂本がファンヒーターのボタンを押して、室内には灯油が燃焼する匂いとコーヒーの匂いが漂い始める。
ポットのお湯は坂本が予めセットしていたのだろう、コーヒーはすぐに用意された。
つい先ほど自覚した自分の坂本に対する気持ちや、坂本が私に抱いている好意、みんなの気持ち、考えれば考える程、上手く言葉に出す事が出来ない。
そんな私の事を、優しい眼差しで見つめていてくれる。
「返事は急がないよ。
俺も思春期の子供達を相手に毎日忙しいし、これから高校入試を迎える奴ら相手に神経使うし」
坂本はそう言って視線を落とす。
過去の事を思い出したのだろうか。
「でも連絡先交換したし、これからはグイグイ行くから。
少しでも俺の事を好きになって貰える様にアピールするから覚悟しといて」
そう言ってニヤリと悪い表情を覗かせる。
何だかこれは、素直に私の気持ちを伝えたら最後、逃げられないかも知れない。
私は引きつった笑顔でその場をやり過ごそうとすると、坂本が話題を変えた。
「そう言えば、西田ってSNS何かやってる?」
咄嗟に聞かれて私は首を横に振る。
私のスマホに登録されているのは、家族と由美、後は職場と職場の人達とかかりつけの病院だけだ。
会社の人とは、会社支給のガラホがあるのでそれで事足りる。
両親や由美とは無料通話アプリを使っているけれど、その存在はすっかりと頭の中から抜け落ちていた。
「マジかー……。
西田って、SNS本当にやってないんだな。
ブログ書いたりとかした事ない?」
坂本が私の顔を覗き込むものだから、私の顔は、きっと一気に赤くなっただろう。
パソコン室内の空気はとても冷たい筈なのに、私一人、顔が熱い。
頼むから急激に距離を詰めてくるのはやめてほしい。
私は勢いよく頷いた。
坂本はそんな私の顔を見て、クスクス笑った。
一体何が可笑しいの?
「……ヤバイ、めっちゃ可愛い」
謎の発言をする坂本に、これ以上見つめられると恥ずかしさで心臓が壊れてしまいそうだ。
ただでさえ今、かなり心拍数が上がっている。
「さっきのURL、俺のブログのアドレスなんだ。
俺が承認した人しか見られない様にしてるんだけど、アカウント作ったら教えてくれる?」
見ると十年前の当時、流行った承認制のSNSのアドレスっぽい。
このSNSなら、確か高校の時、アカウント作っていた筈だ。
「ここのサイトなら、昔、高校の頃にアカウント作ってたかも。
ちょっと待って。
アカウント残ってるかな……」
私は手に持っているスマホで、坂本のメモに書いてあるサイトのログイン画面を検索した。
メールアドレスは当時から変えていない。
パスワードも……。
恐る恐る入力して、ログインボタンを押した。
「あ、アカウントまだ生きてる」
私の声に坂本が嬉しそうに顔を綻ばせて、私の手元を覗き込む。
「YUI、で登録してるんだな? そしたら……」
坂本はそう言って、自分のスマホでそのサイトにログインしたのだろう。
検索機能を使って私のアカウントを特定し、友達申請の通知が来た。
「これ、承認してくれる?」
私は頷いて、坂本が出した友達申請を承認した。
「西田に読まれるのは恥ずかしいけど……。
俺、実は中学の頃このサイトでブログ書いてたんだ。
時間がある時でいいんだけど、もし良かったら、その当時のブログ読んでみてくれないかな。
西田にとって、あの頃の嫌な事を思い出させてしまうかも知れないけど……」
坂本の精一杯の謝罪と懺悔。
十年の月日が経ち、私もようやく素直に受け止められる。
「うん、わかった」
私の顔は、まだ赤いままだろう。
坂本に返事をすると、坂本は私をそっと抱き寄せた。
「こんな事するのは友達の範疇を超えてるけどごめん。
今、めっちゃ嬉しくて。
西田がこうして目の前にいて、俺と普通に会話をしてくれてる。
夢じゃないんだよなって思ったら……。
頼むからもう少しだけ、こうさせていて」
坂本の抱擁の温かさに、私の強張っていた身体の力が抜けて行く。
今、ようやくあの日から私の中で止まっていた時間が動き出したみたいだ。
抱擁が解けて坂本は照れ隠しなのか、パソコンからSDカードを抜き取ると電源を落とした。
「この部屋は寒いだろう。
てか教室全般、広すぎるから暖まるまで時間がかかるんだよな。
場所変えようか」
そう言って、坂本は私に退室を促した。
パソコン室を出て、坂本がドアの施錠をする。
二人並んで特別教棟を出ると、再び坂本が通路入口の施錠をする。
本館を通過して、職員室のある教員棟へと向かい、連れて行かれたのはカウンセリング室。
当時の相談室だった。
「ここ、簡易キッチンもあるから温かい飲み物でも飲もうぜ。
コーヒー、紅茶、どっちがいい?」
室内は私の記憶に残る古びた教室とはガラリと変わり、リフォームされていた。
「坂本と同じでいいよ、何でも飲める」
坂本がファンヒーターのボタンを押して、室内には灯油が燃焼する匂いとコーヒーの匂いが漂い始める。
ポットのお湯は坂本が予めセットしていたのだろう、コーヒーはすぐに用意された。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる