同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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side結衣

カミングアウト

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 坂本に遅れを取ったものの、パソコン室に到着すると、坂本は既に中に入っている。
 私は坂本がいる備品ロッカーの前まで呼吸を整えながら歩き、貼り付けてあったメモを見た。
 どうせまた、別の教室に誘導されるのだろうと思っていると、どうやら終着地だったらしい。
 ロッカーに貼り付けてあったメモは、何処かのサイトのURLが書かれてある。
 そして、そのメモにはSDメモリーカードが一緒に貼り付けられていた。

「これは……?」

 メモをロッカーから剥がして、SDカードを指差しながら坂本に問う。
 坂本は、無言で一台のパソコンの電源を入れ、起動させた。
 私は意味が分からなくて、そんな坂本の行動を見つめるだけだ。
 起動させるのに少し時間がかかるのか、沈黙を破る様に坂本が口を開く。

「このSDのデータは……。
 西田が早退した後にクラス全員で撮影した卒業写真と、それからずっと、毎年みんなで集まって撮影した写真だ。
 俺のせいで、あんな事になってしまって……。
 西田だけ違う高校に進学させてしまって、卒業してから毎年みんなで集まる事も伝えられなくて。
 そうしていたら、知らないうちに西田の実家も引っ越してるし、連絡先すら分からなくなってた。
 ご両親のやってるお店の事を思い出して、勇気を出してお店に行って西田の事を聞きに行ったんだ。
 でも、西田が引っ越し先や連絡先を誰にも言わずにいるのは、これ以上俺達に関わって傷付きたくないからじゃないかと言われて何も言えなくて……。
 俺、ずっと後悔してた。
 連絡網を回したけど電話が繋がらなかったなんて嘘ついた事。
 そのせいであんな事になってしまって……。
 ご両親に謝罪もした。
 西田は、妹の医療費の事もあって、県立に進学したかったって事をその時初めて聞いた。
 本当にごめん」

 坂本の言葉に、私はどう反応すればいいのだろう。
 あの時、どんなに私が連絡網が回って来てないと声を上げて訴えても、目の前にいるこの人は『電話をかけたけど繋がらなかった』と言い切ったのだ。
 それも、二回。
 あの一件を重く見た学校側は、翌年から連絡網をメール配信する事にした。
 個人情報漏洩を危惧する保護者の声で、それまで連絡網のメール配信案も何度か出ては却下されていた。
 けれど、今後またこの様な事態が発生した場合の責任が取れない為、学校側が強行手段に出た。
 卒業間際に連絡があり、以降はずっとそれで運用していると言う。

 私は黙って坂本を見つめた。
いつもの坂本らしくない、泣きそうな表情かおで、私を見つめている。
 私が口を開かないからか、間が持たないのだろう。

「何を言っても言い訳にしか取って貰えないかも知れないけど……。
 卒業した年の夏休みに、プチ同窓会をやったんだ。
 俺達学生だし小遣いなんて限られてるからカラオケ屋に行って三時間歌い放題で集まる程度だけど、最初の頃はみんなまあまあ集まりが良くて。
 でも必ず話題になるのは西田の事だった。
 話題に上る度に、俺の吐いた嘘がバレるんじゃないかと毎回辛かった。
 でも西田はあの時もっと辛い思いをしたんだと思ったら、もし嘘がバレた時にみんなから非難されようがどうでも良かった。
 俺よりも西田の方がよっぽど辛い思いをしていたんだから。
 高三の時に、西田の妹が入学して来た時は心臓が止まるかと思った。
 あの時も俺は生徒会の役員をやっていて、職権濫用して妹の連絡先を学校で調べて、こっそり西田の顔を見に行ったんだ」

 坂本の懺悔から一転して、今度は意外な事をカミングアウトする。

「アパートまで行くと、ストーカーと思われたくなくて行けなかったけど、中間や期末で下校時間が早かった時に、学校の近くまで行って、校門から出て来る西田を見に行ってたよ。
 タイミングが悪くて一度も顔が見れなかったけど」

 坂本に言われ、当時の事を思い出す。
 そう言えば私が通っていた女子高は当然ながら男っ気がないので、何処其処の誰々がカッコいいだの噂話は絶えなかった。
 その中でもやはり坂本の話題もよく聞いていた。
 同じクラスでバスケ部の子が、対外試合で坂本に一目惚れしたからと告白して振られた事も聞いていた。
 いつだったか忘れたけれど、高校の近くで坂本を見かけたと噂になった事があった。
 私はそれを聞いた時、坂本に会いたくなくて何度か裏門から帰った記憶がある。
 だから坂本の言う様に、高校時代は一度も顔を合わせる事はなかった。

 短大に進学した時に何人かは同じ中学校の子もいたと思うけど、外部からの進学組とは余り親しい人も居なかったので、接点はなかった。
 そうして妹と私の卒業を待って、両親は田舎の温泉街の古民家に引っ越して行った。
 由美は節目毎に小まめに連絡をくれていたので、両親が引っ越しする事、私も一人暮らしを始める事を話していた。
 今まで沈黙を貫いてくれていた由美に、何を言って私との接点を作ったのだろう。
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