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side結衣
自覚した気持ち
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私の図書室の思い出は、図書当番で昼休みや放課後にカウンターに座り、司書の真似事をした事が殆どだ。
中学校の図書室の本の数なんて公立図書館と比べたら絶対数が少ないし、ましてや思春期や反抗期を迎えた多感な時期の子供達が素直に学校図書に慣れ親しむ姿を見る事は少なくて、大抵の利用者は放課後の時間潰しや受験勉強をする人ばかりだった。
坂本もそんな受験勉強組の中にいたのは最初だけだった。
元々成績はそれなりに優秀な方で生徒会長とバスケ部キャプテン、モテ要素だらけの人生勝ち組コースを既にこの頃から歩んでいた。
図書室で放課後に残っていたのは、きっと単に女の子避けだったのだと今頃になって思える様になった。
一学期の中学総体が終わって三年生は部活を引退するけれど、坂本は確か夏休みが終わるまで部活に顔を出していた。
そして二学期になってから放課後は図書室に入り浸っていた。
私は委員会だから引退とかはなく、私も放課後の当番の方が宿題が片付くと言う安易な理由で水曜と金曜の放課後に当番でカウンターに座っていた。
誰もいない事をこれ幸いと、私は真っ直ぐにカウンターに向かった。そして中に入りカウンターに設置されている椅子に座ると、図書室内を見渡した。
まるで十年前に戻ったみたいだ。
カウンター越しに、あの頃みたいに図書室内を見渡した時に、突如思い出した。
あれは十一月に入ったある日、坂本は同じ生徒会役員の女子生徒に告白されていた。
ちょうど来週市内の音楽会があり、その練習の為授業はいつもより早く終わった日だ。
まだこの時期は受験勉強組も図書室にはそんなに居なくて、私もたまたま返却図書の本をそれぞれの棚に戻す作業をする為にカウンターを離れ、奥にある本棚に移動していた時、声が聞こえた。
「……か……との事が好きなの」
咄嗟の事で身体が固まってしまったけれど、これは間違いなく告白シーンだ。
耳を澄まして様子を窺っていると、相手の子は私に背を向けた状態になっているから私の存在に気が付いていない様だ。
坂本はと言うと、ちょうど本棚で死角になる場所にいるらしく、こちらからは顔が見えない。
ドキドキしながら返却図書を抱きしめて息を潜めていると……。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、俺、好きな子がいる」
坂本の声が聞こえた。
告白した子は納得したのか、わかったと言って立ち去って行った。
坂本も少しの間、その場から動かずにじっとしていたけれど、溜め息を一つ吐いてゆっくりとその場を後にした。
私はまだその場から動けないでいた。
坂本が図書室を出て行くか、残って勉強をするのかはわからない。
でももし今戻ったら、告白を盗み聞きしていた事がバレてしまう。
いや、でも返却図書を元の位置に戻すのが私の仕事なのだから、何処の棚にいたかなんて気にしないかも知れないし、もし聞かれたら私も惚けたらいいだけだろう。
最終的に私は開き直って手元にある返却図書を全て元の位置に戻してカウンターへと戻り、図書室内を見渡したけれど、そこにはもう坂本の姿はなかった。
私は安堵の溜息を吐いて、下校時間までカウンターに座り、宿題を済ませた。
でもきっとあの時、坂本は私の存在に気が付いていたのだろう。
だから音楽会前日のあの時、連絡網を回してくれなかったんだ……。
懐かしい思い出が、急に切なく思えて、何故か胸が苦しくて私の表情から笑顔が消えた。
図書室のカウンター上に置かれたメモには、例の如く次の教室が書かれている。
『パソコン室、備品ロッカー』
パソコン室にも、坂本との思い出が詰まっている。
メモを回収すると、私は坂本と顔を合わさない様に俯いて立ち上がり、図書室を後にする。
パソコン室へは、特別教棟内の階段で移動だ。
坂本も図書室の施錠をすると私の後を追って来た。
今日一日、私と坂本しかこの校内に居ないのなら、最初から鍵を開けておけばいいのに、いちいち入退室する度に鍵を開けたり閉めたりと、面倒ではないのだろうか。
でも、施錠しながら目視だけでなく口頭と手できちんと確認する坂本の姿を見ていると、何だか可愛くて思わず笑みが溢れそうになり、急いでそんな自分を戒める。
私はどうして坂本の言葉や行動でここまで心を乱されるの……?
それに、どうしてここまで坂本を意識してるの?
視聴覚室へ向かう間、お互い口を開かず黙って歩いた。
その時、階段の滑り止めに私の履いているスリッパが引っかかって、思わず転びそうになった。
「危ない!」
坂本が咄嗟に私の腕を掴んで、バランスを崩した私はそのまま坂本の腕の中に崩れ落ち……。
私は自覚してしまった。
この気持ちが、恋である事を。
中学校の図書室の本の数なんて公立図書館と比べたら絶対数が少ないし、ましてや思春期や反抗期を迎えた多感な時期の子供達が素直に学校図書に慣れ親しむ姿を見る事は少なくて、大抵の利用者は放課後の時間潰しや受験勉強をする人ばかりだった。
坂本もそんな受験勉強組の中にいたのは最初だけだった。
元々成績はそれなりに優秀な方で生徒会長とバスケ部キャプテン、モテ要素だらけの人生勝ち組コースを既にこの頃から歩んでいた。
図書室で放課後に残っていたのは、きっと単に女の子避けだったのだと今頃になって思える様になった。
一学期の中学総体が終わって三年生は部活を引退するけれど、坂本は確か夏休みが終わるまで部活に顔を出していた。
そして二学期になってから放課後は図書室に入り浸っていた。
私は委員会だから引退とかはなく、私も放課後の当番の方が宿題が片付くと言う安易な理由で水曜と金曜の放課後に当番でカウンターに座っていた。
誰もいない事をこれ幸いと、私は真っ直ぐにカウンターに向かった。そして中に入りカウンターに設置されている椅子に座ると、図書室内を見渡した。
まるで十年前に戻ったみたいだ。
カウンター越しに、あの頃みたいに図書室内を見渡した時に、突如思い出した。
あれは十一月に入ったある日、坂本は同じ生徒会役員の女子生徒に告白されていた。
ちょうど来週市内の音楽会があり、その練習の為授業はいつもより早く終わった日だ。
まだこの時期は受験勉強組も図書室にはそんなに居なくて、私もたまたま返却図書の本をそれぞれの棚に戻す作業をする為にカウンターを離れ、奥にある本棚に移動していた時、声が聞こえた。
「……か……との事が好きなの」
咄嗟の事で身体が固まってしまったけれど、これは間違いなく告白シーンだ。
耳を澄まして様子を窺っていると、相手の子は私に背を向けた状態になっているから私の存在に気が付いていない様だ。
坂本はと言うと、ちょうど本棚で死角になる場所にいるらしく、こちらからは顔が見えない。
ドキドキしながら返却図書を抱きしめて息を潜めていると……。
「ありがとう。気持ちは嬉しいけど、俺、好きな子がいる」
坂本の声が聞こえた。
告白した子は納得したのか、わかったと言って立ち去って行った。
坂本も少しの間、その場から動かずにじっとしていたけれど、溜め息を一つ吐いてゆっくりとその場を後にした。
私はまだその場から動けないでいた。
坂本が図書室を出て行くか、残って勉強をするのかはわからない。
でももし今戻ったら、告白を盗み聞きしていた事がバレてしまう。
いや、でも返却図書を元の位置に戻すのが私の仕事なのだから、何処の棚にいたかなんて気にしないかも知れないし、もし聞かれたら私も惚けたらいいだけだろう。
最終的に私は開き直って手元にある返却図書を全て元の位置に戻してカウンターへと戻り、図書室内を見渡したけれど、そこにはもう坂本の姿はなかった。
私は安堵の溜息を吐いて、下校時間までカウンターに座り、宿題を済ませた。
でもきっとあの時、坂本は私の存在に気が付いていたのだろう。
だから音楽会前日のあの時、連絡網を回してくれなかったんだ……。
懐かしい思い出が、急に切なく思えて、何故か胸が苦しくて私の表情から笑顔が消えた。
図書室のカウンター上に置かれたメモには、例の如く次の教室が書かれている。
『パソコン室、備品ロッカー』
パソコン室にも、坂本との思い出が詰まっている。
メモを回収すると、私は坂本と顔を合わさない様に俯いて立ち上がり、図書室を後にする。
パソコン室へは、特別教棟内の階段で移動だ。
坂本も図書室の施錠をすると私の後を追って来た。
今日一日、私と坂本しかこの校内に居ないのなら、最初から鍵を開けておけばいいのに、いちいち入退室する度に鍵を開けたり閉めたりと、面倒ではないのだろうか。
でも、施錠しながら目視だけでなく口頭と手できちんと確認する坂本の姿を見ていると、何だか可愛くて思わず笑みが溢れそうになり、急いでそんな自分を戒める。
私はどうして坂本の言葉や行動でここまで心を乱されるの……?
それに、どうしてここまで坂本を意識してるの?
視聴覚室へ向かう間、お互い口を開かず黙って歩いた。
その時、階段の滑り止めに私の履いているスリッパが引っかかって、思わず転びそうになった。
「危ない!」
坂本が咄嗟に私の腕を掴んで、バランスを崩した私はそのまま坂本の腕の中に崩れ落ち……。
私は自覚してしまった。
この気持ちが、恋である事を。
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