同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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side結衣

童心に帰ろう

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 スリッパを見つめて固まっている私に、坂本はそれを履いて校舎内に入るように促している。
 中学校の名前入りのスリッパは、職員靴箱の横のコンテナ内にたくさん入った状態で置かれている。

「こっち、使わなくていいの?」

 一応、確認を取ってみる。
 取り敢えず私の立場は、この学校の卒業生である。
 でも、卒業生と言うだけで、現在は学校関係者ではない。
 来客の立場だ。

「流石にそのペラペラなスリッパじゃ足が冷えるだろう? こっちの方が暖かいし、一応底にも滑り止めついてるからそれ履いとけよ」

 もしかして、これは坂本がわざわざ用意してくれたの?
 これじゃ、まるで……。
 勘違いしてしまいそうになる自分の心に、そうじゃないと必死で言い聞かせる。
 だって、相手は坂本だ。
 あの頃だって、気が利いてみんなに優しくて人気者だったのだ。
 今回のこれだって、きっと坂本にとっては、何て事ない事に違いない。
 うん、勘違いしちゃ駄目だ。

「ありがとう」

 私は履いているブーツを脱いで一番端に置くと、何を思ったのか坂本は、私のブーツを来客用の下駄箱に入れた。
 パッと見て外からは、そこに置かれると私のブーツは外から見えない。
 おまけに坂本は、ガラス張りである通用口の扉を閉めると中から鍵をかけている。

「防犯上、きちんと閉めておかないとね。
 結構風も出て来たし、扉が壊れたら警備保障会社に迷惑かけるし」

 坂本はそう言って笑うけど、他のみんなはもう集まっているのだろうか。
 でも、そうだとしたら、ここにみんなの靴がない。

「ねえっ、他のみんなはどこにいるの?
本当に今日、ここで同窓会やるの?」

 私は急に不安になってきた。
 みんなとの接点を自分から断っていたくせに、こんな事を思うなんておかしいかも知れない。
 けれど、これじゃまるで何かの罰ゲームみたいだ。

「同窓会は、今日やるよ、夜に居酒屋でだけど。
 でも、そう言ったら西田はここにも来ないし、本当の同窓会にも顔を出さないだろう……?
 あの日からずっと、西田ときちんと話がしたかったけど、タイミングも合わなかったし、気がつけば家も引っ越してたし連絡先さえ分からなくなってた。
 永木に聞いても全然口を割らないし。
 話をするのに十年かかったけど、やっと信用して貰った」

 坂本の言葉に、私は頭の中が真っ白になった。
 一体どう言う事……?

「……意味がわからないって顔してる。

 とりあえず今は、ちょっとした宝探しゲームしよう。
 校内の至る所にさっきみたいなメモを置いてるから、西田はそれを全部探してみて。
 そうすれば、答えが分かるから」

 坂本の言葉に何だか誤魔化されている気もするけれど、確かに外はさっきよりも吹雪いて来ており、帰るにしても足元が悪いし視界も良くなさそうだ。
 それに風が強いから、傘もさすのは大変そうだ。
 へんな打算が働いて、ここである程度時間を過ごせば雪も少しは小降りになるだろうと思った。
 それもあるけれど、坂本の言う『宝探し』の言葉に惹かれたのが、この場に残ろうと思った大半の理由だ。

「メモを全て集めてみて。
 大人になったらなかなかこんなゲーム出来ないだろう?
 それに、誰もいない中学校に居るのも、冒険って感じするだろう?」

 二人きりと言うのは何だか気恥ずかしいけれど、確かに坂本の言うように、大人になってこんな経験をする事なんてまずないだろう。
 素直に納得した私は、通用口から本館へと向かった。
 坂本は、そんな私の後について歩いて来る。

「何でついて来るの?」

 階段を上りながら坂本に問いかけた。
 背後にいる坂本は、ポケットから何かを取り出している。

「だって教室の鍵、俺が持ってるから」

 言われて納得した。
 本館への入口や特別教棟は、さっきの通用口みたいに鍵がかかっていたのを思い出したのだ。
 この学校の教員である坂本がいないと中に入れない。
 鍵を借りて一人で校内探検をしようかと思ったけど、鍵を失くした時の事を考えると恐ろしくて、結局は一緒に行動する事となった。

 職員室のある事務教棟と教室のある本館は、連絡用通路を通るのだけど、それぞれの建物に施錠が施されている。
 それをいちいち解錠していくのは、はっきり言ってとても面倒だ。
 私達が在学中も、確か文化祭の準備期間以外は十八時に施錠だと言っていた気がする。
 鍵当番の先生方も、教室に生徒が残っていないか確認して施錠しなければならなかったので大変だ。
 今もそれは変わらないのだろうか。

 本館の鍵を開けている坂本の後ろ姿を見ながら、中学時代の事を思い出していた。
 警備保障の警報装置を解除して鍵を開けた坂本の後ろに続きながら、私達は次の目的地である一年二組の教室へと向かった。

「このメモ紙、一体何枚用意してるの?」

 廊下を歩きながら坂本に話しかけた。
 坂本はニヤニヤしながら、さぁ?  と惚けて教えてくれない。

「てかさ、今頃になって聞くのも何だけと、坂本は何の先生になったの?  やっぱり体育の先生?」

「そんな風に見える?  俺、一応数学教師なんだ」

 意外過ぎる答えに驚きを隠せない。

「確かにずっとバスケやってたから、西田には体育教師のイメージなのかも知れないけど、俺、数学が得意だったから」

 話をしているうちに、一年二組の教室の前に辿り着いた。
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