同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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side結衣

坂本先生……?

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 中学校の正門から体育館裏の通用口までは、少し距離がある。
 中学校の敷地を隔てるブロック塀沿いは吹き溜まりになるのか、路面よりも積雪の量も多い。
 そして日陰になる場所だから雪も融けにくい上に、踏み固められる雪がアイスバーン状態になり、非常に滑りやすくなる。
 私は足元に気を付けながら、ゆっくりと坂本の後ろに続いた。

 広くて逞しい坂本の背中は、もう中学生の頃の面影を感じさせない大人の男性のものだ。
 まるで、見知らぬ男の人みたいだ……。
 そんな大人になった坂本の後ろ姿に、何故私の胸はこんなにもドキドキするのだろう。
 坂本は、私がきちんと着いて来ているか、途中何度も振り返りながら前に進む。
 私が途中で帰るとでも思っているのだろうか。
 そんなに私は信用がないのだろうか。
 振り返って前に私の存在を確認する坂本と視線が合うと、思わず顔が赤くなる。

 マフラーを巻いていて良かった。
 少しでも顔を隠す事が出来るから。
 恥ずかしさのあまり、視線を足元に落として坂本を視界に入れない様に俯いて、坂本の後を追った。
 坂本は私の歩幅を考えてか、単に足元が悪いからか、ゆっくり歩いているので見失ったりする事はない。
 それに十年前まで三年間通学していた場所なのだ、校内の配置は何となく覚えている。

 古い鉄格子の門扉を開けて、私を中に誘導する坂本に、ふと疑問が湧いた。
 この鉄格子、確か施錠は南京錠だった筈。
 鍵はどうしたのだろう。
 いくら同窓会とは言え、鍵がないと勝手に中学校の内部になんて入れない。
 港北中に、当時の担任だった山田先生がまだ赴任中なのだろうか。
 それに校舎の中だって、警備保障会社のセキュリティを解除しなければ、不法侵入で通報されるのではないのだろうか。
 私の疑問は、すぐに解消された。
 坂本の意外な発言で。

「俺さ、教員採用試験に受かって、大学を卒業してすぐに新卒でここに赴任になったんだ。
 明日が仕事始めになるんだけどこの雪だろ、勘弁して欲しいよな?  この調子だと、朝一から雪掻きしなきゃ」

 ……坂本が、先生?
 思ってもみなかった発言に、私の足は止まった。
 そして、まじまじと坂本を見つめた。
 坂本は私の反応をきっとある程度予測していたのだろう、驚いた様子など見せずに私の手を取ると、職員通用口へと誘導する。
 私は坂本に腕を取られているので、後ろをついて行くのみだ。
 軒下を通って行くので、当然の事ながらそこに雪などは積もっておらず、足跡なんて一つも見当たらない。
 だから当時のクラスメイトの誰が来ているかなんて、この時点では知る由もなかった。

「もう、みんな集合してるの?」

 私の質問に坂本は何も応えない。
 黙々と歩いて行く。
 一体何処へ向かっているのだろう。
 それに、みんなが集まっているのなら、こうやって手を引かれている所を見られるのは非常に恥ずかしい。

「ねえ、何処へ行くの?」

「んー、ちょっとね。
 ……それはそうと、西田は確か卒業式の日、結局教室に上がって来ないでそのまま早退したんだよな」

 急に話題が十年前の事になり、私は身構える。

「……うん、確かあの日、卒業式の途中で気持ち悪くなって保健室で休んでたら熱が出て。
 お母さんも式に来てたし、あのまま病院に行った」

 慎重に言葉を選びながら、坂本の問いに応える。
 先程の私の問いに、まだ坂本は応えてくれていない。
 そっか、と坂本は呟くと、私の手をぎゅっと握りしめ、歩みを進めて行く。
 確かこの先には……。

『体育館裏の手前から三本目の支柱』

 ふとあの日保健室のベッドの中で握りしめていたメモを思い出した。
 私の考えが間違っていなければ、きっと坂本はそこに向かっている。
 あのメモの字は、私の記憶が間違っていなければ坂本の字だったと思う。
 一体何のつもりで私にあんな意味のわからないメモを握らせていたのだろう。
 坂本の後ろに黙ってついて行くと、やはり連れて来られたのは体育館裏だ。

 三本目の支柱に、何かメモが貼られている。
 私は、支柱からそのメモを剥がし手に取った。

『一年二組、教室の水槽』

 またまた意味不明な内容だ。
 不審者を見つめる様な警戒した私の眼差しに気付いた坂本は、苦笑いをしながらやっと口を開いた。

「あの日、一緒にこうやって校内散策したかったんだよ、西田と二人で。
 十年前のリベンジ、付き合ってよ」

 坂本の言葉は意味がわからない。
 十年前のあの日って、あの大雪の日の事?
 それとも卒業式の日の事?

「ねえ、ちょっと意味がわかんないんだけど……。
 今日は同窓会なんでしょう?  他のみんなは何処にいるの?
 何で私と坂本と二人しか居ないの?」

 肝心な私の知りたい事についてはスルーする。
 坂本は、私の手にしたメモを覗き込み、行くぞと声をかけると再び私の手を取って、本館の職員用通用口へと向かった。
 校舎内は土足厳禁だから、そこで靴を脱ぐのだろう。
 後を追いながら、私の手を引く坂本の手を見つめていた。
 通用口には、坂本が使っていると思われる上履き用の靴と、どうみても学校側が来客用に用意している中学校の名前の入った安っぽいスリッパでなく、足の冷えを緩和させるフワフワもこもこの可愛らしいスリッパが用意されていた。
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