同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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side結衣

再会

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 外はあの日を思い出す様な天気で、正直言って強制参加じゃなかったら外出なんてしたくない。
 まだあの時の様に吹雪いていないだけマシだけど、明日が日曜日で良かったと内心ホッとする。
 あの時の様に、到着時間と雪道の足場の悪さを考慮して予定より少し早くアパートを出て、のんびりと当時の通学路を歩いた。

 職場である税理士事務所は中学校のある場所とは逆方向にあるので、この道を通るのは実に十年振りになる。
 田舎町の住宅街は、あの頃とほぼ変わらない。
 でもやはり、確実に月日が流れている。
 空き地だった場所は、月極駐車場になっていたり、コンビニがあった場所は経営者が変わったのか違うコンビニに変わっていたり。
 変わっていない様で変わっている。
 郷愁に浸っていると、いつの間にか足が止まる。
 この調子で歩いていると、確実に遅刻してしまいそうだ。
 私は足元に気を付けながら歩くスピードを少しだけ速めた。

 外気が当たる顔や耳は、寒さを通り越して痛みを感じる。
 きっと頬は林檎の様に真っ赤になっているに違いない。
 私は立ち止まるとポケットの中に入れていたカイロを取り出し、それをそっと耳に当てて束の間の暖を取った。
 目的地の港北中まで、もうすぐだ。
 中学校の正門に近付いて行くと、否が応でもあの日の記憶が蘇る。

 あの日、聡子に声を掛けられなかったら、私は誰もいない校舎の中にたった一人で待ちぼうけだったんだ。
 もしかしたら職員室に行けば、先生が誰か出て来ていたのかも知れないけれど、そうだったとしても……。
 そして聡子の家の前を通り過ぎて、中学校へと辿り着いた。

 けれど……。
 正門前には、誰も居なかった。
 私は家から持参したハガキをバッグの中から取り出して、日時を確認した。
 一月三日、十三時、港北中学校正門前。
 スマホで日時を再度確認する。
 今日で間違いない。
 なのに正門前には誰一人として集まっていない。
 足元も、大人数が集まった形跡はない。
 新雪が降り積もってみんなの足跡を隠している訳ではなく、明らかにそこには人のいた形跡がないのだ。

 ……もしかして、騙された?
 ハガキは由美以外の人との連絡を絶った私を、いつも同窓会に参加しない私を陥れる為の、フェイクだった?
 ハガキの文字は、由美の字ではなかった。
 でも、あの時かかって来た電話で由美と詳細を話しているので、少なくとも彼女は同窓会の日時を知っている。
 私はスマホをバッグから取り出して、由美に電話をしようとした。
 その時だった。

「西田、待たせてごめん」

 背後から聞こえる声に、私は固まった。
 この声は……。
 耳に届いた声は低くて柔らかく、でも 心地良い響きの優しい声。
 間違いなく坂本だ。
 私は振り返るのが怖くて、その場から動けないでいた。

 雪の中を一歩ずつ、ゆっくりと踏み締める音が近付いて来る。
 そして、俯いている私の視界に男性の靴が写り込む。
 顔をあげると、そこには身長が伸びて体格もあの頃よりもガッシリとした、精悍さと大人の色気を纏った坂本が立っていた。
 私は中学校を卒業してから身長の伸びが止まってしまい、百六十センチもないけれど、恐らく頭一つ分の身長差はありそうだ。
 髪型はテレビでよく見かける俳優さんみたいに決まっていて、ヘアカラー等していないだろうナチュラルな黒髪で、一目であの頃の様に坂本は女性受けが良さそうだと言う事がわかる。
 服装にしても、体格がいいからか何を着てもサマになりそうだ。
 今は黒のブルゾンにダークグリーンのマフラーを巻いて、スラリと伸びるその足は、スリムなインディゴブルーのデニムに合わせてショートブーツを履いている。

「歩いて来たのか?  寒かっただろう?   正門は施錠してあるから、体育館裏の通用口から入ろう」

 この場から動けないでいる私に、坂本は左手を差し出した。
 何でそんな態度がとれるの?
 坂本は、十年振りに再会したとは思えない位フレンドリーだ。
 まるであの日の事なんて忘れてしまっているかの様な振る舞いに、私は正直戸惑いを隠せないでいる。
 そんな中、身動きが取れないでいる私に対して、そっと私の右手を取る坂本。
 私の手に坂本の手が触れた瞬間、私の身体が強張った。
 私の自衛本能が働いたのだ。
 身体が強張っただけで、咄嗟に手を振り払わなかっただけまだ良かった。
 だって、坂本の表情は、明らかに傷ついている。

 坂本は僅かながらにも顔を歪めて小さな声でごめんと呟くと、ゆっくりと私の右手から自分の手を離した。
 坂本と話はしたいと思う。でも触れられるのはまた別の次元の話だ。
 ほんの一瞬だけ触れた坂本の左手が、私の右手に熱を残して離れて行く。
 あの日の出来事を嫌でも思い出してしまう自分がいる。
 でも、その反面で、離れて行く手を淋しく思う自分がいる。

 ……淋しい?  なぜ淋しいの?
 自分の中に生まれた新たな感情に戸惑う私。
 坂本は足元が悪いから、私が転ばない様に手を差し伸べてくれただけなのだ。
 自意識過剰にも程がある。
 私も小さな声でごめんなさいと呟いて、坂本が言う体育館裏の通用口へと向かおうと身体の向きを変えて、坂本の後ろに続いた。
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