同窓会~あの日の恋をもう一度~

小田恒子

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side結衣

卒業後

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 実家の両親は、実は昔株で一山当てたとかで、都会のマンションをいくつか所有しており家賃収入もそこそこあったので、本当は金銭面で一切困らなかったと言う事を後から知らされた。
 何故なら私達に普通の金銭感覚を養わせたかったから、質素な生活を送っていたけれど、私達がそれぞれの学校を卒業したからこの地を離れる気持ちが固まったそうだ。

 両親は自営業でパン屋を営んでいたけれど、この地を離れて新しい土地でもパン作りに挑戦したいと言う。
 こちらでは世間の目もあり、生活の為と言う事で休む間もなくがむしゃらに働いていたけれど、新しい土地では道楽でパン作りを続けたいらしい。
 妹もアレルギーが原因で、人と接する事が苦手だと言う事もあり、資格を取得して在宅で出来る仕事をすると意欲を示している。

 家族みんながそれぞれの道を歩んで行くのだ。
 寂しいと伝えると、両親は笑ってこう言った。

「高校に入ってからずっとバイトを続けて家にお金を入れてくれた結衣がいたから、こうやってやりたい事がやれるんだよ」

 私が両親に渡していたバイト代は、全く手をつける事なく私名義の預金通帳に入金されていた。
 それどころか、同じ金額を通帳に入金されており、実質五年間のバイト代がそのまま口座に入金されていた。
 これを見た時に、私は不覚にも涙が溢れて来た。

「お金の大切さを知っている子に育った事が、私達は嬉しいよ」

 両親にこう言われ、それまで確かに贅沢な生活とは言えないけれど、愛情に溢れた生活を過ごしていた事を実感した。
 両親が田舎に古民家を購入して引っ越しをする際、私も本当は一緒について行こうかと思ったけれど、両親の元に戻るのはいつでも出来る。
 お金で買えない、今しか出来ない事をやりなさいと一人暮らしをする事に背中を押してくれた。

 就職先は、我が家の事情を知っている税理士さんが、うちにおいでと声をかけてくれて、身元引受けも兼ねてくれる事になった。
 だから両親も安心してこの地を離れて行った。
 三上みかみ税理士事務所の所長で、こちらでの親代わりの三上先生は、還暦を迎えた今尚健在だ。

 就職して三上先生にお世話になりこの春で丸五年、私が入るまで人の入れ替わりもなかったらしく、そして私の後にも新規採用者や中途採用者はおらず、未だ私は下っ端だ。
 職員は女性が多いけれど結婚してもパートで仕事を続ける人も多く、人見知りな私としては自分の立場がまだまだ下っ端でも安心出来る。
 職場の人達は、私を年の離れた妹、または娘を見るような温かい目で見守ってくれている。
 それは色々な意味で。

 最近は私の年齢を気にしてか、やたらと恋バナの話題が上がってくる。
 そしてお約束の様に私へと話題が振られるのだが、出会いすらない私には上手い返しが出来なくて黙り込んでしまう。
 そんな私にみんながきっといい人が現れるよと言ってくれるけど……。
 私の中で、トラウマになってしまったあの一件がどうしても引っかかって忘れられないのだ。

 今でも時々ふと思う。
 何故坂本はあの時電話をかけてくれなかったのかを。
 二度目のあの日、本当に電話が繋がらなかったのなら、他の子に電話をかけて、私に連絡を入れる位の知恵は回る筈だ。
 世話好きな坂本なら、きっとそうする筈なのに、何故……。

 最近になってその事に気が付いた。
 今更遅すぎるけど、十年経ってあの頃よりも冷静に物事を考える事が出来る今、どうしても理由が知りたくなった。
 それに今なら、坂本を責めたりせずに話が出来るかも知れない。
 あれから十年の月日が経つ。
 由美からも全員強制参加と言われているからきっと坂本も参加するのだろう。
 あの日、私は坂本を責める事しか出来なかった。
 そして坂本も、謝罪の言葉を口にするだけで理由をきちんと説明してくれなかった。

 私の高校受験を妨害した所で、坂本は一足早く推薦で合格が決まっていたのだから、そんな事をする意味がないのだ。
 いざ、坂本を目の前にすると冷静になれないかも知れないけれど、それでも一度はきちんと向き合って話をしなければ、きっとお互い前を向いて進めない。
 
 スマホを見ると、いつの間にか時計はお昼が近い時間を指していた。
 のんびりと構えていた私は焦って風邪をひかない様に、しっかりと防寒具を準備した。
 昼食は、昨日実家から持って帰ったオードブルに、お湯を沸かしてインスタントのスープを飲んだ。

 今住んでいる場所は、以前住んでいた町の実家近くにあるアパートだ。
 中学校までは車で行くにも雪の降る中運転は怖いので歩いて行く。
卒業してからは一度も足を向ける事はなかった。
 私は簡単に昼食を済ませて片付けを終えると、身支度を整えて港北中学校へと向かった。
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