29 / 30
第二章
第5話 血を流した正義
しおりを挟む
意識が覚醒し始めると、ベッドに寝かしつけられているのに気付いた。
『ねぇ? あのうるさい石は何んなの?』
『あれは、びっくり玉……あ、いや、ちゃんとした名前は、お、おと……ダメだ、出てこねぇ。お嬢、正しい名前わかるか?』
『……音響石です』
『おお! そうだったそうだった。あんがとな、お嬢』
『ちょっと、満足してないで私の質問に答えてよー』
『おお、悪い悪い。あれはな、動物やら魔獣を追っ払うための魔道具だ』
穴の中で、三人が話し込んでいる。ぼんやりと耳を傾けながら、ゆっくりと上体を起こす。すると――、
『キルト、大丈夫?』
「…………」
エノディアさんが心配そうに声をかけてきた。ただ、声を出す気力が湧かない。だが、この部屋に向かってくる三つの火を感じ取っていた。おもむろに扉へ目を向けると、扉を開けたメイド服を着た女性たちと目が合う。
「ッ! お目覚めになられたのですね。お体に異常はございませんか?」
三人とも驚いた表情を浮かべる。しかし、先頭に立っている女性はすぐに冷静さを取り戻し、具合を尋ねてきた。
「…………」
「……あなたたちは部屋で待機なさい。私は、目覚めたことを報告してきます」
何も答えずに視線を外すと、小声で二人に指示を出した女性は部屋から出て行った。残された二人は入室すると、扉の横に静かに並び立つ。空気のような二人を放置し、部屋の中を見回す。
白い壁に彫られた彫刻、金の縁取り、銀製の燭台――そのすべてが、シャンデリアの暖かな光を反射している豪華絢爛な部屋。窓の外に目をやれば、夜空に街の明かりが滲んでいる。
そうして部屋を眺めていると、先ほどの女性が一人の男性を連れて戻ってきた。
「お目覚めになられたのですね。お加減はいかがでしょうか?」
穏やかな口調で尋ねてくる六十代の男性は、皇国の侍従と同じ格好をしている。黙っていても何も進まない。男性に顔を向け、重い口を開く。
「心配をかけたみたいで、すいません。もう大丈夫です」
その言葉を聞き、男性は微笑みを浮かべた。
「それは何よりです。遅ればせながら、私はアイザック・アイビーと申します」
「キルトです」
「英雄のお名前を知れて、光栄に存じます。改めまして、キルト様。この度はこの国を救っていただき、心より感謝申し上げます」
男性が深々と頭を下げると、メイドたちも一斉にそれに倣った。その光景に胸がざわつく。
「頭を上げてください。あの、実は記憶が曖昧で、オ……自分が気を失った時のことを教えていただけませんか?」
「もちろんでございます。キルト様はジャーマンを討ち取った後、残ったまつろわぬ民共も一人残らず成敗されました。ですが、最後の一人を討ち終えた瞬間、キルト様は膝から崩れ落ちてしまわれたのです」
「そうだったんですね……運んでくれて、ありがとうございます。あの、ここは?」
「城内の一室でございます」
状況を整理すべく、男性から視線を外して考え込む。
(あの時と同じ……。空からして、気を失ってたのは一時間くらいか……)
「キルト様」
考えを巡らせている最中、アイザックに名前を呼ばれる。顔を向けると、男性の表情が真剣なものに変わっていた。
「一つ、お尋ねしたいことがございます。よろしいでしょうか?」
男性は、真剣な物言いで尋ねてくる。
「何でしょうか?」
「キルト様は、サンバスの国人なのでしょうか?」
「…………」
表情にはおくびにも出さず、どう返答するべきか思考を巡らす。すると――、
『キルト様、警守だと名乗ってください』
会話を聞いていたアルシェさんが、すかさず助け舟を出してくれた。
『組合の馬車を護衛していた折に、この国の異変に気付き、キルト様御一人で訪れたのだとお伝えください。そのため、国王との謁見は行えないこと、そして、一度報告に戻りたいともお伝えください……――』
アルシェさんの指示通りにアイザックへ答えると、翌日に組合の代表と共に国王と謁見することなった。
◇◇◇◇◇
「キルト様には不要かと思われますが、国を出るまでは兵に護衛させます」
城の入口まで先導していたアイザックが振り返り、そう言ってきた。
「わざわざ、ありがとうございます。お願いします」
ぎこちない笑みを浮かべながら、感謝を告げる。
(……監視、か)
突然現れた余所者を信用できるわけがない。アルシェさんからは、難色を示さず、素直に受け入れた方がいいと言われていた。
「滅相もございません。申し訳ございませんが、私はここまでございます。キルト様が明日お越しするのを、心よりお待ちしております」
アイザックが深々と頭を下げていると、一人の兵士が現れた。
「決して、失礼が無いようにしろ」
「はッ!」
「ではキルト様、ご案内します」
兵士に先導され、正門へと向かう。
(あれは?)
城門付近に、兵士たちが整然と並んで待機していた。
「キルト様の護衛は、我々の隊で行います。息苦しいかもしれませんが、ご容赦いただけますと幸いです」
「いえ、わざわざありがとうござ――」
兵士に礼を告げようとした時、自分に向けられた敵意を感じ取る。敵意の出所を辿ると、待機している隊とは別の場所に、十五、六歳の若い兵士が自分のことを睨み付けていた。
(あの兵士……似てる……)
今にもこちらに飛びかかって来そうな兵士を、他の兵士たちが必死に取り押さえている。
ふと、その兵士と目が合う。
――その瞬間だった。
「お前のせいだッ! お前さえ来なければッ!」
城内に響き渡る怒声。
その威勢にわずかに驚いている中、若い兵士は一人の兵士によって地面に組み伏せられる。状況が理解できずに呆然と眺めていると、彼を組み伏せた兵士がこちらへ歩み寄ってきた。
(この人……)
近づいてくる人物は、捕らえられた国王の隣に立っていた兵士だった。アルシェさん曰く、近衛兵であり、立ち位置からして隊長とのことだった。それが今は、一般兵と同じ格好をしている。
「キルト様。部下の無礼、深くお詫び申し上げます。すべては、私の指導が至らぬゆえでございます。どうか、罰するのであれば、私だけを――」
「貴様の首一つで足りると思っているのかッ! 貴様らはレルロスに与していたのだぞ! そのような卑しい貴様らが、キルト様に無礼を働いたのだ! 全員の首を刎ね、さらし首が相応しいッ!」
自分が答えるよりも前に、先導していた兵士が大声で怒鳴りつける。すると、待機していた兵士たちも殺気立ち始めた。
「…………」
部外者の自分が、国の今後を大きく左右する出来事に係ってしまった。この国に生き、この国で死んでゆく者たちから敵意を向けられるのは当然である。
そして何より、死んで欲しくないのだ。これ以上、自分のせいで人が……。
「大丈夫ですので、部下の方たちを連れて下がってください」
「ッ!? し、しかし、キルト様。それでは……」
納得がいかないのか、食い下がってくる兵士。その兵士の目をじっと見つめる。すると、兵士は口から泡を吹き倒れてしまった。その一部始終を見ていた周囲の兵士たちが息を呑む。
「すいません。この方、突然倒れてしまったんですが……」
白々しいと思いつつ、周囲に助けを求める。その声で硬直が解けた兵士たちは顔面蒼白となりながら、倒れた兵士を担ぎ、城の中へと運んでいく。
「自分は気にしてませんので……」
どよめきが残る中、歩み寄ってきた兵士に向かって声をかけた。
「キルト様の慈悲に、心より感謝申し上げます」
声をかけられた兵士は我に返ると、姿勢を正し、再度深々と頭を下げてきた。
(この人の火……)
まるで、烈しく燃え盛ろうとする火を必死に鎮めているようだった。
「…………」
番犬より、遥かに小さい火。そんな火が、心から怖いと思った。それと同時に、その揺らめきを眺めていると、安心している自分もいた。
国中に響き渡る、拍手喝采を全身に浴びる。
(なんで……)
正門まで続く道は飾り付けられ、その両脇を埋め尽くす笑顔の原。
(なんで……)
冷めぬ熱狂はうねりとなって、飛沫を上げ続ける。
(なんで……)
「「「「キルト様ー、この国を救ってくれてありがとー!!!」」」」
穢れを知らない子どもの賛歌は、何色にも染まっていない無垢な刃だった。
(人を殺したのに、感謝されるんだ……)
正門に辿り着く頃には、心は溢れ出た感情に塗れていた。逃げるように、全速力で駆け出す。そして、サンバスを訪れる前に立ち寄った木陰に辿り着くと、幹に背を預けて座り込んだ。
『キルト……』
エノディアさんの声が頭に響く。
「……俺は……また、人を殺したんですよね……」
両手を見つめながら呟く。
力のない言葉は、音のない闇に消えてゆく。
「また……」
手には、確かに感触が残っている。命を奪った感触が。
「……なのに、俺は何も感じてないんです……」
目を閉じると、瞼の裏に浮かぶ骸の山。確かに人を殺した。しかし、心臓は一定のリズムで鼓動を刻み、血液は清流のように流れているのだ。
「俺は、本当に化け物なんですね……。人を殺しても、何も感じない化け物……」
“無”に圧し潰されそうになっていると――、
『――……悩み、傷つき、それでも歩み続ける者。その心は獅子のように雄々しく、その命は太陽のように輝き、人々の希望を育む』
静謐とした闇に、無に響き渡るエノディアさんの声。
『ん? 勇者の謳か』
『うん。なんかね、頭に浮かんで口ずさんじゃった』
かつて、レオガルドを救った勇者。エノディアさんが何を思ったかは知らないが、救世主の謳を口ずさまれても、自分がひどくちっぽけで惨めとしか思えなかった。
「……勇者はすごいですよね、どんなことがあっても歩き続けれるんですから。俺なんか……」
『そう? 私はこの謳を聞いて、勇者も悩んで、傷つくんだーって思ったよ。私たちとおんなじなんだって。でも、どんなに辛くても、歩き続けたんだよ。そんな姿にさ、感化されて、もう一度歩こうって思えたんじゃないかな? そうやって色んな人に勇気を与えたから、勇者って呼ばれてるようになったんだよ、きっと』
『ねぇ? あのうるさい石は何んなの?』
『あれは、びっくり玉……あ、いや、ちゃんとした名前は、お、おと……ダメだ、出てこねぇ。お嬢、正しい名前わかるか?』
『……音響石です』
『おお! そうだったそうだった。あんがとな、お嬢』
『ちょっと、満足してないで私の質問に答えてよー』
『おお、悪い悪い。あれはな、動物やら魔獣を追っ払うための魔道具だ』
穴の中で、三人が話し込んでいる。ぼんやりと耳を傾けながら、ゆっくりと上体を起こす。すると――、
『キルト、大丈夫?』
「…………」
エノディアさんが心配そうに声をかけてきた。ただ、声を出す気力が湧かない。だが、この部屋に向かってくる三つの火を感じ取っていた。おもむろに扉へ目を向けると、扉を開けたメイド服を着た女性たちと目が合う。
「ッ! お目覚めになられたのですね。お体に異常はございませんか?」
三人とも驚いた表情を浮かべる。しかし、先頭に立っている女性はすぐに冷静さを取り戻し、具合を尋ねてきた。
「…………」
「……あなたたちは部屋で待機なさい。私は、目覚めたことを報告してきます」
何も答えずに視線を外すと、小声で二人に指示を出した女性は部屋から出て行った。残された二人は入室すると、扉の横に静かに並び立つ。空気のような二人を放置し、部屋の中を見回す。
白い壁に彫られた彫刻、金の縁取り、銀製の燭台――そのすべてが、シャンデリアの暖かな光を反射している豪華絢爛な部屋。窓の外に目をやれば、夜空に街の明かりが滲んでいる。
そうして部屋を眺めていると、先ほどの女性が一人の男性を連れて戻ってきた。
「お目覚めになられたのですね。お加減はいかがでしょうか?」
穏やかな口調で尋ねてくる六十代の男性は、皇国の侍従と同じ格好をしている。黙っていても何も進まない。男性に顔を向け、重い口を開く。
「心配をかけたみたいで、すいません。もう大丈夫です」
その言葉を聞き、男性は微笑みを浮かべた。
「それは何よりです。遅ればせながら、私はアイザック・アイビーと申します」
「キルトです」
「英雄のお名前を知れて、光栄に存じます。改めまして、キルト様。この度はこの国を救っていただき、心より感謝申し上げます」
男性が深々と頭を下げると、メイドたちも一斉にそれに倣った。その光景に胸がざわつく。
「頭を上げてください。あの、実は記憶が曖昧で、オ……自分が気を失った時のことを教えていただけませんか?」
「もちろんでございます。キルト様はジャーマンを討ち取った後、残ったまつろわぬ民共も一人残らず成敗されました。ですが、最後の一人を討ち終えた瞬間、キルト様は膝から崩れ落ちてしまわれたのです」
「そうだったんですね……運んでくれて、ありがとうございます。あの、ここは?」
「城内の一室でございます」
状況を整理すべく、男性から視線を外して考え込む。
(あの時と同じ……。空からして、気を失ってたのは一時間くらいか……)
「キルト様」
考えを巡らせている最中、アイザックに名前を呼ばれる。顔を向けると、男性の表情が真剣なものに変わっていた。
「一つ、お尋ねしたいことがございます。よろしいでしょうか?」
男性は、真剣な物言いで尋ねてくる。
「何でしょうか?」
「キルト様は、サンバスの国人なのでしょうか?」
「…………」
表情にはおくびにも出さず、どう返答するべきか思考を巡らす。すると――、
『キルト様、警守だと名乗ってください』
会話を聞いていたアルシェさんが、すかさず助け舟を出してくれた。
『組合の馬車を護衛していた折に、この国の異変に気付き、キルト様御一人で訪れたのだとお伝えください。そのため、国王との謁見は行えないこと、そして、一度報告に戻りたいともお伝えください……――』
アルシェさんの指示通りにアイザックへ答えると、翌日に組合の代表と共に国王と謁見することなった。
◇◇◇◇◇
「キルト様には不要かと思われますが、国を出るまでは兵に護衛させます」
城の入口まで先導していたアイザックが振り返り、そう言ってきた。
「わざわざ、ありがとうございます。お願いします」
ぎこちない笑みを浮かべながら、感謝を告げる。
(……監視、か)
突然現れた余所者を信用できるわけがない。アルシェさんからは、難色を示さず、素直に受け入れた方がいいと言われていた。
「滅相もございません。申し訳ございませんが、私はここまでございます。キルト様が明日お越しするのを、心よりお待ちしております」
アイザックが深々と頭を下げていると、一人の兵士が現れた。
「決して、失礼が無いようにしろ」
「はッ!」
「ではキルト様、ご案内します」
兵士に先導され、正門へと向かう。
(あれは?)
城門付近に、兵士たちが整然と並んで待機していた。
「キルト様の護衛は、我々の隊で行います。息苦しいかもしれませんが、ご容赦いただけますと幸いです」
「いえ、わざわざありがとうござ――」
兵士に礼を告げようとした時、自分に向けられた敵意を感じ取る。敵意の出所を辿ると、待機している隊とは別の場所に、十五、六歳の若い兵士が自分のことを睨み付けていた。
(あの兵士……似てる……)
今にもこちらに飛びかかって来そうな兵士を、他の兵士たちが必死に取り押さえている。
ふと、その兵士と目が合う。
――その瞬間だった。
「お前のせいだッ! お前さえ来なければッ!」
城内に響き渡る怒声。
その威勢にわずかに驚いている中、若い兵士は一人の兵士によって地面に組み伏せられる。状況が理解できずに呆然と眺めていると、彼を組み伏せた兵士がこちらへ歩み寄ってきた。
(この人……)
近づいてくる人物は、捕らえられた国王の隣に立っていた兵士だった。アルシェさん曰く、近衛兵であり、立ち位置からして隊長とのことだった。それが今は、一般兵と同じ格好をしている。
「キルト様。部下の無礼、深くお詫び申し上げます。すべては、私の指導が至らぬゆえでございます。どうか、罰するのであれば、私だけを――」
「貴様の首一つで足りると思っているのかッ! 貴様らはレルロスに与していたのだぞ! そのような卑しい貴様らが、キルト様に無礼を働いたのだ! 全員の首を刎ね、さらし首が相応しいッ!」
自分が答えるよりも前に、先導していた兵士が大声で怒鳴りつける。すると、待機していた兵士たちも殺気立ち始めた。
「…………」
部外者の自分が、国の今後を大きく左右する出来事に係ってしまった。この国に生き、この国で死んでゆく者たちから敵意を向けられるのは当然である。
そして何より、死んで欲しくないのだ。これ以上、自分のせいで人が……。
「大丈夫ですので、部下の方たちを連れて下がってください」
「ッ!? し、しかし、キルト様。それでは……」
納得がいかないのか、食い下がってくる兵士。その兵士の目をじっと見つめる。すると、兵士は口から泡を吹き倒れてしまった。その一部始終を見ていた周囲の兵士たちが息を呑む。
「すいません。この方、突然倒れてしまったんですが……」
白々しいと思いつつ、周囲に助けを求める。その声で硬直が解けた兵士たちは顔面蒼白となりながら、倒れた兵士を担ぎ、城の中へと運んでいく。
「自分は気にしてませんので……」
どよめきが残る中、歩み寄ってきた兵士に向かって声をかけた。
「キルト様の慈悲に、心より感謝申し上げます」
声をかけられた兵士は我に返ると、姿勢を正し、再度深々と頭を下げてきた。
(この人の火……)
まるで、烈しく燃え盛ろうとする火を必死に鎮めているようだった。
「…………」
番犬より、遥かに小さい火。そんな火が、心から怖いと思った。それと同時に、その揺らめきを眺めていると、安心している自分もいた。
国中に響き渡る、拍手喝采を全身に浴びる。
(なんで……)
正門まで続く道は飾り付けられ、その両脇を埋め尽くす笑顔の原。
(なんで……)
冷めぬ熱狂はうねりとなって、飛沫を上げ続ける。
(なんで……)
「「「「キルト様ー、この国を救ってくれてありがとー!!!」」」」
穢れを知らない子どもの賛歌は、何色にも染まっていない無垢な刃だった。
(人を殺したのに、感謝されるんだ……)
正門に辿り着く頃には、心は溢れ出た感情に塗れていた。逃げるように、全速力で駆け出す。そして、サンバスを訪れる前に立ち寄った木陰に辿り着くと、幹に背を預けて座り込んだ。
『キルト……』
エノディアさんの声が頭に響く。
「……俺は……また、人を殺したんですよね……」
両手を見つめながら呟く。
力のない言葉は、音のない闇に消えてゆく。
「また……」
手には、確かに感触が残っている。命を奪った感触が。
「……なのに、俺は何も感じてないんです……」
目を閉じると、瞼の裏に浮かぶ骸の山。確かに人を殺した。しかし、心臓は一定のリズムで鼓動を刻み、血液は清流のように流れているのだ。
「俺は、本当に化け物なんですね……。人を殺しても、何も感じない化け物……」
“無”に圧し潰されそうになっていると――、
『――……悩み、傷つき、それでも歩み続ける者。その心は獅子のように雄々しく、その命は太陽のように輝き、人々の希望を育む』
静謐とした闇に、無に響き渡るエノディアさんの声。
『ん? 勇者の謳か』
『うん。なんかね、頭に浮かんで口ずさんじゃった』
かつて、レオガルドを救った勇者。エノディアさんが何を思ったかは知らないが、救世主の謳を口ずさまれても、自分がひどくちっぽけで惨めとしか思えなかった。
「……勇者はすごいですよね、どんなことがあっても歩き続けれるんですから。俺なんか……」
『そう? 私はこの謳を聞いて、勇者も悩んで、傷つくんだーって思ったよ。私たちとおんなじなんだって。でも、どんなに辛くても、歩き続けたんだよ。そんな姿にさ、感化されて、もう一度歩こうって思えたんじゃないかな? そうやって色んな人に勇気を与えたから、勇者って呼ばれてるようになったんだよ、きっと』
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ラストフライト スペースシャトル エンデバー号のラスト・ミッショ
のせ しげる
SF
2017年9月、11年ぶりに大規模は太陽フレアが発生した。幸い地球には大きな被害はなかったが、バーストは7日間に及び、第24期太陽活動期中、最大級とされた。
同じころ、NASAの、若い宇宙物理学者ロジャーは、自身が開発したシミレーションプログラムの完成を急いでいた。2018年、新型のスパコン「エイトケン」が導入されテストプログラムが実行された。その結果は、2021年の夏に、黒点が合体成長し超巨大黒点となり、人類史上最大級の「フレア・バースト」が発生するとの結果を出した。このバーストは、地球に正対し発生し、地球の生物を滅ぼし地球の大気と水を宇宙空間へ持ち去ってしまう。地球の存続に係る重大な問題だった。
アメリカ政府は、人工衛星の打ち上げコストを削減する為、老朽化した衛星の回収にスペースシャトルを利用するとして、2018年の年の暮れに、アメリカ各地で展示していた「スペースシャトル」4機を搬出した。ロシアは、旧ソ連時代に開発し中断していた、ソ連版シャトル「ブラン」を再整備し、ISSへの大型資材の運搬に使用すると発表した。中国は、自国の宇宙ステイションの建設の為シャトル「天空」を打ち上げると発表した。
2020年の春から夏にかけ、シャトル七機が次々と打ち上げられた。実は、無人シャトル六機には核弾頭が搭載され、太陽黒点にシャトルごと打ち込み、黒点の成長を阻止しようとするミッションだった。そして、このミッションを成功させる為には、誰かが太陽まで行かなければならなかった。選ばれたのは、身寄りの無い、60歳代の元アメリカ空軍パイロット。もう一人が20歳代の日本人自衛官だった。この、二人が搭乗した「エンデバー号」が2020年7月4日に打ち上げられたのだ。
本作は、太陽活動を題材とし創作しております。しかしながら、このコ○ナ禍で「コ○ナ」はNGワードとされており、入力できませんので文中では「プラズマ」と表現しておりますので御容赦ください。
この物語はフィクションです。実際に起きた事象や、現代の技術、現存する設備を参考に創作した物語です。登場する人物・企業・団体・名称等は、実在のものとは関係ありません。
やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~
きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ
追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。
♢長めあらすじ
100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。
ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。
ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。
主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。
しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。
しかし。その無能スキルは無能スキルではない。
それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。
ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に
菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」
黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。
自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。
そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。
その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。
だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。
これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。
勘違いから始まる反逆王
わか
ファンタジー
1人の人間が反逆の王として頑張る物語。(嘘)
最果ての集落に繋がる扉。故郷を追われた亜人、獣人などが暮らすその集落から1人の人間が現れ、時に戦い、時に畑を耕し、時に家を建築したり。復讐に燃える者たちが牙を研ぎ、戦乱の世をかける。その中心に立ち、憎しみや悲しみを一身に背負い導く男。反逆の王、ナイン・エタンセル。
周りから見たら、偉大なる王であるが、当の本人は全くそのように感じておらず、がむしゃらに生きているだけ。死にたくない、その一心である。
異世界に、日本の物を持ち込み、それを使っているだけなのに!なんでこうなるんだよ!
勘違いから始まるダークファンタジー。(嘘)
狂った1人の男が、復讐を支援し、時に支え、時に指示し恐怖と絶望を与える物語である。(真)
週3で投稿予定です。
この作品は、カクヨム、なろうにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる