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四十一、
しおりを挟む食事を終える頃、永倉と原田は一汗かくと言って道場へ向かい、井上は雑務をしに出ていき、
やがて別の一角に残っていた他の隊士たちもいなくなって、広間には斎藤と沖田の二人きりになっていた。
ただっぴろい広間に二人だけでいることに、斎藤は最初は落ち着かなさをおぼえていたが、
沖田が茶を飲みながら適当な世間話をしているのを聞き流しているうちに、この状況を心地よくさえ感じている己に気づいた、
―――人と居るのは好まない己が。
沖田と居る時だけは別なのだと。改めて。
(・・むしろ、)
他の誰も居ないなかで、二人きりでずっと居られるのなら、
それが一番斎藤の求める空間なのではないか。
「そういえばあんたは巡察は無いのか」
思考が、放っておけば横にいる沖田へと傾いている事態に、斎藤は我に返って、あえて業務的な台詞を置いた。
「夜にあるだけ」
沖田が朝食後で今更眠くなったのか、つと欠伸をしながら答えた。
「おまえは?この後、どうすんだ」
次いで質問を返してきた沖田に、斎藤はさてどうしようかと考える。
おもえば丸一日非番という状況も、久しぶりだ。
「読書と、黙想と、・・適当な時に道場でも・・」
思案しながら呟いた斎藤に、沖田が身を乗り出した。
「道場行く時は俺も呼べ」
斎藤は。
茶を飲む手をおもわず止めていた。
「あんたはせめて、非番の時間帯くらい・・」
もう少し、体を休めるようにしていってくれ
言いかけて口を噤んだ。沖田から道場を奪っては、いったい彼は何を楽しみに生きるというのか。
人のことは言えないものの、文字通り剣術馬鹿とは沖田のことなのだから。
・・だが、せめて。
「俺への稽古なら今日はしなくていい。あんたの好きな自主稽古だけしていろ」
「何故」
「人に稽古をつけるのは嫌いだと言っていただろう。事あるごとに無理にやることはない」
まだ己が沖田の代わりを勤める日までは、時間があるのだから
斎藤は。沈む想いの底で胸内に呟いた。
「悪いがあまり悠長なことは言ってられない」
沖田が、だが斎藤の意図することを分かったかのような台詞を吐き。斎藤は、沖田を黙って見返した。
「たとえばもし今夜、俺が巡察の最中に死んだ場合はどうなる。おまえには明日からでも俺の代わりをやってもらわなきゃならなくなる」
「それはない」
斎藤は一寸も置くことなしに返していた。
「あんたに限って、巡察で死ぬなど、あり得ない」
「これは・・、また随分と買いかぶられたものだな」
「買いかぶってはいない。あんたを見てきたうえでの結論だ」
沖田が笑った。
「有難う、と言うべきだろうが、絶対はありえない。おまえが迷惑じゃないなら、今日も稽古につき合わせろ」
「・・・」
斎藤は諦めて。頷いた。
「それにおまえと稽古しているのは好きだよ」
その言葉に、斎藤が顔を上げた時、
そろそろと障子の開けられる音が、ほぼ同時に聞こえ。
顔を向けた斎藤に、障子の向こうから覗いた給仕が、膳を片付けていいだろうかと問いたげな様子で目礼してきた。
斎藤は会釈を返して立ち上がった。
隣で沖田も立ち上がり。
そのまま斎藤も沖田も、廊下の向こうから来る独特の気配に、障子の外へと出たとき視線を寄こした。
「・・まだ、ここにいたのか」
土方が。
小さな溜息とともに、沖田をまっすぐ見上げて。
「俺の部屋へ来い」
土方がまたすぐ踵を返すのへ。
沖田が一瞬、斎藤を見やり、
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