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三十四、
しおりを挟む「・・・どういう、意味だ」
胸内を締付けられるような苦しさに、土方は握っていられず筆を落とした。
沖田の何も答えてはこない、その眼の闇を見据え。
「何故・・そんな事を言う。・・・まるで、」
想い始めてる存在が、いるかのようだな
胸内に呟いて。痛感に歪められた土方の口元は、自嘲に嗤った。
沖田の、その並ならぬ信頼の仕方をみた時、そしてもうひとつの矢立を見たその時から、もうずっと危惧をいだきながら、
何も変えられずにいた己の無力への。
「さいとう」
土方の歪められたままの唇が。
震えた。
「・・・そうなんだろう、斎藤の事をいってるんだろう・・?」
「唯一、俺の代わりになる存在ですよ。大事に、決まってる」
「総司」
そんな台詞で、肯定を表した沖田に。
衝撃で力が入らず、揺らぐ身を机に凭せながら土方が、呼吸の整わないままに、
「斎藤を、呼べ」
瞠目する沖田を、
睨みつけ、土方は。
「聞こえなかったか」
吐き出した。
「今すぐ斎藤を、呼んでこいと言っている」
沖田に連れられてきた斎藤を、一瞥して土方は
座れ、と小さく顎で杓ると、
「おまえは部屋を出てろ」
沖田のほうを見ずに言い放った。
「・・・何故」
「いいから。出てろ・・っ」
もはや黙って背を返し出てゆく沖田を、見ながら斎藤がその場に座った。
沖田の影が廊下を去ってゆく。
土方は斎藤へ向き直った。
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斎藤は顔を上げた。
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土方の瞳を見据えて即答した斎藤を。
土方は暫く見返していたが、やがてひとつ息をついた。
「これからは・・宜しく頼む」
重い声だった。
「はい」
その重りを受け止め斎藤は、答えた。
尚、重たい間が流れ。斎藤は暫く土方の次の言葉を待って彼の瞳を見ていたが、
何も言わないでいるのを前に、ふと目を逸らした。
「おまえが沖田を想ってることは知ってる」
だが逸らした刹那に鼓膜を刺した、その押し殺した声に。斎藤ははっと視線を戻した。
「・・・・」
土方が気づいてる事、斎藤にとってはそんなのは承知などころか、
土方本人が、皮肉にも斎藤に自覚させたのだ。
斎藤の脳裏にその日の光景が一瞬に廻り。斎藤は息を殺して土方を見つめた。
斎藤が土方の悋気を感じ取っている事なら、土方とて、とうに分かっているだろう。
お互いにお互いの想いは承知で、今まで口にしなかっただけだ。それを、なにを今更言い出すのか。
「斎藤、」
見つめる斎藤の目に、土方の思いつめた表情が映った。
「俺と、総司の間に。入ってくるな」
――――その言葉は、
斎藤を
どれほど、縛り付ける力を抱いているかを
土方はまるで正確に把握しているかのように、
その通りに。斎藤は咄嗟に返す声も出せず。
ただ土方の眼を見ていられず畳へ視線を落とした。
「今ここで誓え」
間髪容れず、土方の鬼気迫る程の声音が追う。
斎藤は堪らず顔を擡げた。
「・・・貴方と沖田の間に入れるとは思っていません」
そんな返事を、紡ぎ。
「私がここで誓おうが誓うまいが、それ以前の話です。沖田が貴方から離れることはありえない」
「おまえに総司の何がわかる・・!」
返された一喝に、
斎藤は動揺して押し黙った。
「誓うか、誓わないのか。おまえが答える返事はそれだけでいいっ」
誓えないと
答えれば、土方はどう出るつもりなのか。
――否。
斎藤が答える返事はひとつしかないことを、土方は知っている。
「・・・」
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土方を見つめ返した。
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土方の鋭利な眼ざしが、斎藤から逸れていった。
「戻っていい。・・部屋に沖田が居たら、ここへもう一度来るよう伝えろ」
斎藤は一礼すると、立ち上がり土方の部屋を出た。
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